突如現れた若き才能 ポカリスエットCMでも話題をさらうimaseが語った、今とこれまで
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imase 撮影=永田拓也
2021年12月に1stデジタルシングル「Have a nice day」でメジャーデビュー。今年1月にリリースした「逃避行」もSNSやストリーミングでヒットを記録し、急速に注目度を高めている2000年生まれの男性アーティスト・imase。“imase with PUNPEE&Toby Fox”名義で発表された「Pale Rain」(『ポカリスエット』新CM主題歌)も大きな話題を集め、2022年最大のニューカマーと称すべき飛躍を見せている。
友達がギターを始めたことをきっかけに楽曲制作をはじめたのが2020年11月。それからわずか1年半で本格的なブレイクを果たしつつあるimaseに、これまでのキャリアと「Pale Rain」の制作、今後のビジョンなどについて語ってもらった。
——imaseさんが注目されたきっかけは、TikTokに投稿した楽曲が10代、20代を中心にバズったこと。楽曲を作りはじめたのは2020年の11月だったそうですね。
はい。歌うのは小さい頃から好きだったんですけど、友達がギターをはじめて、「自分もやってみたい」と思って。もともと中学のときにちょっと弾いてみたことがあるんですけど、すぐに挫折しちゃったんですよ(笑)。でも、2020年にギターをはじめたときはけっこう練習して、ある程度弾けるようになって。
——そこからオリジナル曲の制作に移行した、と。最初はDAWを購入するところからですか?
そうです。実家が自営業で、僕も仕事を手伝っていたので、見積書を作るためにパソコンは持っていたんですよ。あとは音楽制作ソフトとMIDIキーボードを買って、一つ一つ機材を揃えて。オーディオインターフェースを買ったのはわりと最近なので(笑)、まだぜんぜん揃ってないんですけどね。
——曲作りはどんなふうに進めていたんですか?
最初の頃は何一つわからなかったので、曲の作り方をネットで調べて。いいなと思ったコード進行を打ち込んで、そこにメロディと歌詞を乗せるという感じでした。あとはトラックメイカーの方々が紹介している制作方法を調べて、見よう見まねでやってみたり。まったく知識がない人が曲を作るって、それくらいしか方法がないんじゃないかなと。
——なるほど。
最近はメロディを先に作ることが増えましたね。鼻歌でメロディを歌って、なんとなく頭のなかでコードやリズムを思い浮かべて、それを打ち込んで。歌詞もパッと思い付いたフレーズから広げていくことが多いですね。まだはじめて1年ちょっとなので、いろいろ悩みながらやってましたけど、完成したときはすごく嬉しいし、反響があると達成感がありますね。
——最初にTikTokに投稿した楽曲は「n1ght」。反響はどうでした?
けっこう伸びたんですよ。友達とかにも「あの曲、有名人が使ってるよ」って言われて。もちろんバズらせようと思って作ってるんですけど——耳に残るキャッチーなフレーズだったり、口ずさみたくなるメロディだったり——「これは伸びそうだな」と思ってアップした曲が、そうでもないこともあって(笑)。まだまだわからないことも多いし、難しいですよね。
——制作やレコーディングはすべて岐阜の自宅で行ってるんですか?
制作に関しては基本的にすべて岐阜の自宅で、かなり田舎の近くにコンビニもないようなところで作ってます。実家の裏が山なので、この季節は鳥の鳴き声がすごいんですよ。レコーディングしてると鳥の鳴き声が入っちゃうこともあって(笑)。夏はもっと大変ですね。とにかく蝉の鳴き声が一日中止まないので、めちゃくちゃ苦労してます。(※音源リリースされている楽曲のレコーディングは東京で実施)
——10代の頃、ライブには行ってたんですか?
いや、それが行ったことがなくて。ついこの前、SEKAI NO OWARIさんのライブを観させてもらったのが初めてですね。めちゃくちゃ楽しかったし、元気になりました。
——え、それが初ライブなんですか?
そうなんですよ。みなさんにビックリされるんですけど(笑)、僕の周りにも「ライブに行ったことがない」って人はけっこういますよ。高校のときにEDMがめっちゃ流行ってて、友達と「ZEDDを観に行こう」という話になったことがあって。でも、会場までの交通費とか
——確かに高校生にとっては厳しい金額ですよね……。そういう環境だから、曲作りに没頭できたのかも。
あ、そうですね。そういえばこの前、友達と一緒にバンド組んだんですよ。全員、素人なので「これなら弾けるかも」という曲を演奏して(笑)。Vaundyさんの「踊り子」とかをやってます。
——楽しそう(笑)。曲を作りはじめたときから、「音楽でプロを目指す」という気持ちはあったんですか?
最初は全然なかったです。とりあえずショートバージョンの曲をアップして、少しずつ聴いてもらえるようになって。実際にいろんな方からオファーをいただくようになってから自覚が出てきたというか、プロとして頑張ろうと思うようになりました。
——2021年12月に1stデジタルシングル「Have a nice day」でメジャーデビュー。この曲を最初のシングルに選んだのは?
ショートバージョンが伸びてたからですね(笑)。反響があって、「だったらフルバージョンを作ってみよう」という。もともとは去年の5月くらいに作った曲で、今よりもコロナの影響が大きい時期だったし、歌詞にはその頃に感じたことも入ってます。僕自身はそこまで大きな影響を受けてないんですけど、ニュースを見てると、「修学旅行がなくなった」という学生も多かったし、辛い経験をした人も多いと思うので、それを自分になり表現できたらなと。
——<戻れないね 離れないで 喜びも驚きもない中で>というフレーズ、すごいインパクトですね。
もう昔には戻れないという気持ちを乗せたかったんですよね。ちょっとネガティブ気味ではあるんですが、そこに相反するようなポップな曲調を合わせることで中和してます。星野源さんの曲もそうですけど、リアリティのある歌詞とポップなサウンドの組み合わせが面白いし、興味があるんですよね。
——2ndシングル「逃避行」も、TikTokの週間ランキングで1位になった楽曲のフルバージョン。ノスタルジックなメロディ、「さよなら逃避行」からはじまるキャッチーなサビ、心地いいテンポ感を含めて、バズる要素がバランスよく入った曲だなと。
ありがとうございます。「逃避行」は、結ばれてはいけない境遇の男女が、世の中の固定観念に捉われず、自分たちの意思で飛び出していく姿を歌っていて。自分が作りたいものと、みなさんが良いと思うものが上手く合わさった曲だと思いますね。
——“imase with PUNPEE&Toby Fox”名義の「Pale Rain」(『ポカリスエット』新CM主題歌)も大きな話題を集めています。ラッパー/プロデュサーとして第一線で活躍しているPUNPEEさん、ゲーム『UNDERTALE』の開発者としても知られるToby Foxさんとのコラボレーション、いかがでした?
お話をいただいたとき、めちゃくちゃビックリしましたね。「え、いきなり? まだ2曲しか出してないのに」と思ったし、自分にやれるのかなという不安もあって。でも、CM制作チームのみなさんと話をするなかで、「やってやる!」という気持ちになって。前向きに取り組むことができました。作曲に関しては、Toby Foxさんのピアノがもとになっていて。『UNDERTALE』の音楽にも通じるメロディラインなんですが、それをPUNPEEさんがトラックにしてくれて、より幅広い伝わるサウンドになって。ポカリスエットに合わせて“水”を感じさせる音が入っていたり、聴いた瞬間に鳥肌が立ちましたね。もともとPUNPEEさんの音楽は好きで、ラッパーとしてはもちろん、トラックメイクのこだわりも素晴らしくて。今回の曲も自分一人では絶対に作れなかったし、本当に一緒に制作できてよかったです。PUNPEEさん、超優しいんですよ。コード進行の雰囲気も話し合いながら作ってくれたし、僕みたいな素人にいろいろ教えてくれて。いい経験をさせてもらいました。
——PUNPEEさんのラップも素晴らしいですよね。
そうなんですよ! 「決意みなぎれば」という歌詞は『UNDERTALE』にも出てくるフレーズなんですけど、引用の仕方がすごくいいなと。あと<恥ばっかかいて/汗ばっかかいて/イビキばっかかいて/未来へのラフスケッチを描いている>というところのリズムのハマり具合もピッタリで。すごく染みるし、泣きそうになりましたね。
——imaseさんの生々しいボーカルも印象的でした。レコーディングはどうでした?
楽曲制作のチームが僕を選んでくれた理由の一つに、「実家で録ってる歌声がいい」というのがあって。なので「Pale Rain」のボーカルも、TikTokに投稿するときと同じように、自分の部屋で録りました。完パケしたときはめちゃくちゃ達成感があったし、「いいものを作れた」という嬉しさもありましたね。CMの映像もクリエイティブだったし、改めて「すごいプロジェクトに参加させてもらったんだな」と実感しました。今もちょっと「ホントに自分が?」という驚きもあるんですけど(笑)。
——imaseさんが手がけた歌詞についても聞かせてください。<本当は何がしたいの><思いとどめて/声に出すのは/今>など、直接的なメッセージが込められていますね。
CMの柳沢翔監督とも直接話をさせてもらって、「FIND THE WAY」というテーマだったり、高校生くらいの年代の人たちが抱える“言いたいけど言えない”感じ、口つぐんでしまうを様子を歌詞にしました。僕自身にとっても「FIND THE WAY」というテーマは書きやすかったですね。去年、楽曲をアップしはじめて、1年ちょっとでここまで来て。この間に感じたことや考えたことも込めたので。
——機材を揃えて、曲を作りはじめたときのことも?
そうですね。DAWソフトやMIDIキーボードも安くはないし、かかった費用くらいは取り返したいなと(笑)。自信があったわけじゃないんですよ。自分より歌が上手い人なんて周りにもザラにいたし、プロになれるなんて思ってなくて。ただ、曲作りが自分にハマったんですよね。それまでにいろんなことに挑戦して、ブログとかを書いてたこともあったんだけど、すぐに「ダメだな」ってあきらめて。でも、音楽はとにかく好きだったし、やってみようという気持ちになれたんですよね。
——しかも、すぐに楽曲がバズって。
曲がバズったのは、運もあると思います。「この人はどんな時期でも売れていただろうな」というアーティストもいるけど、僕はそういうタイプではなくて。曲調や声質も含めて、この時期に上手くハマったんだと思いますね。
——imaseさん自身の作風と今のトレンドが合致した?
そういうところもあるのかなと。もともと自分の声にコンプレックスがあったんですよ。バンドサウンドよりは、ゆったりとしたチルっぽいR&Bが好きだったんですけど、自分の声はキンキンしすぎていて、地声で張って歌ってもマッチしなくて。
——SIRUPさん、iriさん、VivaOlaさんなど、R&B系のアーティストを良く聴いていたそうですね。
はい。でも、自分の声には合わないのかなと……。いろいろ試しているうちに「裏声だったらマシかな」と思ったんですよね。歌っては録音して、聴いて、また歌って。そうやって繰り返して練習いるうちに、ある程度、安定して裏声を出せるようになって。海外のR&Bアーティストには裏声で歌う人がけっこういるんだけど、日本のメジャーシーンにはそんなに多くないから、これだったらいけるかもいう狙いもありました。
——自分の資質を見極めながら、今のスタイルに辿り着いた。
そうですね。やりたいこともあるんですけど、それ以上に“やれること”を探してたところはあると思います。
——音楽制作をはじめてわずか1年ちょっとで、ここまで注目されて。素晴らしいスタートだと思いますが、今後はどんな活動になりそうですか?
「Pale Rain」もそうなんですけど、「え、ホントに?」ってビックリするようなお話をいただいていて。スタッフの方々、オファーをくれるみなさんの期待に応えられるようにがんばりたいです。あと、これはちょっと変わった考え方かもしれないですけど、初心者の方が音楽をはじめるきっかけになりたいんですよね。TikTok以外にも発信する方法はいろいろあるし、機材や曲の作り方を含めて、いろいろ発信していきたいなと。「imaseの影響で自分もやろうと思った」「マネして曲を作りはじめた」という人が増えてくると嬉しいですね。
——なるほど。ライブに関しては?
やってみたいです! ライブはまったくやったことがないし、自分がどこまでやれるのかも把握していないので、ちょっとずつ着実に経験を積めたらなと。この前のセカオワさんのライブでも感じたんですけど、ステージから見る景色って、絶対すごいじゃないですか。インターネットでファンのみなさんとの交流はあるけど、直接目にしたことはないので……。自分の曲を知ってる方がたくさん集まるって、本当にすごいことだなと思いますね。
取材・文=森朋之 撮影=永田拓也