最高齢は94歳、松竹新喜劇劇団員の健康の秘訣と正月の過ごし方とはーー久本雅美が南座10回目のゲスト出演『新春お年玉公演』まもなく開幕
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左から曽我廼家一蝶、曽我廼家桃太郎、渋谷天笑 撮影=井川由香
2026年で京都・南座に出演するのは10回目となる久本雅美。松竹新喜劇へのゲスト出演作『初笑い!松竹新喜劇 新春お年玉公演』が、2026年1月2日(金)から7日(水)まで上演される。同公演は、昼の部のAプロでは「まず健康」、夜の部のBプロでは「淡路島 ふる里の橋」と昼夜別プログラムで構成。Aプロ「まず健康」(茂林寺文福作、川浪ナミヲ演出)は、銭湯を営む信一が“親孝行”をこじらせて母・松子を過保護に扱うことから騒動が広がる人情喜劇。Bプロ「淡路島 ふる里の橋」(舘直志作、川浪ナミヲ演出)は、自然豊かな淡路島を舞台に、両親を亡くして妹たちを支えてきた修一を中心とした笑いと涙の物語をおくる。
SPICEではまさに舞台を作り上げている最中の稽古場で、松竹新喜劇の渋谷天笑、曽我廼家一蝶、曽我廼家桃太郎の鼎談を実施。同日に行われ久本と藤山扇治郎も登壇した取材会の模様もあわせてお届けする。
●劇団員の一番の健康対策は……
――南座でのお正月の公演もすっかり定着しましたね。お三方の年末年始の過ごし方を教えてください。
曽我廼家一蝶(以下、一蝶):僕はわりかし毎年同じことをするのが好きで。年末は鴨鍋を食べてます。
渋谷天笑(以下、天笑):え? 鴨川の鴨ですか?
一蝶:家で鴨鍋をするのよ。鴨川の鴨じゃないです。南座の公演が千穐楽を迎えたらちょうど“えべっさん”がありまして、“えべっさん”に行ったら年が明けた感じがするので、そこまでが年末年始のひと括りという感じです。
天笑:僕は毎年、12月30日まで稽古して、12月31日・1月1日がだいたい休みです。31日は嫁さんの実家に行きまして、1日は和歌山の天外さんの家に行きます。1月4日は僕の誕生日で、ファンクラブのイベントを南座の近くでやっています。ありがたいことに、毎年京都で誕生日を迎えさせていただいています。
曽我廼家桃太郎(以下、桃太郎):12月31日が休みなので、その日の昼くらいからスーパーに行って、お寿司と、年越しそば用のエビ天とか、そばとか、かまぼことか、全部いつもよりちょっと高くなってるんですけど買いまして。夜はテレビを観ながらお酒を飲んで、一人でお寿司とかおそばを楽しんでいます。そしてNHKの『ゆく年くる年』を正座して観て、年を越すという感じです。
曽我廼家一蝶、渋谷天笑、曽我廼家桃太郎
――Aプロ「まず健康」のお役についてお聞かせください。
天笑:僕は藤山扇治郎さんのお兄ちゃん、信一役をやらせていただきます。信一は久本さんが演じられるお母さんをめちゃくちゃ過保護に扱います。外に出たら危険がいっぱいなので、なるべく家にいて、家で美味しいもの食べてくださいと大事にするのですが、それがお母さんにとっては嬉しいことではなかったみたいな。久本さんとがっつり絡ませていただくことが僕もすごく楽しみです。フラットに楽しんでいただける作品だと思います。
一蝶:金融業の星田という役です。天笑くんと絡んで、少しでも笑えるようなシーンになればなと思っております。
桃太郎:僕は天笑さんのお風呂屋さんで働かせてもらっている従業員でございます。「言ったらあかんよ」と言われていることをすぐしゃべってしまうという役柄で、非常に等身大の役です。
――ではタイトルにちなんで、体が資本のお三方は普段、どんな健康対策をされていますか?
桃太郎:2回ほどコロナになったんですけど、それ以降、あまり風邪を引かなくなったんですよね。何でか分からないんですけど。自分でご飯を作るので、お野菜をいっぱい取るようにはしてます。
天笑:僕はスーパー不摂生で、毎晩飲みに行って、朝方まで呑んでます。
――お酒を吞んで、太ることはないですか?
天笑:太りますよ。ちょっと太ってくるとこれではダメだなと思って、急に走ったりしています。嫁さんの実家の前が田んぼなので、そこの周りを走ったりとか、お風呂に長い間つかって汗をかいたりとか、太ったなと思うとそういうことを始めます。
桃太郎:こないだも思い立ったように毎日水泳に行ってましたもんね。
天笑:水泳ちゃうからね。プールで歩いてました。
曽我廼家一蝶、渋谷天笑、曽我廼家桃太郎
――今も続けていらっしゃる?
天笑:いや、続けてないです(笑)。
一蝶:僕ね、健康なんですよ。風邪も年に1回、引くか引かんかぐらいで。朝は必ず常温の水を飲むとか、寝られるときは12時前に寝るとか。
天笑:それ、うちのお母さんがやってます。水を2杯くらいは飲む。朝に甘酒がいいらしいですよ。
一蝶:あとはビタミン剤飲むようにしてるとか、それこそ今は加湿器を必ずつけるとか、それくらいです。サウナが大好きやから、月に2、3回は行ってます。
天笑:やっぱサウナは健康にいいんかな。サウナ行こかな。
一蝶:ただ、こっからですよね。私が今、44歳ですから。50歳、60歳の声が聞こえてきた時に、みんなガクッと来るんちゃいますかね。
天笑:40になってから体質変わりましたもんね。痩せにくくなった。
――松竹新喜劇の先輩方はいかがですか?
一蝶:先輩方は皆さん元気です。元気やけど、「ガクッと来るなぁ」とかっていう話は聞きます。肩が上がらんとか、膝がどうとか。
――俳優さんは舞台に立つことが一番の健康法でしょうか。
一蝶:そうやと思いますよ。髙田(次郎)兄さん、94歳ですよ。この間もテレビでようしゃべってはりました。喋り倒してましたよ。
桃太郎:すごいですよね。
天笑:みんな、稽古が始まったくらいは「もうしんどい」と言っていても日に日に元気になっていくんですよね。
桃太郎:やっぱり舞台に立っているときの気の張りようが健康の秘訣かもしれませんね。
曽我廼家一蝶、曽我廼家桃太郎、渋谷天笑
――続いてBプロ「淡路島 ふる里の橋」のお役を教えてください。
一蝶:「淡路島 ふる里の橋」は大好きな演目です。長年、藤山寛美先生がやっていらした店主・修一役をさせていただきます。修一役は、大昔は(二代目渋谷)天外先生がやっていらして、その時、(藤山)寛美先生が弟役でした。寛美先生が修一役に回ってからは、妹に設定を変えまして、月城小夜子さんがやっていました。今回は私が兄貴で、妹が戸田ルナさんという配役です。家族思いの、すごくあったかい物語になっております。
天笑:僕は後輩の能勢優菜さんの相手役で、彼女と絡むのは初めてなので楽しみにしております。
桃太郎:Bプロの方は、好きな子がいるんですけども、その好きな子にフラれて、コロッと態度を変えるというような、こちらも非常に等身大の役です。本当にAプロもBプロもやりやすいです(笑)。
――エキストラの方も出られるそうですね。エキストラの皆さんに向けて、舞台に立つ上でのアドバイスをお願いします。
一蝶:二日酔いでないことと、風邪を引かないことくらいじゃない? ほんまに。
桃太郎:あとは楽しんでもらえれば。
一蝶:そうですね。楽しんで南座の舞台に立っていただければ大丈夫じゃないですかね。
天笑:「お客さんに見られてる」と考えたらビビってしまうかもしれませんが、舞台の上に立っていると1階席より目線が上なので、客席に向けて目線を下げることになるんですよね。2階席、3階席はまた違いますが。僕は今でも舞台に立つと緊張するのですが、そのことにふと気づいて以来、お客さんに対して緊張することがなくなったんです。なので、エキストラの皆さんも、そういうふうに思って気持ちを切り替えたら、緊張もしなくなるかなと思います。
――ありがとうございます。取材会で、お稽古では久本さんがアイデアを出されるというお話もありましたが、お三方にとってどんな刺激になっていますか?
一蝶:我々はどうしても旧作に挑戦することが多いので、先輩方のやり方がこびりついてる部分があります。松竹新喜劇の世界観を逸脱してはいけないところがある中で、久本さんはうまく調整されていますね。なかなかアイデア出すのは難しいみたいですが、久本さんだからこそ成立するコミュニケーションがあるように思います。
天笑:久本さんに出演していただく意味でもありますが、久本さんにしかできないことをやっていただきたいと思いますし、久本さんを観に来てくださるお客様もたくさんいらっしゃるので、うちに染まる必要もないと思います。そして、久本さんがやりやすいようにやっていただくのが僕らの仕事かなと。姉さんも最初の頃は思っても言えないことがたくさんあったと思うんですけど、今はもうだいぶ馴染んでいただいて、自分が出ていないシーンでも「あそこはこの方がおもろいんちゃう?」と言ってくださって、それもすごく刺激になるし、ありがたく思います。
桃太郎:久本さんの頭の回転の速さ、言葉のチョイスがもう素晴らしくて。身近にそういう発想力の人がいて、一緒にお芝居ができる。その楽しさがすごいです。「ここは、こうしたらどうや」と教えてくださるのも、僕からしたら「うわぁ、そんなことを考えているんですね」という。すごく刺激をもらいますし、どうやったらああいう発想力になれるのか、もう謎ですね。
――久本さんに直接お聞きしたことはありますか?
桃太郎:聞いたことはあると思うんですけど、覚えてないですね。そこがもう僕と姉さんの違いです。
松竹新喜劇の劇団員がよく取るポーズで
――今、松竹新喜劇の世界観というお話もありましたが、例えば大阪弁はこのイントネーションとか、ずっと守られているものはありますか?
一蝶:アクセントは厳しいですね。僕らが何年もやっていても、先輩からしたら「あそこは違う」と。「今の時代では合っているけど、あの時代のアクセントはこっちじゃないかな」みたいなアドバイスをいただいたり……。あと、これは絶対的なルールではないですが、人を直接傷つけない、人が死なないことですね。悪口を言うにしてもオブラートに包む、ちょっと洒落っ気のある言い方をする、人をいじるにしても直接的な表現ではなく違う言い方をする。そこが「松竹新喜劇って品があるよね」とか、「人を傷つけないよね」と言ってもらえるゆえんだと思いますし、ほっこりするというのもそういうところから出てきている気がします。
天笑:僕らがよく言われるのは「楽屋が出る」。例えば脱いだ履物を直すとか、のれんを両手でくぐるとか、そういうことをきちんとしていないと、舞台でわかってしまう。劇団員になってから教えてもらいました。勉強になりますね。
――そういったことは直接教えてもらうのでしょうか?
天笑:舞台上で先輩のお芝居を見て覚えています。
一蝶:僕らの楽屋着は浴衣なんですよ。それは普段から着物に慣れるため。そうしたら、舞台上で何かするにしても、すっと自然に袖に手を添えるとか、そういうことができるようになるんですよね。
天笑:松竹新喜劇の劇団員はそういったことが当然のようにできるので当たり前と思っていましたが、外部の作品に出演させていただいて、そうじゃないんだな、違うんだなと感じることもあります。よその現場に行ったら気づくことが多いです。
桃太郎:所作もやっぱりきれいですし、僕の勝手なイメージですけど、そこからつながって、皆さんのお芝居もきれいやなって思います。丁寧に演じていて、勢いだけで行くことがなくて。すごくきれいなお芝居されているのも、今、天笑さんや一蝶さんがおっしゃったことに通じますね。
●久本雅美「元気いっぱい暴れまわりたい」
本公演の取材会では、松竹新喜劇の藤山扇治郎、天笑、一蝶、桃太郎が、そしてゲスト出演の久本雅美が登壇。公演への意気込みを語った。
取材会では「2026年に情熱を持って取り組みたいこと」というお題も出され、それぞれ次のように答えた。扇治郎は「大団円」。「病気や風邪にも負けず、無事に千穐楽を迎えたい」と語った。天笑は「子育て」。多忙のためなかなか我が子の顔が見られないそうで、「子どもに会えたときは情熱を持って愛を注ぎたい」と近況を報告した。一蝶は「架け橋」。「地方でも“松竹新喜劇を観たい”というお声があるので、いろんな地域と松竹新喜劇を結べたら」と、巡業も視野に入れた展望を述べた。桃太郎は「引っ越し」。自身の住まいが公共事業計画の影響を受けていることに触れ、引っ越しへの気合を入れた。そして久本は「老化防止」。「筋トレ、ボイトレ、整体を頑張っています。皆さんの前で元気いっぱい暴れまわりたい」と笑いを誘った。
左から曽我廼家桃太郎、渋谷天笑、久本雅美、藤山扇治郎、曽我廼家一蝶
Aプロで久本の息子・健次役を演じる扇治郎。「久本さんが南座にゲストで来られるのは今回で10回目なんです。だからほんまの母親みたいな感じなんです。1年に1回しかお会いできないですけども、舞台上でも、普段でも、気にかけていただいて、劇団の方以外で一番共演させていただいているのはお姉さんなんですよ。今回、息子役をさせていただけるということはとても嬉しいですし、久本さんへの感謝の気持ちを込めて、舞台上でもそういうところが出ればいいなと思います」と語った。
Bプロでは巡査役。「淡路島は祖父の藤山寛美とご縁がありまして、祖父も淡路島に行かせていただきました。この作品が南座で上演させていただくのは久しぶりですし、そこに自分が初の巡査役で出させていただきます。僕の勘違いで一蝶さんを窮地に追い込んでしまいます」。
Aプロで天笑と扇治郎の母親役を演じる久本。「親思いの二人が、お母さんに健康になってもらいたいといって私を取り合うんですよね。私はそんな二人に翻弄されるのですが、そこがおもしろいなと思います。私のシャキシャキとした部分と、外も出られへんわ……とうちひしがれている部分とを使い分けながら、芯の強い、あったかい、面白いお母ちゃんを演じたいと思います。私らしく、皆さんに喜んでいただけるように懸命に頑張ってまいります」。
そして、「10回の節目ですけれども、何年も何年もまた呼んでいただけるように、私自身アップデートしながら、来てほしいと言われるような存在であり続けたいと思っています」と意気込んだ。
取材・文=Iwamoto.K 撮影=井川由香
公演情報
ほか松竹新喜劇劇団員
『まず健康』&新春ご挨拶