大阪交響楽団 首席客演指揮者 髙橋直史に、あんなコトやこんなコトを聞いてみた
大阪交響楽団 首席客演指揮者 髙橋直史 (C)飯島隆
全身を使った機敏な動きで、スケールの大きな音楽を生み出そうという意図がはっきりと感じられたのが、大阪交響楽団 首席客演指揮者就任披露の定期演奏会で、シューマンの交響曲第1番「春」を指揮した髙橋直史だった。
無駄な動きを極力削ぎ、タクトをちょっと動かすだけで音色がガラッと変わってしまう。そんな魔法使いの杖のような指揮とは凡そ真逆なのが、髙橋の指揮姿。しかし、音楽が生まれる瞬間が確かに見える爽快な指揮で、聴衆には好感の持てるものだったのではないか。演奏終了後から起こった万雷の拍手が、それを物語っていた。
就任披露の定期演奏会から一夜明け、打ち合わせ場所に現れた髙橋は、面倒見の良い学校の先生のようで、そのギャップに少々驚いた(笑)。
髙橋に対する楽員の信頼は厚い (C)飯島隆
―― 素晴らしいお披露目の定期演奏会でした。歌心がありながらも、とても推進力のあるシューマンだったと思います。
ありがとうございます。自分なりにテーマを決めて、考え抜いたプログラムでした。シューマンは私にとって大切な作曲家の一人。仰って頂いた通り、大阪交響楽団の皆様の歌心溢れる演奏で、とても幸せな時間を過ごすことが出来ました。
就任の定期演奏会で、シェーンベルクの「6つの歌」を歌った並河寿美と(コンマス林七奈、髙橋、並河寿美、コンマス森下幸路 左より) 写真提供:大阪交響楽団
首席客演指揮者就任の定期演奏会で贈られた花に囲まれて 写真提供:大阪交響楽団
―― ステージ上からのお客様へ話し掛けられたのも、感じ良かったですよ。
あれは、コンサートマスターの森下幸路さんのアドバイスです。カーテンコールの時に耳元で、「就任の演奏会なのだから、お客様に向かって話をした方が良いよ」って。あの辺の空気の読み方は、サスガですね。ドキドキしながら客席に話しかけました(笑)。
明瞭な口調で丁寧に受け答えをする髙橋直史 (C)H.isojima
―― そうだったのですね。お人柄が凄く伝わって来ました。では、本日はよろしくお願いします。いきなりですが、子供の頃の音楽経験を教えてください。
ピアノは3歳の頃から、大学で音楽を教えていた父親から教わりました。上達は早かった方だと思います。中学の頃はクラブ活動はやっていませんが、友達と一緒にブラームスのヴァイオリンソナタを合わせたり、一人で弾くよりも、次第にアンサンブルの面白さにハマって行きました。高校で吹奏楽部に入り、トランペットを吹く傍らで、初めて指揮をやりました。面白かったです。本気で指揮者になりたいと思うようになり、高2からプロの先生に習い始めました。
何を専門で進むかは漠然としていましたが、音楽をずっとやって行きたいと思い、ソルフェージュや調音などは小学生の頃から勉強していました。指揮の勉強は苦労しましたが、何とか東京藝大の指揮科に入学。1年の時に、オペラのアシスタントをやってみないかと誘われて、色々な経験を積ませて頂きました。藝大には著名な指揮者も沢山来られて、本当に勉強になりました。
将来、音楽家になりたいと、小学生の頃から音楽の勉強をしていました (C)飯島隆
―― 藝大では、その後の生き方を決定付けるような、かけがえのない出会いはありましたか。
ゲルギエフから何気にかけられたひと言が大きかったですね。1年の時、プッチーニ「蝶々夫人」だったと思いますが、オーケストラを使った実習をやっていた時に、講師で招かれていたゲルギエフが私の耳元で、「指揮者は音を作るのが仕事だ。今からこのオーケストラが、全然違う音を出すから聴いていなさい。」と言って、オーケストラには何も言わず、指揮棒を動かしたのです。次の瞬間、それまでとは全く違った音が鳴って、驚いたことがありました。その頃の私は、オーケストラのタイミングを合わせる事に一生懸命だったのですが、音を作る事こそが指揮者の役目なのだというのをゲルギエフに教わりました。この時の出来事は、現在までも忘れたことはありません。
ゲルギエフの教えは、忘れたことはありません (C)飯島隆
―― 留学先をドイツにされたのはどうしてだったのですか。
藝大でオペラを勉強するようになって、ドイツオペラにハマリました。もちろんイタリアオペラも好きですが、やはりワーグナーですね。他にもリヒャルト・シュトラウスやモーツァルト、ウエーバーも好きです。オペレッタも好きで色々と聴いていましたが、オペレッタは断然ドイツ語が多かったものですから。ドイツに渡って現地の空気を吸い、言葉と文化を学びたいと思い、東京藝大の大学院を修了して、ミュンヘン音楽大学大学院指揮科へ留学しました。現地のオーケストラを色々と振らせて頂き、じっくりと腰を据えて勉強していると、あっという間に22年が経過していた感じです。中でも、ザクセン州エルツゲビルゲ歌劇場の音楽総監督と同交響楽団の首席指揮者のポジションは2006年からやって来ました。
住んでいたドイツの町のクリスマスマーケット
住んでいたドイツの町の教会
―― ドイツの歌劇場の音楽総監督を日本人が務めるなんて、凄いですね。レパートリーはどのあたりですか。
エルツゲビルゲ歌劇場はドイツの田舎町にある小さな歌劇場です。15年に渡ってその劇場のプログラムを考えてきました。モーツァルトはほぼすべてやりましたし、『魔弾の射手』や『ばらの騎士』などのドイツ物はもちろん、ゴルトマルクやワーグナー=レギニー、ダルベール、オベールなどの比較的マイナーなオペラにもレパートリーを広げて行きました。日本では2013年にヒンデミットのオペラ『カルディヤック』で新国立劇場デビューを飾りました。
歌劇場での演奏風景 (オイゲン・ダルベール作曲 歌劇『低地』)
歌劇場125周年記念で、ベートーヴェン作曲 交響曲第9番『合唱付き』を演奏
―― 22年ドイツでやって来られた髙橋さんが、2021年に帰国を決断されます。
ドイツでもコロナは大変でした。そんなことも有って、今後の意思を楽団から確認されました。エルツゲビルゲとの契約は、15年以上やって来て、何回も契約を更新し、永久契約の資格を得ていました。なので、そのままずっとそのポジションに居る事は出来たのですが、まだ会ったことのない素晴らしい芸術家も沢山いますし、もう一度あの刺激的な時間を過ごしてみたいと思うようになりました。50歳を目前に、環境を変えて心機一転、もうひと頑張りしようと決断し、帰国しました。
環境を変えて心機一転、もうひと頑張りしようと決断し、帰国しました。 (C)飯島隆
―― 金城学院大学の文学部音楽芸術学科教授というポジションの話は、その時には有ったのですか。
はい、そうですね。自分がやって来たことを後進に伝えたいと思い、そのお話をお受けした後に、大阪交響楽団から首席客演指揮者のオファーがありました。2011年から度々指揮をして来た素晴らしいオーケストラなので、大変嬉しかったです。教育に携わるにしても、自分で指揮をしている、音楽を演奏している姿を学生に見せられることは、とても説得力があり、効果的だと思います。自分が一歩踏み出したことで、違う展開が目の前に広がって来た。そんな感じですね。
現在、金城学院大学の文学部音楽芸術学科教授を務めています (C)飯島隆
―― この4月から大阪交響楽団は指揮者3人体制となります。その事については如何ですか。
3本の矢というのでしょうか(笑)。 3人ともドイツで学んで来たというのは面白いですね。それでいて目指す音楽も、作り出す音も違う。3人全員がオペラに拘りを持っているというのは偶然ですし、得意とする音楽が一部共通しているのも、当然だと思います。シューマンの作品は3人が取り上げたいと考えているので、今回私が交響曲第1番をやりましたが、第2番以降を指揮する機会はなかなか巡って来ないでしょうね(笑)。メンバーは、そういった体制を経験することで、多様性を学んで行くのだと思います。
大阪交響楽団の指揮者陣(ミュージックパートナー 柴田真郁、常任指揮者 山下一史、首席客演指揮者 髙橋直史 左より) (C)H.isojima
―― 大阪交響楽団の魅力を教えてください。
音楽が好き!音楽をやりたい!そんなシンプルに熱い思いを持っているメンバーが集まったオーケストラです。創設者である永久名誉楽団代表 敷島博子さんの「聴くものも、演奏するものも満足できる音楽を!」という考え方が、メンバー全員の考え方のベースに在るからでしょうか。一人一人が真摯に音楽と向き合っています。私も音楽を愛する者として、その姿勢には共感します。メンバーの思いを素直に引き出してサウンドにすれば、お客様にもその思いは伝わると思います。
真摯に音楽と向き合っている 大阪交響楽団 (C)飯島隆
―― 昨日の定期演奏会は「音楽と文学について」というテーマが付いていました。髙橋さんがオペラ指揮者ということで、音楽と他の芸術の融合を意識したプログラムなのかなと思ったのですが、来シーズンもその流れで行われるのでしょうか。
そう考えています。まだプログラムは決めていませんが、オペラを意識すると、「音楽と絵画」、「音楽と舞踊」といったところでしょうか(笑)。どちらも色々な曲が思い浮かびます。このように、テーマに沿った曲目選びも楽しみではあります。来シーズンもご期待ください。
今年の定期演奏会のテーマは「音楽と文学」でお届けしました (C)飯島隆
―― 髙橋さんの次の出番としては、ニューイヤーに行う名曲コンサートです。こちらはワルツやポルカ、オペレッタの名曲が並びます。
ワルツ王ヨハン・シュトラウス二世のウィンナ・ワルツやポルカをお聴き頂きます。歌劇『騎士バズマン』より“チャルダッシュ”や、喜歌劇『踊り子、ファニー・エルスラー』より“ジーヴェリングの郊外で”などは、日本ではあまり演奏される機会は無いと思います。ドイツの歌劇場で指揮をして来たからこそ紹介できる、隠れた名曲にもご期待ください。軽快でウキウキするような短い曲を沢山演奏し、大きな流れをしっかり作る。こういったコンサートの特徴ですね。そして、喜歌劇『こうもり』から、序曲とアデーレの歌うアリアを2曲、お聴きいただきます。これが来る3月に向けたプロローグとなります(笑)。
来年3月に喜歌劇『こうもり』を指揮させて頂きます (C)H.isojima
―― 堺シティオペラと大阪交響楽団がフェニーチェ堺で行う、「テアトロ・トリニタリオ(三位一体劇場)」のシリーズの3回目ですね。喜歌劇『こうもり』を、髙橋さんの指揮で来年3月に上演することが決まったと聞きました。
ありがたいことです。首席客演指揮者就任の年に、早くもオペレッタ、しかも最高峰の『こうもり』を指揮させて頂ける事になりました。ご存知のように『こうもり』はウィーンやドイツでは、大晦日や年末年始に演奏される定番のオペレッタです。私もドイツでは何度も指揮をさせて頂いています。難しいことは考えずに、単純に楽しんでご覧頂けるのがオペレッタの魅力ですが、実は、社会や体制、政治に対する批判や風刺が作品に込められています。騙すつもりが騙されて、咎めるつもりが謝罪をする羽目に。しかし、すべてはシャンパンのせいだと笑い飛ばす無邪気なハナシですが、見どころ十分です。華やかなステージになると思います。
堺シティオペラと大阪交響楽団が、フェニーチェ堺で行う「テアトロ・トリニタリオ」にご期待ください (C)飯島隆
―― それは楽しみですね。髙橋さん、最後に「SPICE」読者に、メッセージをお願いします。
これからも、ドイツの響きをベースにした重厚な、それでいて柔軟な音楽を奏でていきたいと思います。大阪交響楽団の演奏会ではどんな化学反応が起きて何が起こるか分かりません。予定調和の音楽ではなく、一期一会の音楽をお楽しみください!
これからも大阪交響楽団をよろしくお願いします! (C)飯島隆
取材・文=磯島浩彰
公演情報
第259回 定期演奏会「ブラームス没後125年(2)」
■会場:ザ・シンフォニーホール
■指揮:グイード・マリア・グイーダ
■独唱:片桐 仁美(アルト)
■管弦楽:大阪交響楽団
■合唱:大阪響コーラス
■合唱指揮:中村 貴志
■曲目
ブラームス/アルト・ラプソディ 作品53
ブラームス/運命の歌 作品54
シューマン/交響曲 第2番 ハ長調 作品61
■料金:S席6000円 A席5000円 B席3500円 C席2500円 D席1000円 オルガン席2000円 青少年学生券1000円
■問合せ:大阪交響楽団 072-226-5522(平日10時~17時)
第260回 定期演奏会「追想~ウィーン」
■会場:ザ・シンフォニーホール
■指揮:オーラ・ルードナー
■独奏:熊本 マリ(ピアノ)
■管弦楽:大阪交響楽団
■曲目:
モーツァルト/ピアノ協奏曲 第12番 イ長調 K.414(385p)
ブルックナー/交響曲第6番イ長調
■料金:S席6500円 A席5500円 B席4000円 C席2500円 D席1000円 オルガン席2000円 青少年学生券1000円
■問合せ:大阪交響楽団 072-226-5522(平日10時~17時)
第261回 定期演奏会「柴田 真郁ミュージックパートナー就任記念
オペラ・演奏会形式シリーズ Vol.1“ルサルカ”」
■日時:2023年2月5日(日)15時開演(14時開場)
■会場:ザ・シンフォニーホール
■指揮:柴田真郁(ミュージックパートナー)
■出演:
王子/高橋 達也
外国の王女/砂田 愛梨
ルサルカ/森谷 真理
水の精/田中 由也
イェジババ /福原 寿美枝
森の番人/晴 雅彦 料理人の少年/村松 稔之
森の精/端山 梨奈・白石 優子・瀬戸口 文乃
狩人/荏原 孝弥
■合唱/大阪響コーラス
■管弦楽:大阪交響楽団
■合唱指揮/中村 貴志
■曲目:ドヴォルザーク/歌劇「ルサルカ」作品114演奏会形式
原語(チェコ語)上演 【日本語字幕付き】
■料金:S席6500円 A席5500円 B席4000円 C席2500円 D席1000円 オルガン席2000円 青少年学生券1000円
■問合せ:大阪交響楽団 072-226-5522(平日10時~17時)
<名曲コンサート>
2022年11月5日(土)[昼の部]13時開演(12時開場)
2022年11月5日(土)[夜の部]17時開演(16時開場)
■会場:ザ・シンフォニーホール
■指揮:山下 一史(常任指揮者)
■演奏:サクソフォン四重奏:トルヴェール・クヮルテット
ソプラノ・サクソフォン:須川 展也、アルト・サクソフォン:彦坂 眞一郎
テナー・サクソフォン:神保 佳祐、バリトン・サクソフォン:田中 靖人
■管弦楽:大阪交響楽団
■曲目:
長生 淳:サクソフォン・クヮルテットとオーケストラのための協奏曲 《Prime-Climb-Drive》
ガーシュウィン:パリのアメリカ人
ムソルグスキー/ラヴェル編:組曲「展覧会の絵」
■料金:S席3,500 A席3,000 B席1,500 [楽団WEB前売限定]
■問合せ:大阪交響楽団 072-226-5522(平日10時~17時)
第125回 名曲コンサート 「ニューイヤーコンサ-ト」
2023年1月8日(日)[昼の部]13時30分開演(12時開場)
2023年1月8日(日)[夜の部]17時00分開演(16時開場)
■会場:ザ・シンフォニーホール
■指揮:髙橋 直史(首席客演指揮者)
■独唱:金岡 伶奈(ソプラノ) ★
■管弦楽:大阪交響楽団
■曲目:
ヨハン・シュトラウスⅡ:
皇帝円舞曲 作品437
喜歌劇「こうもり」より
アデーレのアリア “侯爵様、あなたのようなお方は”★
キス・ワルツ 作品400
スペイン行進曲 作品433
歌劇「騎士パズマン」作品441より “チャールダーシュ”
ワルツ「南国のばら」作品388
喜歌劇「こうもり」より序曲
喜歌劇「踊り子、ファニー・エルスラー」より
“ジーヴェリングの郊外で” ★
ポルカ「ハンガリー万歳」作品332
ピッツィカート・ポルカ
常動曲 作品257
喜歌劇「こうもり」より
アデーレのクプレ “田舎娘に扮するときは”★
ポルカ「雷鳴と稲妻」作品324
■料金:S席3,500 A席3,000 B席1,500 [楽団WEB前売限定]
■問合せ:大阪交響楽団 072-226-5522(平日10時~17時)
「Teatro Trinitario2023」 オペレッタ×オーケストラ
■会場:フェニーチェ堺 大ホール
■指揮:高橋 直史(首席客演指揮者)
■出演:堺シティオペラ
■管弦楽:大阪交響楽団
■キャスト:
アイゼンシュタイン/桝 貴志
ロザリンデ/並河 寿美
フランク/片桐 直樹
オルロフスキー公爵/村松 稔之
アルフレード/川崎 慎一郎
ファルケ/福嶋 勲
アデーレ/宮地 江奈
ブリント博士/松原 友
フロッシュ(ゲスト出演)/茂山 千三郎
イーダ/西村 菜月
■合唱/大阪響コーラス・堺シティオペラ記念合唱団
■合唱指揮:中村 貴志
■ステージング:岩田 達宗
■曲目:ヨハン・シュトラウスⅡ世:喜歌劇「こうもり」《セミ ステージ形式》全3幕
(セミ ステージ形式・台詞日本語/歌唱ドイツ語・字幕付き)
■料金:SS席8,000円 S席 5,000円 A席 3,000円
■一般発売日:10月29日(土)10:00
※フェニーチェ堺等窓口販売・大阪交響楽団電話申し込み 10/31(月)より受付開始
フェニーチェ堺、栂文化会館、東文化会館、美原文化会館でも販売
(※ 各館の休館日・営業時間にご注意ください)
■問合せ:大阪交響楽団 072-226-5522(平日10時~17時)
■公式サイト:https://sym.jp/