ダンサーからドラマーへ転向し、Nissy、BoA、EXILE TAKAHIRO、ORANGE RANGE、Mrs. GREEN APPLE、織田哲郎、GReeeeN、aiko等のサポートで活躍する神田リョウ。異色のキャリアに迫る【インタビュー連載・匠の人】
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■自分たちの仕事は大工さんみたいなものだと思うんですよ
――BoAさんのような知名度のあるアーティストに関わると、他の仕事にもつながりそうですね。
それはすごくありました。BoAさんのライブプロデューサーの方は、Nissyも担当されていたので、数年後に彼のアリーナツアーやドームツアーにも呼んでもらって。メジャーなアーティストは規模感も大きいぶん、関わる大人の数も多いし、人づてに「BoAのツアーに参加してたドラマーはどう?」と提案してもらえることもあって、いろんな現場に呼んでもらえるようになりました。基本、自分たちの仕事は大工さんみたいなものだと思うんですよ。「家を建てたい」と発注してもらわないと仕事にならないというか。もちろん、いい家を建てる=いい演奏をすることが前提ですけど、何かあったときに思い出してもらえるかどうかが大事なので。
――なるほど。今名前が出たNissyさんをはじめ、EXILE TAKAHIRO、ORANGE RANGE、織田哲郎さんなど、関わってきたアーティストのふり幅がすごいですよね。
ORANGE RANGEのツアーの翌日に美川憲一さんのライブに参加させてもらったこともあります(笑)。確かに幅は広いですけど、それぞれに面白さがあるし、スケジュールが許す限り、全部やりたいんですよね。オファーを頂けたということは、先方のクライアントや誘ってくれたバンドメンバーには何らかのイメージがあると思うんですよ。であれば、自分にやれるはずだと。僕自身も「面白い」と思えば、すぐに「ぜひ!」ってなるタイプ。プライドはありますけど、変なこだわりはなくて。僕が叩くと先方がイメージしているものとは違う形になるかもしれないけど、期待してくれる人がいるんだったら応えたいという思いによって今のスタイルが成り立ってるんじゃないかな。
――仕事の幅が広がることで、プレイスタイルの引き出しも増えるでしょうし。
そうですね。最初の頃はジャズの現場が多くて、ピアニストの桑原あいさんとベーシストの森田悠介とトリオを組んでいたこともありました。ジャズの世界は猛者がひしめき合ってるんです。「こんなにすごい人たちのなかで戦うのか」という思いもありながら、自分としてはもっといろんなジャンルでやりたいという気持ちもありました。あと、東京ドームみたいな大きいところでもやりたかったんですよね。
――ジャズに特化すると、ドームやアリーナで演奏するのは難しいですよね。
お客さんとの距離が近いところで演奏することが多いですからね。クラシックの素養はないんですけど、ポップスやロックといったコンテンポラリー音楽なら対応できると思います。時期によってロックが多かったり、ブラックミュージック系が増えたり、「今はジャズのシーズンだな」ということもあるんですが、最近のJ-POPのアーティストは、「自分はこのサウンド」というこだわりを持たない柔軟な方も多いじゃないですか。一つの現場でいろんなジャンルを求められるし、ミュージシャンも対応力が大事。「あいつはいろいろ叩ける」というのがちょうどいい受け皿になってるのかもしれないです(笑)。
――オールマイティに対応できることが、ドラマーとしての強みになってるんですね。
今はそうですね。以前はかなり迷っていたし、悩みもありましたね。仕事が増えてきていろんなジャンルが叩けるようにはなったけど、そういうタイプってブランディングが難しいんですよ。“何でも屋”って弱いじゃないですか。なので、確固たる信念というか、「自分はこういうタイプのドラマー」という肩書が欲しいと思ってました。ジャンルに特化した専門店の方が強いというか、「自分もそうなりたい」とコンプレックスを感じてた時期もありました。
――なるほど。
ちょうどその時期にタップダンサーと知り合って、セッションする機会があって。ヒューマンビートボクサーの方もいたんですが、そのセッションがすごく楽しかったんですよ。「いろんな人に見てほしいね」という話になって、試しに渋谷でストリートライブをやってみたらめっちゃ人が集まって。その後も何度かやったんですが、いつも人が集まるんです。歌だけ、音楽だけ、ダンスだけで集客するのは難しいけど、バンドとダンスが一緒になるとこんなに注目してもらえるんだ!と。そこからTAP JAM CREWというチームを立ち上げたんですけど、小学校を回ったり、いろんな経験ができて。タップダンスはパッと見て何をやってるかわかるから、子どもにもウケるんですよね。そのときに気付いたのは、「自分は誰よりもダンスビートがわかるドラマーかもしれない」ということだったんです。それまで「ダンスをやってたからドラムに向いてる」ということは考えたことがなかったし、今もグルーヴを理解しているとは思ってないんですが、「ダンサーの目線で叩くことはできる」と。そのときに初めて「こういうブランディングもありかもね」と思ったんですよね。
――ダンサーのことがわかるドラマー。確かにユニークですね。
そうなんですよね。今は踊ってないですけど、ダンサーが気持ちいいと感じるところがわかるのは強みかなと。譜面にしたら同じリズムパターンであっても、踊れるグルーヴとそうじゃないグルーヴがあるし、それをジャッジできればどちらも叩けるので。ちょうどJ-POPの世界にも歌って踊るアーティストが増えていたし、そういう現場に呼ばれることも増えていきました。「ダンサー目線でビートを作るドラマー」って説明しやすいし、”ダンサー出身のドラマー”っていうのも戦闘力が高そうじゃないですか(笑)。そうやって自分のブランディングについて考えるようになったのは、プロとして活動を始めてからでしたね。
■自分の立場は人に決めてもらおうと思った。なので、ジャンルを狭める必要もない
――神田さんは後進育成のために「神田式ゆるふわドラム塾」を主催されています。Novelbrightのドラマーのねぎさんも神田さんのレッスンを受講したそうですが、教えることを始めたのは何がきっかけだったんですか?
上京した直後から人に教える機会はあったんですが、これは熱帯JAZZ楽団のカルロス菅野さんからいただいたアドバイスでもあって、当時は「あまり早いうちから教えることにかまけるのは良くない」と思っていました。まずは現場を増やして、「めっちゃ教えて、めっちゃ現場をやってる」みたいな状況にしたいなと。本格的に教えるようになったきっかけは、“#一日一グルーヴ”を始めたことかな。ドラムを叩いてる動画を1日1本アップしてたらチェックしてくれる人が増えて、「教えてください」と連絡が来ることが増えたんです。
――“#一日一グルーヴ”で神田さんのことを知った人も多そうですね。
唯一の営業コンテンツですからね(笑)。さっきもお話しましたけど、いろんなジャンル、いろんなパターンを叩けることを強みにしようと思った時期に始めたんですよ。ヒカキンさんの影響もありますね。その頃、ヒカキンさんが毎日動画を上げてて、「めちゃくちゃすごいな」と思って。
――なるほど。ミュージシャンもプロモーションは不可欠なのかも。
さきほど大工さんの話をしましたけど、僕らのお仕事はほとんど“知ってもらう”ことから始まると思っていて。”誰かから頂くお仕事”がほとんどで。自分で作品を作って、それを売って利益を得るのではなくて、発注してもらったり、現場に呼んでもらわないと仕事にならない。そのためにはとにかく知ってもらわないと。「このお店の名前、聞いたことがあるな」という方が入りやすいじゃないですか(笑)。あと、自分の立場は人に決めてもらおうと思ったんですよ。なのでジャンルを狭める必要もないし、ドラムを楽しく叩いて、楽しく練習して、「これが好きなんですよ」と機嫌よくしてればいいんじゃない?って。
――腕があって、機嫌がいいミュージシャン。現場の雰囲気もよくしてくれそうですね。
本当にそうなんですよ。一流のミュージシャンと仕事をさせていたくことも多いですけど、みなさん本当に明るし、いい意味でアホ(笑)、つまりちょっとハミ出してるんですよね。そこは僕も見習いたいと思ってます。SNSもそうで、いかに機嫌よく発信するかが大事なんです。「これ、超おいしいよ。よかったら食べてみて」って言われたらイヤな気持ちにならないじゃないですか。でも、「あんなの食ってるヤツ、信じられない」みたいな言い方だと、仮に内容が正しくても届かない。虫も人も明るいところに集まりますから。
――素晴らしい。今後のビジョンについても教えてもらえますか?
知らない世界を見てみたいタイプなので、いろんな可能性を模索して、興味のあることを続けていきたいですね。少しずつ海外に行きやすい雰囲気も出てきてるし、いろんな国のアーティストとも仕事がしてみたいです。世界に出たい!という大それた話ではなくて、初めての人と演奏するのは楽しいし、文化的背景が違えばいろんなことを感じられるはずなので。
――ドラムを始めたときの「楽器ができればコミュニケーションの幅が広がる」という動機は、今も同じなんですね。
そうですね。もしドラムを叩いてなかったら絶対に出会えなかった人ばかりですからね。それはすごいことだなと思ってます。
取材・文=森朋之