1月歌舞伎座は松也、歌昇、巳之助ら花形9名で幕開き! 『壽 初春大歌舞伎』取材会レポート
1月歌舞伎座『壽浅草柱建』取材(左から中村鶴松、中村隼人、中村種之助、坂東巳之助、尾上松也、中村歌昇、坂東新悟、中村米吉、中村莟玉) 提供:松竹
2021(令和3)年1月2日(土)に開幕する、東京・歌舞伎座の1月公演『壽 初春大歌舞伎』。第一部の序幕を、花形俳優たちによる『壽浅草柱建(ことほぎてはながたつどうはしらだて)』が飾る。出演は、尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村米吉、中村隼人、中村莟玉、中村鶴松。9名は、新型コロナの影響がなければ『新春浅草歌舞伎』(以下、浅草歌舞伎)に出演していたであろうメンバーだ。浅草歌舞伎は1980年より続く、若手の登竜門ともいわれる公演だが、2021年は残念ながら中止となった。『壽浅草柱建』の『浅草』は、「はながた、つどう」と読ませる。遊び心とともに、9名へのエールを感じられる。
※以下の取材は、はじめの挨拶以外、マスク着用の状態で行われました。
■おめでたさと力強さで、今までと違う五郎を(尾上松也)
はじめに松也は、浅草歌舞伎が中止となった淋しさ、舞台に立てることへの感謝、それが歌舞伎座の舞台であることの喜びを述べた。続く8名も同様の思いを口にしていた。歌舞伎座の、中でもお正月の興行を、花形俳優だけで上演するのは稀なこと。
「浅草歌舞伎の中止を知った時は、仕方のないことと思いつつ、このメンバーでお正月にできることはないだろうかと、ご相談申し上げていたところでした。歌舞伎座へ場所は変わりますが、この9名でならば浅草と同じ気持ちで舞台に立てるように思います。浅草歌舞伎では、全力でご指導くださる先輩方に報いたいという思い、そして大役を勤める責任感を感じながら、舞台に立ちました。舞台度胸が養われる場でもありました。歌舞伎座の舞台でそれをいかせたら」
『曽我物語』を題材にした舞踊で、1890(明治23)年に初演された通称「新・柱建」に着想を得て、今回は、新たな振付と演出で上演される。松也は曽我五郎を勤める。
「曽我ものを基本とした、おめでたい舞踊です。おめでたさと力強さで、今までと違う五郎を目指したいです」
尾上松也 提供:松竹
■度量の大きさを出せるように(中村歌昇)
歌昇は、五郎と十郎の親の仇である工藤祐経を勤める。
「お正月を浅草で迎えられない淋しさはありますが、歌舞伎座に出させていただけることに感謝しています。舞台に立てる喜びを強く感じています。歌舞伎は多くの色々な方が関わりでき上がります。様々なことが逼迫する世の中で、歌舞伎をやらせていただけるのは、本当にありがたいことです。そして工藤は、大先輩方が勤めてられてきた大きなお役。五郎・十郎を受けきる度量の大きさを出せるよう、精一杯勤めたいです」
新年に向けて「1日1日何ができるかを考え、できる限りのことをやっていきたい。自分から発信することもやっていければ」とも話していた。今年9月、種之助とともに制作した映像作品『双蝶のうたたね2020 Soaring』(監督・撮影:笹口悦民)を発表した歌昇。来年の歌舞伎座の舞台とともに、どのような発信があるのかにも注目したい。
中村歌昇 提供:松竹
■浅草の二文字を背負って(坂東巳之助)
巳之助は、メンバーの中でも古株で、2008年の浅草歌舞伎に出演している。その後2012年、そして2014年から2020年までの7年連続、9回出演した。本作では、小林朝比奈を勤める。
「歌舞伎座で、外題に『浅草』と書いて“はながたつどう”と読みをつけていただき、浅草の面々でやらせていただけるのはありがたいこと。拙いなりに我々が何かをひとつのものを、築き上げることができたのかなと。『浅草』の2文字を背負い、お客様に喜んでいただける演目になるよう勤めます。この舞踊には、ちょっとした可笑しみのある振りもあります。明るく華やかな気持ちでご覧いただければ」
浅草歌舞伎で学んだことを問われ、通常の興行にはみられない「打ち上げ」に言及した。
「スタッフさんや地元の方も集まる打ち上げがあります。歌舞伎の舞台にこれだけ多くの方が関わっているのだと実感する良い機会でした。感染症対策で各セクションが分断される今、あの景色や熱気を思い出し、あらためて、自分が多くの方に支えられ、舞台に立っていることを実感します」
坂東巳之助 提供:松竹
■大らかに華やかに勤めたい(坂東新悟)
つづいて新悟が挨拶をした。
「この世代が歌舞伎座で一幕やらせていただくことに責任を感じます。30歳になり(若手公演である)浅草歌舞伎にいつまで出させていただけるか、考える時期でもありました。一つひとつ、1日1日の舞台を大切に勤めます。浅草では、古典の大きな役に挑戦させていただく積み重ね、自信にもなり、基本を身に着けることで、地に足がついてくる、成長につながる場でした」
演じるのは、朝比奈の妹・舞鶴。
「女方でありながら、素襖を着て太刀を佩(は)く男勝りのお役です。世の中暗いところもありますが、お客様に心から楽しんでお帰りいただけるよう、大らかに華やかに勤めたいです」
2021年に向けて「世の中の変化に適応しつつ好きな事、好きな物を、1つでも増やしていければと思っております」と抱負を語った。
坂東新悟 提供:松竹
■元気に生きてお客様に元気を(中村種之助)
種之助は、茶道珍斎で登場する。
「我々はお客様に元気を与える立場です。楽しく、とは言いづらい時代ですが、自分の気持ちが負けないよう、元気に生きてお客様に元気を与えられるよう、がんばります。個性的な役が登場する中でも、茶道珍斎は少し色の違うお役です。お客様には“お正月の歌舞伎座で、歌舞伎を観たな”と華やかな気持になっていただけるよう勤めたいです」
浅草歌舞伎は、若手の俳優が大きな役に挑戦するところが見どころのひとつだ。
種之助は「憧れていたお役を実際に勤め、理想と現実の差を知り、絶望する月でもありました。それを分からせてくれるのが浅草歌舞伎でした」と胸中を明かす。その気づきを成長の糧に、1月の歌舞伎座に挑む。
中村種之助 提供:松竹
■背伸びして、先輩方の背中を(中村米吉)
米吉は浅草歌舞伎で恒例の、出演者による『お年玉ご挨拶』が、ノープランで話す訓練になり、口数が増えたと自己分析をする。抜群のトーク力は、この日も発揮されていた。
「いまロビーのお正月飾りのあつらえを見ましても、歌舞伎座のお正月興行は特別な公演であることが分かります。その序幕を我々だけでやらせていただけるのは、大変ありがたいことです。私が勤めますのは、大磯の虎。来年は丑年ですので、干支を先取しちゃったな、というところです。虎は、立女方と言われる役柄です。大きさ、風格、いずれも私にはまだ、とても足りない役柄ですが、少しでも背伸びをし、先輩方の背中が見えるところまでいけるようがんばりたいと思います。そう、虎で思い出しますのは2013年の浅草です。『寿曽我対面』で海老蔵のお兄さんの工藤に、五郎は松也のお兄さん、舞鶴は新悟のお兄さん、少将は莟玉さん、私の虎、十郎は隼人さん、我々は今回も同じ役どころで……」
柔らかな口調で、話はよどむことなく展開する。松也や巳之助たちが、笑いながら「そろそろ話をまとめようか?」と声をかけると、一同は笑いに包まれた。「最後に抱負は?」と問われた米吉は、「今年もがんばります!」と明るく締めくくった(1秒後には「今年?」「あと2日?」と矢継ぎ早にツッコミが入っていた)。
中村米吉 提供:松竹
■それでも来てくださる方のために(中村隼人)
隼人は、9年連続で浅草歌舞伎に出演している。「1月は浅草で過ごすものと思っていました」と語る。
「松也さんが演じる五郎は荒事の役柄です。僕はそれとは正反対、和事の曽我十郎を勤めます。お客様に“いつか歌舞伎座の舞台で『曽我対面』の十郎を観たい”と思っていただける十郎を目指します」
浅草歌舞伎では、初めて“興行”としての歌舞伎を意識する場になったという。
「お客様の入りを真剣に考えるようになったのは、浅草歌舞伎がきっかけでした。先輩方と一緒に大きな劇場に出ていると、なかなか気がつくことができないことです。初心に帰ることができました」
1月の公演に向けて、「いまの世の中、対策をした上でも、お客様の前で演劇をすること自体に、賛否があると思います。その中で僕にできるのは、舞台に立ち続け、観たいと思って劇場に来てくださる方を幸せにできるよう精進し続けること」と現状を冷静に受け止めつつ、舞台への思いを言葉にしていた。
中村隼人 提供:松竹
■少しずつ進んでいます(中村莟玉)
莟玉は、2013年から2019年にかけて7年連続で浅草歌舞伎に参加。今回演じるのは、化粧坂少将だ。「2013年の浅草歌舞伎では『壽曽我対面』で、少将を勤めました。同じお役に、新しい形で挑戦できるのは嬉しい」と声を弾ませる。
2020年1月、新橋演舞場の『御存鈴ヶ森』に、初役の白井権八役で出演していた。そして1年前の今日が、その舞台稽古の日で駕籠の中でスタンバイしていたところ、駕籠が揺れた。幡随院長兵衛役の海老蔵によるものだった。
「『今日は客席でみんな(大先輩方)が観てるぞー。大丈夫かー』と駕籠を揺らしてきたんです(笑)。すごく緊張していると答えたところ、『でもお前は大丈夫だな。浅草にずっと出てたもんな』と言ってくださって。たしかに浅草歌舞伎の舞台稽古は、それぞれの役を指導してくださった大先輩方や皆様のお父上方が、ズラっと観にいらっしゃいます。毎年大変な緊張感でそれを経験してこられたことは大きいです」
2021年に向けて「歌舞伎座は8月に再開し、1月は2連席が作られたり、4部制が3部制になったり、少しずつ少しずつ進んでいます。スタッフの方も役者も一丸となってがんばりたい」とも語っていた。
中村莟玉 提供:松竹
■精一杯勤めることに尽きる(中村鶴松)
鶴松は、喜瀬川亀鶴を勤める。
「松也さんが声をかけてくださり、お正月から歌舞伎座に出させていただけます。浅草にいられない淋しさはありますが、僕らがやるべきことは、浅草でも歌舞伎座でもどこでも同じで、お客様に楽しんでいただけるよう精一杯勤めることに尽きます。初めての役ですが、先輩の胸をお借りして、やらせていただきます」
浅草歌舞伎は、若手俳優の登竜門と言われている。
「浅草歌舞伎は、先輩方の世代の頃から、若手のハングリー精神を感じる公演でした。勘九郎、七之助のお兄さんの話では、お客さんが入らなかった年に『来年もやらせてください』と直談判した等、色々聞いています。がむしゃらに頑張っていく精神が身についたように思います」
中村鶴松 提供:松竹
■歌舞伎座のお芝居でお正月気分を
冒頭の集合写真の撮影では、一同がマスクを外したわずか数秒後、通行中の方が松也に気づき、「『半沢直樹』の」と足を止めていた。撮影はスピーディに行われ、多くの人が密集することなく終了したが、注目度の高さを肌に感じる瞬間だった。9名の中で先輩にあたり、現世代の中心的存在でもある松也は「みんなを引っ張っていけたら」と力強く語った。
歌舞伎座の1月公演『壽 初春大歌舞伎』は、1月2日(土)~27日(水)までの上演。1月より歌舞伎座は、2席並びの席が一部のエリアに設けられ、客席の使用率は全体の50%となる。4部制から3部制に変わり、各部2演目ずつの上演となるが、各部完全入れ替え制で都度消毒が行われる点は変更ない。また、12月22日には劇場の感染予防対策の案内が更新され、「マウスシールド、フェイスシールド等のみご着用はご遠慮ください」と明記された。新年を迎えるにあたり、今一度、来場者も気持ちを引き締め、できうる限りの注意を払い、観劇の予定を立ててほしい。
取材・文=塚田史香
公演情報
■日程:2021年1月2日(土)~27日(水) ※休演日 12日(火)、19日(火)
■会場:歌舞伎座
曽我十郎祐成:中村隼人
小林朝比奈:坂東巳之助
大磯の虎:中村米吉
化粧坂少将:中村莟玉
喜瀬川亀鶴:中村鶴松
茶道珍斎:中村種之助
小林妹舞鶴:坂東新悟
工藤左衛門祐経:中村歌昇
岡村柿紅 作
二、猿翁十種の内 悪太郎(あくたろう)
悪太郎:市川猿之助
修行者智蓮坊:中村福之助
太郎冠者:中村鷹之資
伯父安木松之丞:市川猿弥
■第ニ部 午後2時45分~
坂田藤十郎を偲んで
今井豊茂 脚本
一、夕霧名残の正月(ゆうぎりなごりのしょうがつ)
由縁の月
扇屋夕霧:中村扇雀
太鼓持鶴七:中村亀鶴
同 亀吾:中村虎之介
同 竹三:中村玉太郎
同 梅八:中村歌之助
扇屋番頭藤兵衛:中村寿治郎
扇屋女房おふさ:上村吉弥
扇屋三郎兵衛:中村又五郎
二、仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)
祇園一力茶屋の場
遊女おかる:中村雀右衛門
鷺坂伴内:中村吉之丞
斧九太夫:嵐橘三郎
寺岡平右衛門:中村梅玉
■第三部 午後6時45分~
一、菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)車引
松王丸:松本白鸚
梅王丸:松本幸四郎
桜丸:市川染五郎
杉王丸:大谷廣太郎
金棒引藤内:松本錦吾
藤原時平:坂東彌十郎
岡 鬼太郎 作
眠駱駝物語
二、らくだ
紙屑買久六:片岡愛之助
駱駝の馬太郎:中村松江
半次妹おやす:市川男寅
糊売婆おぎん:中村梅花
家主女房おいく:坂東彌十郎
家主佐兵衛:市川左團次
公式サイト:https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/698/