『藤山寛美三十三回忌追善 喜劇特別公演』娘 藤山直美、最後の追善公演で「お客様の心に一番大事なものが残ったら」
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『藤山寛美三十三回忌追善 喜劇特別公演』 撮影=田浦ボン
5月3日(火・祝)から大阪松竹座にて『藤山寛美三十三回忌追善 喜劇特別公演』が開幕した。演目は「愛の設計図」と「大阪ぎらい物語」。合間には「〈映像〉藤山寛美 偲面影」も上映される。初日前日の5月2日(月)、公開ゲネプロと取材会が行われた。
渋谷天外
「愛の設計図」は「藤山寛美 二十快笑」のひとつにも数えられる名作で、時は昭和45年、大阪万国博覧会の頃を時代背景に、ある小さな町の工務店が物語の舞台となっている。寛美が演じた工務店の現場監督、石原堅造を松竹新喜劇の座長である渋谷天外が、石原の下で厳しい教育を受ける大卒で一級建築士の資格も持つ現場作業員の間文太郎を寛美の孫の藤山扇治郎が勤める。
藤山扇治郎
文太郎に厳しく指導する石原の姿は、松竹新喜劇の師弟関係にあたる天外と扇治郎の関係性そのままのように見える一方、扇治郎が3歳の時に亡くなった寛美が、時空を超え、作品を通じて孫へ叱咤激励しているようにも見え、胸に迫るものがあった。石原の厳しい指導に悔しさをにじませる文太郎の表情も印象的だ。朗らかな役柄が多い扇治郎だけに、新たな一面で楽しませてくれた。
「愛の設計図」
物語の背景は高度経済成長真っただ中の日本。誰もが夢と希望を抱き、人々は活気に満ちている。そんな時代背景も世代によっては懐かしくもあり、新鮮でもあり、松竹新喜劇が時代を映した市井の人々の物語であることも実感した。
藤山直美
藤山直美主演の「大阪ぎらい物語」は、大阪船場の木綿問屋「河内屋」の物語。直美扮する一人娘の千代子は自由奔放で風変わり。そんな千代子が手代の秀吉と結婚したいと言い始めたところから物語が始まる。同作も寛美の代表作で、その役を女性に書き換え、直美が演じる。
「大阪ぎらい物語」
のっけからパワー全開の直美、登場するなりグッと引き込まれる。河内屋の長男で千代子の兄、新太郎を演じるのは桂米團治、「わかだんさん」の風情がよく似合う。河内屋の御寮さん(女主人)おしずの右腕となって店を支える叔父役は林与一。登場人物の中ではひとり洋装で、世相に敏感な人物だということも伝わってくる。そして、おしず役の大津嶺子が重厚な存在感を放つ。
「大阪ぎらい物語」
物語の後半、千代子とおしずが対立する場面では手に汗握る緊張感を漂わせ、観ているこちらもハラハラドキドキ。だが、ラストシーンでは一転、母と娘二人だけの時間が涙を誘い、しっとりとした情感に包まれた。
「大阪ぎらい物語」
「〈映像〉藤山寛美 偲面影」は、「桂春団治」や「愚兄愚弟」ほか、寛美の代表作の名場面をぎゅっと凝縮。変幻自在に役を演じる姿も楽しめる。最後に紹介された「桂春団治」の一場面のセリフは、今を生きる人々へのメッセージのようでもあり、「昭和の喜劇王」と謳われ、いまや伝説ともいえる寛美がぐっと身近に感じられた。
「〈映像〉藤山寛美 偲面影」
公演の最後には直美による口上もある。こちらも最後まで楽しんでほしい。
藤山直美
公開ゲネ後、直美と扇治郎が取材会に応じた。先日の製作発表では「娘として、「何回忌」という追善公演はこれで区切りとして、最後の公演とさせていただきたいと思っております」と、決意を語っていた直美。「大阪ぎらい物語」のゲネを終えての感想を尋ねると、「家族の情愛であったり、自分のことより人のことを一番に考える人であったり、今で言う社長さんと従業員の関わりとか、(観客の心に)一番大事なものが残ったらと思います」と話した。
藤山扇治郎
「愛の設計図」に出演した扇治郎も「偉大な作品で身が引き締まりますが、先輩方に助けていただいています。直美の伯母さんも頑張ってこの公演を盛り上げてくださるので、僕自身は微々たる力ですが、一生懸命、頑張っていきたいと思います」と意気込んだ。
公演期間中、大阪松竹座の2階ロビーに藤山寛美の公私を収めた写真が飾られる。それらの写真から改めて思うことを尋ねると、直美は次のように話した。「どない見てもね、私より全部、年下なんですよね。しかも60歳の写真とは限りませんよね。たとえば「銀のかんざし」の舞台写真はもしかしたら52歳かもわからないし、「お家はんと直どん」なんて、もしかしたら30いくつの時かもわからない。そんなことを考えると、やっぱり名優とか名人の方というのは、年齢は全然、関係ないですね」。
藤山直美
また、「寛美は寸法がいい」とも話す。「指の長さにしても、立った時とか、横向いた時の草履の長さとか、ふっと手をやった時の手の長さとか、同じ役者として見ても寸法が良い方やなという感じがします。なで肩でね。これがこの人が持って生まれた才能やと思います」。
もしも寛美が今、二人の活躍を見た時、どんな言葉をかけただろうか。「とにかくお客さんに喜んでもらえよと言うと思います。今、DVDとかYouTubeとか、どこでも観られますけども、わざわざお金を使って大阪松竹座まで来ていただいて。松竹さんは万全の体制でお客様をお迎えしてますけれども、まだまだコロナ禍にあります。本当に頭を下げて、お客さんに喜んでいただかなあかんぞと、もうそれだけを考えてやりなさいと言っていると思います。また、「ただ笑ってもらったらいいという芝居ではない」と。お芝居の芸と品を大事にして舞台に立ちなさいと言ってるような気がします。けど、一番私に言ってることは「人に金を借りるな」です(笑)」。
藤山直美(右)と藤山扇治郎
「皆さんにご迷惑かけずに一生懸命、お役を勤めさせていただかないとあかんぞ」と言うと思うと扇治郎。「1日1日気を抜かずに、体調も気を付けて、千穐楽まで無事に勤めさせていただけるよう、頑張れよとおっしゃっているように思います」と気合を入れた。
取材・文=Iwamoto.K 撮影=田浦ボン
公演情報
二等席 7,000円
三等席 4,000円
2等席 9,000円
3等A席 5,000円
3等B席 3,000円
桟敷席 14,000円
二等席 8,000円
三等席 4,000円
特別席 14,000円