【千秋楽/大阪REC 追記】角野隼斗×マリン・オルソップ指揮 ポーランド響が届けたショパンピアノ協奏曲第1番!
演奏は多くの会場でスタンディングオベーションをいただき、オーケストラから見てもこの反応は驚きと感動に満ちたものだった。演奏はもちろんだが、聴衆の多くを占めていたであろう角野ファンのシンパシーも自然にそれを後押ししたことだろう。
演奏者にとって同じ楽曲を短期間で演奏するツアーは楽曲を深化させていくメリットがある一方、漫然からおきるちょっとしたミスを抱えやすい側面もある。
そして聴衆の反応ほど正直なものはない。
コンサートは決してクラシック音楽の知識を豊富に持ち多くの演奏を聴き慣れた人のものだけではなく、ある人にとっては“人生で初めてこの曲を聴く“瞬間かもしれない。
他愛無く思われるちょっとした演奏ミスは想像以上に聴くものの集中度に影響する。
聴き終えた時に立ち上がらざるをえずにはいられない高揚感、その自然発生の純度を落とす。この反応はとても正直で誠実な感覚だ。
演奏者にとってツアー公演での集中度の持続というものは肉体的そして精神的にとても負荷がかかる。しかし酷なようだがそれはとても喜ばしいことではないだろうか。そのようなツアーを行えるアーティストは限られ、プレッシャーを感じながらベストを積み重ねその音楽の喜びを聴衆と刹那共有する。角野は今後その要求に表向き涼やかに、しかし応え続けていくのだろう。
かつて角野は自身の録音を行うことに懐疑的だった。世の中にこんなに素晴らしい録音が満ち溢れているのに自分などが行う必要があるのだろうか、その録音に足りうる演奏をしているのだろうかと。しかしまたその角野隼斗をきっかけにピアノをオーケストラを聴く機会がスタートした聴衆にとって今の時代はとても恵まれている。
彼の演奏で様々な曲の魅力に触れたなら以下を聴いてみるのも一興だ。
「ラプソディ・イン・ブルー」なら、ガーシュウィン自身の演奏ロールピアノ/ ティルソン・トーマスがある。
「ラフマニノフの2番」なら、グリモー/アシュケナージも素晴らしい。
そしてファンには旬の話題かもしれない、ワイゼンベルグ/カラヤンはYoutubeでも全編を見ることができる。
そして今回録音がなされた「ショパンの協奏曲第1番」なら、今や代表的なツィメルマンの新旧2つの録音もあり、若きアルゲリッチ/ デュトワの1959年版で17歳の輝きに触れてみるのも良いだろう。
(※ ピアニスト/ 指揮者)
それらを耳にしたときにあらためて角野隼斗/ オルソップの演奏を聴きたくなるかもしれない。
それこそが2022年に“胎動“した“いまを生きるスタンダード“と確信できる時なのだろう。
文=N.S【2022年10月17日 付記】
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