濱田めぐみが語る、25周年記念アルバム『Connect』製作エピソード「1曲ごとに役の人物が自分の中に宿るんです」
濱田めぐみ
濱田めぐみのミュージカルデビュー25周年記念アルバム『Connect』が2021年12月22日(水)にリリースされる。ロイド=ウェバー、ワイルドホーン、シェーンベルク、シルヴェスター・リーヴァイら名だたる作曲家が紡いだナンバーを、ミュージカル界の歌姫、濱田が“演じる”珠玉の1枚だ。
それぞれの作品の思い出やアルバム製作エピソードをじっくり聞いた。
『Campanula』から5年、これまでの作品をぎゅっと凝縮したアルバムに
ーーミュージカルデビュー25周年記念アルバム『Connect』いよいよ発売です!
その時が来ましたね(笑)。20周年の時に製作したアルバム『Campanula』から5年。演じた作品の楽曲が蓄積される中で、自分の喉の状態がベストであるうちに録音した歌をお届けしたいと思い、リリースを決めました。
ーー『Campanula』は劇団四季でのデビュー作『美女と野獣』のベルから始まり、『サンセット大通り』のノーマで締められました。本作『Connect』は『スコット&ゼルダ』からスタートし、13曲のナンバーが紡がれます。
収録する曲はスタッフさんと話し合って選びましたが、候補として出してもらった楽曲がほぼ「ですよね!」という感じでそこはスっといきました。この約5年の間に演じた作品をぎゅっと凝縮したアルバムになっていると思います。
ーー音源を聴かせていただきましたが『スコット&ゼルダ』(2015)の「追憶」から始まる構成に心を掴まれました。
『スコット&ゼルダ』は驚くくらいお客様の反応がそれぞれ異なる作品でした。特に作品作りに関わっていたり、ものを書いている人たちからの反響は凄かったですね。
ーー山西惇さん演じるベンにゼルダが「あなたは最高の作家なの?」と問うシーンの衝撃……。
そうそう、あそこで自身の仕事といろいろ重ねてずどーんとなる人と、ベンとゼルダとのせりふの応酬を楽しむ人とがはっきり分かれる空気が舞台上まで伝わってきたんです。ゼルダ的には「え、何が起きているの?」という感じでした(笑)。
濱田めぐみ
ーー『王家の紋章』アイシス役(2016、2017)からは2曲。この作品でリーヴァイさん作曲のナンバーに初めて挑戦されました。
『王家の紋章』出演が決まった時に、リーヴァイさんには「とにかく難しい楽曲を作って!」と半分冗談でお願いしていたんです。それで上がってきたのがアイシスのソロナンバー「Unrequited Love」で「うわあ、本当に難しいのが来た!」って思いました、おまけに長尺だし(笑)。メンフィス役・浦井健治さんとの「イシスとオシリスのように」も難曲で、最初は全然歌いこなせなかったくらいです。
ーー『フランケンシュタイン』(2017)ではビクターの姉・エレンと見世物小屋を仕切るエヴァの二役を担われましたね。
今回収録したのはエレンが弟のビクターを思って歌う「その日に私が」ですが、エヴァは本当にヤバい人でした(笑)。ただ、ひとつの作品でふたつの役を演じるにあたり、まったくの別人格にはしたくなかったんです。
ーーゼロを中心にプラスとマイナスの同じ数値のところにエレンとエヴァがいるイメージでしょうか?
まさにその通りです。エレンの優しさや自己犠牲の精神が同じ強さで逆側に振りきれたらどうなるかを意識してエヴァを演じました。エレンはとても優しい人ではあるのですが、未来より過去を見ている人物だし、自己犠牲についても深層心理の部分で弟や周囲に対する恨みのような感情もあったと思います。その抑圧された思いがパーンと逆側にハジけるとエヴァになるんです。
大きな振り幅でさまざまな役を”生きる”
ーーそこから4作目となるディズニーミュージカル『メリー・ポピンズ』(2018)を経て、「新感線☆RS」『メタルマクベス disc1』(2018)のランダムスター夫人です……振り幅!
これは楽しかったです! めちゃくちゃ舞台上でイジられましたけど(笑)。私も元々、劇団育ちなので、新感線の皆さんが作品作りに対して同じ方向を向いている感じや、演出のいのうえひでのりさんがひとこと言うとツーカーで全体が動く……みたいな空気はとても居心地が良かったし、その中に受け容れてもらえたことで思い切った芝居ができたと思っています。
ーーひとつの舞台が終わると次の作品にスパっと気持ちが向く濱田さんが、この時は「寂しい」とおっしゃっていたのが印象的でした。
ああ、確かに! 夫・ランダムスター役の橋本さとしさんのカッコ良さや、皆がバシっとまとまる劇団の心地よさから離れがたい気持ちはありましたね。舞台の終演後も全然固まったりせずに、それぞれババっと豊洲の回る劇場から帰っていくんですけど(笑)。『メタルマクベス』は思い出深い作品のひとつで、あの時の衣裳、一部は自宅に保管しているくらいです。
ーーそのランダムスター夫人のナンバー「私の殺意」からの『レ・ミゼラブル』(2019、2021)ファンテーヌ「夢やぶれて」……もう1度言います、振り幅!
これは私も最終的な音源を聴いて「ここにこれが来たー!」ってひっくり返りました(笑)。『レ・ミゼラブル』は俳優としてファンテーヌを演じていたという意識よりも、観客として観続けてきた作品って思いが先に立つんです。それこそ専門学生時代から何度となく客席に座ってあの世界に触れていたので、今でも自分が出演していたことに実感がなくなる時もあるくらい。ふと動画が流れてきて「ああ、やっぱりレミはいいなあ、泣いちゃうなあ」って見入り、「あれ、私も出てたっけ? 出てたじゃん!」ってなったりします(笑)。一観客としても大好きなミュージカルですね。
濱田めぐみ
ーー2021年は『イリュージョニスト』のコンサートバージョンを経て、『アリージャンス~忠誠~』に主演。CDにはケイのソロ「もっと高く」が収録されています。
『アリージャンス』は(海宝)直人くんと一緒にやれたのが本当に良かったです。まだ彼が子役だった頃に『ライオンキング』でも共演していたので、キャストチェンジでお別れする時に泣きそうな顔をしていた子がこんなに成長して……って、作品の設定と同じく姉目線にもなりました。稽古中には、子どもだった頃の姿が今の彼に重なったりもしましたよ、まさに姉弟みたいでしょ?
ーー『イリュージョニスト』と『アリージャンス』では、おふたりが演じる役の関係性が重なるところもある中、まったく別の印象が立ち上がってきたのが凄いと思いました。
『イリュージョニスト』の千秋楽から『アリージャンス』の開幕まで時間がない中、ハードな稽古を乗り越えて本番の舞台に立てたのは、これまで築いてきた直人くんとの信頼関係があったからだと思います。稽古中はいつも隣にいて、何かあるとすぐ話し合える環境でしたし、魂を込めて新作に関わるってこういうことなんだと再認識しました。レジェンド、上條恒彦さんと渡辺徹さんとご一緒できたのも嬉しかったです。
ーー『Connect』ラストナンバーは『ムーランルージュ』の「Come What May」。唯一、濱田さんが舞台で演じていない作品からのチョイスです。
「なぜ、この曲を?」とよく聞かれるのですが、わりとシンプルな理由なんです。ゲストの井上芳雄さんとどんな楽曲を歌うか考える中『グリーン&ブラックス』(WOWOW)でこの曲をデュエットした時に、タイトな時間での本番だったにもかかわらず、2人とも良い感じで歌えていたのを思い出し、1度で終わるのはもったいない、アルバムにも収録したいと思ったんです。芳雄くんも「ぜひ!」と言ってくれたので、最後にこの曲を入れました。
役を宿して歌い切った2日間のレコーディング
ーー濱田さんが歌うミュージカルナンバーは、1曲を聴くごとに舞台の情景やその時自分がどんな人生を送っていたかまで、ぶわーっと浮かんでリンクするんです。
そこは20周年の『Campanula』と今回の『Connect』でもっとも自分が目指したところです。私もレコーディングで1曲歌うごとに、どんな気持ちでその役を演じていたか、どんな舞台セットの中に立っていたか、相手役の状態から劇場の空気まで一瞬で甦りました。曲ごとに役の人物が自分の中に宿るんですよね。
ーー13曲、そこまで魂を込めて歌うと倒れそうになりませんか?
このCD、じつは2日でレコーディングしたんですよ。
ーーえっ?
ちょっと凄いでしょ(笑)。初日にスタジオから出た時には「これ、本当に明日で終わるのかな」って思いました(笑)。喉の調子を保ちながら楽曲と向き合いたかったので、1曲を歌う回数も最大3回くらいと決めて挑んだんです。それ以上リテイクを繰り返すとパフォーマンスが落ちてしまうから。なのでこのアルバム、1曲を何度も歌って良いところだけを繋げる編集はしていないんですよ、ほぼ一発勝負に近い手法。
濱田めぐみ
ーーだから、音からあんなに濃密な空気が立ち上がってくるんですね。
だとしたら嬉しいです! 12月18日(土)には『Connect』のリリースを記念して生配信もやらせていただきます。今回のレコーディング風景を撮影した映像やミュージカル仲間から届く25周年のお祝いコメントもご紹介するので今からドキドキですけど。
ーーそして2022年には『メリー・ポピンズ』の再演が控えています。
アルバムでは「お砂糖ひとさじ」と「どんなことだってできる」を歌っていますが、メリーはこれまで演じてきたキャラクターの中で、もっとも自然に演じられる人物です。彼女はすべてを知っていて、未来まで見渡せている人なので、ただそこにいればいい。いわゆるリアクションや演技プランが他の役柄とは全然違うんです。だからとても柔らかい状態で舞台にいられます。彼女にまた会えるのはとても楽しみ。
ーー25年間、舞台の上で輝き続けるって並大抵のことではないと『Connect』を聴いてあらためて思いました。
25年って長いですよね。でも、私自身はびっくりするくらい何も変わっていないです。ただ、これからは少し変化することもあるのかな。20代から30代は勢いに任せて突っ走ってきたし、そうすることが必要だったと思うけれど、今はより深く丁寧に作品作りにかかわっていくターンに入った気もします。
ーーお立場的にはどうですか?
そこは少し前から変わってきたかも。ベテランの先輩と若い世代とを繋ぐ役割を担うことも増えましたし、カンパニーの中でそういうモードを期待されていると感じることも多いです。「濱田がいると現場がまとまる」的な(笑)。
ーー30周年では記念アルバムにどんな曲が入るのか、すでに今から楽しみです。
いやあ、きっとまたあっという間なんでしょうね(笑)。今回、25周年記念アルバムにどんなタイトルをつけようかずっと考えて『Connect』にしたのは、私という存在をきっかけに、応援してくださる方たちやミュージカルの世界で一緒に頑張ってきた仲間、スタッフさん……皆が繋がってくれたら幸せ、という気持ちからなんです。全員が隣の人と手を繋いでいるイメージ。
収録されている13曲を聴きながら、それぞれの作品が上演されていた頃にご自身がどんな人生を歩んでいたか、その時、劇場でどんな空気が流れていたか、そんなことを歌声とともに振り返ってもらえたら嬉しいです。
濱田めぐみ
取材・文=上村由紀子(演劇ライター) 撮影=池上夢貢
リリース情報
価格 3,500円(税別)
発売元:ホリプロ
レーベル:Mizzo HRPR-1016
02 遥かな調べ(Tell Me on a Sunday)
03 サヨナラは日曜日に(Tell Me on a Sunday)
04 Unrequited Love(王家の紋章)
05 イシスとオシリスのように(王家の紋章)ゲスト 浦井健治
06 マーダー・バラッド(マーダー・バラッド)
07 その日に私が(フランケンシュタイン)
08 お砂糖ひとさじ(メリー・ポピンズ)
09 どんなことだってできる(メリー・ポピンズ)
10 私の殺意(メタルマクベス disc1)
11 夢やぶれて(レ・ミゼラブル)
12 もっと高く(アリージャンス~忠誠~)
13 Come What May(ムーラン・ルージュ)ゲスト 井上芳雄
配信情報
「濱田めぐみ『Connect』レコーディング時の映像をお見せします!!」
【出演】濱田めぐみ 浦井健治(特別ゲスト)
【配信視聴券】
セット券特典→レコーディング映像1曲
(Unrequited Love ミュージカル『王家の紋章』より)プレゼント
商品に映像視聴用QRコード+パスワードを同封してお送りいたします。
https://eplus.jp/connect/