PLAY/GROUND Creation #3『The Pride』稽古場レポート
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井上裕朗が代表を務める「PLAY/GROUND Creation」が、イギリスの劇作家アレクシ・ケイ・キャンベルが書いた傑作『The Pride』を2022年7月23日(土)〜31日(日)東京・赤坂RED/THEATERにて上演する。
世界各国で上演されているアレクシ・ケイ・キャンベルの作品ではあるが、『The Pride』は11年ぶりの日本上演となる。
今作は1957年と2008年の2つの時代を行き来しながら展開していくラブストーリー。主な登場人物は2人のゲイの男性、オリヴァーとフィリップ。そしてキーパーソンになるのが彼らと関わりのある女性、シルヴィア。生きている時代は異なるが、名前が共通し、心が共鳴しあう3人の男女が、時間の経過とともに重なり、溶け合っていく。
今回はそんな『The Pride』の稽古場に潜入! 稽古場の様子や雰囲気をお伝えしていく。
side-Aとside-Bのダブルキャストで上演される今作であるが、この日の稽古はAとB合同で行われていた。
主人公のオリヴァーを繊細に演じるのは井上裕朗と岩男海史。彼と恋に落ちたフィリップを池田努と池岡亮介が、二人を見守る女性シルヴィアを陽月華と福田麻由子が演じる。そして医者、男、ピーターの3役を演じるのは、鍛治本大樹と山﨑将平。
side-Bオリヴァー役:岩男海史
side-A医者、男、ピーター役:鍛治本大樹
side-B医者、男、ピーター役:山﨑将平
稽古の幕開きは俳優陣と井上の10分間の雑談から始まった。世間話や差し入れのアイスの話など、俳優の話す面白エピソードに笑いが起こる。
雑談の時間が終わると和気藹々とした雰囲気からは一転、引き締まった空気感に。稽古場はイギリスのシルヴィアの家/公園/診察所に変化する。
side-B
稽古していたのは2008年、シルヴィアの家にオリヴァーが訪れるシーン。
ふたりのユーモアを含みつつもテンポの良く展開されていく会話に、稽古場には度々笑いが沸き起こる。
岩男が演じるオリヴァーは愛嬌があり子供のような無邪気さが垣間見えた。同じ役でも息を吹き込む俳優によって細かなこだわりやニュアンスの違いが感じられるのがダブルキャスト特有の面白さだろう。
そして、はじめから細かく指示をするのではなく、大まかな動きを提示した後、俳優に委ね、シーンの通し稽古を見る演出の井上。俳優の作り出す劇世界を見たあと、俳優と同じ目線に立ちながら、彼らにアドバイスやヒントを与え、丁寧に演出を進めていく。
演出:井上裕朗
シーン通しがひと通り終わったあと、井上の呼びかけで両チームの俳優が集められる。各々の俳優の個性を生かしつつも、登場人物の信念や物語の核をAB共通で認識を深めていくための大事な時間だ。
井上が自身の経験も交えながら、複雑なキャラクターへの解釈やアプローチの仕方を話し、俳優は井上の言葉に耳を傾ける。そして、俳優が自分の意見や疑問点を話す。稽古前の雑談から練り上げられたのであろう信頼関係と対話ができる姿勢。そうしたディスカッションを繰り返し、双方のチームとも緻密に劇世界とのコネクションを抑えていく。
作品内で描かれているのは同性愛についての答えがない問い。対話のできるこの座組だからこそ、作品の難しい問いにも果敢に挑戦できるのだと感じた。
side-A:フィリップ役:池田努
side-B:フィリップ役:池岡亮介
「同性愛は病気」とされた1958年。この作品が書かれた2008年。そして今。
時代の経過によって次第に風の向きは変わっていく。この作品が書かれた14年前に比べると、ジェンダーに関して世間の風当たりは大分寛容になったのかもしれない。だが、差別は現在も消えていない。つい先日も同性婚に関する裁判のニュースが様々なメディアで大きく取り上げられていたのが記憶に新しい。
オリヴァーたちは今もなお、自身の尊厳を求め、戦いを行っている最中なのだ。今を生きる私たちにとっても、決して昔の話ではない。決して他人ごとの話でもない。彼らの心からの叫びが、滾る怒りが、語られる言葉から私達へとダイレクトに伝わってくる。
笑いが起こる場面がありつつも、シーンを重ねて行く度に、登場人物の苦悩や発する言葉が、胸に刺さり、抜けなくなる。場面ごとの通し稽古中、俳優が涙を流すシーンもあった。
side-Aシルヴィア役:陽月華
side-Bシルヴィア役:福田麻由子
だが悲壮感だけではない。登場人物は荒い波に飲まれながらも、生きるために、自由のために、必死にもがいている。月並みな言葉ではあるがそんな彼らの姿に、自分はこの難しい時代を生き抜くための勇気を貰った気がした。幕が閉じた後は小さな希望が垣間見える、そんな作品になるだろう。
印象的だったのは、稽古場のロッカーに置かれた同性愛についての本や資料。沢山読み込まれたのであろう資料に、この作品に向き合う俳優陣たちの覚悟を感じた瞬間だった。
開幕は7月24日(日)、東京・赤坂RED/THEATERにて。彼らのあげる声に耳を傾け、オリヴァーやフィリップたちの生きている日々を体感しに、ぜひ劇場に足を運んでほしい。
文=中田夢花 写真=保坂萌
公演情報
会場:赤坂RED/THEATER
翻訳・ドラマターグ:広田敦郎
演出: 井上裕朗
全席指定・税込