向井太一 “近い将来への希望”を届けた『ANTIDOTE』リリースライブ、LINE CUBE SHIBUYA公演をレポート
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向井太一
向井太一 Release Live -ANTIDOTE-
2022.6.18 LINE CUBE SHIBUYA
6月18日(土)、向井太一がLINE CUBE SHIBUYAにて、アルバム『ANTIDOTE』のリリースライブを開催した。
“解毒剤”というタイトルを掲げた今作『ANTIDOTE』は、向井が昨年開催した『COLORLESS TOUR 2021』がキッカケになって生まれたそうだ。久々の有観客公演で「人前で歌うことの幸せを再確認した」ことにより、「次のアルバムは、みんなで一緒に盛り上がって、いまはまだできないかもしれないけど、できるときが来たら声をあげて、会場がひとつになって盛り上がれるようなものを目指したかった」と、この日のMCで話していた。また、自身のYouTubeチャンネルにアップしていた動画によると、本作には“脱チル”という裏テーマもあったとのこと。それもあって『ANTIDOTE』は、ここ数年で失われてしまっていたライブやパーティーといった夜の集いが放つ熱や高揚を呼び覚ますものであり、日頃の生活や、いまだ尾を引くコロナ禍の影響で心に溜まってしまった“毒”を解くような作品になっていた。身体に強く訴えかける楽曲が多いこともあり、それらがライブという空間で繰り広げられることで、凄まじい興奮を得られるであろうことは、ほぼ確定。期待が高まる中、夜の帳が下りていくように、場内がゆっくりと暗転していった。
向井太一
この日のサポートメンバーである松江潤(Gt)、村田シゲ(Ba)、MANABOON(Key)、山下賢(Dr)、George(マシーン)が定位置に付くと、鳥のさえずりと、温かな鍵盤の音色が聴こえてくる。奏でられているのは、『ANTIDOTE』のラストナンバー「Portal」のフレーズだ。そこへバンドメンバーが柔らかく音を重ねていき、心地よい空気が場内に満たされた……が、すぐさまそれを切り裂くように、「Special Seat」の鋭利なギターが飛び込んでくる。そして、向井がステージに登場。大きな拍手が送られる中、ダンサーのRYUSEI、MITSUBA、NOBUの3人と共に踊りながら熱く歌い上げ、クールかつパワフルなステージングをいきなり見せつける。続く「Celebrate!」は、テンポこそミディアムなものの、迫力のある低音と、ダンサブルなバンドサウンドで会場を強く揺らしていくと、「Pretty Little Freak」のラテンフレーバーのあるADMサウンドに、客席からたくさんの手が挙がり、序盤戦からオーディエンスの興奮が高まってくるのがありありと伝わってきた。
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そんな極上の空間を作り出していた向井だが、この日の会場となったLINE CUBE SHIBUYAこと、渋谷公会堂には思い入れがあったとのこと。デビュー前、彼は会場付近のアパレルショップで働いていたこともあり、物販を持ってキラキラした笑顔で歩いているコンサート帰りの人達をよく目にしていたそうだ。
「自分もいつかデビューして、ここでライブをして、僕のファンのみんながキラキラした笑顔で“最高だった!”って言ってもらえるのがひとつの夢でした。まだ(ライブは)始まったばかりだけど、ちょっとだけその夢が叶いました。ありがとう」。
喜びを噛み締めるように話した後に届けられたのは、「デビューしてから初めて壁にぶち当たって、曲が書けなくなったときに、その思いをぶつけた」という「Blue」。薄灯りの中、ピンスポットを浴びながら、胸に湧き上がる悔しさを吐き出すように、その悔しさを前に進む力に変えていくように綴られた言葉達を、一際エモーショナルに届けていた。
向井太一
「心の中で一緒に歌ってください!」という一声で始まった「Bravest」から、ライブは一気に加速する。向井はステージギリギリのところまで前に出て、雄大なサウンドの中で力強く歌い上げると、ささくれ立ったギターと、重量感のあるドラムが突き刺さるロック色の濃い「ライアーライアー」を叩きつける。さらに、清涼感のあるダンスミュージックを彷彿とさせるサポートメンバーのセッションの後、衣装チェンジした向井が姿を現し、そのまま「Glitter Box」へ。〈なりふりかまわず踊り明かせ〉という歌詞の通り、息苦しい日常から解放するように、失われてしまったあの景色を取り戻すように、客席に向けて歌を放つと、「99'」ではMVで見せたダンスも披露。再び登場したダンサー陣と共に客席を盛り上げると、アルバムでも際立って躍動的かつ官能的な「Candy」をドロップ。最高潮まで高まった興奮を、多幸感たっぷりな「空」のゴスペルサウンドで、圧倒的な至福へと誘なっていくという流れがとにかく絶品! 光に満ち満ちたサウンドに包まれながら、向井は極上のフェイクを響かせていた。
向井太一
向井太一
「僕は、音楽でみんなにファンタジーを届けたいなって思ったんです」
残すところあと1曲となった場面で、向井はアルバム『ANTIDOTE』に込めた思いについて、客席に語りかけた。それは、前述した会場がひとつになって盛り上がれるものを目指したということと、もうひとつ。ここ数年は、コロナ禍で感じる悔しさや憤り、やりきれなさを作品から切り離すことが難しく、そこに気持ちを引っ張られながら楽曲を制作することが多かったが、今回のアルバムは「みんなが未来を見れるような作品にしたかった」とのこと。そのために、たとえば「99'」で描いているような、数年前は当たり前だったけれど、「いまの世界では叩かれてしまうようなこと」──つまり現実では叶えることが難しいファンタジーも、「近い将来への希望になれば」と思い、あえて綴ったそうだ。
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そして、次に披露する曲は、未来へ目を向けながらも、どうしても切り離すことができない現実が横たわっているなかで、「いまだから感じること、会いたい人と会えない時代だから感じたこと、会いたいからこそ感じる絆や繋がり」について歌った曲だと話し、観客に感謝を告げた後、ラストナンバーへ。ライブのオープニングを飾った温かみのあるシンセ音が再び響く。本編を締め括ったのは「Portal」だった。孤独や悲しみにそっと寄り添うように、抱きしめるように、柔らかで、それでいてしっかりとした強さを持った歌声をまっすぐに届け、温かな余韻を残したまま、本編の幕が降りた。
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アンコールでは、「みんなが会場を出て、キラキラした顔で帰れるように、自分自身を好きになれるように歌います!」と、「I Like It」を披露。ステージを左右に動き回りながら、客席と共に音楽を楽しんでいる向井の姿を見て、以前インタビューで、ライブで披露することで初めて作品が完成すると、彼が話していたことを思い出した。
ライブ会場で凄まじい熱を持って放たれた『ANTIDOTE』の楽曲群は、期待を超える以上の興奮をもたらしてくれたが、「いまはまだできないかもしれないけど、できるときが来たら」と話していたように、『ANTIDOTE』には、オーディエンスのシンガロングを想定して作られた楽曲も収録されていた。感染対策のため、残念ながらまだ観客は声が出せないこともあり、そういった点において、『ANTIDOTE』という作品は、まだ真の完成には至っていないのかもしれない。しかしそれは、この先に訪れる未来へのひとつの楽しみであり、それこそ「近い将来への希望」だ。また、向井は今回のアルバムについて、「聴く環境や状況によって全然変わると思うし、この先、姿を変えて、また聴けるようになると思う」とも話していた。いつの日か、アルバムに綴られている言葉がファンタジーではなくなったとき、また改めて、この曲達が多くの人達と共有されてほしい。「みなさん、必ず、また、会場でお会いしましょう!」と、笑顔で未来への約束を交わした彼の姿を見て、強くそう思った。
向井太一
向井太一
文=山口哲生 撮影=Tomohiko Tagawa
セットリスト
2022.6.18 LINE CUBE SHIBUYA
1. Special Seat
2. Celebrate!
3. Pretty Little Freak
4. YES
5. Yellow Rose
6. Ups & Downs
7. Blue
8. Ooh Baby
9. リセット
10. 道
11. Bravest
12. ライアーライアー
13. Glitter Box
14. 99'
15. Candy
16. 空
17. Portal
[ENCORE]
18. I Like It