平方元基×ソニン×あべこうじ×小松利昌が、今までにない作品を作り上げる 『THE 39 STEPS ザ・サーティーナイン・ステップス』製作会見レポート
イギリス冒険小説の先駆者ジョン・バカンの小説『三十九階段』と、アルフレッド・ヒッチコック監督による映画『三十九夜』をもとに、ユーモアに満ちた作品として舞台化された『THE 39 STEPS ザ・サーティーナイン・ステップス』。2006年にローレンス・オリヴィエ賞の最優秀コメディー賞を受賞したのちブロードウェイにも進出。日本では2010年に初演を行い、大好評を博した。
今回は、ミュージカルデビュー10周年の平方元基が初の単独主演を務め、ソニンが3人のヒロインを、あべこうじと小松利昌が2人で135役を演じる。
上演台本と演出は、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』(演出・脚本)、シアタークリエ『SHOW BOY』(原案・演出)などを手掛け、演劇におけるさまざまな挑戦を行うウォーリー木下。そして、全編にわたる生演奏を、アコーディオン、チェロ、ギターのトリオによるインストゥルメントバンド・ザッハトルテが担当する。
上演まで1ヶ月を切り、平方元基、ソニン、あべこうじ、小松利昌による製作会見が行われた。
事前に舞台衣装での登壇と伝えられていたが、会見に登場した4人はまさかの下着姿。小松が「僕とあべさんはクラウン役で、135役くらいあるので何を着るか選べなくて、もうこれで行っちゃえということになった」と話すと、ソニンは「私、こんなこと初めてなんですけど!でも、私も3役あって何を着たらいいか分からないから」と笑い、平方が「僕、着ないですよこれ!本当はスーツです。なのに僕もこれでって言われて……」と嘆くなど、開始早々、遊び心が感じられる。
――まず、お一人ずつご挨拶をお願いします。
平方:イギリス発の作品がウォーリー木下さんの演出で新しく生まれ変わります。“ミュージック&プレイ”ということで、歌あり芝居あり。大人4人が必死になり、まさにハイパーなコメディを作っていますので、ぜひ皆さんご期待ください!
リチャード・ハネイ 平方元基
ソニン:最初に聞いていたのはアナベラ、パメラ、マーガレットという3人のヒロインと人手が足りない時のお手伝いでしたが、稽古が始まったら色々やらされています(笑)。ネタバレになりますが、一切袖にはけない演出。今までに見たことがないような演出とステージになるんじゃないかと思っています。
アナベラ/マーガレット/パメラ(3役) ソニン
あべ:僕は10年ぶりの芝居。新喜劇に近いと聞いていたんですが、全然違っていたのでちょっと怖いです(笑)。僕の一番の見せ所は電話。電話ひとつでもかなり細かく演出が入っています。一度ならず何度でも楽しめるし発見があると思います。あとは、135役ということなんですがもっとやっている気がしますよね。
ソニン:台本にない役が加わってますよね。
あべ:ウォーリーさんが「何かアイデア出して」って言うと、小松さんがどんどん出して、役がまた増えて……。マジで(アイデアを)出さないでくれって怒りました(笑)。でも本当に楽しいし、笑顔になってもらえる作品だと思います。
クラウン あべこうじ
小松:(アイデアを)思いついたらついつい言っちゃうんですよね。あべさんからは「黙って!」って言われますけど(笑)。僕のメインの役は台所と大きな家。あとは色々な物体や物事を表現します。4人の役者がギリギリで回しているのも一つの見どころかと思います。あべさんが言ったように、2度3度と観ると、1回では見つけられなかった面白ポイントがどんどん分かる作品だと思いますね。
クラウン 小松利昌
ここで、演出・ウォーリー木下からのコメント映像を見ることに。キャスト陣も話の内容を知らないということで、わくわくした表情で画面に注目する。
稽古の進み具合や手応えを聞かれたウォーリーが「今回はキャスト4名と音楽家が3名。そこにあるものを使って、シーンをどんどん膨らませていくような演出です。最初にその説明をしたら皆さんすぐ理解してくれて、シーンが勝手に出来あがっていきますね」と話すと4人は大笑い。役が増えるという話については、小松が「僕はウォーリーと同じ劇団で、関西時代からもう20年ぐらいの付き合い。昔から役者にアイデアを出させて一緒に作るスタンスだったので、こっちもすぐにアイデアを出す回路になっちゃってるんですよね」と語る。あべは「でも、ソニンさんも平方さんも案をどんどん出しますよね」と話し、平方が「苦しめてますよね、すみません」と謝りながらも笑顔を見せた。
続いて、各キャストの印象が語られる。
平方に関しては、「最初の本読みの時点で自分なりに理解してくださっていました。僕の方が納得させられることばかりで感動しましたね。これから肉付けしてどんどん変わっていくと思いますが、平方さん=ハネイのベースができているので、見ていてとても楽しいです」と語り、ソニンには「まだそんなに稽古できていませんが、打ち合わせの時点でたくさんアイデアを持っていて、すごく楽しみです。ソニンさんが持っている色々な引き出しをお借りできたら」と期待を寄せる。
あべについては「元々好きでしたが、一緒に稽古をしてますます好きになりました。台詞が出てこなくてもなんとか繋いでくれるスピリットは本当に素晴らしいです。まだ手探りだとは思いますが、本番のお祭り感が見えてきてとても楽しみです」と話し、旧知の仲である小松には「もう何回も一緒にやっていますが、すごく真面目だけど舞台上で遊べる役者です。自分のことが分かっていて、周りもちゃんと立てようとするバランスがすごくいい。今回は何役も演じてスタッフもやりますが、小松さんが土台のような感じでいてくれることで全体がしっかりすると期待しています」と信頼を感じさせるコメントを述べた。
ウォーリーからのコメントを、頷いたり笑ったりしながら聞いていたキャスト陣。あべが「本当に、平方さんは最初からハネイって感じですよ。でもそこが堂々と立っていてくれると我々もサポートしがいがあります」と平方の存在感を讃えると、小松も「その通り。ハネイが芯でいてくれるから、僕らがいかに巻き込むかっていう」と頷く。平方も、「お二方が面白いと同時にすごく包容力があるんです。稽古中に台詞がとっ散らかっても安心してやれるのですごく心強い」と話し、すでにカンパニーの雰囲気や関係性ができていることが窺えた。
平方以外のキャストが何役も兼ねるという部分も大きな見どころではあるものの、それだけの作品ではないこともアピール。元になっているヒッチコックの映画にはお洒落なシーンも多くあることから、平方は「あの世界観を楽しんでもらいつつ、役者ってこんなに身を削りながら色々なことをやれるんだぞというのを見せたい」と意気込む。ソニンが「私はハネイとクラウンの間の立ち位置。主軸もそれ以外もやるので、どこにポジションを置くのか稽古で探っていきたい」とコメディを作る上での大変さを語ると、あべと小松は「その点、クラウンはずっとふざけてていいからね」とおどける。
また、今後どのように創り上げていきたいかについて、ウォーリーが「イギリスで生まれ、日本でも上演されてきたこの作品の核は、たった4人でヒチコックのサスペンスを上演するという点だと思います。加えて、今この作品をやる意味を追求したいと思っています。お客さんと一緒にライブ感を味わうのが当たり前ではない中、一期一会のライブを体験したと思っていただきたいですね。そのために音楽は生演奏で、歌もちょっとあり、踊りあり、他にも影絵や人形劇、映画を撮っているようなシーンも盛り込んでいます。元の小説や映画を知っていても知らなくても楽しめる作品です。夢のような時間を過ごしていただけるよう、様々な仕掛けを用意してお待ちしています」と語ると、平方が思い出したように「そういえばサスペンスなんですよね」と言い出す。
原作はハネイが国の機密情報を巡る事件に巻き込まれるサスペンスだが、舞台にする上でコメディ色が加わっている。日本初演はオリジナルに近いものだったが、今回はそこにウォーリーの潤色とキャスト陣のアイデアが加わった、全く新しい作品になっているとのことだ。
続いて行われた質疑応答では、主演の平方と3人のヒロインを演じるソニンに対し、役柄と役作りについての質問が。ネタバレを気にするソニンにあべが「全部言っていいっすよ」とGOサインをだし、小松が「あべさんすごい権限持ってますね(笑)」とツッコミを入れる、息のあったやりとりが見られた。
ソニンは「アナベラは事件の発端で、峰不二子のようなちょっと危険な女。マーガレットは純朴な箱入り娘で、パメラは世間知らずで気の強いお嬢様といった感じ。3人とも個性が違うので、演じ分けを研究中です」と、3人のヒロインの魅力を語る。
平方は「他の皆さんが何役も演じるドタバタも面白いですが、ストーリーがちゃんと分からないとその面白さが伝わり切らないと思うんです。物語の主軸は僕がちゃんと担わないといけないと感じますね。キャラクターとしては、カッコつけだけど「そこ行けよ!」ってところで動けない情けなさもある。世の男性が共感できる人物だと思います。好奇心旺盛で、物語に首を突っ込んだり、自分ができるはずないことをなんとかしようとしたりもするんですよ」と、物語の中心となる役柄への意欲を語る。
あべがハネイというキャラクターについて「なんか変な正義感を持っていますよね」というと平方も「ですよね。なんでやろうとするんだろうって」と首を傾げる。小松から「首を突っ込んで、女性にはちょっと弱くて。寅さんみたいな感じもありますよね(笑)」という意見が出ると「イギリス版寅さんを目指します!」と答えて笑いを誘っていた。
平方は今年でミュージカルデビュー10周年、本作が単独初主演。思いを聞かれると「すごくありがたいですし、今回は僕が主演と言いつつそれぞれが主演のような作品なので正直ホッとしています。様々なミュージカルを通して育てていただいたので、僕からもお返しできるよう、気持ちを込めたいですね」と笑顔を見せる。また、「ここまでのコメディに出演したことはないので、すごく楽しいです」と話し、以前ミュージカルで共演して以来交流があるというソニンも「今までに見たことのない平方元基だと思います」と太鼓判を押す。ミュージカルではないものの作中で歌うシーンもあるということで、様々な表情や魅力を味わえるのではないだろうか。
最後に、4人からコメントが寄せられた。
小松:稽古が始まってまだ一週間くらいですが、(平方は)こいつを引き立たせてやりたいと思えるし、あべさんはお兄さんみたいで助けられるし、ソニンさんは初日からバッチリ役作りしてこられて気が引き締まりました。この4人で本当に良かったと思います。皆さんが見たことのない作品を作れると思いますので、良かったら皆さんも、プライベートで遊びに来てください。
あべ:色々な役をやらせていただき、僕がカメレオン俳優としてスタートできる作品になるんじゃないかと思います(笑)。この作品を通して自分も成長・進化して行きたいですし、皆さんを笑顔にしたいです。とにかく楽しくハッピーな舞台です。ぜひ皆さんも、プライベートで観に来てください(笑)。
小松:それ俺のやつ(笑)!
ソニン:4人で作り上げるにはやることが多すぎてあわあわしているんですけど、同じ公演は2度とないというくらい魅力が詰まった時間になると思います。演劇の楽しさが感じられる作品で、ライブやエンタメを欲しているお客様にはうってつけの作品。チームワーク抜群の4人で作り上げますので、ぜひプライベートでいらしてください。
平方:この間、稽古が終わった後に小松さんと少し喋っていたら、「僕ら4人で一つだよね」とおっしゃったんですよ。
ソニン:かわいい!
小松:なんかこう、この作品を作る一つの生き物みたいな(笑)。
平方:4人1組、一蓮托生で頑張っていきたいと思います。皆さん、プライベートでお越しくださればと思います。
最初から最後まで息の合ったやりとりが繰り広げられた今回の会見。コメディのような楽しさに満ちており、本番へのわくわくが高まった。4人の魅力と新境地を味わえるのではないかと思える本作は、2022年5月1日からシアタークリエにて上演される。
取材・文・撮影=吉田沙奈