名古屋を拠点に活躍する照明デザイナー・花植厚美が、第2回【名古屋女性演劇賞】を受賞

レポート
舞台
2022.4.1
 第2回【名古屋女性演劇賞】を受賞した、照明デザイナーの花植厚美

第2回【名古屋女性演劇賞】を受賞した、照明デザイナーの花植厚美

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名古屋市域の演劇振興に貢献した女性演劇関係者の功績を讃えるべく、〈名古屋市文化振興事業団〉によって近年創設された【名古屋女性演劇賞】。その第2回(令和3年度)受賞者に舞台照明家の花植厚美(flower-plant)が決まり、2022年3月22日(火)、名古屋市青少年文化センター内の「7th Cafe」にて授賞式が行われた。

【名古屋女性演劇賞】は、2018年に他界した俳優で劇団主宰者でもあった江崎順子の遺志を受け継ぎ、ご遺族から寄付された1,300万円を基金として実施している賞だ。名古屋市出身の江崎は、「名演会館」が主催していた俳優養成所〈名古屋演劇アカデミー〉を卒業後、1984年に〈劇団・夏蝶〉を女性メンバーと共に結成。日本の女性の生き方を描いた作品を中心に舞台で上演してきた。自劇団での活動に留まらず、他劇団への客演や、テレビ、ラジオドラマ出演、司会や朗読の講師など多岐に渡って活躍する中で、夏蝶 第13回公演『女の庫』(作:麻創けい子/演出:木崎祐次)が平成5年度名古屋市民芸術祭賞を受賞。第17回公演『マンザナ、わが町』(作:井上ひさし/演出:木崎裕次)でも平成10年度の同賞を受賞。平成16年(2004年)には、一人芝居『花いちもんめ』(作:宮本研/演出:わらしべ長者)の演技で名古屋演劇ペンクラブ賞を受賞した。

名古屋の演劇文化発展に寄与した、俳優で〈劇団・夏蝶〉主宰の故・江崎順子

名古屋の演劇文化発展に寄与した、俳優で〈劇団・夏蝶〉主宰の故・江崎順子

また江崎は、当地における多くの演劇人らが稽古場として活用する「名古屋市演劇練習館」(愛称:アクテノン)の運営にも貢献。1995年の開館時に運営委員を務め、長年に渡って同練習館を支えてきた経緯から、当初は【アクテノン記念 江崎演劇賞】の名称で賞が創設された。初回の2020年(令和元年度)には、俳優の小嶋彩子(劇団エーアンドエーダッシュ)が受賞。これを契機として、より一層、故人の生前の活動と遺志に寄り添う演劇賞にしたいと話し合いが重ねられ、俳優・スタッフなど演劇のあらゆる分野で活躍している女性演劇関係者を表彰する【名古屋女性演劇賞】として継続されることとなった。

これにより賞の対象を、近年の継続した演劇活動が特に顕著な女性演劇関係者(俳優、劇作家、演出家、舞台スタッフ)とし、名古屋市域の演劇の振興に貢献のあった個人と定め、毎年度原則として1名を選考することに。受賞者には、正賞(賞状)及び副賞として賞金30万円を授与し、昨年2021年(令和2年度)の第1回 【名古屋女性演劇賞】は、俳優・演出家のおぐりまさこ(空宙空地)が受賞している。尚、今年度の選考委員は、麻創けい子(劇作家・演出家)、桐山健一(演劇ジャーナリスト)、坂下孝則(照明家)、内藤美佐子(俳優・演劇人冒険舎代表)、筆者(編集者・ライター)の5名が務めた。
 

【花植厚美プロフィール】

愛知県知多市生まれ、在住。愛知県立の工業高校にてデザインを学ぶとともに、演劇部に所属して魅力を知る。高校卒業後、1989年に名古屋市内の舞台製作会社に入社し、照明部に配属。8年余りの在籍の後、フリーの舞台照明デザイナーとして名古屋を中心に精力的に活動を続けている。

【受賞理由】

フリーの照明デザイナーとして、日本演出者協会や日本劇団協議会といったプロの演劇人が集まる横断的団体の公演から、アマチュア劇団や市民参加型公演まで数多くの照明を手がけるなど、名古屋地域の演劇界を支える信頼の厚い照明デザイナーである。

こうした活動で、日本照明家協会から2014年に新人賞、2018年には努力賞を受賞するなど、全国レベルで照明デザイナーとしての技量を評価されている。

近年の活躍も顕著で、新型コロナウイルス感染拡大防止の影響を受ける中でも、年間20作品以上の公演に携わっており、演出効果の期待を見事に実現する照明デザイナーとして、オファーが後を絶たない。最近では、2021年12月の日本劇団協議会『かもめ』の照明が、良質な公演という評価に大きく貢献している。

若手演劇人の作品創りにも温かく向き合う穏やかな人柄から人望が厚く、今後も名古屋の演劇界に欠かすことのできない優れた人材として、一層の活躍が期待できる。

 
近年の参加作品より。きりん演劇プロジェクト「三島由紀夫作「近代能楽集」より『班女』『葵上』」 会場/愛知県芸術劇場小ホール(2021年4月上演)

近年の参加作品より。きりん演劇プロジェクト「三島由紀夫作「近代能楽集」より『班女』『葵上』」 会場/愛知県芸術劇場小ホール(2021年4月上演)

 近年の参加作品より。日本劇団協議会『かもめ』 会場/名古屋市千種文化小劇場(2021年12月上演)

近年の参加作品より。日本劇団協議会『かもめ』 会場/名古屋市千種文化小劇場(2021年12月上演)

 
【近年の主な活動】
<2020年>
1月  劇団テアトロ☆マジコ 第12回公演『ジパング』
    (会場/名古屋市千種文化小劇場)照明デザイン・操作
3月  オレンヂスタ 第9回公演『黒い砂礫』
    (会場/七ツ寺共同スタジオ)照明デザイン・操作
12月  劇団LOVE K.O!『コロキャン』
    (会場/愛知県芸術劇場小ホール)照明デザイン・操作
<2021年>
1月  日本演出者協会 東海ブロック『永井荷風の戯曲を読む』
    (会場/名古屋市芸術創造センター・リハーサル室)照明デザイン・操作
4月  きりん演劇プロジェクト「三島由紀夫作「近代能楽集」より『班女』『葵上』」
    (会場/愛知県芸術劇場小ホール)照明デザイン・操作
8月  総合劇集団俳優館ミュージカル『雪の女王』
    (会場/愛知県芸術劇場小ホール)照明デザイン・操作
10月  名古屋西高等学校 第2回「創造表現コース成果発表会」
    (会場/名古屋市西文化小劇場)照明デザイン・操作
12月  日本劇団協議会『かもめ』
    (会場/名古屋市千種文化小劇場)照明デザイン・操作
 

第2回 【名古屋女性演劇賞】受賞者である花植厚美には、上記会場での授賞式にて賞状と賞金が授与され、〈名古屋市文化振興事業団〉の杉山勝理事長より、

「花植さんは、照明デザイナーとして数多くの舞台照明を手掛け、非常に精力的に活動をされてこられました。また、日本照明家協会の新人賞、努力賞も授与されるなど全国的にも照明デザイナーとしての技量が高く評価されているということで、このたび私共の【名古屋女性演劇賞】を授与させていただくことになりました。この賞は、亡き江崎順子様のご遺族の方から賜りました多大なご寄付を基に創設いたしました。名古屋で活躍される女性の演劇関係者の方にスポットを当てるという、全国的にも珍しい演劇賞です。

新型コロナウイルスの感染拡大から2年余り経ちますが、なかなか収束というところが見えてきません。文化芸術関係者の皆さま方も、非常に大きな影響を被っていると思いますが、当事業団といたしましても、この地域の文化・芸術の灯を守り、また輝かせるという役目を担っておりますので、関係者の皆様方と共に新しい文化・芸術を生み出し、多くの方にお届けできればと思っております。

最後に、花植さんの今後ますますのご活躍を祈念いたしまして、お祝いの挨拶とさせていただきます。本日は誠におめでとうございます」

と、祝辞が寄せられた。また、花植厚美より以下の受賞コメントも。

「この度は第2回【名古屋女性演劇賞】に選出いただき、本当に身に余る光栄でございます。ありがとうございます。そして、このような授賞式を開いていただき、お集まりいただき、感謝いたします。2020年、2021年と2年以上に渡り世界中なパンデミックでエンタメ業界、舞台業界にも激震が走り、余震も続いております。こんな中でも、今は少しずつ少しずつ、みんなで歩んでいっているような状態ではあります。

少し私の幼少期の話も交えてお伝えしたいのですが、身近にモノづくりがあったような環境で育ちました。知多半島のど真ん中で海も山もあり、夜寝る時は枕元に紙とペンを置いて夢日記をつけたり、裏庭にいっぱい生えていたススキを束ねて秘密基地を作ったりと、いろいろなモノを作ってきました。そんな私ですので、高校もデザイン科のある学校を選びました。そこで高校演劇に出会うんですけども、そこが私の裏方人生の始まりだったような気がしますし、演劇部顧問の品川浩幸(劇団LOVE K.O!)に出会わなければ、この世界に足を踏み込むことはなかったのではないかな、と思います。

そして、照明というのは一人では出来なくて、先輩や同僚、後輩、皆さんの手を借りなければ一つの作品を創っていけない世界でございます。舞台作品は照明だけに関わらず、音響、舞台美術、メイク、衣装、もちろん役者も、作・演出も、演助も、表方も、さらにそれを支えてくださる劇場のスタッフの方達も、作品に関わる全ての人達がいないと成り立たないものです。情勢がまだ不安定な状態ではありますけれども、私はあまりネガティブなことは思っておりません。今は考える時間を地球が与えてくれたと思いつつ、少しずつ、ゆっくりじっくり歩きながら、舞台業界も前に進んで行けたらと考えております。ちょっと楽天家なんですけれども(笑)この状況も楽しんでいけたらと思います。

実は今日、もう一人、一緒にこの席に居て欲しいメンバーがいたんですけども、濃厚接触者になってしまって来られませんでしたが、馬場祥というまだ若手のオペレーターがおります。今回の受賞では特に『かもめ』という作品を評価していただいたことに感謝しております。この作品で私はデザインをやっただけで、照明操作は彼が頑張って務めてくれました。そのように本当に一人では出来ない世界ですので、この先もみんなで創っていくということを、いろいろと出来たらなぁと思います。本日はこのような賞をいただき、会を開いていただき、ありがとうございました」
 

尚、〈名古屋市文化振興事業団〉の公式サイト(https://www.bunka758.or.jp/about/award/woman/)にて、授賞式の模様及び受賞者コメントの動画も近日中に公開を予定しているので、こちらもぜひご参照を。

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