秦の始皇帝が残した兵馬俑には、どんな想いが詰まっているのか? 『兵馬俑と古代中国』谷原章介インタビュー

2022.10.28
インタビュー
アート

『日中国交正常化50周年記念 兵馬俑と古代中国〜秦漢文明の遺産〜』ナビゲーター・谷原章介

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古代中国の歴史を語る上で外せない“兵馬俑”。その単語を聞いて、「ああ!」と目を輝かせる人にも、「兵馬俑……?」と首をかしげてしまう人にも紹介したいのが、2022年11月22日(火)から2023年2月5日(日)まで、東京・上野の森美術館で開催される『日中国交正常化50周年記念 兵馬俑と古代中国〜秦漢文明の遺産〜』だ。本展は、2000年以上前の春秋戦国時代と秦、漢の両王朝の時代に、地下に数多く埋蔵された兵馬俑に焦点を当て、中国国家一級文物24点をはじめ、日本初公開を多数含むおよそ200点を展示する。
展覧会のナビゲーターならびに音声ガイドを務めたのは、俳優業・司会業にと引っ張りだこの谷原章介。もともと『三国志』など古代中国の歴史が大好きで、兵馬俑にも興味津々という谷原。インタビューでは、兵馬俑や古代中国の魅力はもちろん、音声ガイド収録の際の声のこだわりや、自身がこれまで経験した思い出深いアート体験まで、とことん語ってくれた。

『日中国交正常化50周年記念 兵馬俑と古代中国〜秦漢文明の遺産〜』

幼い頃から憧れた『三国志』の世界 兵馬俑にも興味津々

――谷原さんは『兵馬俑と古代中国〜秦漢文明の遺産〜』のナビゲーターと音声ガイドを務められます。このころの中国の歴史などに、もともと興味があったんですか?

そうですね、小さい頃から憧れた世界ではありました。というのも、横山光輝さんの漫画の『三国志』や、ゲームの『三国志』シリーズに夢中になっていたんです。僕らの時代だと、ちょうどNECのPC98とかのパソコンでゲームをやっていたんですよ! 董卓から武将を奪ってくるとか、いろいろな交渉をしてみて自分の部下を増やしていくとか、「えー、あの馬超が俺の部下に!?」みたいなのが楽しくて(笑)、どんどん好きになっていきました。たぶん僕の世代で読んだことがない、やったことがない男はいないんじゃないかな、という気がします。

――となると、今回のオファーを受けて「やったー!」というお気持ちでしたか?「もっと知りたい」という知識欲も湧いてきたんでしょうか?

両方の気持ちがありました。本展をきっかけにもっと知ることができると思いましたし、兵馬俑を見たことがないので自分がどう感じるかもすごく楽しみです。兵馬俑はこれまで何度か日本に来ていて、そのたびに何十万人という方が見て、すごく好評をいただいている展覧会と聞いています。今回は、その中でも普通の兵じゃない、将軍俑というちょっと位の高い兵馬俑の中から、初来日の一体が来るんですよね。実際に見て生のすごさを感じたいです。

――これまでは兵馬俑にどういった印象を抱かれていたんでしょうか?

元々、兵馬俑は人が亡くなったときに、本物の人の代わりに何千体と一緒に葬られたものなので、身代わりとでもいうんでしょうか。秦の始皇帝の時代だけ等身大の兵馬俑で、その前後の時代は小さい兵馬俑なんですよね。初めて中国を統一した秦の始皇帝に関して、「そんなすごい人がこの世にいたんだ」と思うと同時に、どこか畏怖の念みたいなものを抱いた覚えがあります。結局、なぜ秦の始皇帝だけが精緻な作りの等身大の兵馬俑を作ったのか、そこも気になっていました。

――等身大の兵馬俑を作ったことについて、諸説あると言われていますよね。谷原さんご自身は、なぜだと思われますか?

秦の始皇帝は初めて中国というあの大きな国を統一したわけで、やっぱり莫大な財も入ってきたと思うんです。となると、自分が亡くなった後も自分の偉大さを後世にずーっと喧伝し続けたかったのではないかな、と。だから、「え? こんなちっちゃい兵馬俑? 俺だったら等身大じゃない?」、「こんな雑な顔の作り? 俺はもっとバシッとリアルにしてほしいよ」とか思ったんじゃないかな、と。それらを作るのには、とてつもないお金がかかるでしょうし、作ることができるのが絶対的な権力の誇示の仕方だったんでしょうね。

……そう僕は思ったんですが、展覧会初日の前夜に、監修の先生と一緒に散策する機会をいただいたので、第一人者の先生にそのあたりはとくと聞きたいと思います(笑)。

――本展覧会を見ることで、その時代について深く知るよさがありますし、同時に今に対しても考えさせられるところもありそうです。谷原さんはどう感じますか?

僕たちが今生きているこの現代の人間たちのほうが、当時の方たちよりも優れていると果たして言えるんだろうかとすごく思います。今は何でもかんでもスマホ頼みで、僕もそうですけど、記録するのもスマホ、調べるのもスマホ、何でもスマホを使ってしまいます。実は当時の人たちが、自然だったり、生き物だったり、季節だったり、そういったものの中から得ていた情報のほうが、より豊かなのかもしれないなと思います。

ものを作った人たちの思いみたいなものは、今回来る文物の中には絶対注ぎ込まれていて、それが結晶化したものだと思うんです。エネルギーがすごくあるはずなので、そこも感じたいと思っていますね。

落ち着いたトーンで 語りかけるような音声ガイド

――音声ガイドについては、どのようなことを意識して収録したんでしょうか?

展覧会に一緒に行っているような感じで、その方の耳元で「これはね、こうこうこうでこうですよ」と、静かにあまり声を張らずに話すイメージで、今回は収録をさせていただきました。

兵馬俑は戦争を感じるものでもありますが、これらはやっぱり一級の美術品でもあるわけじゃないですか。悠久のときを経てここまで生き残ってきた国宝級の文物ですから、そういうものを説明するときには、張った声でやるよりも、ぼそぼそと話す声のほうがお客さんを邪魔しないと思うんです。ですので、引いて抑えた声の出し方をすごく意識しました。

ご覧になる方々も、例えばスポーツ観戦みたいに「うわーっ!」と高揚しているわけではないと思うんです。すごーく静謐な気持ちでご覧になっていると思うので、そういった方々に寄り添うには、僕も静かに落ち着いたトーンがいいかなと思いました。

――音声ガイドならびに声のお仕事については、今お話されたように、いつも内容に合わせる語り掛けを心がけているんですか?

そうですね。例えば、もっとストーリー立てていくような展覧会の場合でしたら、入り口から出口を起承転結で見立てます。自分としても、見ている方のストーリーを意識しながら、最後は盛り上げたり、シーンによってはちょっと落ち着いたトーンにしたりとか、全体として考えてやります。

今回の場合は、秦が出てきて、途中で漢が出てきて、また秦が出てきたりとかもするんですよね。なので全体的なストーリーというよりも、全体的なトーンとして一緒に見る方と僕も回っていこうかな、という意識で作っていました。

――谷原さんはアートやデザインにも詳しいですが、これまでに一番感動したアート体験、鮮烈に記憶に残っている思い出は何ですか?

すごく覚えているものがふたつあります。ひとつは、僕が18か19ぐらいのときに世田谷美術館で開かれた『パラレル・ヴィジョン―20世紀美術とアウトサイダー・アート』という展覧会です。僕は、そこで初めて草間彌生さんの作品を見たんです。よく海からクジラが死骸であがると、脊椎がばーっとあり、ちょっと肉がついているみたいな感じですけど、遠くから見ると、そんな感じのものが天井からふわーっとぶら下がって、とぐろを巻いていたんです。けれど、近寄ったら軍手の中に綿が詰められていて、その軍手が彩色されていたんです。あれにはすごく驚きましたね。

もうひとつ驚いたのは、ヘンリー・ダーガーの作品です。ヘンリー・ダーガーは精神的に疾患のあった方で、妹と生き別れになっているんです。その妹が世界を守る天使か何かで出てくる作品で、妹をモチーフにしたその天使……というか少女が何人もいて、世界の悪魔側と戦い続けている、すごく壮大で長い物語なんですけど、最後はその少女たちが殺されてしまう。僕は、ヘンリー・ダーガーが生き別れになった妹が殺されてしまったんじゃないか、という思いを吐露した作品に思えたんですね。

――ヘンリー・ダーガーのその作品からは、谷原さんはどんなことを感じたんですか?

僕は西洋のアウトサイダーの方たちの作品には、どこかにキリスト教的な要素が入っているように思うんです。そこに救いを求めているんだな、と。宗教的なキリストの救いみたいなものが埋め込まれてるのを見たときに、ちょっと切なくなりました。救われたいんだな、救われたいからこれを描いているんだな、作ってるんだな、と感じるんですよ。ただ作るという衝動だけを昇華させたくて作っているわけじゃなくて、プラス、そこに救われたい思いを感じて、すごく切なくなったので記憶に鮮明に残っています。

――ありがとうございました。最後に『兵馬俑と古代中国』について、興味がある人は必ず足を運ぶであろう展覧会ですが、なじみのない人には「何ぞや……?」となるものかもしれません。どういう視点で見たらより面白いかなど、お勧めポイントを谷原さんからぜひお願いします。

そうですよね! 僕みたいに興味津々の人には、秦の始皇帝が自分が死んだ後、これだけのことを成し遂げられるといいますか、やらせることができたその権力が、ひしひしと伝わってくると思うんです。いろいろな頭骨や金で作られた印、そうしたものからもロマンを感じたりもすると思います。

だけど、おっしゃるようになじみがなかったり、どこから取り掛かっていいかわからない人もたくさんいらっしゃいますよね。そういう方には、例えば……そうだな。ドラマから入るなんて、いかがですか? 今、中国の歴史ドラマ、展覧会の時代に近いドラマもたくさんあると思うので、まずはご覧になってみる。ドラマを見たらきっと興味が湧いてくると思うので、それから展覧会に行ったり、逆に先に兵馬俑を見てからドラマを見たりしてもいいかもしれないですね。

いろいろ言いましたけど、僕は理解しなくてもいいと思うんですよね。「わー、なんか楽しかった!」とか「なんかすごい!」でいいので、スマホの画面とかではない生のものを、とにかくその場でご覧いただきたいです。あとは、本当にスケールが日本とは違うので、中国の大きなスケールを感じていただきたいです。間違いなく当時の世界で一番の文明、もしくは国力があったことは間違いないですから、その一端を見ていただければ嬉しいですね。

谷原章介が音声ガイドを務める『日中国交正常化50周年記念 兵馬俑と古代中国〜秦漢文明の遺産〜』は、2022年11月22日(火)から2023年2月5日(日)まで、上野の森美術館にて開催。


取材・文=赤山恭子 写真=オフィシャル提供

展覧会情報

日中国交正常化50周年記念 兵馬俑と古代中国~秦漢文明の遺産~
<東京展>
会期: 2022年11月22日(火)~2023年2月5日(日)
会場: 上野の森美術館
住所: 東京都台東区上野公園1-2
開館時間: 9:30~18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日: 2022年12月31日(土)、 2023年1月1日(日)
観覧料(税込): 一般 2,100円 高校・専門・大学生 1,300円 小・中学生 900円
TEL: ハローダイヤル 050-5541-8600(9:00~20:00)
※2022年11月2日(水)10時より発売開始予定。
※日時指定予約制です。 当日の入場枠を設けておりますが、 ご来場時に予定枚数が終了している場合がございます。
※未就学児は入場無料。
※小学生以下は、 保護者同伴でのご入場をお願いします。
※学生券でご入場の場合は、 学生証の提示をお願いいたします。 (小学生は除く )
※障がい者手帳(身体障害者手帳、 療育手帳、 精神障害保健
福祉手帳、 愛の手帳、 被爆者健康手帳)をお持ちの方は、 ご本人と付き添いの方1名様まで入館無料となります。 ご来館の際、 会場入口スタッフへお声がけください。 (日時指定予約は不要)
※詳細は、 展覧会公式サイトをご確認ください。
https://heibayou2022-23.jp
主催: 東京新聞、 フジテレビジョン、 上野の森美術館、 陝西省文物局、 陝西歴史博物館(陝西省文物交流中心)、 秦始皇帝陵博物院
後援: 外務省、 中国大使館、 公益社団法人日本中国友好協会
協賛: DNP大日本印刷
協力: 一般財団法人日本中国文化交流協会、 東海大学情報技術センター
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