ゴスペルシンガーを経てミュージカルの世界へ! 塚本直にインタビュー「音楽業界と演劇業界の架け橋になれたら」/『ミュージカル・リレイヤーズ』file.13
「言葉を大事にしつつ、元々の音の面白さやかっこよさを残して歌いたい」
――THE SOULMATICSでの活動を経て、近年はミュージカルの場でのご活躍が目立ちます。ミュージカルの舞台に立つようになったきっかけは?
最初のきっかけは『RENT』のオーディションです。「Seasons of Love」のソリストの役で『RENT』に出演していた先輩がいて。それを観て「こういう道もあるんだな。すごく素敵!」と思って、2013年にオーディションを受けました。ジョアンヌ役で受けて、落ちちゃったんですね。
でもその後プロデューサーさんから電話をいただいて「今回は残念だったけれど、もう1つ紹介したい作品があるんです」とオーディションを紹介してくださって。それが宮本亜門さん演出の『ヴェローナの2紳士』でした。せっかくなのでオーディションを受けに行き、歌の審査、その次にダンス審査があって……。私、ダンスが全然できないんですね(笑)。オーディションでは自由に踊る時間もあったんですが、みんながアクロバットとかしている中、私一人だけイエーイって音楽にノッていたんです。そしたら(宮本)亜門さんが「塚本さん、もういから」って(笑)。でもなぜか受かりました(笑)。あとから聞いた話だと、歌を聴いた時点で合格にしようと決めてくれていたみたいです。
――2014年の『ヴェローナの2紳士』が初ミュージカル出演になるんですね。
そのときは舞台のことは右も左もわからなくて、とにかく初めての世界でした。必死でみんなについていくしかなかったですね。エリアンナちゃんや小此木麻里ちゃんの姿を見て、なるほどこうやってやるんだなと。今思うと、すごく個性豊かなアンサンブルメンバーでしたね。劇中にジャグリングをするシーンがあったんですけど、唯一それだけは亜門さんにめちゃくちゃ褒められたのを覚えています。「塚本できるじゃん!」って(笑)。
――その後4年程経ってから、奥山寛さん演出の『Bklyn』にご出演されています。
(舞台を)もっとやってみたいという想いはあったのですが、当時は音楽活動がメインだったので、次の舞台出演まで期間が空いてしまいました。転機になったのは、2016年にTHE SOULMATICSを辞めたこと。それまで組織の中で頑張っていたけれど、これからは自分で頑張らないといけないなと。その頃にたまたまSNSで見かけたのが『Bklyn』のオーディションだったんです。パラダイスというR&Bシンガーの役があったので、自分で動かないと始まらないなとチャレンジしました。
――『Bklyn』の経験はいかがでしたか?
私のターニングポイントになりました。『ヴェローナ』のときはアンサンブルでしたが、今回は役がついたので台詞もたくさんあって、役として歌を歌うのもほぼ初めて。ずっと自分自身として歌を歌ってきたので、誰かになってその人のバックグランドを持って歌うってどういうことなんだろうと悩みましたね。
キャストは2チーム制で5人ずつ。私のWキャストのエリアンナちゃんがまた上手で。奥山さんはエリアンナちゃんのことばかり褒めて、私には何も言わないんです(笑)。今思うと、きっと私があまりにも必死だったから何も言えなかったんだろうなあって(笑)。途中でエリアンナちゃんを見本にして役を寄せていったら、奥山さんに呼び出されて「直ちゃんは直ちゃんのパラダイスをやらなきゃいけない。直ちゃんらしくていいんだよ」と。Wキャストの経験も初めてだったので、なるほどそういうことなのかと、それを聞いて楽になりました。自分として歌うことの気持ちよさとは違う、役として歌うことの楽しさと難しさを知りました。
――ミュージカルはゴスペルやR&Bに限らず、幅広いジャンルの曲がありますよね。そういった面での難しさはありますか?
めちゃくちゃあります! そもそも基本的に英語で歌ってきたので、日本語で歌うこと自体違う感覚があります。個人的な見解ですが、日本語の曲って言葉を大事にしているのが多いですよね。それに比べて英語の曲はサウンドを重視することが多い気がします。いろんな作品に出演しながら、言葉を大事にしつつ元々の音の面白さやかっこよさを残して歌いたいなと常々思っています。それが、英語で歌い続けてきた私の一つの武器でもあるのかなと。ちょっとかっこいいくグルーヴ感を出しつつ、メッセージを伝えるための言葉を残すことを意識しています。
――2019年には井上芳雄さん主演の『グレートコメット』にもご出演されています。
本当に失礼だと思うんですけど、(井上)芳雄さんのことも『グレートコメット』で共演するまで全然知らなかったんです……。THE SOULMATICSの活動でニューヨークへ行ったときにブロードウェイミュージカルを観たことはあったんですけど、日本のミュージカルはほとんど観たことがなかったんですね。共演して初めて、井上芳雄さんという素晴らしいミュージカル俳優さんがいらっしゃることを知ったんです。お芝居から繋いで歌で表現するってこういうことなんだと、初めて目の当たりにして衝撃を受けました。「一緒に写真撮ってくださーい」とか、今思えばなんてことしちゃったんだろうって(笑)。
芳雄さんといえば、テレビ番組のミュージカルあるあるネタで「打ち上げの場でガチで歌う人がいる。ホイットニー・ヒューストンとか歌うんですよ」と話していたことがあったんですけど「あ、私のことだ」って(笑)。でもあれは『グレートコメット』の打ち上げで、演出の(小林)香さんにリクエストされたから歌ったんですよ!(笑)
――『グレートコメット』以降、小林香さん演出の作品が続きますね。
香さんとの出会いも『グレートコメット』です。ある日の稽古でプリンシパルの方がお休みされたときに、代役で私が歌うことになったんです。歌ってみたら、稽古場で見ていたみんながドッカーンと大盛り上がりで「直ちゃん超かっこいい!」と言ってくださって。香さんも注目してくださるようになったんです。そこから香さんとはご縁があって、朝夏まなとさんのコンサートで歌唱指導とバックシンガーを担当させていただき、2020年の『SHOW-ISMS』にも誘っていただきました。
――この連載では毎回、注目の役者さんを教えていただきます。塚本さんの注目の方は?
『ビューティフル』(2020年)で共演させてもらった伊藤広祥くんです。『The Musical Day~Heart to Heart~』でも一緒にコーラスを担当していて、最近は西川大貴くん主催の『雨が止まない世界なら』のコンセプトアルバムでも共演しました。彼の特徴は声。前から日本人ぽくないなあとずっと思っていて、アダム・パスカルのような高くてロックでかっこいい声の持ち主なんです。彼の表現力やエネルギーはすごいものがあるなと、注目しています。
――最後に、塚本さんがこれから挑戦していきたいことを教えてください。
私にとってはどの業界でも、音楽を使って表現すること自体にあまり違いはないんです。できれば業界やジャンルの垣根なく、いろんな人が活躍できたらいいのになあと。そのための架け橋になれたらいいなとも思います。例えば、ヘザー・ヘッドリーは元々はR&Bシンガーですが、ミュージカル『ライオンキング』のナラ役を演じたり、Netflixのドラマに出演したりしています。『キンキー・ブーツ』のローラを演じたビリー・ポーターも、元々はゴスペルシンガーだったんです。海外では枠組みにとらわれずに活動している人たちがたくさんいて、それってとても素敵なことだと思うんです。私も自分自身をカテゴライズせずに、ジャンルを問わずチャレンジしていける人でありたいなと思います。
取材・文=松村 蘭(らんねえ)