サックスの魅力炸裂!上野耕平登場 12.20カフェライブレポート

2015.12.29
レポート
クラシック

上野耕平(うえの こうへい) Saxophone  撮影:平田貴章



人の出が多くなり、賑わいを見せる渋谷の街。道玄坂にあるビルの5階に上ると、そんな街の気配とは一味違う、ゆったりとした空間が広がっている。12月20日(日)、この日もLIVING ROOM CAFE(リビングルームカフェ)by eplusでは、「サンデー・ブランチ・クラシック」を開催。第七回目となる今回は、クラシックサクソフォン奏者の上野耕平が登場した。

上野耕平(うえの こうへい) Saxophone  撮影:平田貴章

にこにこと笑みを浮かべながら登場した上野。首から下げたアルトサックスをさっと構えると、1曲目、ピアソラ作曲『アディオス・ノニーノ』からライブはスタートした。この曲を日本語訳すると“さよなら、父さん”。その名の通り、ピアソラが亡き父のために捧げた曲である。タンゴのようなリズムから、センチメンタルなメロディへ。自在に変貌する曲調をなぞる上野は、実に表情豊かだ。

1曲目を終えると、上野はさっと手を広げ、本日の伴奏を務めるピアニスト・塚本芙美香を紹介。そして、茶目っ気たっぷりに「本日は30分という短い時間ですが、超盛りだくさん!なので、是非お料理でもお腹いっぱいに、そして音楽でもお腹いっぱいになって頂ければと思っております」と挨拶。

上野耕平(うえの こうへい) Saxophone  撮影:平田貴章

続いて演奏されたのは、ミヨー作曲『スカラムーシュ』だ。この曲はサックスとピアノの連鍵曲となっており、3楽章に分かれている。この曲は「第1楽章はとてもひょうきんで、第2楽章はサックスとピアノが会話をするかのような美しい旋律が特徴です。そして、第3楽章には“ブラジレイラ”=ブラジルの女というタイトルがついておりまして、ラテン系のリズムも出てくるような熱い曲になっています」と上野が紹介してくれたように、章ごとにまったく違う印象。跳ねて踊るような第1楽章。うって変わってまろやかに、サックスとピアノが同じメロディを交互に奏でる掛け合いに酔わされる第2楽章。そして、軽快でメリハリのあるサンバのリズムが時折顔を覗かせる第3楽章と、短い時間の間にサックスの音色の変化を楽しませてくれた。

サックスというとジャズの楽器というイメージが強い気がするが、もともとはクラシックのために発明されたものである。1840年代にベルギー人のアドルフ・サックスによって考案されたもので、意外にもその歴史は浅い。そのため、基本的にはオーケストラには含まれない場合も多く、「ムソルグスキーの『展覧会の絵』をオーケストラ版にアレンジしたものでは、“古城”という曲にサックスのソロがあるんですけど、それを吹いたらあとはずっと休みなんです・・・」なんてこともあるそうだ。

上野耕平(うえの こうへい) Saxophone  撮影:平田貴章

しかし、まろやかでなんとも言えない色気のあるその音は、一度耳にすれば忘れられない魅力を持つ。続いて「サクソフォンの美しい音色を、皆様に聴いて頂くのにピッタリだなと思って選曲しました」という言葉とともに、上野が奏でてくれたのは映画『ニューシネマパラダイス』メドレー。映画を観たことがある方は、曲を聴けば脳裏にあのラストシーンが蘇ることだろう。改めて聴くと、サックスの柔らかい音色が、映画の中によりふくよかな彩りをもたらしていることに気づいた。そんな視点から映画を観ても、また楽しいかもしれない。

第2部では、同じくサックスの魅力を聴かせたいと、サックスメインの楽曲レパートリーの中からドゥメルスマン作曲の『ファンタジー』も披露。この日、ピアノ伴奏の塚本もノリノリで、上野が「今日、史上最速と思うぐらい早かったです!」と驚くほど軽快な演奏を聴かせてくれた。

そして、最後に用意されていたのはモンティ作曲『チャルダッシュ』。この曲は、フィギュアスケートの浅田真央選手が2006-2007年シーズンにフリーの曲として使用していたので、聞き覚えのある方も多かったのではないだろうか。もともとはバイオリンのために作られた曲だというが、サックスで聴くとまた全然表情が違う。リズムの早い部分では、上野の指さばきが存分堪能できた。

上野耕平(うえの こうへい) Saxophone  撮影:平田貴章

鳴りやまない拍手に、ステージを降りた上野が再び戻って・・・来てくれたと思ったら、何やら人がいっぱい!各々管楽器を手にした6名の演奏者とともに、再登場した上野が「今日、皆さんのお席には、ちょっと派手なチラシが置いてませんか?」と呼びかける。そう、この日各席にはピンクのパンダがデザインされた、可愛らしいチラシが配られていたのだった。このピンクのパンダが示していたのは、“ぱんだウインドオーケストラ”という吹奏楽団。2011年に東京藝術大学に入学した同級生を中心に結成され、上野はこの楽団のコンサートマスターを務めている(なぜぱんだが楽団名についたかというと、東京藝術大学が上野にあるからだそう!)。2015年12月16日(水)には、日本コロムビアよりメジャーデビューアルバム「PANDASTIC!~Newest Standard」をリリースした。

小学校2年生の時に、吹奏楽部に入部しサックスを手にしたという上野。実は、最初はトランペット志望で、サックスは“見た目がおもしろい”という理由で第二希望に挙げていたそうだが、顧問の先生の一声で、サックスと運命の出会いを果たしたという。しかも、最初は楽譜も読めなかったとか。演奏後に話を伺うと、「10人に1人は吹奏楽経験者だっていうぐらい、日本は吹奏楽が盛んな国なんです。でも、そこから先にあまり繋がっていかないというか。部活が終わったら離れてしまうのが、もったいないなと思っていて。“ぱんだウインドオーケストラ”の活動を通して、よりたくさん音楽に触れて頂けるように、その魅力を吹奏楽団というツールを使ってお伝えできたらなと思っております」と想いを語っていた上野。

上野耕平(うえの こうへい) Saxophone  撮影:平田貴章

アンコールでは、“ぱんだウインドオーケストラ”のメンバーとともに、オリジナル曲『PANDASTIC!!』を演奏してくれた。たくさんの楽器の音が合わさって奏でられる音楽には、ソロとはまた違った魅力がある。この日、会場には楽器を持った方や、制服を着た高校生の姿も見られた。彼らの演奏を見たら、吹奏楽に親しんだことのある人は心が疼くのではないだろうか。なお“ぱんだウインドオーケストラ”は、このCDリリースを記念し、2016年3月20日(日)に東京藝術大学奏楽堂でコンサートを行う。ぜひ、彼らの超絶技巧を聴きに足を運んでみてほしい。

終演後、ライブを終えたばかりの上野にお話を聴いた。カフェという空間での演奏について「普段、コンサートホールのような広い空間で演奏するのとは違う良さがありますね。演奏者の息遣いとか、どんなふうに吹いているんだろうというのを感じてもらえるというか・・・。そして、お客さんのリアクションも手に取るようにわかるのが素晴らしいなと思いました」と、“距離感”を楽し気に口にした上野。確かに客席で観ていても、上野が音楽に命を吹き込む瞬間がリアルに感じられ、より生きた演奏に感じられたように思う。また、お客さんの表情などが見えると演奏していて楽しい、と上野は笑顔を浮かべていた。

上野耕平(うえの こうへい) Saxophone  撮影:平田貴章

サックスの魅力については「サックスというのは、歴史が浅いためか他の楽器に比べて楽曲も少ないんです。でもそれは、短所でもあり長所でもあると、僕は思っているんですね。我々プレイヤーと聴衆の皆さんで作り上げていくものかなと。だから、無限の可能性を僕はこの楽器に感じています」と語り、「(演奏を通し)サックスにもこういう曲があるんだと知ってもらえたら、非常に嬉しく思います。またぜひ、サックスを、そして“ぱんだウインドオーケストラ”を聴きに来てもらえたら嬉しく思います」と呼びかけた。

なお、この日のライブの最後で発表になったが、2016年3月6日(日)に行われる“サンデー・ブランチ・クラシック”に上野は再登場する。さらに、ピアニストの反田恭平との共演も決定!普段から仲の良い関係だという二人だが、共演はこれが初となる。

また、4月19日(火)には、東京オペラシティリサイタルホールにて「東京オペラシティ リサイタルシリーズ バッハからコンテンポラリーへ B→C 181」というソロコンサートを開催。上野初のオール無伴奏に挑戦するという。前半はソプラノサックス、後半はアルトサックスでの演奏が予定されている。「オール無伴奏という無謀な挑戦はもう二度としないかもしれません(笑)」という事なので、是非お聴き逃しなく!

上野耕平(うえの こうへい) Saxophone  撮影:平田貴章

プロフィール
上野耕平(サクソフォン)
 
1992年生まれ。茨城県東海村出身。
8歳から吹奏楽部でサックスを始め、東京藝術大学器楽科に入学。
これまでに須川展也、鶴飼奈民、原博巳の各氏に師事。
第12回ジュニアサクソフォンコンクール第1位、第7回日本ジュニア管打楽器コンクール金賞、同第10回金賞、など数々の賞に輝いたのち、第28回日本管打楽器コンクールサクソフォン部門において、第1位(史上最年少)ならびに特別大賞(内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞、東京都知事賞)を受賞。2014年11月、第6回アドルフ・サックス国際コンクール(ベルギー・ディナン)において、第2位を受賞。現地メディアを通じて日本でもそのニュースが話題になる。
2012年2月から3月にかけて、師である世界的サクソフォン奏者須川展也氏の「須川展也EXツアー2012」にゲスト出演し全国各地で共演。高評を博する。
スコットランドにて行われた第16回世界サクソフォンコングレスでは、ソリストとして出場し、イギリス王立ノーザン音楽院吹奏楽団と、ピット・スウェルツの難曲、「ウズメの躍り」で共演。世界の大御所たちから大喝采を浴びた。その他、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」への出演、テレビ朝日「題名のない音楽」収録ではマルタン作曲「サックスと管弦楽のためのバラード」(山田和樹指揮 横浜シンフォニエッタ)を熱演し、2015年9月の日本フィル定期公演に抜擢された。このサントリーホールでの2日間の公演は、クラシックサックスの可能性が最大限に引き出され、好評を博す。
《The Rev Saxophone Quartet》ソプラノ・サクソフォン奏者、ぱんだウインドオーケストラコンサートマスター。
 
■公式サイト:http://columbia.jp/uenokohei/

次回 「サンデー・ブランチ・クラシック」vol.9 田村麻子 <予告>
 
■日時:2016/1/10(日) 13:00、15:00 (各30分を予定)
■会場:LIVING ROOM CAFE by eplus(渋谷区) http://livingroomcafe.jp/
■出演:田村麻子(ソプラノ)
ピアノ:直江香世子

 
■予定曲目:
シューベルト:アヴェ・マリア
岡野貞一:朧月夜
プッチーニ:「ラ・ボエーム」より 私が街を歩くと(ムゼッタのワルツ)
and more

 
■料金:ミュージックチャージ500円、別途カフェ通常利用料(飲食代)
※演奏中に食事もお喋りもOK。
※お子様もご入場可。
※予約の受付はなし。
※飲食代の他に、お一人様につき一律500円のミュージックチャージ。
※混雑状況によっては、ステージが見えづらい場合や相席のお願いをする場合あり。
※満席の場合は入店できない場合あり。
 
上野耕平 出演情報
東京・春・音楽祭 -東京のオペラの森2016-
ミュージアム・コンサート 上野耕平 サクソフォン・リサイタル

日時:2016年3月18日(金) 19:00
会場:国立科学博物館 日本館講堂 (東京都)

 
サンデーブランチクラシック情報

日時:2016年1月10日(日) 13:00、15:00 (各30分を予定)
会場:LIVING ROOM CAFE by eplus(渋谷区) http://livingroomcafe.jp/
出演:田村麻子(ソプラノ)
ピアノ:直江香世子
 
<予定曲目>
シューベルト:アヴェ・マリア
岡野貞一:朧月夜
プッチーニ:「ラ・ボエーム」より 私が街を歩くと(ムゼッタのワルツ)
and more
 
料金:ミュージックチャージ500円、別途カフェ通常利用料(飲食代)
※演奏中に食事もお喋りもOK。
※お子様もご入場可。
※予約の受付はなし。
※飲食代の他に、お一人様につき一律500円のミュージックチャージ。
※混雑状況によっては、ステージが見えづらい場合や相席のお願いをする場合あり。
※満席の場合は入店できない場合あり。