図夢歌舞伎、第二弾『弥次喜多』取材会レポート~幸四郎×猿之助の人気コンビがオンラインで帰ってくる! 中車、染五郎、團子らも出演

レポート
舞台
2020.12.21
(左から)市川猿之助、松本幸四郎

(左から)市川猿之助、松本幸四郎

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図夢歌舞伎(ずぅむかぶき)の第二弾『弥次喜多』が、2020年12月26日(土)よりAmazon Prime Videoで独占レンタル配信される。キャストには、松本幸四郎、監督・脚本・演出も担う市川猿之助の他、市川中車が顔を揃え、 弥次喜多シリーズに欠かせない市川染五郎市川團子、さらに市川猿弥市川笑三郎市川寿猿市川弘太郎(声の出演) の名前が並ぶ。原作は、劇作家・演出家の前川知大(劇団イキウメ主宰)の戯曲『狭き門より入れ』。これを歌舞伎座『八月納涼歌舞伎』でお馴染み、弥次喜多シリーズの世界観で再構成した一作となる。幸四郎と猿之助が取材会に出席し、図夢歌舞伎や『弥次喜多』への思い、そして今の世界の状況を予知していたかのような、“背筋が震える”原作の魅力について語った。

「図夢歌舞伎『弥次喜多』」 12月26日よりレンタル配信開始 /(C)松竹

「図夢歌舞伎『弥次喜多』」 12月26日よりレンタル配信開始 /(C)松竹

■Zoomではじまり夢を図る『図夢歌舞伎』

図夢歌舞伎は、2020年の新型コロナの影響により劇場が開けられない中、幸四郎が中心となりオンライン配信のために制作した歌舞伎の映像作品だ。第一弾『忠臣蔵』は、2020年6月27日(土)から5週にわたり生配信された。打ち合わせや撮影の多くをリモートで制作し、オンライン会議アプリZoomに着想を得た画面構成や、別空間の俳優や過去の映像との共演、歌舞伎によりズームする試みから「図夢(ずぅむ)歌舞伎」と名づけられた。「夢を図る」の意味も、込められている。第二弾『弥次喜多』は、第一弾とは異なる事前収録の映像作品として、 猿之助が指揮をとり制作された。

「歌舞伎の歴史をふり返れば、散切物があり活歴物があり、そして令和に図夢歌舞伎が誕生しました。今年は2016年から続いてきた弥次喜多シリーズを、歌舞伎座で上演できませんでした。でも、そこに図夢歌舞伎がうまく合わさった。場面転換なしの一杯道具ででき、今の時代にあった『狭き門より入れ』を、色々な工夫をして、弥次喜多でやることにしました」

撮影は、10月のうちに実質4日間で行われた。台本が届いたのは1週間前で、幸四郎は、毎日、国立劇場での出番を終えてから撮影に向かった。非常にタイトなスケジュールだったと2人は口を揃えるが、猿之助の苦労はほかにもあった。

「図夢歌舞伎を立ち上げたのは、松竹の(映像制作部門ではなく)演劇部の、普段は舞台をつくってる人たち。 だから映像に詳しいのは、監督とカメラマンくらい。現場を仕切る助監督がいなかったんです! 映像作品は興味本位でできるものではないと言ったのですが、走り出しちゃったものだからやりましたよ。コロナになってまで、どうして自分はカット割りを作ったり、助監、ADのような仕事をしてるんだ? って首をかしげながら(一同、笑)。でも今年は現場に立てない期間もありましたからね。現場に立てる幸せも感じました」​

猿之助が現場を回す役目を引き受け、幸四郎や中車など、映像作品での経験が抱負なメンバーがそれを支えたという。

必死でカット割りを作る様子を再現する猿之助。

必死でカット割りを作る様子を再現する猿之助。

取材会の時点では編集中だった本作だが、記者たちに向けて冒頭10分ほどが上映された。そこには弥次喜多シリーズでおなじみ、中車をはじめ、染五郎、團子も登場した。染五郎と團子は、これまでの弥次喜多シリーズの設定と同じく、まじめな若君・梵太郎と御供・政之助 の役を勤める。しかしその拵えは『今〇から俺は!!』さながらにカラーリングされた髪の毛。手元や首元にはハードなアクセサリー(2人に一体何が……)!

幸四郎によれば、染五郎はスタジオの近くのショッピングセンターで、アクセサリーを揃えたという。マニキュアや早く乾かすスプレーも揃え万全の準備で挑んだものの、リムーバーを買い忘れて、翌日の登校前に焦っていたことを明かした。猿之助も「團子に、好きなようにやらせました。考えることが力になります。彼なりに色々工夫をしていましたね」と語った。

松本幸四郎

松本幸四郎

撮影中の染五郎と團子の様子を問われると、幸四郎は「戸惑っていましたね。大変な状況下で、大変なスケジュールでしたから。2人とも撮影期間中は、ずっとムラなく戸惑っていました」と答え、笑いを誘っていた。さらに猿之助が「ふだんと違ったのは、中車さん」と切り出した。

「歌舞伎の現場ですと、中車さんが息子の團子に何かを教えるところはまず見ません。でも映像の現場では、しっかり教えるんです。カメラがここなら立ち位置は……とか、目線が……とか。歌舞伎のことでそういう姿を見るのは、初めてでした。映像における芸を、親子で伝承しているんですね。微笑ましかったです」

■時代を越えて愛される弥次喜多。その理由は?

十返舎一九の『東海道中膝栗毛』は、1802(享和2)年から12年にわたり発表された滑稽本だ。主人公の弥次郎兵衛と喜多八(弥次さんと喜多さん)の珍道中が、当時大ヒットした。歌舞伎としてもたびたび上演され、2016年に幸四郎と猿之助の弥次喜多シリーズがはじまった。大胆な脚色がファンを楽しませ、以来、歌舞伎座の『八月納涼歌舞伎』で恒例の演目となっている。時代が変わっても、愛される弥次さんと喜多さん。その魅力とは一体? 幸四郎は次のように答えた。

「『東海道中膝栗毛』に“道中”とある通り、旅をするシリーズです。弥次さんと喜多さんの2人は、興味本位でどこへでも行きます。行ったら何が起こるか、どういう結果になるかまでは、何も考えていません。考えていないからこそ、2人は、場所だけでなく時間や経験など、興味本位でどこへでも行けてしまう。いつの時代にも存在できてしまう。だからこそ時代を越えて愛されるのではないでしょうか」

深くうなずく取材陣に幸四郎は、「何も考えていないのは、弥次喜多の2人ですよ。僕らじゃなくて」と慌てて補足。一同の笑いを誘っていた。

(左から)市川猿之助と(パネル内、喜多さんと弥次さんと)松本幸四郎

(左から)市川猿之助と(パネル内、喜多さんと弥次さんと)松本幸四郎

■今だから今でなければ。原作の魅力

『狭き門より入れ』は、2009年にPARCO劇場で初演された。猿之助(当時、亀治郎)が、初めて出演したストレートプレイでもある。作・演出の前川は、この5年後の2014年に、スーパー歌舞伎Ⅱ『空ヲ刻ム者』の作・演出を手がけた。同作には、初演で主人公を演じた佐々木蔵之介も出演。『狭き門より入れ』が、猿之助にとって思い入れのある作品だと想像できる。しかし、この戯曲を図夢歌舞伎に採用したのには、思い入れ以前の大きな理由があった。

「『狭き門より入れ』は、パンデミックの話です。オリジナルの劇中でも、新聞を読みながら『また感染者が出てるんだって。入院患者増えてるらしいよ』とか『ロックダウンして物流が止まったね』なんて台詞が出てきます。上演当時は絵空事でしたが、今まさにその状況が、自分たちの身に迫っています。笑いもありつつ、エンドロールで背筋がプルっと震える。そんな作品にしたいです」

市川猿之助

市川猿之助

原作の笑いは、シニカルなもの。弥次喜多の世界に、簡単に変換できたのだろうか。

「前川さんの原作には、演劇的な面白さがありますが、弥次喜多の可笑しみはありません。それをどう、弥次さんと喜多さんにもっていくかですが、何年もの関係がある僕らなら、シリアスにやればやるほど何かどこかが可笑しくなる。山城屋のおじさま(四世坂田藤十郎)の和事に、通じるものとも言えますが、本当に馬鹿馬鹿しいことをしているのに、ホロっと泣ける。図夢歌舞伎『弥次喜多』では、我々の関係の積み重ねが自然と出たように思います」

「スケジュールに余裕はないのに、アドリブになるとみんな生き生きするんです」と幸四郎を指す猿之助。

「スケジュールに余裕はないのに、アドリブになるとみんな生き生きするんです」と幸四郎を指す猿之助。

幸四郎は、弥次さんを「積極的に楽しむ人」と分析。

「いつも喜多さんがいて1人じゃない。鈍感なのかポジティブなのか、見方は色々だと思いますが、うらやましく思います。今回は、そんな喜多さんと、もう二度と会えないのかなと、強烈に思わされるお話でした」

猿之助は、喜多さんを「ぱっぱらぱーな人」と笑う一方、今回の弥次さんが、原作でも難役だったことを説明する。

「喜劇要素がなく、誰よりも哲学を語る役。その中でどう喜劇を出すかに、幸四郎さんは苦労されたと思います。まじめにやるのが一番簡単ですが、どこか面白く……と。特殊な状況で真っ暗な中に、1人でぽつんと立つ弥次さん。シュールで面白かったですよ。眉毛なんてこんななのに!」

猿之助は左右のひとさし指でハの字を作り、メイクを再現。幸四郎も「撮影の合間に鏡で自分の顔をみて、びっくりしましたよ。あのシリアスな演技を、この顔でやっていたんだ! って」と笑った。

■本が良い。素材が良い。関係が良い。

図夢歌舞伎『弥次喜多』の台詞は、現代語だ。第一弾『忠臣蔵』のように、もともと歌舞伎にある演目でもなく、テレビや映画で見る時代劇のように、誰でも気軽に楽しめる世界観となっている。そこから「歌舞伎の定義とは?」との質問が挙がる場面もあった。

「僕が無理やり定義づけるなら、音楽性の要素が強いのが歌舞伎。でも音楽要素のない歌舞伎もあります。男性だけでやるのが歌舞伎だと言うなら、出雲阿国が始めた歴史を変えないといけません。白塗りだって、しない歌舞伎はたくさんある。ですから『歌舞伎だね』、『カブいているね』という言葉はあっても、歌舞伎の定義はないと思っています」​

(左から)市川猿之助、松本幸四郎

(左から)市川猿之助、松本幸四郎

そう答える幸四郎に重ねて、猿之助は、歌舞伎がはじまった時代には、生身の人間がやる芝居は歌舞伎のほかに狂言くらいしかなかったため、定義づけの必要がなかったことを指摘。

「定義しないまま、続いてきたのでしょうね。今は色々なジャンルの芝居ができたから、他と比較し『歌舞伎って何ですか?』と聞かれるようになった。でも……歌舞伎役者が言うのもおかしいですが、これが歌舞伎だ! とこだわってツマラないものをお見せするより、面白ければいいと思っています」

そして今作の「面白さ」に自信をみせた。

「前川さんの脚本が良い。弥次喜多という素材が良い。そして役者同士の関係が良い。そのようにして、できたものです。今回はAmazon Japanでの配信(日本国内限定)ですが、間違いなく世界に通じる作品です。感染症が流行っている今だからこそ、今でなければと思っています」

猿之助の熱意を受けてか、幸四郎が身を乗り出し、「僕はAmazonにはずいぶん投資(お買い物)をしてきました。Amazonのスポンサーといってもいいくらいです。それをぜひAmazon Japanさんに伝えていただければ」と、松竹関係者に目線をおくる一幕もあった。

SPICEでは、近日、図夢歌舞伎『弥次喜多』の撮影現場潜入レポートを公開します!

SPICEでは、近日、図夢歌舞伎『弥次喜多』の撮影現場潜入レポートを公開します!

■時代の転換期、歴史は繰り返す

図夢歌舞伎は、「自粛期間中に唯一みつけたお芝居をできる場だった」と幸四郎はいう。猿之助は「平和な時代には、あまり新しい物ごとは生まれません。危機感が高まり、これは危ないぞという時に、工夫し物事は生み出されます。二度とあってほしくはないけれど、その意味で図夢歌舞伎は『こういうことがあったおかげ』ともいえます」とコメント。さらに、初代猿之助(猿之助の高祖父)と二代目猿之助(初代猿翁、曾祖父)の時代と重なる思いも語った。

「高祖父の時代、(演劇の近代化を目指した)坪内逍遥が書いた台本が、当時としてはあまりに新しくて難しかった。高祖父は『これからの時代の歌舞伎役者は、こういう文体に対応しなくてはいけない。けれど自分は年齢的にもう遅い』と考え、息子(二代目)に歌舞伎の修業だけでなく、学問もやらせました。それ以来、澤瀉屋は学業を大切にするようになりました。図夢歌舞伎で、僕はリモートの打ち合わせさえ難しかった。飛び交う用語がまず分からない。でも染五郎くんや團子は、パッと理解して操作するんです。映像に関して、僕はもう遅い。次の世代に託します。歴史がくり返しているのを感じました。歌舞伎役者は、当然の知識として鳴物に三味線、そして映像への理解が求められる時代が来たと思っています」

市川猿之助

市川猿之助

幸四郎もまた、歌舞伎と映像の可能性を確信する。

「最初の図夢歌舞伎を終えた時、この先、舞台でのお芝居が再開しても、舞台と映像の両方で、歌舞伎は存在しうると手ごたえを感じました。図夢歌舞伎は、観る方の生活にあわせ、好きな時に好きなところで好きなところまで観られるもの。時間や場所をあわせて観に行く、生の舞台の歌舞伎とは、まったく別のものです。図夢歌舞伎が、観る側にも演じる側にも選択肢のひとつとなり、続いていってほしい。ですから、第二弾『弥次喜多』の誕生を、とてもうれしく思います。根拠はありませんが、100年後も続くものの最初の1年だと思っています」

松本幸四郎

松本幸四郎

配信開始は2020年12月26日(土)で、視聴料は1900円。全国のファミリーマートでは、12月29日(火)より「図夢歌舞伎『弥次喜多』」のオリジナルAmazonギフト券バリアブルカードが発売されるという。視聴の記念を手元にのこしたい方は、ぜひチェックしてほしい。

世界の都市で劇場が閉鎖し、エンターテインメント業界が停滞感から抜け出せずにいる最中に生まれ、走り始めた図夢歌舞伎。歌舞伎ファンはその歴史を目に留めるべく、ストレートプレイファンは前川ワールドの新たな魅力に触れるべく、見逃せない作品となるだろう。近日公開する“「図夢歌舞伎『弥次喜多』」撮影現場レポート”では、スタジオのオフショットとともに、出演者の役どころや物語の見どころを紹介する。

原作では、コンビニエンスストアが舞台だった。

原作では、コンビニエンスストアが舞台だった。


おぬしと、よろずに……。

おぬしと、よろずに……。


撮影現場のレポートは後日公開予定。

撮影現場のレポートは後日公開予定。

取材・文・撮影=塚田史香

配信情報

図夢歌舞伎『弥次喜多』
 
■配信開始日:2020年12月26日(土)
■配信場所:Amazon Prime Video  http://www.amazon.co.jp/kabuki
■視聴料:1900円(税込)
■予告編:https://youtu.be/sQEH7M_noJ4
 
■監督・脚本・演出:市川猿之助
■原作:前川知大「狭き門より入れ」
■構成:杉原邦生
■脚本:戸部和久
■監督:藤森圭太郎
■製作:松竹株式会社
■出演:松本幸四郎、市川猿之助、市川中車、市川染五郎、市川團子/市川猿弥、市川笑三郎、市川寿猿、市川弘太郎(声の出演)
 
※12月29日(火)より図夢歌舞伎『弥次喜多』のオリジナルAmazonギフト券バリアブルカードが発売される。
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