桐生麻耶インタビュー『桜咲く夜~歌劇家話』、そしてOSK日本歌劇団トップスター・ラストステージ『レビュー 春のおどり』へ(聞き手:戸部和久)

2021.3.16
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OSK日本歌劇団のトップスター桐生麻耶。

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OSK日本歌劇団『レビュー 春のおどり』で、桐生麻耶(きりゅう・あさや)がトップスターとしてのラストステージに立つ。大阪松竹座での公演を終え、2021年3月26日(金)より新橋演舞場で東京公演が開幕する。本公演は2部構成となり、第1部では日本物のレビュー『ツクヨミ~the moon~』(構成・演出・振付:尾上菊之丞)が、第2部では洋物のレビュー『Victoria!』(作・演出:荻田浩一)が上演される。桐生麻耶と戸部和久(松竹 演劇部芸文室、第1部『ツクヨミ』 脚本参加)にインタビューし、ラストステージに込める思いを聞いた。

なおインタビュー翌日の3月13日(土)には、桐生、菊之丞、荻田、戸部(司会)の4人によるオンラインのトークライブ『桜咲く夜~歌劇家話』がイープラス「Streaming+」で配信された。アーカイブ視聴と購入は、3月19日(金)までとなる。

(左から)戸部和久、桐生麻耶

■ 「ケ・セラ・セラ」に込められた思い

桐生:戸部先生が作詞された「ケ・セラ・セラ 」の歌、大好きです。歌いながら、役のままでありつつ桐生麻耶でもあったりします。いい意味で曖昧。歌詞の中には、私にまつわることや思いが色々隠されているんです。 

戸部:「ケ・セラ・セラ」はもともと桐生さんのお好きな言葉なんですよね。そこに、桐生さんご自身にまつわるエピソードも入れ、「ケ・セラ・セラ、こんな私に悔いはない」という歌詞を書きました。僕ごときが桐生さんに対し“こんな私に”って書くのは、失礼なのでは? とも思ったのですが……。

桐生:すごく良いです。私を体現した言葉だって思いましたよ!

戸部:良かったです。歌劇のスターの桐生麻耶が次のステップへいく。そのために1回、ひとりの役者体であるご自分に戻っていただき、新たな一歩を踏み出していただきたい。そんな思いを込めたつもりです。

──1年越しのラストステージは2部構成です。第1部『ツクヨミ~the moon~』で桐生さんは、歴史上の人物をめくるめく演じられます。中でも映画や講談でお馴染み、『高田馬場の決闘』の堀部安兵衛はご自分から提案されたそうですね。呑兵衛で喧嘩仲裁屋のキャラクターですから驚きました。 

桐生:そう、みなさんに驚かれます(笑)。

──普段は歌舞伎の脚本や演出を担当されている戸部さんですが、今回、初めてOSKの公演に携わりました。 第1部の脚本を担当されています。

戸部:私は2019年、新作歌舞伎『風の谷のナウシカ』に脚本で参加しました。その舞台稽古中、同じくナウシカで振付を担当されていた尾上菊之丞先生からお声がけいただきました。 「桐生麻耶さんという規格外のトップスターがいる。前回の公演で武蔵坊弁慶を演じられたが、あれほど弁慶が似合う男役がいるなんて思わなかった」と。その桐生麻耶さんにとっての、トップスターとしてのラスト公演だから、桐生さんにしかできないものを創りたい。登場人物たちの人生のクライマックスと言えるシーンを桐生さんがノンストップで演じられます。テーマは月です。

尾上菊之丞演出「レビュー 春のおどり」第1部『ツクヨミ~the moon~』より/(C)松竹

■ やさしくて、容赦のない2人の演出家

──戸部さんからご覧になって、稽古場の桐生さんはどんな雰囲気でしたか?

戸部:圧倒的ですね。舞台をご覧いただければ分かるのですが、演出家や脚本家は桐生さんにとてつもなく大変な要求をしているので、ご本人は大変だと思います。以前にSNSで、今回の『ツクヨミ』は「日本舞踊らしくない」というご意見を見かけたことがあります。日本舞踊は基本的に当て振り(歌詞や状況そのものを表現する振り)です。演出・振付の尾上菊之丞さんは、普段通りまさに当て振りで、日本舞踊の振付家でなければできないものに仕上げられています。その上で、あえて当て振りにみえないように作られていますし、そうは見えないように桐生さんたちは踊ります。なかなか踊りこなせるものではありません。それができるのもOSKのみなさんが日頃から日本舞踊に取り組み、毎年和物の演目をやり、基本ができているからこそです。

桐生:それも菊之丞先生が、諦めずに向き合ってくださったおかげです。たとえば先生がやると一発でカッコよくきまる振りが、鏡に向かって同じポーズをしたつもりでも同じ形にはなりません。苦しかったですね(笑)。

戸部:体が違うので、同じにならないのは当然何ですよね。それをいかに自分の形にもっていけるか。その意味でも桐生さんは、稽古場において後輩の方々に背中を見せていらっしゃいました。ご自身の稽古が終われば後輩の稽古にも目を向けているので、タフだなと思いました。

菊之丞先生のメモの行方は…配信トークライブ『歌劇家話』で明らかに!

──第1部の演出をする尾上菊之丞さんは、日本舞踊尾上流の家元で歌舞伎や花柳界、様々なジャンルで振付家として活躍されています。第2部の演出の荻田浩一さんは、宝塚歌劇団にかつて所属されていました。お二人はそれぞれにどのような演出家さんですか?

桐生:テイストやアプローチは違いますが、モノづくりに向かう時の原点はとても近い気がします。まず脳内で、すべての絵ができあがっていて、それを実際に人を動かし初日に向けて創り上げていかれる。 菊之丞先生は本番が差し迫った舞台稽古でも、気づいた点や改善点をメモされ、皆に伝えてくださいます。初日が開いてからも次の日も。私は書き留めきれないくらいにフィードバックがあるので、先生がメモしていた紙を「そのままもらっていいですか?」ってお願いしたくらいです。

戸部:荻田浩一先生はいかがですか? 元は宝塚歌劇団のご所属でしたから、長い目でみて劇団自体を育てていこう、その力に委ねようみたいなお考えがあるように思います。学校の先生のよう。

荻田浩一演出「レビュー 春のおどり」第2部『Victoria!』/(C)松竹

桐生:荻田先生はお稽古の合間の無駄話が楽しいです(笑)。歌劇とは直接関係のない、家族とか食べ物の話、もちろん舞台の話も。でもそれが実は無駄じゃない。お稽古場を歩き回り劇団員と話をして、そういったコミュニケーションも大切にされています。

戸部:一人ひとりの性格をしっかり理解していくタイプ。

桐生:そう! おふたりともゼロから作品を創り出すのですから、脳みそがすごいのでしょうね。そしておふたりとも穏やか。でも「これをやりたい」は一歩も引かない。やさしく容赦ない(笑)。

戸部:13日配信の『歌劇家話』では、そんなお2人と桐生さんにお話を伺います!面白いと思います!

『桜咲く夜~歌劇家話』ダイジェスト映像

■ 来年100周年、舞台に立てることへの感謝

──OSKをまだご覧になったことのない方のために、OSKの特長や楽しみ方をお聞かせください。

桐生:『春のおどり』では、日本舞踊を基礎とした和物のレビューと洋物のダンスのレビューの両方をやります。特殊なことをしていると思いますが、特殊かどうかは数を見ている方でないと、分からないですよね。ラインダンスは大きいインパクトがあると思います。でも……OSKを観たことのない方に劇場まで足をお運びいただくのは、とても難しいことです。誰かに誘われてとか連れられてとか、きっかけは人付き合いだった方も多いのではないでしょうか。ですから、すでに応援してくださっている方々に、いかに人付き合いしていただけるか。人に教えたいと思っていただける舞台をお見せできるか。何かのきっかけに観ていただければ、忘れられないものになると思うんです。

戸部:連れてきていただければ、裏切らないですよね。

桐生:私自身、友だちが教えてくれたことがきっかけでした。ずっと陸上に打ち込んでいて、七種競技をやっていたんです。たまたま宝塚やOSK、劇団四季など舞台が好きな子がいて、そこで初めて歌劇というものを知り、男役、男装の麗人というものの存在を知りました。まだ試験を受けられる年齢だったので、生まれてはじめて自分のやりたいと思ったことを行動にしたんです。それがOSKへの入団で。人生変わっちゃいましたね(笑)。

戸部:日本の歌劇は、日本の古典や舞踊をエッセンスにしてきました。松竹発祥のOSKには 歌舞伎のアドバンテージがありますので、そこにチャンスがあるのではと思っています。現代として我々が、歌劇にもう一度歌舞伎や和物の要素を取り戻していくことができるのではないかなと。それから……比べてはいけないのですが、OSKは宝塚歌劇団さんほど人数がいません。舞台に立つ人数も少ないのに、でも舞台をいっぱいに埋めている。それはどういうことかというと、1人1人が……

桐生:馬車馬のように(笑)。「人数が半分なら2倍動けばいい、2倍のオーラを出せばいい」とよく言われます(苦笑)。 

戸部:僕もまだOSKビギナーですが、まず歌劇は、何も考えずに見て純粋に楽しい。そこで感じるのは、歌って踊って演じている人たちがどれだけ舞台に真剣に向き合ってきたかです。OSKの舞台からは、舞台に向き合う情熱、執念が感じられます。役者体としてエネルギーというのでしょうか。美しい中にそういう、生々しさがある面白さ。あえて隠さないところから、OSKにハマっていったように思います。ことに桐生さんには、そんな魅力があります。

桐生:OSK日本歌劇団には、存続の危機がありました。その都度たくさんの方にお世話になり、来年100周年を迎えることができます。ですから劇団員一人ひとり、舞台に立てることが当たり前という素振りをみせてはいけない。感謝の気持ちがあれば、舞台の姿勢も自然と変わってくるように思います。人に言われて変えられるものではなく、本人の力で気づけるか気づけないかの話ですが。

戸部:気づくって大変ですよね。

桐生:気づけない限り見えてはきませんし、気づける時にしか気づけませんからね。気づくためには人と話したりふり返ったり映像を観たり体験をしたり。自問自答し続けることですね。

■ 未知の世界、新しい景色へ

──OSKへの入団に憧れる方にアドバイスをするとしたら、どんな言葉をかけますか?

桐生:(少し考えてから真顔で)人生の保証のない世界なので、覚悟がないなら止めておいたほうがいいよ?ってアドバイスします!

戸部:ハハハ!

桐生:夢を追うにしても「やりたい」だけではやっていけない。「普通の人生を歩んだ方がいいかもよ?」って言っちゃうかも(笑)。でも本気でやりたいなら、入った以上は諦めないこと。陸上ならばタイム、数字の結果がすべてで、それは自分との闘いですが、この世界では作品や人によりニーズも基準も変わります。そういうものだと分かっていても「自分なんかいらないんじゃないか」と思ってしまう。役に選ばれたり、選ばれなかったりのくり返しの人生です。それでも折れない心ですね。すぐに諦めちゃだめだと思う。

(左から)戸部和久、桐生麻耶

──自分なんかいらないんじゃと思い始めた時、そこからどう抜け出しているのでしょうか。

桐生:自分なんか……と自分が思うということは、他の皆も思っている。それを考える時間があるなら稽古をして、何か一つでも上手くなった方がいい、ということでしょうか。選ばれる時は選ばれる、ダメな時はダメ。気持ちを持続し、プラスにもっていくことが難しい。そのくり返しなのでしょうね。

戸部:桐生さんはいつ頃から楽しめるようになったんですか?

桐生:今だって楽しめていませんよ?

戸部:えー!!(笑)

桐生:初舞台生の時くらいかな、何も考えずに楽しめたのは。ずっとどこかに、ひっかかりがあります。

戸部:ひっかかりの答えをずっと探しつづけているんですね。

桐生:そうなんです。

戸部:でも、その生き方に悔いはない。

桐生:悔いはありません。楽しい楽しくないはないけれど、やってきたことに嘘はないから悔いはない。「ケ・セラ・セラ」の歌詞はぴったりきます。何のひっかかりもなくその歌詞を歌えます。“こんな私に悔いはない”ですよ!(笑)

戸部:そこに誇りをお持ちの桐生さんですから、特別専科におなりになっても、プロフェッショナルの役者として、進化されるのでしょうね。楽しみでもあるのでは?

桐生:未知の世界ですからね。新しい景色をみたいですね。


桐生麻耶のトップスター・ラストステージ『レビュー 春のおどり』は、新橋演舞場にて3月26日(金)から3月28日(日)まで。桐生、演出家の菊之丞、荻田、そしてMCを戸部がつとめるオンライントーク『桜咲く夜 歌劇家話』は、3月19日(金)までイープラス「Streaming+」での配信中だ。

配信情報

『桜咲く夜~歌劇家話』
 
■出演:桐生麻耶 尾上菊之丞 荻田浩一
■司会:戸部和久(「レビュー 春のおどり」第一部『ツクヨミ~the moon~』脚本)
 
■配信場所:イープラス「Streaming+」
【販売期間】3月6日(土)10:00発売開始~3月19日(金)18:00まで発売
【視聴期間】3月13日(土)19:00~3月19日(金)23:59までアーカイブ視聴可能
 
【視聴価格(税込)】
(1)トークライブ「桜咲く夜~歌劇家話」 2,000円
(2)舞台映像配信『桜鏡~夢幻義経譚~』 1,000円
(3)トークライブ+舞台映像 セット券 2,700円
 
〇 『桜鏡(さくらかがみ)~ 夢幻義経譚(ゆめまぼろしよしつねものがたり)~』
大阪松竹座新築開場二十周年記念 OSK日本歌劇団創立95周年記念 「レビュー 春のおどり」第一部より  尾上菊之丞 作・演出・振付(58分/平成29年6月大阪松竹座にて収録)
※今回の映像配信では、第二部の上演はございません。

公演情報

OSK日本歌劇団『レビュー春のおどり』
 
会場:新橋演舞場
日程:2021年3月26日(金)~28日(日)
観劇料(税込):
S席(1・2階席)9,500円
A席(3階)5,000円
 
スタッフ:
第1部 ツクヨミ ~the moon~
構成・演出・振付:尾上菊之丞
第2部 Victoria!
作・演出:荻田浩一
 
キャスト:
桐生麻耶
楊琳
虹架路万
舞美りら
愛瀬光
華月奏
翼和希
千咲えみ
白藤麗華
城月れい
遥花ここ
他OSK日本歌劇団
 
公式サイト:https://www.osk-revue.com/
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