MASS OF THE FERMENTING DREGS、新たな一面を感じる最新作を気迫のライブで表現 ツアー東京公演レポ
MASS OF THE FERMENTING DREGS
「Awakening:Sleeping」Release Tour 2022.9.25 新代田FEVER
9月25日に新代田FEAVERにて、MASS OF THE FERMENTING DREGSの5thアルバム『Awakening:Sleeping』のリリースツアー東京編が行われた。宮本菜津子(Vo/Ba)はライブ中に「どれだけ好きなミュージシャンでも、2時間ライブを観続けるのはキツいよね」と話していたが、正直今日のライブは、あと1時間観ていたいと思えた。それほどに『Awakening:Sleeping』をリリースした今のマスドレのライブは、今まで以上に研がれ、今まで以上に伸びやかなもので、本当に素晴らしかった。
ステージに小倉直也(Gt/Vo)、吉野功(Dr)、そして赤いワンピースを身にまとった宮本が裸足で登場。吉野のカウントをきっかけに、最新アルバムのラストを飾る楽曲「Just」でライブをスタートさせたのだが、一音目が鳴った瞬間の迫力たるや! 音が鳴ったことで空気が震え、それと同時にぶわっと吹いた風を全身で受けたかのような感覚がした。力強さはもちろん、身を預けられるような包容力と安心感がある。MASS OF THE FERMENTING DREGSが鳴らすのは、そんな優しい轟音だ。
ディレイの効果で透明感に浮遊感が寄与された、深淵から聴き手を救い出すような荘厳さを持った宮本の歌と、歪んだギターソロと強烈なビートとの対比が美しい「Just」から、2曲目の「いらない」へ。吉野の“全身全霊”としか表現できないような渾身のドラミングが会場の空気をビリビリと震わせ、オーディエンスも体幹から揺さぶられているかのようにリズムに乗っていた。「かくいうもの」では、土着的なリズムや小倉の鋭いリフに合わせて高揚したオーディエンスによるハンズクラップが鳴り渡り、フロアを見渡せば、多くの人が音に身を預けて自由に身体を揺らし、踊っていた。その光景を見た宮本の顔にも、笑顔が溢れていた。
ジャキジャキと鋭いギターフレーズがエキサイティング・ロックチューン「She is inside,He is out side」へと誘うと、妖艶さを携えたファルセットと歪んだギターが絡み合いながら、ヒート&クールのバランスとスピード感を落とさずに「MELT」へと結合していく。アラームの如く、聴き手の緊張感を煽るギターリフと重厚感のあるタイトでヘヴィなビートがダークな雰囲気をもたらしたのだが、まさにMELT=溶けるような至極の時間だ。
そこから、小倉がリードボーカルを担う「Ashes」で空気がポップなものに一変。前2曲でぐっと高まった集中力を一気に解放したかのような気持ち良さ(サウナ後の「整う」の感覚に近い)があり、宮本のボーカルがのびやかかつ軽やかに飛んでいく「Sugar」、青い照明の下で清涼感たっぷりに響く「New Order」が続くと、窓を開けた時に入り込む涼しい風のような心地好さを会場にもたらした。こうした爽やかなポップチューンでもビートの重厚感は間違いなくあるのに、そこに重苦しさを全く感じさせないのが凄い。
エモーショナルに展開していくメロディに寂寥感漂う歌詞が乗る「青い、濃い、橙色の日」を経て、「I F A SURFER」ではスリリングに疾走していく。2000年代初頭にリリースされた2曲ではあるが、今のMASS OF THE FERMENTING DREGSのモードにもばっちりハマる楽曲だ。心地好い緊張感やヒリついた感覚をもたらしつつも、パワフルかつダイナミックで、何よりとても自由。MCでも宮本が「マスドレは20年目になるけど、作品出したり新曲をライブでやったりするのって全然慣れへんなと思います」とリリースの度に新鮮さを感じているという話をしていたが、バンド歴の長さはあれどもそうした瑞々しい感覚を持ち続けているということは、今作『Awakening:Sleeping』にも表れているなと思う。
音楽的なジャンルの壁を越え、「自分たちが今、鳴らしたい音楽」に対して正直に向き合い、悠々と鳴らしている。けれども、各楽曲が好き勝手に散らばっている訳では決してなく、作品の中で9曲が一本の糸で繋がっているような安心感がある。そこは20年目の経験と感性が由縁するところであると思うが、「“自分”がやってみたいこと」を衝動的に出力するのではなく、「“MASS OF THE FERMENTING DREGS”がやってみたいこと」として生み出された楽曲たちのように思う。だからこそ、今作は間違いなくターニングポイントとなり得る新しい傑作ではあるのだが、とても自然体なのだと思う。
そんな今作のトップを飾る、豊かさの中にじんわりとした寂しさを感じさせるドリームポップチューン「Dramatic」を届けた後は、MASS OF THE FERMENTING DREGS史を語る上でも間違いなくひとつのポイントとなる超名曲「1960」をプレイ。約8分半に及ぶ長さもさることながら、ライブの中~後半でプレイするにはあまりにストイックなループ&ループ! これはもう、3人の気合と気迫の賜物だ。途中にボーカルも入るとはいえ、ほとんど音として聴こえてくるので実質インスト曲なのだが、これがもう最高に気持ち良い! プレイも音も超ソリッドでサイケなのに、雄弁で軽やかさもある。その絶妙な塩梅ができるのが、流石マスドレだなと思う。
そこからアルバムの曲順に則してドスの効いたヘヴィチューン「Helluva」をプレイしたのだが、ここでなんと、Taigen Kawabe(BO NINGEN)がゲストボーカルとして登場! ロンドン在住のBO NINGENが偶然帰国していたタイミングだったが故に実現できたまさかの演奏に、会場のテンションはさらに上昇。宮本も「ほんま最高やで!」と感情の昂ぶりを露わにしていた。今年の8月にイギリスで行われたフェス『Arc Tangent Festival』に出演した後、検査の関係で宮本だけ帰国できなかったというエピソードの中では「ロンドンにはTaigenくんがおる!と思うことで、本当に気持ちが救われた」と話し、Taigenもまた、BO NINGEN 結成当初にMASS OF THE FERMENTING DREGSのライブを観に行ったと語っており、この日のライブでの共演が叶ったことは、なんとなく偶然という一言で片づけられないものがあるんじゃないか?と思った。
そして、静寂と激情、温かみと物悲しさ、祝祭感と悲壮感――人生にも例えられるそうしたコントラストを、豊かなランドスケープで描いたインスト楽曲「エンドロール」をプレイ。「エンドロール」も「1960」と同じく10分弱のインスト楽曲だが、宮本は「私は元々、バンドで歌いたい!と思ってバンドを組んだ訳ではないから、結果的にベースボーカルという位置になったけど、やっぱり単純に演奏するのが好きなんですよね」と想いを伝えた。
そうした「バンドで演奏できるのが楽しい」という気持ちは、明瞭度が上がった「たんたんたん」や「鳥とリズム」、《パーッパッパ》というフレーズが楽しい「スローモーションリプレイ」に宿っているような、無垢で清々しいポップネスとして表れているように思う。そして本編は、「あさひなぐ」に続き、カスタネットがフロアに投げ込まれた後に怒涛の展開と圧巻のプレイでオーディエンスの興奮を最大限まで跳ね上がらせた「ベアーズ」を以て幕を閉じた。
アンコールで再度ステージに登場した3人は、このライブ中に足攣った!指攣った!と笑いながら話しつつ、最後に「ワールドイズユアーズ」と「ハイライト」をプレイ。吉野は「もう20曲もやんない!」と言っていたが、こちらとしては、物凄いライブを観させてもらったなぁと感謝しきりだ。20年のキャリアを経てもなお、聴き手にも新鮮さをもたらしてくれるマスドレの次なる活動を心待ちにしていたいと思える、これから先への楽しみをも感じさせてくれるライブだった。
取材・文=峯岸利恵
リリース情報
5th Album 『Awakening:Sleeping』
配信中/発売中
『Awakening:Sleeping』
1.Dramatic
2.いらない feat. 蛯名啓太(Discharming man)
3.MELT
4.1960
5.Helluva feat.Taigen Kawabe(BO NINGEN)
6.Ashes
7.After the rain
8.鳥とリズム
9.Just