悲しくも美しい名作に三宅健ら豪華キャストが挑む 『陰陽師 生成り姫』会見レポート
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『陰陽師 生成り姫』(左から)鈴木裕美、林翔太、音月桂、三宅健、木場勝己、マキノノゾミ
1986年に小説誌「オール讀物」で連載を開始した、夢枕獏の『陰陽師』。日本はもちろんアジアをはじめとする全世界で大ヒットを記録し、発行部数は800万部を超えた人気作だ。誕生から35年にわたって愛され、映画やドラマ、漫画といった様々なメディアで描かれてきた『陰陽師』。今回は、マキノノゾミによる脚本と鈴木裕美の演出で、主人公・安倍晴明と無二の友人・源博雅との友情、徳子姫と博雅の切ない恋など、登場人物の機微をより繊細に写し出す。
安倍晴明を演じるのは、新橋演舞場・南座初座長となる三宅健。近年、六本木歌舞伎『羅生門』や『藪原検校』など多くの和の舞台に出演している三宅が、人間味溢れる新たな“安倍晴明”を演じる。また、宝塚歌劇団在籍中から実力派トップスターとして人気を集め、退団後も幅広い分野で活躍する音月桂が物語の鍵を握る徳子姫を、2021年は6本の舞台に出演するなど精力的な活動を続ける林翔太が晴明の親友である源博雅を演じる。さらに、晴明のライバル・蘆屋道満役は舞台や映像作品で存在感を放つベテランの木場勝己。他にも、姜暢雄、太田夢莉、佐藤祐基、市川しんぺー、岡本玲、佐藤正宏と、実力派が集結した。生演奏やコンテンポラリーダンスをはじめ、舞台ならではの魅力も詰まった本作の上演に向けて行われた会見の様子をお届けする。
(左から)林翔太、音月桂、三宅健、木場勝己
この日登壇したのは、主催である松竹株式会社の山根成之、脚本・マキノノゾミ、演出・鈴木裕美、主演の三宅健、物語において重要な役割を担う音月桂、林翔太、木場勝己。
ーーまずは順番にご挨拶をお願いします。
松竹株式会社/山根成之
山根:世の中が騒がしくなってまいりましたが、今まで通り感染対策に万全を期して、客席も舞台も本当に安全な状態で公演を行なっていこうと考えております。
『陰陽師』は、若き日の安倍晴明や平安時代の生活をイキイキと描いた夢枕獏さんの代表的な作品です。松竹でも一度、新作歌舞伎のテーマとして選ばせていただきましたが、それとはまた違う『陰陽師』を上演します。歌舞伎ではストーリー展開が魅力的な『滝夜叉姫』を上演しましたが、今回は人間の様々な情を深く表現している『生成り姫』。最高のスタッフとキャストで奥深い作品に仕上がると確信しています。
マキノノゾミ
マキノ:『陰陽師』シリーズの中でも、この作品が一番演劇にするのに相応しいと考えて選びました。4/5くらいは原作通りで、最後の部分が私のオリジナル。原作とは一味違う展開から着地するように工夫しました。変えた部分は舞台で上演するために必要なことを話し合った結果なので、舞台ならではの『生成り姫』をお見せできると思います。ただ、夢枕先生の作品世界は大変面白いし深いし素晴らしいので、その世界だけは壊さないように気をつけながら執筆しました。
鈴木裕美
鈴木:LEDなどを使った派手な演出を思い浮かべる方や期待される方もいるかもしれませんが、今回は人間の情などにフォーカスし、様々な表現を人力でやっていきたいと思っています。音楽に関しても、古楽の生演奏を取り入れ、アコースティックにやろうと。それを三宅さんに話した時に言われた「つまりアンプラグドってことだね」という表現が気に入っているので、演出も表現も、アンプラグドに、人の力でお見せする『陰陽師』を作っていく予定です。また、常に舞台上に物の怪や精霊が漂っているような演出にしていこうと考えています。マキノさんともずっとお話ししていたんですが、『陰陽師』は安倍晴明と源博雅の友情がベースになっているシリーズ。二人の関係性がドラえもんとのび太みたいだと思っていて。博雅が困っていると晴明が「仕方ないなあ」と助けてくれる。まだ稽古が始まって間もないですが、アンプラグドな演出も二人の関係性もイキイキと息づきはじめているので、楽しみにしていただけたらと思います。
三宅:安倍晴明は、これまで多くの方が演じられてきた役なので、お話をいただいた時は光栄でしたがプレッシャーも感じました。自分なりに、自分にしかできない安倍晴明を演じていきたいと思っています。
音月:徳子姫を演じます。『陰陽師』の世界にはこれまで触れたことがなかったのですが、世界各地にファンがいるということはうかがっていました。嬉しいと同時に、皆様それぞれイメージを持っていると思うのでプレッシャーもあります。キャスト・スタッフの皆様のお力を借り、情熱を持って稽古に臨みたいと思います。
林:源博雅役の林翔太です。誰もが知っている作品に出演できる嬉しさもありますし、僕がジャニーズ事務所に入るきっかけになった三宅健くんと、事務所を少し離れた世界で一緒にお芝居できるのが本当に光栄です。この幸せを噛み締めながら千穐楽まで頑張っていきたいと思っています。
木場:だいぶ前になりますが、夢枕獏さんの「花歌舞伎徒然草」というエッセイを漫画家の萩尾望都さんからいただきまして。その中の「圓朝と歌舞伎」で立川談志さんのことが書かれていました。生前、個人的に談志さんにお世話になっていたので年甲斐もなく号泣したんですが、その時に急に事務所から電話がかかってきて、この作品のオファーを伝えられました。運命的な縁を感じて、お断りはできないと思いました。晴明のライバル、蘆屋道満を演じますので、よろしくお願いいたします。
ーーそれぞれの役柄についての意気込みをお願いします。
三宅:皆さん知っている通り、頭脳明晰・沈着冷静な安倍晴明を演じさせていただくんですが、今回はマキノさんの脚本により、晴明が感情を発露するのがひとつのキーポイントになっています。裕美さんの「ドラえもんとのび太みたいな関係性」という解釈もすごく分かりやすいと思っていて。常にめんどうくさそうにしている晴明が博雅のこととなると最終的に関わって事件に巻き込まれていく。その関係性を作っていけたら。
林:僕が演じる博雅はすごくピュアで、何回も見たり聞いたりしていることでも毎回新鮮に驚く。一人の女性を12年以上も思い続けていたり、道端の草花にも心を打たれたりという部分も素敵だなと思います。博雅の心情をしっかり演じつつ、晴明がなぜ博雅を好きなのかも表現できたら。僕が健くんのことを大好きなので、博雅から晴明への友情は素で出せるかなと思いますね。
音月:徳子姫は、ピュアで真っ直ぐで奥ゆかしい姫だったとは思うんです。でも、届かぬ思いや裏切られたという感情によって捻じ曲がり、少しずつ復讐の鬼と化していくような役どころです。ありがたいことに、宝塚を退団後いろんな国の姫を演じさせていただいていますが、鬼になる姫は初めて。どう演じたらいいか、まだ手探りです。本読みをしていると(三宅と林が演じる)二人の関係性があたたまっていくのが見えるので、そこにどう溶け込んでいくか楽しみながらお稽古をしています。
木場:蘆屋道満はジジイなんですよ。歳をとるといろんなものがなくなっていくんですよね。例えば晴明さんが持っている若さや美しさ、友。寂しい限りで、孤独の度合いが増していくんです。ライバルというのも自分で言っているだけで「晴明さんの本心は分からないけど、(ライバルだと)思ってくれていたらいいな」と願っているような人だと思っています。
木場勝己
ーー宿敵を演じる木場さんと三宅さんですが、お互いの印象はどうでしょう?
木場:三宅くんは美しい! それだけは妬みます(笑)。
三宅:木場さんのお芝居は何度も拝見して、とても素敵なのでいつかご一緒できたらいいなと思っていました。今回こうやって共演でき、本当に光栄です。道満と晴明の面白い関係性を見せていけたらと思っています。
ーー木場さんからも美しさに太鼓判をいただきましたが、三宅さんが役作りのためにしていることはありますか?
三宅:イメージとしては美しい人を想像しますが、本物の晴明が美しかったかは分からないですからね。美しいかどうかに重きは置いていなくて、それよりも平安時代の宮中の空気や匂いみたいなものをどうやったらまとえるか試行錯誤しているところです。
ーー音月さんは和物初挑戦かと思いますが。
音月:実は昨年末に時代もの(『華-HANA-』)に出演したんですが、宝塚時代は侍など男性役でしたし、平安時代の華やかな衣裳や立ち居振る舞いに挑戦するのはこれが初めて。基礎から学ばなきゃと思っています。ポスターで初めて三宅さんのビジュアルが出た時に、美しさや妖艶さがすごくて「やばい!」と焦りました。本番までに頑張ります!
音月桂
ーー今回、脚本におけるこだわりはありますか?
マキノ:一番腐心したのは、舞台と映像の違い。映像だとアップにできるので、主役があまり動かなくても主役たり得ますよね。晴明はクールなところが魅力なんですが、舞台は常に全身が見られるので、何かもうひとつないと難しいなと感じていました。ですから、原作の晴明像とのギリギリのせめぎ合いを考えつつ、晴明が苦しむところや人間としての弱音を吐くようなところも描きました。うまくいったんじゃないかと思っています。
ーー晴明がかなり苦しい脚本になるようですね。
三宅:そうですね、既に苦しいです。裕美さんの演出ってだけで苦しくて辛いです(笑)。というのは嘘で(笑)。ものづくりって、みんなで戯曲を掘り下げて、一つひとつ紐解いていく。その作業はとても楽しいですが、苦しさもあるので。マキノさんが書いてくださった『生成り姫』に全力で向き合おうと思っています。
ーー鈴木さんと三宅さんのタッグは4回目です。1回目から見ていて、成長を感じる部分はありますか?
鈴木:それは常に。インタビューでよく答えていますが、1回目の途中で大きなブレイクスルーがあって、そこからかなり手を組めています。1作ずつ真実に近づいてきてくださっている感じがしますね。それと、今まではすごく役を演じていただいていましたが、今回の安倍晴明という役では、三宅健というパーソナリティーを使えるんじゃないかと話しています。あまり大きな声で言っちゃいけないかもしれませんが、感じ悪いとこがあるじゃないですか(笑)。
三宅:失礼だなあ(笑)。
一同:(笑)。
鈴木:内面はすごくあたたかくて人思いなのに、ちょっとハラハラさせるところがある(笑)。そのバランスが晴明を演じるのに役立つんじゃないかと思っています。また、晴明は歴史的には半分キツネだとも言われています。今回、舞台上に常にいる物の怪や精霊たちが見えているのは晴明と道満だけなんです。晴明を慕って出てきている精霊が多いので、彼らの王様的な存在に見えなきゃいけないし、それが晴明の孤独に繋がっていくという話もしています。こういった話がスムーズにできる関係になれていることを、一緒にものを作る仲間として嬉しく思いますね。
「宮中ってこんな感じ?」と優雅に手を振る三宅とそれを見て笑ってしまう音月
ーー音月さん、鈴木さんの発言でかなり笑っていましたが、三宅さんの振る舞いに関して思い当たる節があるのでしょうか(笑)。
音月:私は初めての本読みや稽古に入って数日間、すごく緊張するんです。三宅さんはその緊張感の中で、すごくフラットでいてくださって。座長がそういう空気感だと、カンパニーが一気に和やかになりますし、こんなに自由にのびのびやっていいんだなと鍵を開けていただいたような気持ちになりました。何年か前に裕美さんとご一緒したことがあり、今回の稽古も結構ドキドキしていたんです。その裕美さんに達者なご意見を……言葉が見つからなくてすみません(笑)。お二人のやり取りから作品に対する愛情や熱を感じられたので、稽古場に来るのが楽しいですし、私も思い切ってチャレンジしようという気持ちになります。
三宅:皆様がお持ちのパブリックイメージの中に、私が失礼ぶっこいてるところもあると思うんですが、それは全てエンターテインメントで本来の私ではないので知っておいていただけると(笑)。
木場:僕はすごく気が小さいんですが、稽古場で時々三宅くんがガン飛ばしてるんですよね。本当は優しいと思うんですけど時々怖いです(笑)。
ーー最後に、改めてメッセージをお願いします。
三宅:このご時世ですから「ぜひ観にきてください」とは軽々しく申し上げられませんが、お時間のある方、心に余裕のある方は、僕たちにしかできない『陰陽師』を観にきていただけたらと思っています。よろしくお願いいたします。
『陰陽師 生成り姫』は、2022年2月22日(火)~3月12日(土)に新橋演舞場、3月18日(金)~3月24日(木)南座で上演される。
取材・文・撮影=吉田沙奈
公演情報
日程:2022年2月22日(火)~3月12日(土)
日程:2022年3月18日(金)~3月24日(木)