『TOKYO ISLAND』東京湾に浮かぶ海の森での新たなフェスティバル・親子体験レポ
『TOKYO ISLAND』 撮影=釘野孝宏
東京ゲートブリッジの近くに“海の森”という名が付けられた公園がある。『東京オリンピック・パラリンピック2020』のボートやカヌースプリント、馬術の会場として使用されたので覚えている人もいるだろう。東京湾に浮かぶ島のようなその公園で、9月23、24、25日に新しいフェスティバル『TOKYO ISLAND』が開催された。
フェスの最終日、『TOKYO ISLAND』を目指して車に乗り込んだ。ナビに「海の森公園」と入れるも該当施設がなく、住所を打ち込んだら空き地のような場所が示された。やや不安になり、スマホを取り出しGoogle Mapで検索してみると「海の森公園」にヒット。どうやらそこには“海の森”と“風の森”があるらしい。「どんな場所なんだろう?」と目を輝かせる息子を乗せて、いざ出発!
■『TOKYO ISLAND』の会場は東京湾に浮かぶ島「海の森公園」
撮影=釘野孝宏
このフェス最大の魅力は、なんと言っても会場である「海の森公園」だ。フェスのオフィシャルサイトにも「東京の空の下、日本一のフェス空間になるであろう、夢とファンタジーあふれる“島”が生まれました!」とある。しかし驚くなかれ、かつてこの地は高さ30メートルのゴミの山だったそうだ。今ではその事実が信じられぬほど豊かな木々が生い茂っており、まさに森という名が相応しい場所になっている。また、ゴミから連想するニオイもまったくないため、埋め立て地と言われてもピンとこなかった。
調べてみると、1973年から1987年にかけて1230万トンのゴミによって造成後、リサイクル土や建設発生土などで表面が覆われたこの埋め立て地に2008年から2015年の間に都民が協働して約24万本を植樹。その苗木を購入した原資は建築家・安藤忠雄氏が率いた「海の森」募金によって集められたもので目標額5億円を達成。そのほか、小学生や苗木づくりボランティアの人々によってドングリから育てられたそうだ。なお、この埋め立て地を美しい森に生まれ変わらせる計画「海の森プロジェクト」は東京都港湾局によって現在も進められていて、整備中のため通常は立ち入ることができない。なるほど、ナビにこの場所が登録されていないのも合点がいく。しかし『TOKYO ISLAND』では特別に入場することができた。普段は入れない場所でフェスが開催されるなんて最高に楽しいじゃないか!
撮影=釘野孝宏
■メインゲートの先には、一面に広がる青空と広大な大地
撮影=釘野孝宏
駐車場から徒歩1分のエントランスで、リストバンドとステッカーを受け取ってメインゲートへ向かう。いい汗をかき始めた頃、ようやく音が聞こえてきて高台にゲートが見えた。坂を上ってゲートをくぐると、どこまでも広がる青空と平らな大地が広がっていた。ぐるり見渡すと、最果てにステージらしきもの、その反対側の奥地には子ども用の遊具のようなものが見えたがどちらもかなり遠そう。ゲート近くの中央部分はキャンプ用テント群が陣取っていた。
撮影=釘野孝宏
前日の雷雨でぬかるんだ場内をたくましすぎる草の茎に気をつけながらメインの「アイランド・ステージ」へ。そこでは羽田空港からの飛行機が飛び交う大空の下、ステージでは田島貴男がゴキゲンな弾き語りライブを繰り広げていた。飛行機と大空とコラボするライブ。こんな異次元なフェス模様は初めてだったので大層驚いたし、実に面白かった。
もうひとつの「トウキョウ・ステージ」へ移動すると、眼下には東京湾、その向こうには東京タワー、スカイツリーなどを有する“ザ・東京”といった景色が広がっていた。中には役目を終えたパレットタウンの観覧車が解体中である様子も見える。ビルボードライブ東京の都会の夜景や、瀬戸内海を見下ろせる香川県さぬき市野外音楽広場テアトロンが有名だが、東京のスカイスクレイパーと海がバックにあるこのステージもまた日本屈指のライブ・ロケーションといえるだろう。ほどなく、まらしぃの奏でるピアノの美しい旋律が良い風とともに響きわたり、さらに気分がよくなった。
撮影=早乙女‘dorami’ゆうこ
■子どもが夢中!「恐竜ツアー」「グリッターアート」
撮影=早乙女‘dorami’ゆうこ
子どもが遊べるエリア「あそビバ!」では恐竜ツアーが人気で、予約できたのは1時間後の回だった。このアトラクション では、ガイドと共に6人用のツアー専用車に乗り込んで、恐竜たちのいる白亜紀を20分間旅することができる。恐竜たちは鳴いて動くので子どもたちは大興奮。同乗した人たちと一緒に親子で大いに楽しんだ。息子は車から降りて恐竜に触れられたのが一番嬉しかったとのこと。ほかにも息子は大型のインフレータブル遊具やトランポリンでダイナミックに遊んだり、子ども向けにも展開されていたグリッターアートも体験し、いたく気に入っていた。
撮影=早乙女‘dorami’ゆうこ
撮影=早乙女‘dorami’ゆうこ
撮影=早乙女‘dorami’ゆうこ
撮影=早乙女‘dorami’ゆうこ
撮影=山川哲矢
■最高の眺望とバッタ天国! 東京を一望できる「希望の丘」
撮影=早乙女‘dorami’ゆうこ
場内にある「希望の丘」からの眺めは必ず観た方がいい。360度とはいかないけれど、あの場でしか目にできない東京眺望が確かにある。特に、東京ゲートブリッジをあの角度から観られるのは貴重だ。母は橋に、息子は知らない子とトモダチになって巨大バッタに興奮していると、ステージからスガシカオの歌声が風にのって聞こえてきた。そこで戻ろうとしたけれど、カエルやトンボ(しかも見たことのないトンボ!)などの昆虫天国は息子を虜にさせたため、戻ることなくそこで我らの初『TOKYO ISLAND』は終了。空は夕暮れの時のいい色に変わっていた。
撮影=早乙女‘dorami’ゆうこ
撮影=早乙女‘dorami’ゆうこ
撮影=早乙女‘dorami’ゆうこ
■まとめ
フェス全体を通して、子どもと相性の良いフェスだと感じた。「飛行機」「虫」「恐竜」という子どもの大好物が揃うフェスは他にないし、埋め立て地という立地から、ゴミ、リサイクル、環境問題について子どもと話すきっかけにもなった。また、都心での開催なので、子連れでも気軽に足を向けられるのは大きなポイント。欲を言うなら、ケロポンズなどの子どもに人気のアーティストがラインナップされるとより楽しめそうだ。
『TOKYO ISLAND』に参加するにあたり、「都市型フェス」と「埋め立て地」というワードから無機質でクールなイメージを勝手に抱いて参加したものの、その予想はいい意味で裏切られた。場所だけを言い表せば都市型だが、実際は海に囲まれた緑豊かな巨大公園での開催で、「東京にこんな場所があったなんて!」と感動しきりのビュースポットがいくつもあった。一方で、未完成の公園であることや、フェスが初回開催ということで不便に感じた点もあったし、会場の大きさと比較すると集客には寂しさがあった。だがそうした点はこのフェスも他のフェス同様に、人々の夢や信念、それに伴う実行力によって、これから時間をかけて育っていくのだろう。海に囲まれた埋め立て地という特殊さがゆえにインフラ整備には時間がかかりそうだが、東京の、しかも埋め立て地にファミリーが集う、そんな新しいタイプのフェスが2022年に生まれたのは喜ばしいこと。この先どのように進化を遂げていくのだろうか。その未来を想像するだけでワクワクする。
文=早乙女‘dorami’ゆうこ
撮影=山川哲矢