鈴木このみインタビュー「曲も思いも10年分ある」 日比谷野外大音楽堂での10周年記念ライブに向けて語る
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撮影:池上夢貢
■日比谷野音での10周年ライブは「デビューみたいな気持ちでやろうかな」
――改めてライブについてお聞きしていきますが、「初めての自社興業」に日比谷野音を選んだ理由というのは?
実は約4年前に日比谷の野音でライブをやってまして。その時の景色をもう一度、10周年に見たいなと。思い立ってからは、「やばい、時間がない!やらなきゃ!」とドタバタとした中ではあったんですけど(笑)。私的には、4年前に見たあの景色をもう一度ということが大きいです。
――「10th Anniversary Live ~LOVELY HOUR~」とタイトルが付いていますが、「LOVELY HOUR」というのはその4年前のことでもあり、今年のライブに向けての抱負でもありという感じですかね?
先に「Love? Reason why!!」という新曲が決まっていたこともあるんですけど、この10年間を振り返ったときに、今思うと全部LOVELYな時間だったなという思いもあったりして。これも言葉で説明し難いんですけど、人として可愛らしくありたいなとも思ったんですよね(笑)。ベタだけど、LOVEって大事だなと思って。いろんなLOVEをみんなに届けられるといいなって。
――歌手歴10年の方で、活動を振り返ってLOVELYって表現する人はなかなかいないですよ。
まさに自分にとってはいろんな時期がありましたけど、なんかミスったことも可愛らしかったなっていう気持ちがあったりとか(笑)。あと、LOVEって「かわいい」という意味でも使うんですけど、「おいしい」「いいね」というざっくりと肯定的な意味でも使うので、そういう意味でいろんな瞬間をLOVELYだと思えるなって。あと、4年前にやった野音のライブが「MAGIC HOUR」というタイトルだったので、今回はそれを踏まえての「LOVELY HOUR」でもあります。
――こういうライブにしたい、というイメージはあるのでしょうか?
やっぱり10周年の集大成でもあるんですけど、11年目が始まるタイミングでもあるんですよね。今までに培ってきたものは絶対体に染み付いているので、自然と出ちゃうものはあると思うんですけど、持っているものをポンと1回おろして楽しんじゃおうっていうことが、私が今思っていることです。新しい1年目。デビューみたいな気持ちでやろうかなと思っているので、そういう可能性を感じてもらえるようなライブにしたいなと思っています。
――セットリストとかも、足跡をたどるというよりはダンスだったりギターだったり、作曲した曲があって、という今の鈴木さんの魅力を詰め込むようなイメージですか?
曲はやっぱり10年分溜まっているので、多分どの方が来ても、それこそはじめましての方が来てくれても楽しめるセットリストにはなるんじゃないかなと思っています。代表曲だったり、そういうものももちろん歌おうと思っているんですけど、10月に新譜も出ますし。この間、6月にライブをやって「私、今すごいハッピーなエナジーがある!」って思ったんですよ。多分それが強く出るような気がしますね。本当に、まっさらな気持ちで歌うんじゃないかなという気がしています。
――鈴木さんの歌をライブで聴いた最後が2019年のアニサマなんですけど、歌がうまくなったなと度肝を抜かれたんですよ。
ありがとうございます。今が一番歌うのが楽しいんですよ。2年前くらいかな。喉の手術をしたりして、スキル的な意味でも以前は喉に不安があってできなかった技術ができるようになったこともありますし、気持ち的にもすごくクリアな状態で居られているので。レコーディングも多くて、もちろんアルバム(5th Album『ULTRA FLASH』)を作っていたからということもあるんですけど、デビューから担当してくれていたレコーディングエンジニアの方に「なんか鈴木さんは今が一番歌上手い気がする」と言ってもらえて、それが最近の嬉しかったことですね。
――草野華余子さんも、すごく褒めていましたよ。
この間、華余子さんの家に押しかけて「私の歌、どうしたらもっとよくなります?」っていう会をやったんですけど(笑)、華余子さんにサウンドプロデュースしていただいて得た技術は結構大きいと思っていて。畑さんからは「ちゃんと言葉の意味を汲み取って、自分のものとして、プロとして歌おうね」ということを教えてもらったと思っているんですけど、華余子さんはリズム感をすごく意識する方だと思っていて。ピッチを言う方は多いと思うんですけど、華余子さんと一緒にやってからはリズムを意識にして歌うのがめちゃくちゃ楽しくて。なんか新しい歌い方を教えてもらったなという気持ちでいます。
――グルーヴというか、ノリというか。
はい。ほかにも、最近なんか周りの人に学ぶことがめちゃくちゃ多くて。自分のアルバムとかシングルじゃない仕事も結構やらせていただいて。「ウルトラマン」の曲を歌わせていただいたり(『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』主題歌「Now or Never!」、鈴木このみ from the Ultra Leagueとして歌唱)、Keyの『ヘブンバーンズレッド』というアプリゲームでは、朝倉可憐というキャラクターの歌唱を担当させてもらったり。いろんなところに試合稽古をしに行くような感じというか、人が違えば指導もやっぱり違うので「今日は何を言われるんだろう」と。そういう意味で、今はすごく張りがあるなと感じます。
――シンガーとしての声と技術を求められての仕事というか。
そうですね。行く先々で求められることが全然違うのを感じていて。自分のアルバムやシングルだと、「こう歌いたい」っていうことが先頭にいると思うんですけど、そういう場所では、自分の考えは提示しつつ、でも作品的にはこうなんだよ、鈴木このみとしてはいいけどキャラクターとして歌う時にはこうしてほしいんだよ っていうのがあったり。すごく面白いなと。
■改めて母からされた「この道を選んで正解でしたか?」という質問
――高校生だったデビュー当時から、今は社長になりました。この10年は早かったですか?
早かったですね。なんか、本当にいろんなことがありました。10年、本当に濃厚でしたねえ(笑)。皆さん10年ってどう振り返ったり表現するんですかね?
――もう一度同じ人生を選びたいかどうか、とかですかね?
ああー。これはわからないな。多分、同じようにやっても同じようにならない気がします。本当に偶然が多くて、それこそ会社を作れたのも、偶然周りに協力してくれる人がいて、やろうと思えたところもあるので。偶然この人と出会えていたからこうなった、みたいなことが多くて。だから、同じ10年を歩めないような気はするんですけど。
――歌手になる、目指すということは変わらない?
あ、それこそ先日、母から言われたんですよ。やっぱり10周年っていうこともあって「この道を選んで正解でしたか?」と聞かれて。ちょっと真面目な話をしながら「私、たぶんこれが天職だと思う」と返した記憶があって。だから、同じ10年を歩めるかはわからないんですけど、必ず歌っていたとは思います。それ以外の自分が、あまりに想像できなくて。
――なんというか、ここまでお話を伺ってきて考え方がすごくポジティブですよね。
そうですねえ……。意外と凹むこともあって、それこそ前にSPICEさんでインタビューしていただいたときは、今よりもウジウジという感じだったので。家で誰にも見せられない日記帳を書いていたりとか(笑)。それを見て、今は「なんだこれ?」と思って笑うんですけど、すごくタフになったんだと思います。
――10年の成長というか、変化というか。
でも、それがちょっと悲しいことだなと思う部分もあるんです。逐一悲しんでいられた自分って良かったなと思う時ももちろんあり。でも、色々なことを経てタフになったから歌えた歌もたくさんあるので、それならそれで良かったなと思います。
――めちゃくちゃ大人なコメントですよね。
たしかに……! 大人になってしもうた(笑)。でも、全然まだまだ子供です。
――タフになったことが悲しいっていう感覚はアーティストならではな感じがします。
話がちょっと戻っちゃうんですけど、私が大きく変わったのはこの5年だと思っていて。5年前のかよわい自分がそれこそLOVELYに見えたりもして(笑)、それでも笑おうとする自分のほうがLOVELYだなと。この間、誰かが「ロックとはなんぞや」みたいな話をしていて、自分も考えたんです。その方は、たしか真面目に音楽と向き合うことがロックじゃないかと言われていたんですけど、私の場合は何があっても笑顔で歌い切ることで。それが私にとってのロックであり、私にとっての歌うことだと思っていたりします。だから『LOVELY HOUR』っていうタイトルが付いたのかもしれません。かわいらしいタイトルですよね。
――言葉はかわいらしくても、中身がすごくぎっしり詰まっている感じがします。
あはは(笑)。そうですよね……。10年で私って変わりましたかね? インタビューでも5~6年ぶりにお会いする方ってなかなかいなくて。
――当時は僕(加東)がインタビュアーでしたけど、今「あのときは大変だったんですよねー。詳しくは言えないですけど」みたいに話されますけど、当時は「そうですよね……」ってだけでしたね(笑)。いい意味でも悪い意味でもしおらしかった気がします。
確かに(笑)、しおらしかったですね。色々なことを思っていたけど、絶対に誰にも言っていなかったので。
――あとは、なんとかいいことを言おうとしていた気がします。もちろん、今も言葉を選んで話していますけど、ちょっと印象が違いますね。
やっぱり、それこそ畑さん然り、華余子さん然りで。私がいいなって思う人ってすごく自分らしい、人間くさい人が多くて。アーティストなら尚更それで良いんじゃないかという気がするので。とにかく歌えれば、歌にしていければ何事も良くなるんじゃないかという気がします。
――自分が思ったことは思ったこととして、そのまま表に出すっていう感じですかね。嘘をつかないというか。
それこそ、発表のときにも言ったんですけど本当に予想外の連続で。何かがある度に選ばないといけなくて、その度にタフになってきたんだと思うんです。でも、意外とそういう自分が今は嫌いではないので。人生は悩みの連続なので、また悩む時期はくると思うんですけど、その時まではこんな感じでいようかなと思います。
撮影:池上夢貢
――いい勢いのなかで、アニサマなどの出演を経て日比谷野音。楽しみにしています。
自分でハードル上げてますよね(笑)。でも、曲も思いも10年分ありますし。ライブ中にいろいろな仕掛けもまたやろうと思っているので。
インタビュー:加東岳史、藤村秀二 構成:藤村秀二 撮影:池上夢貢
ライブ情報
鈴木このみ 10th Anniversary Live ~LOVELY HOUR~