カワカミー賞発表! [Alexandros]川上洋平、2021年上半期ベスト5を語る【映画連載:ポップコーン、バター多めで PART2】
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大の映画好きとして知られる[Alexandros]のボーカル&ギター川上洋平の映画連載「ポップコーン、バター多めで PART2」。今回は独断と偏見で選ぶ「2021年上半期カワカミー賞」をお送りします。ベストムービー5作品とベストアクターを発表!
ベストムービー:『RUN/ラン』
主演のサラ・ポールソンは、アメリカの『世にも奇妙な物語』的なテレビシリーズの『アメリカン・ホラー・ストーリー』に割とメインの役どころで出てるんですけど、一度見たら忘れられない不穏な雰囲気を帯びた人で、ホラーにぴったりの役者さんだなって思ってます。あと、車椅子生活を送る娘役のキーラ・アレンは実際に車椅子生活を送っているっていうこともあって、かなり動作とかがリアルなんですよね。
まず怖いなって思ったのが、オープニングがなんとなく『エイリアン』っぽかったんです。『エイリアン』のオープニングって、最初線が1本ずつ現れて、それが5本になって、だんだん“ALIEN”って文字になっていく。『RUN』のオープニングもそんな感じなんですよね。あと、『エイリアン:コヴェナント』のポスターに“RUN”って書かれてて。物語の設定も、『RUN』は車椅子生活を送る娘が母から逃れようとする話ですけど、『エイリアン』も主人公のリプリーはエイリアンの卵を産み続けるエイリアン・クイーンに寄生されて、言わば娘みたいな役割を担う。そうやってある種の親子関係が築かれるっていう点に加えて、本来安心できるはずの家から娘が逃げ出そうとするっていうところと、エイリアンから逃げるために安全であるはずの宇宙船から脱出しようとするっていうところも通じるなって思ったので、もしかしたら『エイリアン』へのオマージュが入ってるのかもしれないですよね。
『RUN/ラン』より
『RUN』の監督のアニーシュ・チャガンティはヒッチコックのスタイルを取り入れたっていうことは公言していて。確かに、人物への寄り方とかシルエットが何度も映るところとか「絶対そうだな」って思いました。シンプルな構成のパニックホラーではあるんだけど、一枚絵が怖くて重厚感も感じます。サラ・ポールソンはそういう重厚感を出すカメラワークにも耐え得る方で、 この人が主演じゃなかったらここまで怖くなかっただろうなって思います。最後のニヤリとさせられるオチも良かったです。
アニーシュ・チャガンティ監督は、前作の『search/サーチ』はアジア系が主役だったし、マイノリティとされてる人を主役にする流れを作ってますよね。世界的にもそういう傾向が強くなっているのは僕としては良いことだと思ってます。
『RUN/ラン』より
ベストムービー:『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』
2018年に公開された『クワイエット・プレイス』の続編ですけど、本当におもしろかった。周りの人もみんな口を揃えて「続編がこんなに1を超えてくる映画って久々だよね」って言っていて。ほんとそうなんですよね。だから、完璧さでいうとこの作品が上半期1位です。
音を立てると何かが襲ってくるっていう設定のシリーズで。アメリカの映画館って、観客がみんな大笑いするし、手を叩いたり、セリフに突っ込んだりするんですよね。家でテレビを観るような雰囲気で。初めてアメリカの映画館で映画を観た時、すごくカルチャーショックを受けたんです。しかもみんな割と同じところで反応するから、ライブを観てるような感じもあって良いなって。でも、1をニューヨークの映画館で観た時に、みんなシーンとしてて。あのアメリカ人を黙らせる程の緊張感があるのがすごいなと思ってたんだけど、2はさらに上をいってますね。
『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』より
1は両親が主人公で、親から子への愛が描かれてたんだけど、2はどっちかというと長女と長男に焦点があたってます。だからある種ファミリー映画でもあって。お姉ちゃん役のミリセント・シモンズは役と同様実際に聴覚障害を抱えていて。そこは『RUN』のキーラ・アレンにも通じますよね。
ジョン・クラシンスキー監督は1を作り終えた時点では続編を作ろうとは思ってなかったそうですけど、アイディアが浮かんできて撮ることにしたそうなんです。多分3もあると思うんですけど、そこで完結した方がダレななくて良いだろうなと思ってます(笑)。
ジョン・クラシンスキーは一家のお父さん役として出演もしてるんですけど、1で自分の役は亡くなって、2は監督と脚本にほぼ専念しているのがかっこいいなと思いました。役者さんとしては正直そんなに目立った作品がある印象はなかったんですけど、こうやってプロデューサー的な立ち位置で芽が出た感じですよね。
僕はお母さん役のエミリー・ブラントがすごく好きなんですが、ジョン・クラシンスキーとは私生活では夫婦で。このふたりの出会いは映画での共演とかじゃなくて、エミリー・ブラントがレストランで食事をしていたら、共通の友人が偶然そこにいたジョン・クラシンスキーを紹介したところから始まってるんですよね。なんかそれも素敵だなって。
『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』より
ベストムービー:『パーム・スプリングス』
『パーム・スプリングス』もある意味ホラー映画ですけど(笑)、こんなにお洒落なタイムリープものってあるんだっていう新鮮さがありました。『ラブ・アクチュアリー』のリチャード・カーティス監督の『アバウト・ア・タイム~』よりもっとお洒落ですね。ビジュアルもかっこよくて、サングラスとかシャツとかスタイリングもすごい素敵で、劇中に出てくるピザの形をした浮き輪も欲しいって思ったし、音楽もかっこよくて、映画のノリも好きですね。
アメリカのパーム・スプリングスが舞台なんですけど、ここはコーチェラの開催地でもあって。この映画はスケジュールと制作費の都合で実際のパーム・スプリングスで撮影されてはいないんですけど、やっぱり1回はコーチェラに行きたいし、この映画みたいな砂漠のリゾート地の雰囲気は味わってみたいですよね。
『パーム・スプリングス』より
主人公のサラがちょっとビッチなキャラクターなのが良いなって思いました。相手役の男性が軽い感じだと、女性は割と真面目に描かれがちだと思うんですけど、そうじゃない。みんなの憧れの的って感じのヒロインキャラでもないし、どっちかというとダメな感じ。最初、先にタイムリープしていた相手役のナイルズの方がメインなのかなって思うんだけど、結局現実から救うのはサラの方で。だから、主役の女の子の固定概念を壊すような今の傾向が味わえる映画でもありますね。
『パーム・スプリングス』より
ベストムービー:『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』
[Alexandros]が主題歌をやらせてもらったんですが、曲を作ってる最中とか映画が公開されたくらいの時期はまだ“携われた”っていう感覚だったんですが、主役のハサウェイ役の小野(賢章)くんやプロデューサーの小形(尚弘)さんに色々教えてもらったこともあって、今はもうにわかじゃなくすっかり『ガンダム』のファンになりました。なので、今は自分もはっきり「映画観てください」って言える感じなんです。恐縮ですけど一員になれてるというか。
『~閃光のハサウェイ』は1988年に公開された『逆襲のシャア』の続編なんですけど、原作の小説は1989年から1990年にかけて上中下巻で発売されていて。「あれを遂に映像化するんだ!」っていう衝撃は、おそらく『ガンダム』のファンの方にはあったと思うんですよね。とても原作に忠実に描かれてるし、僕の肌感や興行収入から考えても、すごく温かくファンの方に迎え入れられた作品なんじゃないかなと思っています。
Ⓒ創通・サンライズ 『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より
元々僕は『ガンダム』だけでなく、アニメ自体に造詣が深いわけじゃないんですけど、『~閃光のハサウェイ』は実写映画好きからしてもしっくりくるんです。主人公のハサウェイはテロリストなので最初は身を隠していて、ちょっとスパイ映画のようなダークな雰囲気なんですよね。少年アニメのそれではないような雰囲気で、『007』シリーズやノーラン作品のような感じもある。ヒロインのギギも、「これ、PG12とかにしなくて大丈夫ですか?」って思うくらい大人っぽい雰囲気を醸し出してて、それが良いんですよね。。
『ガンダム』って、主人公が正しくかっこいい映画だなと思いました。主人公のハサウェイは若干優柔不断だったり、子供っぽさがあったり、昔好きだった子を引きずってたりもする。あと、テロリストなので正義か悪かっていったら悪かもしれない。ただ、やっぱりかっこいいんですよね。それに、モビルスーツの造形もとにかくかっこいい。
『~閃光のハサウェイ』をきっかけにアニメ映画を観るようになったんですけど、悲哀もある男の人生感みたいなのをちゃんと描いていて、終始かっこよさを惜しみなく出してるアニメ映画に他にまだ出会えてなくて。そういう意味でも『ガンダム』はピカイチだと思いました。
仲良くさせてもらってる岩井俊二監督が『ガンダム』の1970年代に放送された最初のテレビシリーズをリアルタイムで観ていて。岩井さんと話した時に「最初フランスかなんかの作品かと思った」って言ってたんです。それで僕ももう一回1から観てみたら「確かに」って思ったんですよね。ヨーロッパっぽいっていうか、『アルプスの少女ハイジ』みたいな雰囲気もちょっとあって。
Ⓒ創通・サンライズ 『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』より
ベストムービー:『ビバリウム』
今のところの2021年ベストは『ビバリウム』ですね。主演のイモージェン・プーツがとにかく好きっていうのはあるんですが(笑)、どんどんマニアックな映画に出ていって、役者としての立ち位置を確立していってますよね。もうひとりの主役がジェシー・アイゼンバーグなんですが、このふたりは『ビバリウム』の前に『恐怖のセンセイ』っていう映画でも共演してて。この日本語のタイトルはどうかと思うんですが(笑)、その映画も『ビバリウム』と雰囲気が近い不思議な映画なんですよ。ジェシーが空手を習いに行って、そこにいるイモージェン・プーツが茶帯の先生っていう設定で。「この2人のタッグ、なんかいいなあ」って思ってて、『ビバリウム』で再びっていう感じだったんです。
『ビバリウム』より
『ビバリウム』は、日本でいうと『世にも奇妙な物語』的なところもある作品で、イモージェン・プーツとジェシー演じるカップルが、明確にエイリアンとされてるわけではないんだけど、人間ではない何者かに侵略されていく話で。ホラー映画って言ってもいいと思いますね。不気味さはかなりあります。
ふたりのところに届けられた子供がすごいスピードで育っていくんですが、その子供の声が遅回しになってるのか、こもったような低い声で、それがすごく気味が悪くて秀逸なんですよね。
ふたりが抜け出せなくなるヨンダーっていう同じ家がたくさん並ぶ住宅地のビジュアルもとてもシュールで。今流行りのペールトーンっぽいカラーなんだけどすごく気持ち悪い。だんだんジェシー演じるトムが理性を失って、おかしくなっていく様にも引き込まれましたね。
『ビバリウム』より
ベストアクター:サラ・ポールソン(『RUN』)
ひとりに決めるとしたら『RUN』のサラ・ポールソンですね。ホラー映画の女優さんってどっちかというと叫ぶ側が多いと思うんですけど、『RUN』の場合は叫ばせる側。本当に、この人だからこその怖さだなって思いました。
『RUN/ラン』より
今年はまだ60本くらいしか映画を観れてないんですよね。去年は1年で103本だったので、今のぺースだとそれくらいになっちゃうから、ちょっとペースを上げたいですね。曲制作が落ち着いて、ツアーが終わる10月末ぐらいから結構時間が取れると思うので、10月、11月、12月と追い上げて150本を目指したいと思ってます。
取材・文=小松香里
撮影=河本悠貴 ヘア&メイク=青山志津香(vicca)
アレキ像制作=しげたまやこ
※本連載や取り上げている作品についての感想等を是非spice_info@eplus.co.jp へお送りください。川上洋平さん共々お待ちしています!
映画情報
監督・脚本:アニーシュ・チャガンティ/製作・脚本:セヴ・オハニアン/出演:サラ・ポールソン、キーラ・アレン
公開中
© 2020 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.
監督・脚本:ジョン・クラシンスキー/出演:エミリー・ブラント、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプ、キリアン・マーフィ、ジャイモン・フンスー
©2021 Paramount Pictures. All rights reserved.
監督:マックス・バーバコウ/出演:アンディ・サムバーグ、クリスティン・ミリオティ、ピーター・ギャラガー、J・K・シモンズ
©2020 PS FILM PRODUCTION,LLC ALL RIGHTS RESERVED.
監督:村瀬修功/原作:富野由悠季、矢立肇/脚本:むとうやすゆき/声の出演:小野賢章、上田麗奈、諏訪部順一、斉藤壮馬他
公開中
監督:ロルカン・フィネガン/出演:ジェシー・アイゼンバーグ、イモージェン・プーツ、ジョナサン・アリス他
Blu-ray & DVD 好評発売中/提供:パルコ、オディティ・ピクチャーズ、竹書房/販売元:竹書房
© Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film
アーティストプロフィール
ロックバンド[Alexandros]のボーカル・ギター担当。ほぼすべての楽曲の作詞・作曲を手がける。毎年映画を約130本以上鑑賞している。「My Blueberry Morning」や「Sleepless in Brooklyn」と、曲タイトル等に映画愛がちりばめられているのはファンの間では有名な話。
ライブ情報
10月26日(火)・27(水)日本武道館
ライブマスターズ株式会社 03-6379-4744