YOSHITO、スズキケント、一寸先闇バンド出演 オフィスオーガスタ主催 新人発掘イベント『CANVAS vol.5』のオフィシャルレポート到着
『CANVAS vol. 5』
6月27日(月)に新代田FEVERでオフィスオーガスタ主催の新人発掘イベント『CANVAS vol.5』が開催された。本記事では、同公演のオフィシャルレポートをお届けする。
音楽プロダクション・オフィスオーガスタが運営する新人発掘・開発プロジェクト「Canvas」のニューカマー・ピックアップ・イベント『CANVAS vol. 5』が6月27日(月)新代田FEVERで開催された。前回に引き続き、有観客&配信のハイブリッドでの開催となった今回、出演した3組のパフォーマンスと会場のオーディエンスに、ライブハウスの熱気が戻ってきたことを実感させられた。
最初にステージに登場したのは、シンガーソングライター・YOSHITO。ウッドベース、ドラムス、キーボードを従えて自身はギターを担当するバンド編成でのライブを披露した。まず驚かされたのは、バンドとアレンジの完成度の高さ。1曲目の「Night Time Surfing」では、ソウル、ポップスをベースにゆったりしたメロディからギターソロパートでは一転ジャズに移行するなど、生きたグルーヴが心地良かった。次に目を見張ったのは、日本語の乗せ方だ。2曲目「なんで」では、“なんで”という語感から発展させてメロディを紡いでいくような実験的な試みが見られるなど、言葉一つひとつの発音そのものが音楽として成立していた。おそらくそこはある程度意識的にトライしていないとできないことなのではないかと思う。
YOSHITO
「遊園地の光景の中で人生の時間を重ねた瞬間があった」という4曲目「Roller Coaster」ではボーカリストとしての確かな実力と可能性を示した。言葉を噛みしめるように歌うヴァースから、コーラスではファルセットも駆使しながら駆け上がっていく、まさにタイトル通りの起伏のある展開がオーディエンスの体を揺らしていく。さらにリズムが加わって以降の展開は予想外。ミーターズを彷彿とさせるニューオリンズ・ファンク的なリズムに歯切れの良いリリックをアタックさせる器用さ、何より音楽的センスに舌を巻いた。様々な音楽的要素をほどよく混ぜるのではなく、組曲的な発想でコネクトさせているところがYOSHITOというアーティストの非凡さだ。ラストは「Blue Moon」。ループするリズムに合わせて言葉がフロウしていくボーカル、効果的に入るギターフレーズなど、持ち味を存分に発揮してフロアを沸かせた。
YOSHITO
YOSHITO
2002年生まれのシンガーソングライター・スズキケントはアコギによる弾き語りで登場。彼の最大の特徴は何と言ってもその声だ。時にすっとぼけた味わいがあるかと思えば、次の瞬間にはヒヤリとするほどの現実を背中に押し当てられるような鋭さがある。彼の声に含まれる、どこか先を見通してしまい、全ての結末がわかった上で今を生きているような醒めた感覚は、彼の書く歌詞にも色濃く反映されている。2曲目に披露した「アンモナイト」の中のこんな一節が印象的だった。
〈みんないずれ忘れなきゃいけない 愛してたあの歌も あの人も 生まれたところも〉
スズキケント
かつてベックが「ルーザー」の中で、〈俺は負け犬〉と気怠く歌っていたのと似たような衝撃があった。もちろん音楽的には似ても似つかないし、スズキケントの歌詞には「ルーザー」のような自暴自棄は含まれていない。ただ、その視線が透徹しているが故に、世の中(そこには自分自身も含まれる)の濁りを際立たせるかのような表現の深度には共通しているものがあるように感じた。4曲目の「もしも星が降るのなら」では、何気ない日常をスケッチしながらもある種の心理的ノイズのようなものが忍び込んでくる描写が秀逸だし、5曲目の「いつものように」で描かれるアンニュイさは若い世代ならではの感覚だろう。とは言え、そうしたものが全て諦念かと言えば、そうではない。そこには揺るぎない希望が確かに含まれている。7曲目「シンガーソング」の前にこんなMCをした。
「歌ったり演奏したりすることは誰かを照らすことだと思っていて、そういうものを毎回ライブで確かめながらやっています」
音楽をやる意味をストレートな言葉で表現したこの曲は、スズキケントというシンガーソングライターの最もピュアな部分を感じられるものだ。本格的に活動を始めてまだ1年。ここからどんな音楽を生み出してくれるのかが楽しみな逸材だ。
スズキケント
スズキケント
ラストに登場したのは、一寸先闇バンド。シンガーソングライターとしても活動する、おーたけ@じぇーむず率いる4人組バンドだ。楽曲から感じるのは、ポップス、ソウル、フォーク、ポストロックなど、とにかく様々な要素が一つの鍋の中でコトコト煮られて、何とも名付けようのないオリジナルな味(サウンド)になっている、ということ。おそらく、全ての楽曲のソングライティングを担っている、おーたけ@じぇーむずのさじ加減で出来上がっているものだと想像する。言うなれば、レシピの存在しない家庭料理のような親近感のあふれる音楽だ。1曲目「知らんがな」は、言葉のアタックとリズムのシンクロが心地いい独特のファンクネスを感じさせる曲で、3曲目「テキーラ」は跳ねるリズムが特徴的なカントリー風の酒場ソング。
一寸先闇バンド
弾き語りをしながら即興で挨拶の言葉を乗せていく、“ノープランMC”に思わず山口竜生(Syn)が「怖かったー(笑)」と本音を漏らす場面も。何が飛び出すかわからないこの感じ、ようやくライブの現場が戻ってきたなと感じられる。ここからは7月に発売予定のEPに収録される新曲を2曲続けて披露した。まずは浮遊感のあるメロディに思わず一緒に口ずさみたくなってしまう「ルーズ」。そして「意外と静かな街」はシリアスなメロディラインに魅きつけられる。
「夏めちゃくちゃ厳しいけど、生き延びようね」(おーたけ@じぇーむず)というMCで始まったのは、ラスト「高円寺、純情」。何があっても受け入れてくれる場所として描かれる“高円寺”がそのまま“ライブハウス”に重なった。
一寸先闇バンド
一寸先闇バンド
またどこかのライブハウスで――。ライブは非日常という人もいるかもしれない。確かにそれもそうだろう。けれど、少なくともライブハウスで行われるライブは日常と地続きなのではないだろうか。今回出演した3組が残していった余韻は、しばらく消えそうにない。
Text by 谷岡正浩 Photo by 永田拓也