大橋トリオ 野心的で負けず嫌いの音楽家の挑戦の軌跡、15年のキャリアを一望する『ohashiTrio best Too』を紐解く
大橋トリオ 撮影=永田拓也
大橋トリオの15年。それは多種多様な音楽要素を内に秘めた、野心的で負けず嫌いの音楽家が、J-POPのフィールドで戦い続けた挑戦の軌跡。デビュー15周年を記念した最新作『ohashiTrio best Too』は、ポップな親しみやすさに振り切ったDISC1と、よりパーソナルな音楽志向にフォーカスしたDISC2に分けられた、CD2枚組のベスト盤だ。初期の代表曲から、新曲4曲に至るまで、キャリアを一望する全30曲から聴こえてくるのは、“音楽を音楽として楽しんでいる”一人の音楽家の、心地よい独白。その言葉に耳を傾けよう。
アルバムに1曲か2曲は、自分の音楽欲求を満たす、“音楽的やったった曲”を、絶対入れなきゃ気が済まない。
――『ohashiTrio best Too』ということで。ベストアルバムのリリースは、2作目になりますか。前回のベストは確か、メジャーデビュー5周年記念でしたっけ。
たぶん僕のお休み期間に出した、みたいな感じだと思いますね。(アルバムは)ずっと年イチで、作りすぎてちょっとアレだから、一旦ベストを出して、ちょっと休憩して、次の年からまた頑張ろうという、そんな感じじゃなかったかな。そこにメジャー5年というのも、もしかしたらあったのかもしれないですね。
――じゃあ今回も、出しすぎてるからちょっとお休みみたいな。そんなことはないか(笑)。
一応15年なので、新曲が4曲入っていて、その1曲1曲に力を入れてみるか、みたいな感じですね。「GIFT」「angle」は、特に力を入れました。最後の最後で、頑張りましたね。
――さすがだなと思ったのは、前回のベストと、ほぼかぶりなしという。
2曲だけですね。
――「Happy Trail」と「HONEY」ですね。本当にうまく選曲していると思います。
前回のベストは3枚組だったんですけど、そこに入れたくても入らなかった曲がけっこうあったんですね。ライブをやりながら育って、自分の中でプライオリティが上がって来た曲とかもあって、そういうものも入れたいな、ということもあったと思います。その上で、これは入れるべきというものとして、「HONEY」は代表曲という認識だし、「Happy Trail」は、大橋トリオサウンドとはこれだという、自分の中で位置づけがちゃんとできた曲ということもあって、あらためて聴いてもらいたいなと。ここで大橋トリオを初めて聴く人にも、ちゃんと聴いてもらいたい曲だなということで、重複しますけど、入れました。
――アルバムとして、本当に流れがきれいです。
年代順とか関係なく、並べてますね。
――僕のイメージでは、DISC1がデイタイムで、DISC2がナイトタイムで、という感じでした。
ああ、それはあるかも。DISC1はちょっとアッパーな曲が多くて、DISC2は……アッパーな曲は、シングルになりやすい曲が多いんですけど、そうじゃない曲として、アルバムに1曲か2曲は、自分の音楽欲求を満たす、“音楽的やったった曲”を、絶対入れなきゃ気が済まない。その、今までの音楽的やったった曲の中から多く入ってると思います、DISC2には。レーベルの人は選ばない曲を、“これを入れたいです”と言って。
――フィーチャリングものが、けっこう入ったなという印象があります。平井堅さん、斉藤和義さん、手嶌葵さん。
前回のベストに、この3曲は入ってないんですよね。タイミングとしては、入っても良かったはずなんだけど。なんで入れなかったんだろう? たぶん(原曲の)リリースが近かったから、入れなかったのかな。
――去年のアルバム『NEW WORLD』からの、「ミルクとシュガー duet with上白石萌音」もしっかり入ってる。萌音ちゃん、ちょうど今、話題の人だし、タイミングはばっちり。
僕の中でこの曲は、DISC2に入る曲ですね(*実際はDISC1収録)。音楽的やったった曲です。なおかつDISC2は、メロウでナイト(夜)なラインナップでもあるから、本当はそっちに入る曲ですね。
――ポピュラリティがしっかりありつつ、やったった感も満足させる。稀有な曲だと思います。
そうそう、そうなんですよ。だからね、せっかく萌音ちゃんにも歌ってもらってるし、もっといろんな人に響いてほしいなって。
――直近の新曲4曲について、深堀りしていいですか。
はいはい。
――「GIFT」、いい曲ですね。
これはJ-WAVEの冬のキャンペーンソングなんですけど、テーマが“PASS THE LOVE”といって、おそらくメロウな曲、あたたかい曲を求められているんだろうなと。僕にオファーが来るぐらいだから。光栄なんですけど、そこはちょっと、アマノジャク好規が顔を出してきて。
――本名というか、本性と言いますか(笑)。
嫌らしい話ですけど、J-WAVEのキャンペーンソングって、毎日かかるんですよ。いつかやらせてもらえたらうれしいなと思っていて、で、その時期はちょうどコロナが明けてきて、という時だったんですよね。今はまた増えちゃってますけど、その時は、今はウォーミーな曲じゃないでしょうと思ったし、個人的にスキーが好きなので、僕にとってウィンターソングといったら、スキーのテーマソングなんですよ。スキーに向かう道中に聴きたい曲、気分が上がる曲で、“さあ雪山に出かけよう”みたいな、そんなイメージで作りましたね。忙しいストリングスが、ウィンター感出てるかな?と思います。
――そのストリングスで、「サティスファクション」のフレーズをちらっと入れてるでしょう。
そうそう。それは、わかってやってます。ちょっとだけ、リズムをずらしてるんですけどね。
――この曲もそうですけど。DISC1は全体的にアッパーでポップな曲が続くので。はからずも、今の時代に合っているのかなと思います。
なるほど。前向きに、っていうことですね。
――そうですね。そういうの、どこかにありましたか。いろいろあって、気持ちが沈みがちな今だからこその、このベスト盤の選曲、みたいな意識は。
いや、特にはないです。前回(のベスト)から8年ぐらい経ってるんで、純粋に曲が(アルバム)8枚分たまっているので。なおかつ、前回入りきらなかった曲もあるし、なんなら、今回入れたかった曲ももっとあるし。今の時代にとか、そういう選び方は、ほぼしてないです。なんかね、コロナとか、それに完全に影響を受けた人生だったなって、思いたくないんですよね。
――わかります。作品に残しちゃうと、紐づいちゃいますもんね。良くも悪くも。
そうなんです。それは、僕は違うかな?と思うので。ただ音楽がしたくて。そこにメッセージを持ちたいタイプでもないし、音楽を音楽として楽しんでいるし。
――それ、大橋トリオの15年を語る、一番いい言葉のような気がします。「angle」はどうですか。これはノンタイアップの新曲で、得意のジャズアレンジが思いっきり炸裂してる。
これが最後にできた曲ですね。年末は、これの制作で格闘してました。いろいろチャレンジしましたね。これは“やったった”ですね。僕の中では。
――これも、気持ち的にはDISC2(笑)。ジャズはやはり、大きなルーツですよね。
こういうものが、J-POPとしてどうやって聴かれるんだろう?という興味があります。ますます垣根をなくしてやろう、みたいな思いもあるし、興味もあるし、何よりも自分の音楽欲があるし。なんだっけ、自己実現? 最近覚えた言葉ですけど(笑)、自己実現の曲ですね。こういう曲ができるからこそ、自分は音楽をやっているという、こういう曲に挑戦して、かっこいいと言って許される環境がありがたいです。
大橋トリオという存在が、自分の中で大きくなったんでしょうね。大橋トリオがすべてじゃないとも思ってるんですけど。
――DISC2の新曲は、まず「Lamp」。ゴッホ展のテーマ曲でした。
これは完全にゴッホ展がテーマで作ってます。「糸杉」でしたっけ? いや、「星月夜」か。あの有名な夜空の画は、今回の展示コレクションの中にはないけど、ゴッホといったら僕は「星月夜」なんですよ。あれに合う曲を作ろうと思って、流れるような表現で、そういう雰囲気にしようと。本当だったら日本語ではないんでしょうけど、J-POPとして作ったらこういうことかな?というイメージで作りましたね。古い絵画なので、若干クラシカルなアプローチにして、なおかつ大橋トリオ的なものってどうだろう?と。それはいつも考えるんですけど、どんな仕事をするにしても。それがうまくはまったなと思います。
――ちょっと話がずれるんですが、いいですか。最初に大橋さんにお会いした十数年前、“もともと映像音楽家になりたかった”ということを言っていて。
はい。そうですね。
――今、ゴッホの話を聞いていて、“それって映像音楽家ってことだよな”と思ったんですね。形は違うかもしれないけど、ドラマや映画の主題歌も、そういうことかもしれないし。ずっとやりたかったことが、今実現できているのかなと、しみじみ思ったんですね。
ああ、なるほど。でも、どうなんですかね。当初は、それ(映像音楽家になること)を強く思ってましたけど、今それが薄れているのは確実なんですね。たとえば、僕じゃないアーティストが、ゴッホ展の依頼を受けた時にどうするか? といったら、何かの画をテーマに曲を作ってみるというのは、当然するだろうなと。ただ僕は、もしかしたら、当初の思いもあって、それが得意なのかもしれないというのはあります。でも、思いとしては、ほぼ“無い”と言ってもいいです。
――そうですか。そこはもう、フェイズが変わったというか。
変わりましたね。大橋トリオという存在が、自分の中で大きくなったんでしょうね。まあ、大橋トリオがすべてじゃないとも思ってるんですけど、当時からしたら、かなり変わったと思います。
――当時、やらせてもらったインタビューの中で、“大橋トリオは、僕がプロデュースする架空の人間”という言い方もあって。つまりある程度客観的だったものが、今は主観的になっているというか。
ああ、それはそうかもしれない。でもその時も、そこまで、そういうイメージはなかったかもしれないですけどね。でももう、大橋トリオは、自分です。そういう感じに、いつからか、なってますよね。当時は、“そんなに長く続けられないだろうし”という、悲観的な思いがあったのかもしれない。だから、斜めにずっと見ているという。
――ああ。なるほど。
今も、先のことはわからないですけどね。
ゴールをどこに置けばいいんだろう?って、ずっと悩んでます。 人にどう見られているか、すごい気にするんです。誰にも否定されたくないんですよ。
――でも、間違いなく、音楽家として幸せな状況ですよね。今は。
でも音楽家としてどうあることが一番かっこいいか、すごいのか、考えるじゃないですか。常日頃。たとえば誰がかっこいいか? と思うと、わかんないけど、坂本龍一さんがかっこいいとか、エリック・クラプトンがかっこいいとか、そこには到底及んでいない自分というものもわかってるから。今後、どうしていくのが、ちゃんとかっこいいのかな? ということは、ずっと悩んでるんですよね。いちJ-POPアーティスト・大橋トリオは、たいしたスキルもなく、演奏もそこそこで(笑)。映画音楽をやっていた時期は、二足のわらじで、というかっこよさもいいなとか思ってたんですけど、今はほぼこれ(大橋トリオ)一本で。プロデューサーとしてもやっていきたいという気持ちはありますけど、自分の限界はもうわかってるから。これ以上伸びるものでもないことも、わかってるので。努力うんぬんの話ではなく、自分はもうすでに全部出してるので。それに、ちょっと毛が生えた活動をしているだけで。
――毛が生えた活動ですか(笑)。
ちょっと派生した活動をしているだけで。だから、ゴールをどこに置けばいいんだろう?って、ずっと悩んでますね。なんでしょうね? 人にどう見られているか、すごい気にするんですよ。誰にも否定されたくないんですよ。否定する人がいるのは、もちろんしょうがないけど、たぶん、プライドが高いんでしょうね。人一倍、それがあるんですよ。……何の話をしてるかわからないですけど、ほんと、今後どうなっていくんだろう? という、自分の欲求と、さっき言った自己実現と、もう音楽的には完成してるじゃないかという話なんですけど。それは自分の限界を知った上で、現段階でのことかもしれないし。そこをもうちょっと高みに持って行くのは、どうしたらいいんだろう? という。
――それは、悩みというよりは、楽しめるテーマなのではないかと、勝手に思ったりしますけど。アーティストとして。
なんですかね、昔から、変に自信があって、負けず嫌いなんですよ。それがいまだに続いているような気がします。
何チャンネルか頭を切り替えて、切り替え終わったら、また戻ってこようと思います。全然ネガティブな話じゃなくて。
――いいと思います。というか、そのままでいてもらえれば。話がそれましたが、もう1曲、新曲「虹とカイト」の話を聞きそびれてました。これは?
これは、『フルーツバスケット』というアニメ映画に書き下ろした曲です。これは、コンテなどは頂いたのですが、“こうして欲しい”というテーマをいただけなかったんです。“お任せで”という、それが本当に一番難しいんですけど(笑)。でもやっぱり、こういうものを求められているんだろうなと。アッパーな曲じゃなくて、ちょっとメロウな。でも、ただメロウなバラードを作るのも嫌だし、また(アルバムの中に)埋もれる曲になっちゃうのも嫌だし、少しだけアッパーな要素を付け加えて、なおかつ、自分がアニメのエンディングを作ったらどうなるかな? という、自分らしさってこういうことかな? というものを考えて。削いで削いで、こうなったということですね。なるべくしてなった、という感じじゃないですか。
――確かめてみます。最後に、5月からツアーもありますし、今年の活動のテーマみたいなものがあれば、教えてもらえればと。
15周年なので、いろいろやると思います。ただ、収まるかと思ったコロナがまた増えてきてるから、先のことはわからないですね。目標が出しづらい。とりあえずベストアルバムを聴き込んでいただいて、大橋トリオを再発見していただけたら、いいんじゃないですかね。僕はちょっと、別のことを始めてみようかな、とも思ってます。で、いろいろ、何チャンネルか頭を切り替えて、切り替え終わったら、また戻ってこようと思います。何の話かわかんないですけど(笑)、全然ネガティブな話じゃなくて。まあ、とにかく、楽しくライブをしたいですね。
取材・文=宮本英夫
撮影=永田拓也
ヘアメイク=Keita. , Ena Honjo
リリース情報
『ohashiTrio best Too』
2022年2月16日発売
DOWNLOAD & STREAMING:https://asab.lnk.to/oTbT_digi
BUY:https://asab.lnk.to/ohashiTrio_15th_AL
[AL2枚組+Blu-ray Disc+豪華グッズ付き限定商品(スマプラ対応)]
HMV・mu-moショップ限定販売
品番:RZZ1-87068~9/B
価格:¥15,000(税抜)
グッズ:鍵盤ハーモニカ(大橋トリオ限定オリジナルモデル)/ オリジナルバードコール「TRIO ECHO 3」
仕様:デジパック
[AL2枚組+Blu-ray Disc+豪華グッズ付き限定商品(スマプラ対応)]
初回生産限定
HMV・mu-moショップ限定販売
品番:RZZ1-87070~1/B
価格:¥8,000(税抜)
グッズ:オリジナルバードコール「TRIO ECHO 3」
仕様:デジパック
[AL2枚組+DVD(スマプラ対応)]
初回仕様:デジバック
品番:RZCB-87062~3/B
価格:¥6,000(税抜)
[AL2枚組+Blu-ray Disc(スマプラ対応)]
初回仕様:デジバック
品番:RZCB-87064~5/B
価格:¥6,000(税抜)
[AL2枚組(スマプラ対応)]
品番:RZCB-87066~7
価格:¥3,500(税抜)
<収録内容>
[CD]
・Disc-1
01. 東京ピエロ feat. 平井堅
02. 鳥のように
03. 恋するライダー feat. 斉藤和義
04. THUNDERBIRD
05. サリー
06. SHE
07. Happy Trail
08. LOTUS
09. GIFT
10. ミルクとシュガー duet with 上白石萌音
11. angle (未発表新曲)
12. MAGIC
13. アネモネが鳴いた
14. HONEY
15. The Day Will Come Again
・Disc-2
01. はだかの王様
02. 真夜中のメリーゴーランド feat. 手嶌葵
03. CLAMCHOWDER
04. My Shooting Star
05. Lady(2020)
06. Lamp
07. 狼と満月
08. EMERALD
09. タイムマシーン
10. ポラリス
11. Butterfly
12. GOLD FUNK
13. birth
14. 虹とカイト (未発表新曲)
15. はじまりの唄
・ohashiTrio LIVE AT MUSIC HOUSE
1. CLAMCHOWDER
2. そんなことがすてきです。
3. ポラリス
4. 夕暮のセレナーデ
5. 赤い傘
6. EMERALD
7. My Shooting Star
8. Favorite Rendezvous
9. Rise Above
10. Butterfly
11. サクラ
12. 月の真ん中で
13. Baumkuchen
14. HONEY
15. Happy Trail
16. 生まれた日
ライブ情報
2022年5月22日(日)福岡・福岡市民会館
開場 17:00 / 開演 18:00
2022年6月16日(木)愛知・日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
開場 18:00 / 開演 19:00
2022年6月24日(金)大阪・NHKホール
開場 18:00 / 開演 19:00
2022年7月8日(金)東京・昭和女子大学 人見記念講堂
開場 18:00 / 開演 19:00
席種:全席指定 ¥8,000(税込)
年齢制限:3歳以上より必要 ※3歳未満は入場不可
ファンクラブ「Cafeプレタポルテ」にて先行受付
受付開始:3月15日~
https://www.cafe-pretaporter.com/join2014.html
J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE 2022 supported by 奥村組
2022年3月6日(日)両国国技館
<出演>
山内総一郎(フジファブリック)/トータス松本/山崎まさよし/森山直太朗/秦 基博/岸田繁(くるり)/木村カエラ/斎藤宏介(UNISON SQUARE GARDEN/XIIX)/Anly/大橋トリオ&The Charm Park <全10組>
MC:グローバー(J-WAVEナビゲーター)
■イベント公式ページ https://www.j-wave.co.jp/special/guitarjamboree2022/