ドラマティックなロイヤル・バレエの名作『白鳥の湖』~英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズンで7月15日より1週間限定上映

2022.7.15
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Artists of The Royal Ballet in Swan Lake, The Royal Ballet © 2018 ROH

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英国ロイヤル・オペラ・ハウスのオペラ&バレエを映画館で満喫できる「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2021/22」の掉尾を飾るロイヤル・バレエ『白鳥の湖』(音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー)が2022年7月15日(金)~7月21日(木)TOHOシネマズ 日本橋ほか全国公開される。

■登場人物の葛藤がせめぎ合う、ドラマティックな舞踊劇

【STORY】
1890年代、女王の側近に化けた悪魔ロットバルトに操られた宮廷が舞台。花嫁を選ぶことを強いられている悩める王子ジークフリートは、白鳥の姿に変えられたオデット姫が夜のひと時、人間に戻る様子を見て恋に落ちる。オデットは誰も愛したことがない者の真実の愛の誓いだけが、この呪いを解くことができると語る。だが結婚相手を選ぶ舞踏会で、ジークフリートはオデットと、瓜二つの妖艶なオディールに魅せられ、愛を誓ってしまう。ロットバルトは悪魔の正体を現し、オデットへの誓いは破られた。裏切りを知ったオデットは絶望し、死ぬことでしか呪われた運命からは逃れられないと悟る。許しを乞う王子は湖畔にやってくるが…。
 

クラシック・バレエの代名詞『白鳥の湖』全4幕はロイヤル・バレエの人気作品でもある。現在上演されているのは、2018年5月、31年ぶりに新制作されたプロダクションだ。昨年逝去した鬼才リアム・スカーレットが振付した新版は、伝統美と創意が溶け合う。

Artists of The Royal Ballet in Swan Lake, The Royal Ballet © 2018 ROH. Photograph by Bill Cooper

第2幕、湖のほとりで繰り広げられる白鳥たちの踊りはオーソドックスながら優美。創意が見られるのが、まず悪魔ロットバルトの役どころで、女王の側近となっている。また、第1幕のパ・ド・トロワは、ジークフリート王子の親友ベンノと王子の姉妹によって踊られる。オデット/オディールと王子いう主役はもちろんのこと、登場人物それぞれが心の底に抱える葛藤がせめぎ合い、ドラマティックな舞踊劇に仕上がっている。

ジョン・マクファーレンによる舞台美術も特筆されよう。宮殿の門や湖畔の岩場が厚みのある肌触りによって造形され、古典バレエらしい様式をはみ出しリアルな感触をもたらす。オペラの大舞台に負けない重厚感を備えつつ劇的な演出を引き立てる美術は見事なできばえだ。

Artists of The Royal Ballet in Swan Lake, The Royal Ballet ©2020 ROH. Photograph by Helen Maybanks


 

■名花カスバートソン×新星ブレイスウェルの好演が光る

今回公開されるのは2022年5月19日に上演された公演の収録映像。最大の話題は名花ローレン・カスバートソンが産後復帰し、オデット/オディールを踊ることだ。カスバ―トソンはロンドン出身でロイヤル・バレエ一筋に歩んできた。清楚な美しさと豊かな表現力を持ち味としており、大ヒット作『不思議の国のアリス』の題名役を初演したのも彼女である。この『白鳥の湖』におけるカスバ―トソンについてであるが、いかに彼女が優れた女優バレリーナであるかを示す舞台となった。第2幕のオデットでは、何ともはかなげで情感と風情がある。身体のラインも美しいのだが、そこを強調しすぎない自然さが程よいので、一挙手一投足がおのずと胸に迫ってくる。オディールでも嫋嫋たる踊りで自ずと王子を惹きつける。

Lauren Cuthbertson as Odette in Swan Lake, The Royal Ballet ©2020 ROH

王子のウィリアム・ブレイスウェルは新星。映画版「ロミオとジュリエット」でロミオ役に抜擢され注目を浴びたが、好青年そのものといえる麗しい容姿と端正なテクニックが身上だ。母親である女王の命令で妃を選ばらなければならない憂鬱な思いも、オデットと心を通わせる純粋な気持ちも、愛するオデットを裏切ってしまったという悔恨も、誠実に役を生きた上での嘘偽りのない表現として魅せる。この舞台の終演後、ケヴィン・オヘア芸術監督からプリンシパル(最高位)への昇進を告げられたというが、ベテランの名手であるカスバ―トソンと血の通ったパートナーシップを築き上げているだけに昇進は当然だと思わせる。

William Bracewell in Swan Lake, The Royal Ballet © 2020 ROH. Photograph by Helen Maybanks


 

■日本出身ダンサーの活躍など見どころ満載!

ロットバルトを日本のファンも多い重鎮ギャリー・エイヴィスが巧みに演じ、ドラマを盛り上げ、おもしろくしてくれる。王子の友人ベンノを踊るのはファースト・ソリストとして幅広い役柄で活躍するアクリ瑠嘉。大きな白鳥をソリストに昇進した佐々木万璃子、小さな4羽の白鳥/イタリアの王女を気鋭の前田紗江が踊るなど日本出身ダンサーの躍進も著しい。

Artists of The Royal Ballet in Swan Lake, The Royal Ballet ©2020 ROH

今回の公演では、カスバートソンの在籍20周年を記念したカーテンコールが行われた。終始温かな雰囲気に包まれ、オヘア芸術監督による壇上でのメッセージも心がこもる。

なお指揮を務めたガブリエル・ハイネはマリインスキー劇場の専属指揮者として活動してきたが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて出身地のアメリカに帰国。長きにわたってロシアで活躍し、チャイコフスキーのバレエ音楽を知り尽くした指揮者による演奏にも要注目だ。

Swan Lake trailer (The Royal Ballet)


文=高橋森彦

上映情報

「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2021/22」
英国ロイヤル・バレエ『白鳥の湖』
 
2022年7月15日(金)より TOHOシネマズ日本橋ほか全国公開
 
【上映劇場】
宮城フォーラム仙台2022/7/15(金)~2022/7/21(木)
東京TOHOシネマズ日本橋2022/7/15(金)~2022/7/21(木)
東京イオンシネマ シアタス調布2022/7/15(金)~2022/7/21(木)
千葉TOHOシネマズ流山おおたかの森2022/7/15(金)~2022/7/21(木)
神奈川TOHOシネマズららぽーと横浜2022/7/15(金)~2022/7/21(木)
愛知ミッドランドスクエアシネマ2022/7/15(金)~2022/7/21(木)
京都イオンシネマ京都桂川2022/7/15(金)~2022/7/21(木)
大阪大阪ステーションシティシネマ2022/7/15(金)~2022/7/21(木)
兵庫TOHOシネマズ西宮OS2022/7/15(金)~2022/7/21(木)
福岡中洲大洋映画劇場2022/7/15(金)~2022/7/21(木)
※上映時間について、公開日が近づきましたら上映劇場へ直接お問い合わせ下さい。
 
【振付】リアム・スカーレット (マリウス・プティパ、レフ・イワーノフ原振付に基づく)
【追加振付】フレデリック・アシュトン(3幕ナポリの踊り)
【音楽】ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
【演出】リアム・スカーレット
【美術】ジョン・マクファーレン
【照明デザイン】デヴィッド・フィン
【ステージング】ギャリー・エイヴィス、ラウラ・モレーラ、ケヴィン・オヘア
【出演】 
オデット/オディール:ローレン・カスバートソン
ジークフリート王子:ウィリアム・ブレイスウェル
女王:クリスティーナ・アレスティス
ロットバルト:ギャリー・エイヴィス
ベンノ:アクリ瑠嘉
ジークフリートの妹たち:イザベラ・ガスパリーニ、ミーガン・グレース・ヒンキス (1幕)ワルツとポロネーズ
ミカ・ブラッドベリ、アシュリー・ディーン、レティシア・ディアス、ジュリア・ロスコ―
ルーカス・B・ブレンスロッド、レオ・ディクソン、デヴィッド・ドネリー、ジョセフ・シセンズ
(2幕/4幕)
小さな4羽の白鳥:ソフィー・オールナット、アシュリー・ディーン、前田紗江、シャーロット・トンキンソン
大きな2羽の白鳥:メリッサ・ハミルトン、佐々木万璃子
(3幕)
スペイン王女:ユー・ハン
ハンガリー王女:ハンナ・グレンネル
イタリア王女:前田紗江
ポーランド王女:ジュリア・ロスコ― 
スペイン:ナディア・ムローヴァ=バーレー、ハリー・チャーチス、ベンジャミン・エラ、ジャコモ・ロヴェロ、ジョセフ・シセンズ
チャルダッシュ:ミカ・ブラッドベリ、レオ・ディクソン
ナポリ:レティシア・ディアス、デヴィッド・ジュデス
マズルカ:カタリナ・ニケルスキ、トーマス・モック
 
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