祝祭感&多幸感たっぷりの新年の幕開け スタクラフェス『オペラ・ミュージカル新春歌合戦』華やかに
『STAND UP! CLASSIC オペラ・ミュージカル 新春歌合戦』
オペラとミュージカルの第一線で活躍するアーティストたちが、誰もが知る名曲の数々をオーケストラ(指揮:松沼俊彦/演奏:STAND UP! ORCHESTRA/一部楽曲アレンジ&ピアノ:園田涼)と共に届ける豪華ニューイヤーコンサート、『STAND UP! CLASSIC オペラ・ミュージカル 新春歌合戦』。先日のリハーサルレポートで「景気のいいことになりそう」とお伝えしたが、果たして本番は予想以上の景気良さ! 名曲の力、アーティストの魅力、そしてフルオーケストラの豊饒な響きとが掛け合わさって、新年の幕開けに相応しい祝祭的な一夜となった。
指揮の松沼俊彦(中央)とSTAND UP! ORCHESTRA
MCはLE VELVETS(左から 宮原浩暢、日野真一郎、佐藤隆紀)が務めた
オペラ勢が本領を発揮した第一部
二部構成のうち、第一部はクラシック中心のラインナップ。LE VELVETS(佐藤隆紀・宮原浩暢・日野真一郎)・小林沙羅・西村悟のオペラ勢による《ハレルヤ》で神々しいまでに華々しく幕が開いたと思ったら、日野が本来はソプラノ歌手が歌う《私を泣かせてください》をカストラートさながらの繊細なファルセットで聴かせて異空間を創出し、西村は《誰も寝てはならぬ》でゾクゾクするような力強い高音をこれでもかと畳みかける。
小林は《ハイヤー山こそわが故郷》で、この人は朝一番に上げる叫び声すら美しい歌声になってしまうのではないか⁉と心配になるほど力みのない超高音を、しかも楽し気に踊りながら披露。そしてLE VELVETSの《オー・ソーレ・ミオ》では、佐藤がリハーサルでもサービス精神を発揮していた超ロングトーンで、今度は客席を大いに沸かせてみせた。なおLE VELVETSは、全編を通してMCも務める活躍ぶり。
第一部後半は、クラシック界とミュージカル界を股にかけて活躍したバーンスタイン作曲の『ウエスト・サイド・ストーリー』から2曲と、オペラとミュージカルの中間的存在であるオペレッタの名作『こうもり』から1曲。中川晃教による《Somewhere》は、ジャジーなアレンジに乗せて語るように声を転がした前半と、想いを爆発させるように歌い上げた後半とのコントラストが真骨頂の見事さで、歌い終えると本人もガッツポーズ!
小林と西村による《Tonight》と、小林・西村・LE VELVETSによる《シャンパンの歌》は、どちらも日本語による歌唱。クラシックホールの音響だと歌詞の聴き取りやすさには限界があるものの、やはり母国語だと親しみやすく、恋人たちの熱情も陽気な酒宴の様子もダイレクトに伝わってくる。宴会気分を盛り上げる一方、ミュージカル楽曲が中心となる第二部への橋渡し役も担ったこの《シャンパンの歌》をもって、コンサートはいったん休憩へ――。
第二部では王道ミュージカルが続々登場!
第二部は一転、トラジックな『ミス・サイゴン』からのスタート。今夏に予定されている本公演でキムを演じる屋比久知奈がソロ曲《命をあげよう》、そして佐藤とのデュエットで《世界が終わる夜のように》をキムそのものとして歌い、会場をサイゴン色に染め上げた。続くLE VELVETSによる『RENT』の《Seasons of Love》では、ロックな原曲にクラシカルな味わいをもたらした3人のハーモニーはもちろん、女性パートを担った日野のフェイクが出色! 日野はおそらく今年以降、ミュージカル界でさらなる飛躍を見せることだろう。
中川の代表作のひとつ『モーツァルト!』からは、屋比久とのデュエットによる《愛していれば分かりあえる》と、ヴォルフガングのソロ《僕こそ音楽(ミュージック)》の2曲が登場。既に言い尽くされていることだが、この曲を歌う中川はいつ観ても聴いても、まさに彼こそミュージック。まるで空の上でオタマジャクシの形をした雲に乗って戯れているような歌唱で、同役卒業から15年経っても変わらぬ“名誉ヴォルフガング”ぶりを見せつけた。
そしてトリを飾ったのはやはりこの王道作、『レ・ミゼラブル』のメドレー! 日野がこれまた女性役の《夢やぶれて》をしっとりと、宮原が《星よ》を跪く演出も取り入れてドラマチックに、佐藤と屋比久がそれぞれ“持ち歌”の《彼を帰して》と《オン・マイ・オウン》をさすがの本物感で披露したあと、シメはオールキャストによる《ワン・デイ・モア》だ。ここまでの流れで、佐藤がバルジャン、屋比久がエポニーヌ、宮原がジャベール、小林がコゼット、日野がマリウスのパートを担うことは予想できただろうが、中川のアンジョルラスと西村&屋比久のテナルディエ夫妻が聴けるとは、誰も思っていなかったのではないだろうか。
♪さあ隊列を~と伸ばすことなく、すぐに切ってコーラスに参加した中川アンジョはここでもやはり、彼こそミュージック。そして西村の楽しそうな姿とあふれる芝居心に、ひそかに本公演参加を妄想したおたくな筆者であった。……というのはさておき、アンコールの《民衆の歌》が終わっても、総立ちの観客からしばらく拍手が鳴りやまなかったこのコンサート。歌合戦企画が持つこの祝祭感と多幸感はやはり、いつか野外フェスの形で味わいたい……!
左から 松沼俊彦(指揮)、園田涼(ピアノ)、佐藤隆紀(LE VELVETS)、西村悟、屋比久知奈、中川晃教、小林沙羅、日野真一郎(LE VELVETS)、宮原浩暢(LE VELVETS)
取材・文=町田麻子 撮影=荒川潤
公演情報
松沼俊彦(指揮)/STAND UP! ORCHESTRA/園田涼(ピアノ)