怪談家ぁみ「怪談を通して、普段とは違う彼らの魅力や、自分の感覚に気づけるかもしれません」~『「THE 怪談」~美男高校修学旅行の巻~』インタビュー
怪談家ぁみ
お笑いコンビ「ありがとう」の活動と並行して、「怪談家」として活動しているぁみと、イケメンのパフォーマー・俳優たちの組み合わせで送る、異色の怪談イベント『「THE 怪談」~美男高校修学旅行の巻~』。生徒たちと先生が怪談を語り合うという設定で、それぞれが様々な怪談を披露していく。今回演出も兼任する、ぁみのインタビューが実現。この企画のお楽しみポイントや、怪談を語ることに対する真摯な思いなどを語ってくれた。
本企画に登場する8人は、普段は歌やダンスなどの華やかなエンターテインメントを見せる人が中心。それとは逆に、語りだけで人を楽しま(怖がら)せる「怪談」を通じて、彼らの隠れた一面や才能が開花することを、ぁみは期待している。
『「THE 怪談」~美男高校修学旅行の巻~』
「怪談は、その語り手の方の魅力や面白い部分、人柄や生き方や価値観が出たりすることがあります。きっと彼らが普段なさっているパフォーマンスとは、また違った一面を発見できたり、新しい魅力的な部分が垣間見える、そのきっかけになるのでないかと思います」
美男高校の修学旅行中、部屋を抜け出した生徒たちが怖い話に興じている所に、ぁみ扮する見回りの先生が登場。罰として、さらに怖い話を聞かされることになる……というコンセプト。ぁみは数十本の怪談をあらかじめ用意し、客席の空気や観客のリアクションに応じて、その場でセレクトして語っていくそうだ。
「童心を忘れていない一人の男子として、生徒のみんなと一緒になって怪談を楽しんでしまう……という教師像を考えています。“こんな先生がいたら、ニヤニヤしちゃうな”というようなファニーな感じでありつつ、話し出すと怖すぎる。そんな感情に響く面白さが、伝わればといいなと思います。披露する怪談も、公演の帰り道にも余韻が残るような、誰かに話したくなるような、そんな話もしようと思っております」
怪談の世界は十数年前まで、かの稲川淳二の独壇場という感じだったが、最近はぁみを始め数多くの若い怪談家が登場し、それにともなって怪談会を楽しむ若者たちも増えている。ぁみにとって怪談会は「お泊り会のような楽しさがある」という。
怪談家ぁみ
「僕が思う怪談の魅力のひとつは、みんなで集まって語り合った時に、未知なるものや解明できていないものに対して、好奇心やロマンがわいてくること。ワクワクしたり一緒に怖がる面白さもあれば、心に来る話にうなったり。みんなで一丸となって、気持ちを共有することが楽しかったりします。
僕はよく『怪談ご飯会』をやっているのですが、子どもの頃のお泊まり会の夜のように、怪談をしゃべりたがる人もいれば、ただ聞くのが好きな人もいる。苦手だけど聞いてしまう人もいれば、好奇心で参加している人もいたりするし、聞いてるうちに思い出して話し出す人もいる。
みんなでああだこうだと語り合う時の、キラキラした顔や雰囲気は、とにかく面白い。怪談の前には、年齢も立場の上下もありません。職業も何も関係なく、みんなでロマンを語り合う。怪談は僕にとっては、大人になっても楽しめる最高の“お泊り会”なんです」
ちょっとした声の抑揚や、表情や仕草など、恐怖を倍増させる語り口に定評のある、ぁみの怪談。そこで大事にしているのは、怖がらせること以上に「怪談は人間ドラマである」という思いと、そのドラマを預かっているという敬虔な気持ちだという。
怪談家ぁみ
「怪談=怖い話、だけではないと思います。怖い話も確かに多いですが、お話を蒐集していると、不思議でワクワクしてしまうお話もあります。教訓になるようなお話もあれば、時には心に響くお話や、心の温まるお話などもお聞きします。
たとえば、枕元に亡くなったはずの人が立っていた。それは確かに、常識では考えられないという意味では怖いんですが、それが生前自分を可愛がってくれたおばあちゃんで、最期の瞬間に立ち会えず悔やんでいたので、会えて嬉しかった……という方もいました。
僕の知人の男性は、仕事で大失敗してひどく落ち込んで帰宅した翌朝、洗面所の鏡に映る、驚くほど暗い自分を眺めていたそうです。そうしたら母が来て、笑顔で後ろから両肩をポンポン叩き励ましてくれた……と。都会での一人暮らしに向けて、実家を出たあの時と同じような優しい笑顔で、母がそれを生前と同じようにやってくれたから、がんばろうって気になったそうです。会えて嬉しかった。その時の言葉に救われた。そういったお話もたくさんお聞きします。
起きた出来事は不可思議だったり、怖かったりします。でもそこには人の気持ちだったり、亡くなられた方の想いもあり、それは誰かの物語だったりもするのかな? と思っています。だからこそ、おしゃべりさせていただく時には、人生の一部をお預かりしていると思っていますので、大事にしゃべらせていただいています」
今ではすっかり市民権を得た観のある怪談だが、それでも「怖いから聞きたくない」という人は、少なからず存在する。特に今回の場合「推しが出るから行きたいけど、怖そうだからどうしよう」と迷ってる人もいるのではないだろうか。しかしぁみは、この怪談会の面白くなりそうな点について、こう語ってくれた。
「まず生徒(役)の彼らの、新たな魅力の垣間見える瞬間を、同じ空間で楽しめるってことがあります。それに怪談って、聞いた時には怖いと思っていても、終わってみると、それに付随してくるロマンや好奇心に心が踊っていることもあるという、不思議な魅力があるんです。もしかしたら、普段とは違った自分の感覚に出会えるかもしれません。
私ごとになるのですが、僕が渋谷の[O-EAST]さんで毎年開催している『渋谷怪談夜会』は、途中でかなり強めの怖い話も出てくるのに、終演後のロビーで送り出しをしていると、ご来場の皆さんは笑顔で帰って行かれるんです。お一人様同士の方が、会場で仲良くなって帰って行かれたという話もたくさん聞きます。
怪談の魅力って、奥深いと思いますね。ぜひそこに触れる彼らの魅力的な姿や、その空間でご自身が感じるかもしれない新たな感覚を、楽しんでいただけたら嬉しく思います」
怪談家ぁみ
ぁみ+イケメンたちの取っておきの怪談で、残暑の暑気払いとなるのは確実だが、その一方でそれぞれの話に込められたロマンや、あるいは人の優しさに触れて、逆に温かさを感じることになるかもしれない。それでもちょっと不安があるという人は、ぁみのYouTubeチャンネル「怪談ぁみ語(あみーご)」で、怖さを慣らしてから挑んでみてはいかがだろう。
取材・文=吉永美和子