匿名劇壇2年ぶりの長編『賭けてもいいけど』主宰の福谷圭祐に聞く~「コロナで新しく生まれた概念を踏まえつつも、明るく笑える作品です」

インタビュー
舞台
2021.3.5
匿名劇壇主宰で劇作家・演出家の福谷圭祐。

匿名劇壇主宰で劇作家・演出家の福谷圭祐。

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2020年10月に放送された、川島海荷・白洲迅のW主演ドラマ『僕らは恋がヘタすぎる』(ABC)で、初の連続ドラマ脚本を担当(内田裕基と共同)した、大阪在住の作家・演出家の福谷圭祐。雑誌「anan」でも、NEXTドラマクリエイターの一人として紹介されるなど、演劇以外のジャンルでも注目されつつある彼が、主宰する劇団「匿名劇壇」で新作『賭けてもいいけど』を発表する。

ここ最近は、2~3分程度の短編数本をノンストップで見せることで、一つの世界を作り上げる手法「フラッシュフィクション」の可能性を探り続けていたが、今回は2年半ぶりにガッツリとした長編を執筆。裏カジノで賭け事に興じる人たちが右往左往する様子を、コメディタッチで見せていく。「とにかく明るく笑える作品にしたい」と意気込む、福谷にリモートインタビューした。



自身のギャンブルレベルとしては「20代前半の頃は、結構パチンコで痛い目にあってました(笑)」と語る福谷。今回のシチュエーションは「自分の心と近い距離にあり、かつ明るいエンタメになりそうな題材」ということで選んだという。

僕は匿名劇壇では、本当に自分が好きなこと、やりたいことを書きたいと思っていて。この新型コロナで笑えない日が続いたから、単純に笑えるものが作りたくなったんです。それでギャンブルをテーマにすれば、嬉しい思いをしたり、悲しい思いをしたり……おおむね悲しい思いをするけど(笑)、人間の感情が動く場面をたくさん作れるなあと思いました

舞台となるのは、ギャンブルでの一攫千金を目指す人々が、SNSを通じて集まった裏カジノ。離婚後の養育費が払えない男、ホストに貢いでいる女、パチンコ依存症の男……いろんな訳ありの人々が、様々なことをギャンブルの対象にして一喜一憂する様を、ワンシチュエーションで見せていく。

匿名劇壇『大暴力』(2019年)より。 [撮影]堀川高志(kutowans studio)

匿名劇壇『大暴力』(2019年)より。 [撮影]堀川高志(kutowans studio)

ここしばらくフラッシュフィクションの作品を作ったんですけど、役者からもお客さんからも“そろそろ長編を書いてほしい”と言われたんです。僕自身、前回の『ときめく医学と運命的なアイディア』で、このスタイルの一つの正解が見えた気がしたので、また長編を書いてみる気になりました。

フラッシュフィクションは、役者にとってはシーンシーンを作るのは楽しいけど、一本筋の通った役を作るのと、ちょっと違うベクトルの演技になるのが負担になってしまう。それとやっぱりみんな、僕の書いた作品が好きで集まってくれてる人たちなんで、久々に長編をやってみたいという気持ちは、当然あったのかなと思います

『ときめく……』は劇団員がほとんど出演しない、プロデュースに近い公演だったため、劇団員だけで公演を打つのは実に1年半ぶり。また意外にも、正統派のワンシチュエーション・コメディは劇団初ということもあり、稽古は思ったより楽ではなかったそう。

始まったら最後まで場面転換もなく、役者もほぼ舞台にいっぱなしで、同じ時間を突っ走る作品は初めてです。これまでは、ワンシチュエーションでも結構時間が飛んでたりしていたので。転換せずにずっと行くから、役者の熱量もずっと続くと思います。

匿名劇壇『ときめく医学』(2020年)より。 [撮影]堀川高志(kutowans studio)

匿名劇壇『ときめく医学』(2020年)より。 [撮影]堀川高志(kutowans studio)

前回ゲストをいっぱい入れたことで、やっぱり劇団員たちと物作りをするのには、楽さと楽しさの両方があるなあと実感しました。でもみんなが(客演で)いろんな現場に行ってることもあって、それぞれの役作り論みたいなのが、結構乖離(かいり)してしまって。“匿名劇壇の演技って、こういうルールだったよね”という共通認識を、今回はいったんバラしてからスタートしました。でもそうすることで、一回ゼロ地点に立ち返れたなあという感じはしています

ここ最近、劇作家に話を聞くと「コロナが起こって以来、悲しいことや暗いことを書く気がなくなった」という声が多い。福谷もその例外ではなく、冒頭で似たようなことを語っているが、その一方で今回は「コロナがある世界線の物語」にも挑戦したという。

コロナを揶揄したり茶化したりするのは、面白いと思えないからやってないし、かといって“こんな時代だから明るく生きよう”みたいなメッセージも込めてないです。でも、コロナを(この世界に)有るものとして扱う手付きが、すごく自分にとっては気持ちのいいものにできたと思っています。たとえばフェイスシールドって、コロナが蔓延するまでは、ほとんど日常にはなかったじゃないですか? それが登場することで“ここはコロナがある世界なんだな”とわかるという。

匿名劇壇『運命的なアイディア』(2020年)より。 堀川高志(kutowans studio)

匿名劇壇『運命的なアイディア』(2020年)より。 堀川高志(kutowans studio)

でもその使われ方が風刺的なわけでも、バカバカしいわけでもなく、たまたま手元にある物を“こうすればギャンブルにできるよね”という感じで使うという、単なる一アイディア的なものなんです。相対するつもりもなく、ただ“有る”。新型コロナによって、新たに生まれた概念を踏まえて物語を作るというのは、多分こういうことなんじゃないか? という作品ができたのかなあ……と思っています」。

ギャンブルをテーマにした漫画や映画では、勝負の緊張感やイカサマの駆け引きなどが大きな見どころになったりするが、本作もその例にもれない作品になったという。

イカサマの可能性が示唆されたりするんで、目を離さずに役者の一挙手一投足を観てほしいですね。伏線がめちゃくちゃ多いので、二回観てください……なんてことは言えないので“刮目(かつもく)せよ!”と(笑)。舞台上の役者の時間と熱量を、観客と上手く共有できたら、結構面白いことになると思います

前回公演の話でも、あるいは連ドラの話を振った時も「やっぱり劇団員のみんなと一緒にモノを作るのが楽しい」と述べていた福谷。関西でも屈指のチームワークを誇るメンバーたちと共に、コロナ共存時代をほんのりと意識させつつも、基本的には明るく楽しいコンゲームを見せてくれることだろう。初日の公演は「SNSへの感想の投稿を約束する人は200円引」というユニークな割引もあるので、いち早くこの世界を目撃できることも合わせてオススメ。また公演の録画配信も決定したので、いろんな事情で劇場に足を運べない人は、そちらでチェックして。

匿名劇壇『賭けてもいいけど』公演チラシ。

匿名劇壇『賭けてもいいけど』公演チラシ。

取材・文=吉永美和子

公演情報

匿名劇壇『賭けてもいいけど』
 
■作・演出・出演:福谷圭祐
■出演:石畑達哉、佐々木誠、杉原公輔、東千紗都、松原由希子、吉本藍子

 
■日時:2021年3月13日(土)~15日(月) 13日…13:00~/18:00~、14日…14:00~/19:00~、15日…12:00~/17:00~
■会場:HEP HALL
■料金:前売=一般4,000円、学生2,500円 当日=4,500円
※13日は「初日SNS割」あり(昼夜公演とも)。SNS等で、公演の感想の投稿を約束してくださる方に限り、各種料金から200円引。 
※3月16日~4月1日に、初日公演の録画を配信。詳細は公式サイトにて。 
■問い合わせ:090-9657-2437 tokumeigekidan@yahoo.co.jp(匿名劇壇)

■公式サイト:https://tokumeigekidan.jimdofree.com/next/
※この情報は3月4日時点のものです。新型コロナウイルスの状況次第で変更となる場合がございますので、公式サイトで最新の情報をチェックしてください。
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