片岡愛之助、2か月連続で歌舞伎座出演~『十二月歌舞伎』『壽 初春大歌舞伎』取材会で意気込みを語る

レポート
舞台
2020.12.15
 撮影=塚田史香 

撮影=塚田史香 

画像を全て表示(7件)


片岡愛之助は2020年12月1日(火)より、東京・歌舞伎座にて上演中の『十二月大歌舞伎』の第一部『四変化 弥生の花浅草祭(やよいのはなあさくさまつり )』に出演している。1月は、歌舞伎座『壽 初春大歌舞伎』の第三部『らくだ』に出演し、久六を初役で勤める。愛之助が取材会に出席し、各演目の見どころ、コロナ禍での思いを語った。最近、歌舞伎に関心をもった方に向けた、愛之助からの「歌舞伎を楽しむための2つのアドバイス」もお届けする。

■四役早替りの舞踊を松也と

12月に上演中の『弥生の花浅草祭』では、「神功皇后と武内宿禰」、「三社祭」、「通人・野暮大尽」、「石橋」の4つの舞踊を、早替りでつなぎながら披露する。

「四段返しの舞踊を歌舞伎座で勤めさせていただきます。足をお運びくださるお客様には、ふだんの窮屈さや苦しさを忘れ、夢をみていただければ幸いです」

約45分、ノンストップで踊り続ける。

片岡愛之助 提供:松竹

片岡愛之助 提供:松竹

「正直めちゃくちゃきついのです(笑)。短距離走とマラソンとでは、ペース配分が違うものですが、この踊りは、短距離がずっと続くような感じで。その中でも緩急をつけながらお見せしたいと思っています。踊りの達人である先輩方が勤めてこられた演目ですので、先輩方の映像を見返すなどし、日々勉強させていただいています」

共演は、尾上松也。テレビドラマ『半沢直樹』で注目された2人だが、ドラマの中で共演シーンはなかったという。

「元気いっぱいの松也くんとやらせていただき嬉しいです。1人で踊る時は自分の間ですが、2人の時はお互いを感じながら踊る。そのキャッチボールがまた楽しいもので。最後の毛振りを止めるタイミングも、音楽や相手の息にあわせますから、毎日微妙に違います。松也くんは初役ですので振りだけでも精一杯かと思いますが、そろそろ慣れてきたようで、踊りながら、笑顔が見えるようになってきました。今でももう、かなり振っていますが、最後の毛振りを、もう少し長くしてもいいかなと考えています。それをさらに長く、コロナを吹っ飛ばす勢いで!」​

■らくだは、オリジナルアレンジの久六を

1月公演の『らくだ』は、落語をもとに作られた。落語の『らくだ』は、上方で生まれ大正期に三代目柳家小さんが東京に持ってきたという経緯がある。大阪生まれの愛之助は、紙屑屋の久六が上方から江戸に流れてきた設定にアレンジし、大阪弁で勤める。

「どちらかというと、半次がぐいぐい引っ張っていく話です。半次役の(中村)芝翫お兄さんの胸を借り、勤めさせていただきます。お兄さんには、私が小学生のころからかわいがっていただきました。そんなお兄さんと歌舞伎座でご一緒させていただけるのは本当に嬉しいことです」

タイトルの「らくだ」は、ある男の名前。らくだが、長屋の自室で死んでいるところから物語は始まる。らくだの死体を見つけたのは、兄貴分の半次。偶然通りかかった人の好い屑屋の久六は、運悪く半次につかまり、振り回される。無理やり酒を飲まされるうちに立場は逆転し……。

片岡愛之助 片岡愛之助

片岡愛之助 片岡愛之助

「面白い話ですよね! 2人の関係がどう変わっていくかは、実際にやりながら研究したいと思います」

愛之助は、過去に半次(愛之助出演時は、熊五郎)を演じているが、久六は初役。

「半次のような強い役が多いので、久六は、僕の中で珍しい役どころです。『らくだ』は、落語が題材でものすごく分かりやすいお話です。台詞も時代劇のようで、初めての方にも非常に分かりやすく楽しんでいただけると思います。(大笑いするにも気遣う方は)マスクの中で楽しんでください!」​

■当たり前の幸せを痛感した2020年

緊急事態宣言後、歌舞伎座は8月1日に四部制で再スタートした。その第一部の『連獅子』に愛之助は出演した。「愛之助は歌舞伎座に出るたびに毛を振っているなぁ、と思われるかもしれませんね」と冗談をまじえつつ、歌舞伎座の感染症対策について、率直な思いを語った。

片岡愛之助 提供:松竹

片岡愛之助 提供:松竹

「対策が徹底されており、役者同士の挨拶まわりも禁止されました。本番の舞台ではじめて共演者に会うんです。楽屋の出入り時間も決められており、舞台が終わったら急いでお風呂に入り、次の部の方々が来る時間前に楽屋を出る。早拵えよりも毛振りよりも、猛ダッシュで楽屋を出ることがしんどかったです(笑)」

令和3年1月2日(土)開幕の『初春大歌舞伎』は、1日三部制(各部、2演目ずつ)となる。

「うれしいですね、四部制は少し淋しいものがありました。正直、はじめは、舞台上でのソーシャルディスタンスまで考えなくても……と思うこともあったんです。けれど今、世の中の劇場で、公演中止の事態となるニュースをみていると、たとえ1人感染者が出たとしても興行を続けていける四部制は正解だったんだ。そのくらいの対策が必要な状況なんだと思わされます」

愛之助は、「1日も早く元にもどり、満杯のお客さんの前でできれば」との思いも吐露しつつ、現状に対しては穏やかなトーンで胸中を明かす。

片岡愛之助 提供:松竹

片岡愛之助 提供:松竹

「今も研究が続くウイルスです。何が正解か、たしかなことは分かりませんが、個人個人がよく考えて生活することが、大事なのでしょうね。今まで毎日、普通に舞台に出ていたことがどれだけ幸せなことだったか。今は、どうぞ今日一日何事もなく……と祈りながら舞台に立ち、無事に終わると感謝の思いになります。当たり前の幸せをつくづく痛感する年でした」

記者から「今年を漢字一文字で」とリクエストされると、愛之助は「出た! 嬉しいですね! 今年は聞かれないまま終わるかと思い、用意していませんでした!」と声を弾ませた。少し考えて、何度か空に指で何かを書きかけた後、静かに「命、ですね」と答えた。

「身の周りでも、亡くなる方が多い1年でした。人の命って分からないもので、本当に亡くなったのかな? ひょっこりまた会えるんじゃないかな? と思ってしまうこともありました。あっけなさ、そして自分が生まれたことの意味や意義、命について考えさせられました」

■映像をきっかけに新しいお客様と

愛之助の2021年は、歌舞伎座からはじまる。

「歌舞伎は当然のこととして、映像作品にもできるだけ出たいです。ドラマや映画をきっかけに、この人は歌舞伎役者なんだと思っていただき、さらに歌舞伎を観にきていただけたら本当に幸いです」

この思いは、コロナ禍でより強くなったという。

「アイドルの方々の客層と比べ、僕らのお客様は年齢層が高めです。高齢の方、持病をお持ちの方は外出するにも判断が必要な時期ですよね。テレビでも映画でも何かきっかけを作り、若い方々に歌舞伎を観にきていただきたい。お客様にも一緒に育っていただきたいんです」​

愛之助は力強く「自信があるんです」と続ける。

片岡愛之助 提供:松竹

片岡愛之助 提供:松竹

「観ていただければ、歌舞伎は絶対に面白い。映像作品をきっかけに歌舞伎座に足を運んでくださった方々から、『歌舞伎ってこんなに分かりやすく、楽しいものだったんだ!』とお手紙やブログのコメントをたくさんいただいています。それが何より嬉しい。自分がやってきたことは間違いではなかったな、と思えるんです」

これから歌舞伎を観る方に向けて、より楽しむためのアドバイスを2つもらった。ひとつは“贔屓の役者を作る”こと。

「ひとりの役者を追いかけるだけでも、色々な歌舞伎や役に出会えます。歌舞伎には、古典だけでなく、三谷かぶきや『ワンピース』、『NARUTO』のような新作もある。色々なパターンがあり、すべて歌舞伎。まんべんなく楽しんで、自分にあったものをみつけていただきたいです」

もうひとつのアドバイスは、“イヤホンガイドを借りる”こと。

「個人的に! 圧倒的におすすめです! 初めての方はもちろん、歌舞伎をよくご覧の方も初心者向けだから……と言わず、ぜひ借りてみてほしい。よくお越しのお客様におすすめしたところ『なるほど、そういうことでしたか!』と喜んでくださいました。何度も観ている演目こそ、衣裳や鬘、指物の意味、台詞の解釈など、発見があるはずです」


1年の締めくくりに『弥生の花浅草祭』(午前11時開演)の躍動感あふれる舞踊を楽しんではいかがだろうか。1月は三部制となり、第三部(午後6時45分開演)は、愛之助と芝翫による『らくだ』と、松本白鸚、幸四郎、市川染五郎出演の『菅原伝授手習鑑 車引』の2演目となる。『十二月大歌舞伎』は、12月26日(土)まで、『壽 初春大歌舞伎』は、2021(令和3)年1月2日(土)~27日(水)の上演だ。

取材・文・撮影=塚田史香

公演情報

『十二月大歌舞伎』
日程:2020年12月1日(火)~26日(土)【休演】8日(火)、18日(金)
会場:歌舞伎座
 
第一部 午前11時~
戸崎四郎 補綴
四変化 弥生の花浅草祭(やよいのはなあさくさまつり )
神功皇后と武内宿禰
三社祭
通人・野暮大尽
石橋
 
武内宿禰
悪玉    片岡愛之助
国侍
獅子の精
 
神功皇后
善玉    尾上松也
通人
獅子の精
 
第二部 午後1時30分~
落語「星野屋」より
小佐田定雄 脚本
今井豊茂 演出
心中月夜星野屋(しんじゅうつきよのほしのや)
 
おたか  中村七之助
星野屋照蔵  市川中車
母お熊  市川猿弥
和泉屋藤助  片岡亀蔵
 
第三部 午後4時~
近松門左衛門 作
傾城反魂香(けいせいはんごんこう)
土佐将監閑居の場
 
浮世又平  中村勘九郎
女房おとく  市川猿之助
狩野雅楽之助  市川團子
土佐修理之助  中村鶴松
将監北の方  中村梅花
土佐将監光信  片岡市蔵
 
第四部 午後7時15分~
近松門左衛門 作
日本振袖始(にほんふりそではじめ)
大蛇退治
 
岩長姫実は八岐大蛇  坂東玉三郎
稲田姫  中村梅枝
素盞嗚尊  尾上菊之助
 
※12月1日~7日までは下記代役にて上演。
岩長姫実は八岐大蛇  尾上菊之助
稲田姫  中村梅枝
素盞嗚尊  坂東彦三郎
 
歌舞伎公式総合サイト 歌舞伎美人 https://www.kabuki-bito.jp/

公演情報

『壽 初春大歌舞伎』
 
 
■日程:2021年1月2日(土)~27日(水) ※休演日 12日(火)、19日(火)
■会場:歌舞伎座

■第一部 午前11時~

一、壽浅草柱建(ことほぎてはながたつどうはしらだて)

曽我五郎時致:尾上松也
曽我十郎祐成:中村隼人
小林朝比奈:坂東巳之助
大磯の虎:中村米吉
化粧坂少将:中村莟玉
喜瀬川亀鶴:中村鶴松
茶道珍斎:中村種之助
小林妹舞鶴:坂東新悟
工藤左衛門祐経:中村歌昇
 
岡村柿紅 作
二、猿翁十種の内 悪太郎(あくたろう)

 
悪太郎:市川猿之助
修行者智蓮坊:中村福之助
太郎冠者:中村鷹之資
伯父安木松之丞:市川猿弥
 
■第ニ部 午後2時45分~
 
坂田藤十郎を偲んで
今井豊茂 脚本
一、夕霧名残の正月(ゆうぎりなごりのしょうがつ)
由縁の月

藤屋伊左衛門:中村鴈治郎
扇屋夕霧:中村扇雀
太鼓持鶴七:中村亀鶴
同 亀吾:中村虎之介
同 竹三:中村玉太郎
同 梅八:中村歌之助
扇屋番頭藤兵衛:中村寿治郎
扇屋女房おふさ:上村吉弥
扇屋三郎兵衛:中村又五郎
 
二、仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
祇園一力茶屋の場

大星由良之助:中村吉右衛門
遊女おかる:中村雀右衛門
鷺坂伴内:中村吉之丞
斧九太夫:嵐橘三郎
寺岡平右衛門:中村梅玉
 
■第三部 午後6時45分~
 
一、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)車引
 
松王丸:松本白鸚
梅王丸:松本幸四郎
桜丸:市川染五郎
杉王丸:大谷廣太郎
金棒引藤内:松本錦吾
藤原時平:坂東彌十郎
 
二、らくだ
岡 鬼太郎 作
眠駱駝物語

手斧目半次:中村芝翫
紙屑買久六:片岡愛之助
駱駝の馬太郎:中村松江
半次妹おやす:市川男寅
糊売婆おぎん:中村梅花
家主女房おいく:坂東彌十郎
家主佐兵衛:市川左團次
 
シェア / 保存先を選択