角野隼斗×マリン・オルソップ指揮 ポーランド響が届けたショパンピアノ協奏曲第1番!

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クラシック
2022.9.15
9th. Sep. 2022 Kawaguchi

9th. Sep. 2022 Kawaguchi

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Lilia(リリア)とはポーランド語で百合の花のことだ。
その花言葉は「refined beauty(洗練された美)」「purity(純粋)」、「無垢」、「威厳」など。

かねてより角野隼斗は「“refined beauty(洗練された美)”はそれを意識しないところから発するからこそ美しい」と語っていた。それをショパンの音楽に感じていると。

2022年9月7日(水)よりスタートしたポーランド国立放送交響楽団来日公演。角野がショパンの「ピアノ協奏曲第1番」を共演するこのツアー公演の初日が「川口“リリア“ホール」であったことは、偶然にしては書き手がほくそ笑むぐらい出来過ぎだった。


おそらくこの日の客席に満ちていたセンチメンタリズムを当の角野は微塵も匂わせずピアノの前に座った。

やがて始まるAllegro maestoso。力強く、しかし厚みに比して柔らかさを持つ弦楽は、この切羽詰まったショパン、そして前のめりの聴衆の気持ちを少しだけ落ち着かせようとするようだ。オーケストラはセンター・オブ・ヨーロッパの楽団中でも特に丁寧さを感じさせる。マエストラ、マリン・オルソップの抑制の効いたコントロールはやはり格別であった。やがて訪れるbar139-140の2小節。“食い入る“ような視線の中のピアノソロはその刹那“噛み締める“ような重さだった。

ソリストに自由に預けてしまうわけでもなく、その幅広い受け皿でオーケストラがピアノを待つことも待たせることもなく進行する第1楽章。協奏曲というよりも共奏曲。角野は非常によくマリンを見ているのが伺えたが、それは何かを合わせようとする試みではなく、呼吸の合う者同士が同じテンポで目を見合わせてしまう感じに近い。

第1楽章が終わると会場内は深ーいため息。無理もない。聴衆の皆が昨年10月以来この瞬間を待ちに待ち、まさに息を止めるように見届けていたのだ。

6th. Sep. 2022 Tokyo

6th. Sep. 2022 Tokyo

音を一つずつ丁寧に置くという印象の2楽章では、まだ記憶に新しいフジロックフェスティバルでの野外ライヴやコンサートツアーで垣間見せたアップライトピアノの表現を感じさせる。“これはPAを通してエフェクトかかっているのか?“と思わせるアンビエンス。しかし芯のある音をホールの奥まで届かせるのは決して力強い打鍵でなく、PPをそっと、しかしぐっと押しだすことだと証明するかのようだった。

間髪入れず始まる第3楽章の印象はまさに角野の真骨頂“踊れる“だ。テクニカルな速さに終始することではない。指先を繋いで近づいたり遠ざかったりする、優雅かつダンサブルな2人が全編を通して目前に浮かぶ。中間部では両手を取り合い静かにステップを踏む。そして最後まで踊り切ったダンサーが深くお辞儀するシーンが終曲に感じられたと言ったら言い過ぎだろうか。間違いなくコンチェルトに内包されている、コンクール、その後のコンサートツアーでも大事にしていたマズルカの延長線をオーケストラと一体に魅せてくれた。リズムとビートが身体を動かせてくれているのだから間違いない。

「“refined beauty(洗練された美)”はそれを意識しないところから発するからこそ美しい」

かねてより角野が語っていたこと。この公演での演奏は間違いなくそのスタンスを貫いていたと思う。しかし人間とは面白いもので、それだけコントロールができる彼の最初の音は、やはり“ひと“の感情の発露だったようにも思える。もちろんそれもまた意識しないところから現れるものだろう。「refined beauty(洗練された美)」を乗り越えて現れる心の「purity(純粋)」。それはまさにヒューマニティで、それこそが人の心を打つ音楽の要因でもあるのだと目の当たりにさせてくれたコンサートだった。高みを目指すストイックな姿勢は大切だし大いに結構だが、一年に一夜ぐらい(いやもっと)そんな日があっても良いだろう。9月7日は彼にとってそのような日だったのではないだろうか。

19th. Aug. Katowice

19th. Aug. Katowice

川口リリアでの初日を終えたのち、サントリーホール(東京)、ザ・シンフォニーホール(大阪)、静岡、名古屋、福岡、岡山と続き、その間指揮者マリンとの呼吸、そしてオーケストラとの一体感は当然のように増していった。大阪でのライヴはレコーディングもされたが、普段クラシック音楽とはあまり縁のない多くのカメラマンやスタッフが皆口を揃えて「今日はとてつもなくすごいものを見てしまった気がする」と語っていたことを付記しておこう。全ての公演について、その違いや進化、時には批評を言及したいところではあるが、多くの人々の批評や感想に耳を傾けたい。9月14日現在、ツアー11公演は折り返しとなった。

初日のアンコールにて奏でられたのはパデレフスキ作曲の「ノクターン」。オーケストラはもちろんポーランドのスタッフが感慨深く聴いているのが一目でわかる。「優美」や「静謐」を感じさせるショパンのノクターンはもちろん有名だがこのノクターンが感じさせるのは「安堵」。

ポーランドのピアニストで作曲家、独立時の首相も務め晩年はアメリカに渡りニューヨークで亡くなったパデレフスキ。その波乱の生涯の果てを彷彿とさせ、角野も自身一つの山を越えた気持ちが重なっているように見えた。

「この曲を初日のアンコールにしたら間違いなく来日した全員味方じゃん!なんてずるいやつなんだろう」

と思うのは心が「purity(純粋)」でない証拠(笑)。
角野自身は「好きな曲なんで」と。
この曲は、2022年のリサイタルツアーのアンコールで演奏されていたのでまんざら嘘ではない。

しかし翌日のアンコールは、趣真逆のガーシュウィン「スワニー」。
今度は楽屋でもコカ・コーラを愛するニューヨーカー、マエストラ マリン・オルソップに対してか(笑)。

その後もアンコールは毎日異なる楽曲が選ばれている。

文=N.S 

公演情報

ポーランド国立放送交響楽団 来日ツアー
 
出演者
ポーランド国立放送交響楽団
マリン・オルソップ(指揮)
角野隼斗(ピアノ)
 
演奏予定曲目
バツェヴィチ/序曲
ショパン/ピアノ協奏曲第1番(ピアノ:角野隼斗)
ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」 もしくは ブラームス/交響曲第1番
 
日程
2022年9月07日(水) 埼玉:川口総合文化センター・リリア(公演終了)
2022年9月08日(木) 東京:サントリーホール(公演終了)
2022年9月10日(土) 大阪:ザ・シンフォニーホール(公演終了)
2022年9月11日(日) 静岡:グランシップ(公演終了)
2022年9月12日(月) 愛知:愛知県芸術劇場(公演終了)
2022年9月13日(火) 福岡:福岡サンパレス ホテル&ホール(公演終了)
2022年9月14日(水) 岡山:岡山シンフォニーホール
(公演終了)
2022年9月16日(金) 石川:金沢歌劇座
2022年9月17日(土) 長野:キッセイ文化ホール
2022年9月18日(日) 山形:山形テルサ -完売-
2022年9月19日(月・祝) 神奈川:神奈川県民ホール -完売-
 
【リリース情報】
ポーランド国立放送交響楽団 来日ツアー、9月10日(土)大阪・ザ・シンフォニーホール公演において、マリン・オルソップ指揮、角野隼斗が演奏する「ショパン:ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 作品11」ライヴ録音が実施され、リリースが決定。発売日など詳しい情報は角野隼斗オフィシャルサイトにて、後日発表予定。
https://hayatosum.com/archives/2462
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