モノンクル ライブで生きてゆく姿を見せつけ、音楽はライブで成長するものだと心の底から実感した一夜
モノンクル 撮影=ゆうばひかり
MONONKVL in Billboard Live YOKOHAMA
2021.6.27 Billboard Live YOKOHAMA
モノンクルがライブを愛し、ライブで育ち、ライブで生きてゆく二人であることを、まざまざと見せつけるパフォーマンスだった。6月27日、Billboard Live YOKOHAMA。当初は1月16日に予定されていた公演を新たにリスケジュールしたもので、いわばリベンジ公演だが、そこにネガティブな感情は1ミリもない。吉田沙良(Vo)と角田隆太(Ba)は、この時代に観客と共にライブができる喜びをしっかりと嚙みしめながらそこにいた。
「みなさんこんにちは。Billboard Live YOKOHAMAへお越しくださってありがとうございます。延期になったおかげで来れた人もいるかもしれないし、来れなかった人もいるかもしれないけれど、これだけのみなさんが来てくれて本当にうれしく思っています。今日は最後まで楽しんでください」(吉田)
薄いピンクのジャケットとパンツ、スニーカーは鮮やかなオレンジ。軽やかにステップを踏みながら、クラップを煽りながら、圧倒的な声量と技巧で熱のこもった歌を聴かせる吉田沙良。立ち姿は常にクールでクレバー、ビートとメロディを司る万能インストゥルメント「Push」とエレクトリックベースを巧みに操る角田隆太。そこにサポートメンバーの小川翔(Gt)、西田修大(Gt)、沖メイ(Cho,Electronics)が加わるサウンドは、ジャズをベースにした精密なグルーヴ、R&Bやソウルの豊かなうねり、歌ものポップスのキャッチーなメロディを組み合わせた、実に表情豊かなものだ。
モノンクルの音楽は、音源で聴くとお洒落、知的、アダルトといったイメージが強いが、ライブは別物で、むしろ情熱的、躍動、骨太といったワードが頭に浮かぶ。「シチズン・クロノシー」CM曲として昨年リリースされた「Every One Minute」も、音源以上に推進力たっぷりの力強いファンクビートに体が揺れる。角田が手動でPushを叩きながら繰り出す、下腹に響く重低音がとても気持ちいい。
「ここで新曲をお届けします。今ちょうど作っている曲で、明日マスタリングするという曲を、二人でやりたいと思います」(角田)
中盤のアコースティックセットでは、角田のギターと吉田の歌だけで新曲「ずるいよ」を初披露。歌詞はおそらく、恋をしてはいけない相手に恋をした、愛しさと苦しさを生々しく綴る恋愛ドラマ。アコースティックギターのシンプルな爪弾きの上で、物語の読み聞かせのように、主人公の揺れる感情の機微を伝えてゆく吉田沙良の表現力が素晴らしい。これまでのモノンクルの楽曲の中でも指折りの、特別にせつない共感を呼びそうなメロディアスバラード。リリースが楽しみだ。
「こんなにライブができない世の中になるとは思っていませんでした。パラレルワールド的な、コロナがない世界と、今の世界とが、二つ並行してあるような感覚になっているんですが、その中でも今からやる曲は、こんな事態になっていなかったらやらなかっただろうなという気がします。悪い意味ではなく、自分の中にないものを掘り出してもらったような、すごく挑戦させてもらった曲をお届けしたいと思います」(吉田)
曲は「抱いてHOLD ON ME!」。言うまでもなく、モーニング娘。による1998年のNo.1ヒットを、角田の強烈な重低音ベースを中心に、過激なほどソリッドなファンクビートで再構築。ジャズやR&Bのエッセンスをキャッチーなポップスに変換するのがモノンクルの得意技だが、これはその逆。アイドルポップスを思い切り大胆かつマニアックに、ジャズやファンク、クラブミュージックのリスナーをもうならせるサウンドへとファイル変換する、鮮やかな手さばきに聴き惚れる。一言、かっこいい。
この日披露した12曲のうち、昨年から今年にかけてリリースした(する)新曲はすでに5曲。コロナ禍でも止まらない創作意欲の高まりは、それぞれの楽曲のクオリティの高さと、さらにボーダーレス化した音楽性の広がりからもはっきりと感じ取れる。SNSで話題のマンガを原作にして楽曲を書き下ろす「ヨムオト」プロジェクトと連動した新曲「GOODBYE」は、アコースティックギターを加えてフォーキーでメランコリックなムードたっぷりに。昨年のステイホーム期間中にリリックビデオのみで公開され、今年6月に配信リリースされた「音の鳴るあいだ」は、会えない時間の気持ちの繋がりを信じながら、どこまでも包容力豊かに。震わした音が鳴るあいだ、ひとつでも痛み忘れられるなら――。その歌詞はとても誠実で、あたたかい雨のように乾いた心にしっとりと沁み込んでゆく。
「今日はありがとうございました!」(吉田)
このあと7月16日には、同じく延期になっていたBillboard Live OSAKA公演(2ステージ)が新たに組まれている。ライブでどんどん新曲が増えている現状からして、もしかすると、さらなる新曲も聴けるかもしれない。ただ一つ言えることは、「モノンクルは、ライブを見たほうがいい」。音源のクオリティの高さは折り紙付きだが、角田隆太を中心として音を震わすバンドサウンド、吉田沙良の情感豊かなボーカルを心ゆくまで堪能するには、やはりライブが一番。6月27日、Billboard Live YOKOHAMA。音楽はライブで成長するものだと、心の底から実感したひとときだった。
取材・文=宮本英夫 撮影=ゆうばひかり
ライブ情報
2021年7月16日(金)ビルボードライブ大阪(1日2回公演)
2ndステージ 開場20:00 開演21:00