Eve 大舞台をも通過点にーー初の日本武道館公演に見たさらなる飛躍の兆し

2022.9.6
レポート
音楽

Eve Live Tour 2022 廻人 日本武道館 追加公演

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Eve Live Tour 2022 廻人 日本武道館 追加公演
2022.8.30 日本武道館

2022年8月29日と30日、それはEveが初めて日本武道館のステージに立った記念すべき日。全か所ソールドアウトを記録した『廻人』ツアーの追加公演として開催されたこのライブは、音源と映像作品のクリエイティビティの高さでデジタルネイティブ世代の圧倒的支持を得る彼が、生身のライブアーティストとしてさらに飛躍する重要なステップだ。今回、最終日となった30日の模様をレポートする。

ステージと客席を隔てる薄い紗幕に映し出されるアニメーションは、近未来のネオ東京に建つライブ会場とライブラリーが合体したような奇妙で荘厳な空間。「廻人-inst-」に乗ってバンドメンバーのシルエットが現れ、最後にEveがステージ中央からせり上がりで登場する。間髪入れずに「藍才」が始まり、観客が腕に付けたLEDライトで客席が一斉にブルーに染まる、実にドラマチックなオープニング。

Eve Live Tour 2022 廻人 日本武道館 追加公演

まず、武道館の広さを生かした映像の迫力が凄い。1曲ごとにタッチの変わるアニメーションの中で、様々なキャラクターが登場し、疾走し、色彩がはじけ飛ぶ。多彩なタイポグラフィーの技法を駆使して歌詞がスクリーンの上を飛び回る。強烈なファンク/ダンスロック「夜は仄か」からトラップを取り込んだ「YOKU」へ、バンドサウンドでありながら強力なダンスチューンを繰り出すバンドと、黒服をまといスタンドマイクでしっかりと声を響かせるEve。目と耳に飛び込んでくる情報量が圧倒的だ。

インスト曲「doublet」から、ステージ上で炎が燃えあがる演出がハマった「LEO」、トリッキーなギターリフに乗って疾走するオルタナロックチューン「レーゾンデートル」へ。音の感触はダウナーだが不思議な高揚感がある。「いのちの食べ方」はその典型で、化け物が闊歩するアニメーションをバックに展開される禍々しくもファンタジックな世界観は、Eveならではのダークサイドエンタテインメント。ブラックホールのような強烈な引力にすべてが飲み込まれてゆく。

Eve Live Tour 2022 廻人 日本武道館 追加公演

「slumber-inst-」から始まる次のセクションはさらに刺激的だ。「トーキョーゲットー」の破壊と絶望に溢れた世界が一転し、ステージ前を覆う紗幕が切って落とされて一気に光がはじける「アウトサイダー」へ。その瞬間、観客が声にならない心の叫びをあげ、会場内のテンションがぐっと高まったのがわかる。そのままスピードを上げて「ラストダンス」へ、切れ味鋭いダンスロックチューンを畳みかける。目にも耳にも、1秒たりとも止まることなく刺激物をぶち込んで来るスタイル。これがEveのライブ。

「武道館二日目、夏休みの思い出を作りに来ました。これだけたくさんの人が集まってくれて嬉しいです。ここまで歌ってきて、あらためて、ここにいるみなさんと一緒にライブをしていると実感しています。最後までよろしくお願いします」

この日最初のMCは、人柄まで透けて見えるようなとても丁寧で誠実なもの。そして「今日のためにこの曲を書いたんじゃないかと、今では強く思います」と前置きして歌った「杪夏」は、タイトル通りに夏の終わりのせつなさを強く感じさせるバラードで、グランドピアノと8人編成のストリングスが加わってより壮大な世界観を作り上げる。スクリーンいっぱいに広がる空と水のイメージが、曲が進むにつれてモノトーンからフルカラーへと色づいていく。続く「蒼のワルツ」「心海」も空と水に関わりの深い楽曲で、広い武道館の空間が弦楽八重奏の美しい響きと力強いバンドサウンドで満たされた。スモークが静かに流れ、スクリーンの中の雲が抜け出して目の前を漂うように見える。「心海」の間奏で宙を舞った無数の紙吹雪の演出も、派手と言うよりはとても幻想的で美しい。

Eve Live Tour 2022 廻人 日本武道館 追加公演

重厚なエレクトリックギターがうなりをあげる「fanfare-inst-」から再びシーンが変わった。リズムが一気に高まり、スピードを上げて「ナンセンス文学」へとなだれ込む展開がとてもスリリング。狂騒的に突っ走るリズムと、ネオ東京の幻想を描き出すイマジネイティブなアニメーションがシンクロし、Eveが早口で言葉を叩きつける。「あと3曲です。行けるか武道館!」と叫ぶ。「ドラマツルギー」ではこの日初めて、ハンドマイクを手にしてステージいっぱいに駆けまわる。ファンキーでトリッキー、疾走感みなぎるリズムに乗って武道館が揺れる。フィナーレまであと少し。

再び「廻人-inst-」が登場し、オープニングと同じ巨大なライブラリーの内部がスクリーンに現れると、いよいよライブはラストスパート。エモーショナルなサウンド、猛烈なスピードで疾走する大ヒットチューン「廻廻奇譚」では、声にならない観客の心の歓声が聴こえてくるような、すさまじい盛り上がりが体感できた。銀テープが発射され、宙を舞うシーンが美しい。そしてラストを飾るのは「退屈を再演しないで」。ハイスペックなEDMサウンドと幾何学模様の映像に彩られた、爽快な風景が目の前に広がってゆくダンスチューン。「楽しかったです。本当に本当にありがとうございました」。Eveの言葉は最後まで生真面目で誠実だ。

Eve Live Tour 2022 廻人 日本武道館 追加公演

そしてアンコール。破壊されたネオ東京のイメージが鮮烈な映像をバックに、拡声器を持ち煽りながら歌う姿がハマっている「デーモンダンストーキョー」。冷笑的で感傷的だがなぜかエモさや情熱も感じる不思議な世界。ここで頼れるバンドメンバーのNuma(Gt)、masahito nakamura(Ba)、堀正輝(Dr)を紹介し、間髪入れずに「群青讃歌」へとなだれ込む。ディストピア風の設定の中で少女たちがみずみずしく躍動する映像が、Eveの世界の大事な一面をよく表している。Eveの音楽には青春期の心をとらえる不思議なパワーがある。

「今日ここに来てくれているみなさん一人ひとりが、僕にとってなくてはならない存在です。武道館はすごく光栄な場所だけど、ここを通過点としてこれからも頑張っていきたいと思います」

Eve Live Tour 2022 廻人 日本武道館 追加公演

現実逃避したくなったらまた遊びに来てください。――ふとした言葉にEveの世界の本質がちらりと見える。曲は「お気に召すまま」。明快なダンスロックのリズムがはじけ、この日2回目になる銀テープが宙を舞う。曲が終わってメンバーが中央に集まり、大団円の美しいフィナーレ。と思いきや、「もう1曲やっていいですか? 帰りたくなくなっちゃった」というEve自身のリクエストで演奏されたのは「君に世界」だった。物語の終わりを強く示唆しながら、その向こうに再生を見据えた歌詞の世界をエモーショナルに描く1曲。極めてパーソナルな世界観を武道館の大観衆と共有する、それは少しシュールで奇妙で、しかし確かな連帯を感じさせる特別な時間。

メンバーが去ったあとのスクリーンにエンドロールが流れている。1本の映画を見終わったような静かな興奮が場内に満ちる。音楽と映像を駆使して独自の世界観を現出させるEveのエンタテインメントショーは、たぶんもっと大きな会場にも似合うだろう。次はどこへ向かうのか。Eveを追う旅の楽しみは尽きない。


文=宮本英夫 撮影=Takeshi Yao

セットリスト

Eve Live Tour 2022 廻人 日本武道館 追加公演
2022.8.30 日本武道館

00. 廻人-inst-
01. 藍才
02. 夜は仄か
03. YOKU
04. doublet-inst-
05. LEO
06. レーゾンデートル
07. いのちの食べ方
08. slumber-inst-
09. トーキョーゲットー
10. アウトサイダー
11. ラストダンス
12. 杪夏
13. 蒼のワルツ
14. 心海
15. fanfare-inst-
16. ナンセンス文学
17. ドラマツルギー
18. 廻人-inst-
19. 廻廻奇譚
20. 退屈を再演しないで
[ENCORE]
21. デーモンダンストーキョー
22. 群青讃歌
23. お気に召すまま
24. 君に世界
  • イープラス
  • Eve
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