齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム・第八十六沼 『2020年総集沼!』
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「welcome to THE沼!」
沼。
皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?
私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。
一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れることを
「沼」
という言葉で比喩される。
底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。
これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。
毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。
齋藤久師が送る愛と狂気の大人気コラム・第八十六沼 『2020年総集沼!』
とにかく慌ただしい一年だった。人生史上、最もイカレた年だった2020年。
コロナウイルスにより人類は過去最大の危機にさらされたわけだが、この危機的な状況の中で私は多くのことを学び、そして新しい事に挑戦しまくった一年でもあった。
もともと勤め人では無いので、「ステイホーム」という状況は自分にとってはデフォルトであり、あまり衝撃は無かったが、海外を中心に活動する我々にとっては渡航できないという事がなによりの痛手になった。
ステイホームっていうか、ステイ庭
春に行われるはずだったgalcidのツアーはもちろん中止。
ヨーロッパ政府にお呼ばれしていたので、これはたいへん残念だった。
また、物質にこだわる私たちは、作品をリリースする場合、必ずアナログレコードを作ってもらうというのが最低条件なのだ。
しかし、これもコロナの影響でレコードプレス会社やディストリビューターが完全停止してしまい、1年近く遅れてリリースとなった。
それでも、なんとか多くの作品を出せた
しかし、これはあらゆる物事に言えるのだが、「ピンチこそチャンス」なのである。
海外ツアーが無くなってしまった代わりに、各国から私たちのライブ配信を行った。
最初は簡単な機材(カメラ一台)で行ったが、配信とて作品。
こだわり始めるとキリがないのはわかっていながら、私達は遂に映像の世界に手を出してしまった。
おかげで、中止になったツアーの現場を始め、世界中から多くの配信のオファーが舞い込んだ。
映像機器の世界は怖い。まさに底無し沼だ。
幸い、映像機材は一昔前にくらべ信じられないほど安価になったおかげで、いまや個人でハリウッド並の映像を作り出す事ができるのだ。
もちろん大好きなスタビライザー(走って撮影しても、映像がブレない)や沢山のカメラ、そしてレンズ、配信機材、編集ソフトを導入し、いまやホームスタジオは音楽機材と映像機材で溢れかえっている。
その他の経済活動も抜本的な見直しを始めた。
レコードを作るのに工場が稼働するのを待っていられないことから、パトレオンという新システムを導入した。
これは、私たちが毎週一曲作ってパトレオンサーバにアップすると、パトロンになってくれた方が月$5からサブスクリプトで自由に出来立ての曲をDLできるシステムだ。
2020年の半ばから開始したこのサービスはパトロンの数も日に日に増え、曲も50曲にせまる勢いだ。
アーティストとリスナーの健全な関係が築けた。
大金持ちにならなくたって、家族が食っていけるぶんだけあれば良い。ファンのみんなに支えられて生きている実感をひしひしと感じる。
また、このコロナ禍において、galcid レナによる「音の対話型鑑賞」のワークショップが、現場では行えなくなり、ZOOMを使ってオンラインワークショップとして継続する事にした。
最初はどうなるのか不安であったが、受講者が自宅で、しかもヘッドフォンを使用して鑑賞や対話を行うので、オフラインの時よりも「没入感が増した」という思いもよらぬ嬉しいご意見を頂き感動した。
また、コロナの影響は仕事だけではなかった。
私のライフワークである「釣り」は、例年では見る事のできないような爆釣を繰り返した。
これは、コロナ禍で釣り人が減り、魚へのプレッシャーが極度に低下したためだと分析している。
私の住む千葉県では都心と比べ釣り場が多い。緊急事態宣言を受け、私もマスクをしながら釣り場に行ったが、全く釣り人に会わなかった。
実の所、コロナ発生以前より忙しい。
本当に忙しい。
この状況で、勤め人の仲間からよく聞く言葉が
「これだけ在宅が長引くと、もう会社いけないっすね〜」
と。
そりゃあそうだよな。
長い夏休みの後、通常の生活リズムに戻すのがどんなに大変かわかるよな。
また、世界の医療従事者には本当に頭が上がらないよ。
死と隣り合わせの危険を顧みずにコロナに感染者を受け入れる医療施設やホテルなど、本来は政府がなんとかしなければいけない仕事を民間人が率先して行動している。
妻の実家には、身体を壊した義父がいるので、感染を防ぐために帰郷する事ができないのも悲しい。
毎年必ず家族で高松に帰郷するのだが、今年は行けなかった。一年も会っていない。
世界中では多くの人々が亡くなり続けている。
コロナが私たち人類に及ぼしたものは何だったのだろうか?
なにかを見直せという地球からのメッセージか?
限定された職業の勤め人の話に戻るが、在宅ワークによって「いらない労力やスペース」がより明確に見え、そして同時に「家族のありがたさや生活と仕事の在り方を知った」という。
通勤時間を仕事に当てる事が出来、さらに大きなオフィスが必要なくなる。そしてどこにいても仕事ができるようになった人は多い。
その証拠に、私の多くの友人が東京を離れ、田舎暮らしを率先して初めている。第一線の人たちが。
一方、流通や接客業の場合はそうは行かない。
マスクを着け、徹底した除菌をする以外にあまり有効な方法は無い。
それでも、流通会社は人と人の対面を避けるため、「玄関先配送」なるものを導入したり、飲食店であれば入場制限などの企業努力を惜しまず行っているようだ。
冒頭でも話した通り、現在の私たちはコロナ以前よりも忙しい。
なぜなら、全ての事を自分たちで行う必要が出てきたからだ。
音楽だけを作ってあぐらをかいていると死ぬ。
経済を学び、マネージメントを自ら行い、仕事も自分たちで作る。
さらには未知の領域であった映像の世界へ飛び込み、毎週新曲を作り、それとは別にフィジカルで音楽作品も発表する。
1日100時間あっても足りない。
植物にストレスを与えると、強く成長するという。
我々人類も試されているのだ。
距離をたもちながら結束できるテクノロジーは既に揃っている。
使わない手は無い。
あ、いま脳科学者の先生と工学博士とともに、脳波で楽器を演奏する装置を作った。
来年には発表できるだろう。
あれだけ寝坊スケの妻も、最近は早朝5時に起きて瞑想の時間を作っている。シンセサイザーとともに。
私達は、やられればやられるほど強くなる。
もう怖いものは無い。
ネコのトイレ掃除以外は。
それでは良いお年を。
新しい家族も増えた