<2015年末回顧>渡辺敏恵の「演劇」ベスト5

特集
舞台
2015.12.30
フェスティバル/トーキョー15『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』 撮影◇石川純

フェスティバル/トーキョー15『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』 撮影◇石川純

画像を全て表示(3件)

 

1位:フェスティバル/トーキョー15『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』(11/21~11/23 東京芸術劇場 プレイハウス)

2位:ゴキブリコンビナート『ゴキブリハートカクテル』(2/12~2/15 タイニイアリス)

3位:ブス会*『お母さんが一緒』(11/19~11/30 下北沢ザ・スズナリ)

4位:Co.山田うん『舞踊奇想曲 モナカ』(9/17~9/20 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ)

5位:RooTS Vol.03 寺山修司生誕80年記念『書を捨てよ町へ出よう』(12/5~12/27 東京芸術劇場 シアターイースト)

今年は年間の観劇本数がここ10年でもっとも少なかった。多くの話題作を見逃したのは残念だが、それでもいろいろ面白い舞台に出会えた。

1位の『地上に広がる大空(ウェンディ・シンドローム)』は、悪夢のようでありながら、想像力を喚起する美しい舞台だった。『ピーターパン』のネバーランド、銃乱射事件があったノルウェーのウトヤ島、そして年老いた男女が生演奏でワルツを踊る上海という3つの場所を行き来しつつ描かれる。のっけからウェンディを演じるリデルの自慰シーンがあったりして度肝を抜かれた。圧巻は、後半のリデルの怒涛のモノローグだ。マイクを持ち、身体をパワフルに動かしながら、世の中への呪詛を延々と吐き続ける。腹の底から出している迫力ある声で、挑発的にまくしたてられる言葉の数々に圧倒された。殊に母親や老いに対する憎悪は凄まじく、見ていて全身が抉られる。あまりの毒に耐え切れなくなったのか、はたまたこのようなスタイルに腹が立ったのか、途中退出する観客もちらほら。しかしリデルはそんなことにはお構いなしに、負のエネルギーを思う存分客席に撒き散らす。それをまともに受けてしまった観客は、自らの内面を暴かれ、居心地の悪い思いをしたのではないだろうか。私もまた彼女によって自分の暗部を覗き込まされた。それは今まで気づかなかった感情で、もしかしたらずっと気づかないでいたほうが幸せだったかもしれない。だがそういった形で自らを再認識することができたのは、やはり得難い体験だったと言えるだろう。

2位のゴキブリコンビナート『ゴキブリハートカクテル』は、惜しまれつつ4月に閉館したタイニイアリスでの最後の公演となった。アトラクション演劇シリーズ第三弾の本作では、4人1組となった観客が、小さな劇場空間に巡らされた真っ暗闇の迷路を彷徨いながら芝居に強制参加させられる。丸太を渡らせられたり、小さな船に乗せられて水が流れる滝を登らせられたり、ヤスデやゴキブリの入った箱に手を突っ込まされたり、ゴキブリのエキスで作られたという液体を飲まされたりと、今まで以上にハードな内容。ゴキコン観劇歴20年の私もさすがにびびった。役者たちは裸で、汚物や納豆まみれになっているし。過酷な観劇なのだが、なぜか終わった後は多幸感に包まれた。「やりきった!」という自分自身の達成感もあるし、ともに体験したほかの観客との間に芽生えた連帯感もある。けれどなにより、役者たちの捨て身のパフォーマンスに感動した。ハードでありながらハートフル。それがゴキブリコンビナートの魅力なのである。

3位のブス会*『お母さんが一緒』は、毒親である母親と三姉妹の物語を、温泉旅館を舞台に描いたもの。母親は舞台上には登場せず、三姉妹が母親や互いに対して抱いている積年の恨みつらみをぶちまける。40歳間近で独身、バリキャリの長女、美人で若い頃はちやほやされたものの35歳になり仕事も結婚もままならない次女、早々に結婚を決める29歳の三女。長女は美人の次女にコンプレックスがあり、次女は優秀な長女にコンプレックスを持ち、三女はドライ……という、三姉妹あるあるネタを挟みつつ、緻密な構成と巧みな台詞運びでグイグイ見せる。三姉妹の辛辣な会話から、母の重たさ、姉妹へのコンプレックス、そして40歳近くなった女性の迷いといったテーマが浮き彫りになるのもいい。切実でドロドロとした内容にも関わらず、彼女たちの言動は滑稽でみっともなく、爆笑の連続だった。ラストも前向きで爽快。作者のペヤンヌマキの、人間に対する温かい目線を感じる。

4位のCo.山田うん『舞踊奇想曲 モナカ』は、16人のダンサーによる激しくエネルギッシュなダンス。性別も身体の大きさも違うダンサーたちが、ヲノサトルによる劇的な音楽に共鳴しながら縦横無尽に走り回って踊り続ける。固まり、弾け、まるで液体のように次々と形を変えていく彼らから、一瞬たりとも目が離せなくなった。観ているうちにダンサー一人一人の個性が浮かび上がってくるのも面白い。緻密な構成でありながら、大胆にユーモラスにダンサーのパワーを引き出すダンス。すでに国内のみならず海外でも高い評価を得ているCo.山田うんだが、今後の活躍にも注目したい。

Co.山田うん『舞踊奇想曲 モナカ』 撮影◇羽鳥直志

Co.山田うん『舞踊奇想曲 モナカ』 撮影◇羽鳥直志

5位の『書を捨てよ町へ出よう』は、寺山修司の同名のエッセイ、映画、舞台をもとに、マームとジプシーの藤田貴大が上演台本と演出を手がけたもの。今年は寺山修司生誕80年ということで多数の寺山作品が上演されたが、そのなかでも本作はずば抜けていた。まず寺山作品の要素をバラバラに分解してみせ、次に意表を突くセンスある演出、装置、照明、美術、衣裳、音楽、映像とあらゆる手段を用いて再構築。結果、寺山作品のアングラ的な泥臭さとは真逆のスタイリッシュな舞台ができあがった。それにも関わらずこの作品はどこまでも寺山だった。自らの手法を壊して新たなものを作り出そうとする試み、断片化された言葉、メタ構造。主演の村上虹郎は、家や社会に苛立ちもがく若者を好演。自分は何者でもなくなんの力もないという虚無感を抱きながら、閉塞された日常から逃れたいともがいている。そんな若者の行き場のない思い、静かな怒りが伝わってきた。寺山の言葉は今なお色褪せていない。

選外でも、ネルソン・ロドリゲス作、三浦大輔上演台本・演出『禁断の裸体』や、飴屋法水作・演出『ブルーシート』(再演)など、印象に残る舞台が多数あった。来年はもう少し観劇本数を増やしたい。

シェア / 保存先を選択