中村雅俊×半海一晃インタビュー~舞台『富士見町アパートメント2022』「フーちゃんのこと」で2人が演じるのは元詐欺師のコンビ
中村雅俊、半海一晃
2022年4月28日(木)~5月8日(日)六本木俳優座劇場にて、舞台『富士見町アパートメント2022』が上演される。
2010年に上演された『富士見町アパートメント』という公演は、あるアパートの一室という同じ舞台美術で、4人の作家が上演時間1時間の新作を書き下ろし、2つのプログラムに分けて2本ずつ上演するという企画だった。今回は『富士見町アパートメント2022』と題し、2010年に上演した赤堀雅秋の「海へ」と、マキノノゾミの書き下ろし「フーちゃんのこと」の2本を上演する。いずれも演出は鈴木裕美が務める。
「フーちゃんのこと」は、かつて詐欺師だった実智が一人暮らしをしているアパートを舞台に、詐欺師仲間だったフーちゃんこと風太郎と、実智の孫の亜美が登場する三人芝居だ。また一緒に組んで仕事をしようと誘ってくる風太郎役の中村雅俊と、風太郎の誘いを断固拒否する実智役の半海一晃は、実は同じ宮城県石巻高校出身。プライベートでは半海が中村を「先輩」と呼ぶが、今作では半海の方が年上の役となっている。現実とは関係性の逆転した今作について、中村と半海に話を聞いた。
「一つ一つの嘘にもいろんなニュアンスが出せたら」(半海)
――まずは、最初に戯曲を読まれたときの感想をお聞かせください。
中村:最初読んだときは、どれが嘘でどれが本当なんだか、ちょっとわからなくなってしまったんですけど、その混乱がよかったですね。2回目、3回目と読んでいくうちに、混乱が逆におもしろさに変わってきました。詐欺師の話なんだけどホロっとさせるような人情噺っぽい部分もあったりしてね。あとは俺ら2人のキャラクターがいかに魅力的であるかが課題だな、というふうに感じました。
半海:ほとんどずっと出てますからね。
中村:ずっと2人で喋ってね。
半海:だから魅力的じゃないと、見ていられないって話になりますよね。
中村:本当だよね。「こんな人嫌い」って思っちゃうと、そこから受け付けなくなるからね。だから、なんか嘘ばっかり言ってるけれど憎めないな、っていうところはちゃんと作っていかなきゃいけない、っていう負担はあります。
半海:この戯曲は、嘘と本当がごちゃまぜになりながら生きてる人たちを描いているな、と思いながら読みました。日常的にちょっとだけ嘘ついたり、嘘って言うほどでもないけど何かを黙っていたりすることってよくありますよね。そうやって人間は関わり合って生きているな、って思うし、だから嘘と一口に言っても、言っているうちに本気になってきちゃったり、なんだか楽しくなってきちゃったり、一つ一つの嘘にもいろんなニュアンスが出せたらいいなと思います。
中村:あとはこの2人の間に、やっぱりお互い好きなんだなっていう、そういうのを根っこにちゃんと作っておかないといけないよね。愛情を持った上で嘘をついたり「お前嫌いだよ」って言っちゃう、そういう表現にならないと。フーちゃんは実智さんを尊敬していて好きだから舞い戻ってきて「一緒にやろう」とか言い出して、実智さんも迷惑してるんだけど、でもなんか風太郎のことを憎めないっていう。
半海:なんか一緒にいて居心地いいんでしょうね、お互い。
「詐欺師としてはポンコツ(笑)。ちょっと哀れな感じも出せたら」(中村)
――フーちゃんとサネトモさんの年代、60代と70代だからこその友情という部分も強く感じます。かつて一緒に悪事を働いた2人だからこその繋がりといいますか。
中村:詐欺師としてはもうポンコツなんですよ(笑)。でもなんだかんだ理由をつけて「頑張るぞー!」って言ってね、威勢はいいんだけど体はついていかないみたいな。なんかそういう、ちょっと哀れな感じも出せたらいいなと思います。
半海:「やるぞー!」って言いながら体はヘロヘロしちゃって、ちょっとよろけたりとか(笑)。
中村:そういうビジュアルというか演技の中に、ネガティブな要素がうまく好意的に見えたらいいな、っていうのはありますね。
半海:台本だけ読むと、結構威勢のいいセリフがありますからね。
中村:あるある。怒ったりもしてるしね。どこまで本気で言ってるんだろう? っていう感じのところもあるし。俺はさっきも言ったように、1回目読んだときにわからなかったところもあったんだけど、お客さんはどう見てくれるのかな、って気になりますね。
ーー実際に自分が60代、70代になったときに、フーちゃんとサネトモさんみたいな関係の友達がいてくれたらいいな、なんてことも思いました。
半海:何十年の知り合いってあんまりいないですからね。
中村:詐欺するっていう行為自体が一つの大変な作業で、悪事ではあるけれど、それを2人でくぐり抜けてきたっていう絆で結ばれた同志であることは確かだよね。今こうやって話していると、ますますこの作品はこの2人にかかってるのかな、とプレッシャーも感じるね。
半海:プレッシャーありますか。
中村:やってみないとわからないし、セリフも覚えられるかどうか……もう70過ぎだからね、俺も。
半海:先輩、頼みますよ!
中村:俺と半海くんは、宮城県石巻高校の先輩・後輩なんですよ。不思議だよね、プライベートでは俺の方が先輩だけど、この作品の中では半海くんの方が先輩の役で。
半海:そうなんですよ、だから最初は役が逆だと思ってました。僕が高校在学中から雅俊さんはもう『俺たちの旅』で下駄履いてデビューしてましたから、僕にとって先輩だし、石巻出身のスターですよ。それなのに僕の方が年上の役って……(笑)。
文学座出身の中村、オンシアター自由劇場出身の半海 舞台では初共演
――中村さんは文学座出身、半海さんはオンシアター自由劇場出身ということで、お2人とも劇団出身なんですよね。そのお2人が舞台で初共演されるというのはとても楽しみです。
中村:俺は舞台に対してはすごく申し訳ない気持ちなんですよ。大学時代は英語劇をやっていたんだけど、そのうちに「日本語でやりたいな」という気持ちになって、それで文学座を受けたんです。お芝居をしたくて文学座に入ったのに、1年後にはテレビドラマでデビューしちゃって。
半海:文学座では舞台に何本出演したんですか?
中村:13年間文学座にいてゼロ。研究所の卒業公演のときもドラマの撮影が入ってたから、舞台にはちょい役で出て、公演が終わったらすぐにロケに行ってましたね。だから志を持って文学座に入ったのにテレビドラマの方に行っちゃったし、たまたまデビューのときに出した「ふれあい」っていう歌が売れたんで、「舞台」って俺にとってステージで歌うことになっちゃったんですよね。これが自分の運命なのか求められてきたものなのかわからないけれども、結局テレビドラマとコンサートツアーをメインにずっとやり続けてきてしまいましたね。
半海:文学座の卒業公演以降は舞台には出演したんですか?
中村:何本かはやってるけど、50年近いキャリアの中では極めて少ないよね。だから半海くんはもう圧倒的に舞台の先輩ですよ。
――半海さんはオンシアター自由劇場で舞台経験を数多く積まれました。
半海:僕は40になるまでずっと小劇場でやってきたので、今でも舞台の方がホームの感じはしますね。今は映像の仕事の方が割合的には多くなりましたけど、どうしてもまだ映像はアウェーだなという、ちょっと緊張するところがあります。だから今回の舞台は、先輩と一緒にやれますし、緊張っていう感覚よりも楽しみな方が大きいですね。
中村:オンシアター自由劇場っていうことは、小日向(文世)と一緒にやってたの?
半海:そうです、小日向さんは先輩です。
中村:小日向はそれこそ『俺たちの旅』の頃に、俺の付き人やってたんだよ。小日向が役者やりたいって言い出したから、文学座に入ったらどうかなと思ったんだけど、自分で「自由劇場を受けます」って言って入ったんだよね。それで小日向が研究生のときに出演する舞台を見に、当時六本木にあったオンシアター自由劇場に行ったら、一番前の席を用意してくれてたよ(笑)。懐かしいなぁ。
「なんか愛すべき人たちだな、と感じてもらえたら」(中村)
――現在のコロナ禍において、舞台の上演をするには今まで以上に数々のハードルを乗り越えなければならなくなりました。リモートやオンラインが発達して様々なことが効率化されている今、舞台を上演するということは、言ってしまえばとても非効率なことだと思います。それでもやっぱり、舞台をやるということについてどう感じていらっしゃいますか。
中村:舞台ってまさに、リモートじゃダメなものですよね。コロナ禍になって、お芝居もライブもリモートで配信したものがたくさんありましたが、やってみてわかったことはやっぱり生じゃなくちゃダメだ、ってことだと思います。リモートはリモートの良さがありますから、何か目的があってリモートでやるのであれば別ですけど、舞台と言われるものに関しては、実際に人が集まって直接見る・聞くという作業をしないと、伝わるものも伝わらないというか、やっぱり生じゃないと、と思いますよね。
半海:テレビで放送している劇場中継とか見ても、生で見る面白さには全然かなわないですよね。「あれ?この舞台すごく面白かったんだけどな?」と思ってしまうこともよくあります。だからやっぱり、この作品でも言葉一つ一つというよりも、交わされる言葉の間に生まれる目に見えないものを客席にいる人たちと一緒に体感する、それこそ本当に非効率なことなんだけどそれが演劇経験なので、やっぱりリモートではできないな、って本当に思いますね。
中村:この作品で何を見せたいかって言ったときに、ストーリーを正しく見せる、っていうことよりも、登場人物の個々の魅力が素敵に映ったらいいんじゃないかな。なんか愛すべき人たちだな、特にこの2人は愛すべき年寄りだな(笑)、っていうふうに感じてもらえたらそれはそれで成功かなって思っています。俳優座劇場ってキャパシティどれくらいでしたっけ?
半海:300席くらいだそうです。僕は俳優座劇場に行くのはすごく久しぶりです。
中村:俺も。俳優座劇場といえば思い出すのが、70年代くらいに田中邦衛さんが出演していたつかこうへいさんの舞台を見たんだよね。
半海:田中邦衛さんも、俳優座出身で安部公房スタジオにも参加していたりとか、元々は舞台の人でしたからね。でも、つかさんの舞台にも出ていたのは知らなかった。
中村:俳優座劇場だったら、お客さんとの距離も近くて伝わりやすいんじゃないかな。緊張もありつつ、楽しみですね。
半海:生の舞台だからこそのものを、ぜひ劇場で見ていただきたいです!
取材・文=久田絢子 撮影=中田智章
公演情報
脚本:赤堀雅秋
演出:鈴木裕美
脚本:マキノノゾミ
演出:鈴木裕美
中村雅俊
半海一晃
越後はる香
制作:ソニー・ミュージックアーティスツ
制作協力:Soymilk Co.