ふたりのマルティンが語る将軍・ピサロとは〜大鶴佐助&外山誠二インタビュー『ピサロ』アンコール上演迫る~
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(左から)外山誠二、大鶴佐助
2020年は、わずか10ステージで中断を余儀なくされた。1年の月日を経て、渡辺謙主演『ピサロ』がアンコール上演される。とはいえ、まだまだ予断を許さない状況だ。そんななかでも、稽古は着々と進んでいる。成り上がりの将軍・ピサロに従い、混乱の世を生き抜いたマルティン。物語は、老マルティンの語りから始まる。ピサロの小姓だった若きマルティンを大鶴佐助が、老マルティンを外山誠二がそれぞれ演じる。ふたりのマルティンはそれぞれ『ピサロ』に何を思うのか?
■互いに影響を与える「ふたり」のマルティン
ーー稽古場の感染症対策は徹底していると聞いています。俳優さんも3日に1回、PCR検査を受けているそうですね。
外山:演出家席もパーテーションで囲っているくらいですから。
大鶴:演出のウィル(・タケット)の来日から2週間が過ぎたので、ようやく厳密に2メートルの距離をとる必要はなくなりました。
外山:演技の細かいことを話すとき、俳優と演出家が2メートル以内になるのは不自然ではないのですが、厳しいルールにのっとってやっています。
大鶴:誠二さんはほかの作品での稽古中も、マスクをつけていましたか?
外山:そうだね。台詞だけでなく、歌やラップのシーンでもマスクのままだった現場がありました。酸欠を起こしても不思議じゃない。苦しかったなあ。
大鶴:僕もたいていマスクをつけながらの稽古でしたが、相手からもらえる情報が本当に限られてくるなと思いました。表情の半分が見えないので。
大鶴佐助
ーーおふたりがそれぞれマルティンという人物の若いころと老人の時期を演じます。同じ人物なのですが、ピサロに対する見方が異なる。役に対してどのような思いがありますか?
大鶴:前回は、ピサロに対して恐れを抱いているところが強かったです。だけど今度は、ピサロの多面的な部分が見えてくると思います。ただ恐怖する対象ではなくて、ピサロの孤独や焦燥の部分も浮き彫りにできたら……。
外山:佐助くんの演じる若いマルティンと、語りを担う老マルティンでは演劇的な時間の持ち方が異なります。佐助くんを見ながら「どうしてこういう表情をしているんだろう?」と舞台上で分析しながら楽しんでいました。ピサロに対して愛情や憧れや以上の感情を抱いている若いマルティンには、愛憎の屈折がありますよね。
ーー互いのマルティンが、互いに影響を与えている部分はあると思います。
大鶴:それはすごくあると思います。誠二さんが情景を説明するところでは、舞台に立っている僕にとってもガイドのようになっています。
外山:老マルティンにとって、舞台で起こることは過去の記憶です。過去を振り返る老マルティンの視線があり、舞台で起きていることがあり、それがひとつの場で見えていて、そこが演劇的に面白い。過去を振り返る作品といえば『アマデウス』もそうですが、実際に同じ場所に今の自分と過去の自分がいる構造の芝居はめずらしいですね。
■長い休演日を過ごしたような……
ーー演出家とのコミュニケーションはどのように進んでいますか?
外山:ときどきやって見せてくれます。でも「僕の真似はしないでね」とウィルは言うんです。
大鶴:そうなんですか(笑)。
外山:身体表現をやっていた人だからね。ダニー・ケイのようなコミカルな動きで、ちょっとかわいいんです。ウィルは最終的な表現の形にはこだわるけど、そのプロセスでは俳優とじっくり向き合おうとします。
大鶴:ウィルはバレエもやっていたから、フィジカル的な見せ方にこだわりがありますね。演出家として気になった部分については、俳優に動機を聞いてきます。「なぜここにきた?」「きみはどう思う?」というディスカッションになっていく。それから「この作品はきみたちのものだから」とウィルは言います。稽古場で引っかかる部分は何度でも話せるムードをつくってくれています。
(左から)外山誠二、大鶴佐助
ーー前回、初演が10回の上演で中断しました。
大鶴:中止になった日、謙さんが「またやる」とおっしゃったので、僕もそう思っていました。再演というよりは、長い休演日を過ごしたような気持ちです。元気な姿でみんなと再会できたのはうれしかったです。
外山:ラグビーで「ワンチーム」という言葉が流行ったでしょう。初演のとき、『ピサロ』もワンチームでやろうとしていた矢先のコロナで、みんなが悔しい思いをした。一部新たなキャストになっていますが、またやれることでワンチームの気持ちが戻ってきました。
■ピサロを支える強烈なコンプレックス
ーーピサロという人物について、おふたりはどう思いますか?
大鶴:マルティンはピサロの小姓で、彼を近くで見ています。強い人間だけど揺れ動いていますし、言っていることが変わる。そこに人間味があると思います。欲望に忠実だからこそ、矛盾するわけですよね。悲しい人物であり、愛おしい人物でもある。
外山:ピサロは豚小屋で生まれた。ものすごく孤独な人です。そのなかで何をもとめていたのか。信じられるものを追求していたんだと思います。それはつまり、神ということでもある。彼が最後に何を獲得したのかは謎なんですが、ずっと孤独感に苛まれていた。信じるものを欲するがゆえに、ピサロは軍人であり続けたんだと思います。
外山誠二
ーー欲望に忠実であり続けることは、現代社会ではむずかしいですね。
大鶴:そうですね。ピサロの場合、強烈なコンプレックスがあるんですよね。私生児で母を知らないこともあり、世間に自分を認めさせたい気持ちが強い。コンプレックスは武器になるんだと思いました。
ーー佐助さんは実際にコンプレックスを抱いていますか?
大鶴:コンプレックスだらけですよ。(少し考えて)具体的に何かと聞かれるとすぐには答えられないですけど、「自分はまだまだだな」と思うのはコンプレックスなんだと思います。
外山:肌がきれいで、髭が生えないことはコンプレックス?
大鶴:それはコンプレックスじゃないです(笑)。
外山:僕は髭がモジャモジャなのがコンプレックス(笑)。
大鶴:いつも「自分はまだまだだな」と思いながら稽古が終わるんですけど、こないだ長谷川初範さんが「僕は最高だーっ!」と声を出していました。「自分は最高だと思い続けたほうが楽しいよ」と、教えてもらいました。
外山:彼はすごくポジティブですね。そうやって自分と周囲を鼓舞しているところもあるんだと思います。
大鶴:初範さんには力をもらっています(笑)。
ーー厳しい状況は続きますが、初日が近づいてきました。マルティンを演じるうえで、今の思いをお聞かせ願います。
外山:舞台で起きていることは、すべて老マルティンの記憶の話なんです。語りから始まる世界を、僕もしっかりと見ていきたい。佐助くんが演じる若いマルティンの成長の物語としても楽しめるはずです。
大鶴:夢見る少年だったマルティンが軍人を続けた理由は何か。残虐な出来事を経験しても、どうにか生き残った人の成長の話でもあります。ピサロやアタウアルパと出会い、切り捨て、最終的に生き残る。マルティンの視点からの物語としてお見せできたらうれしいです。
(左から)外山誠二、大鶴佐助
取材・文=田中大介 撮影=中田智章
公演情報
(原題:The Royal Hunt of The Sun)
会場:PARCO劇場
作:ピーター・シェーファー
翻訳:伊丹十三
演出:ウィル・タケット
出演:渡辺謙
宮沢氷魚 栗原英雄 大鶴佐助 首藤康之 菊池均也
浅野雅博 窪塚俊介 小澤雄太 金井良信 下総源太朗
竹口龍茶 松井ショウキ 薄平広樹 中西良介 渡部又吁 渡辺翔
広島光 羽鳥翔太 萩原亮介 加藤貴彦 鶴家一仁
王下貴司 前田悟 佐藤マリン 鈴木奈菜 宝川璃緒
外山誠二 長谷川初範
企画・製作:パルコ
入場料金:13,000円(全席指定・税込)
お問合せ:パルコステージ 03-3477-5858(時間短縮営業中)
https://stage.parco.jp/program/pizarro2021