師との“真剣勝負”で伝えたいこととは ヴァイオリニスト岡本誠司インタビュー

インタビュー
クラシック
2022.10.24

バッハとイザイ 無伴奏作品の「求道的な部分」に注目して

ドイツ・クロンベルク(岡本提供)

ドイツ・クロンベルク(岡本提供)

——続いては、J.S.バッハ「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番」から “シャコンヌ" をヴァイトハースさんがソロで演奏します。岡本さんとしては、師匠が演奏する “シャコンヌ” にどのような期待を抱いていますか?

先生ご自身もバッハの無伴奏 全6曲とイザイの無伴奏 全6曲というの3枚組のCDを数年前にリリースされていますし、現在、先生は50代でいらっしゃいますけれど、それまで積み重ねていらっしゃった知識、経験、技術、音楽観の集大成が今回のステージで聴けるのではと期待しています。

——岡本さんのソロで演奏される イザイ「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ 第2番 イ短調」は、 バッハの「ヴァイオリンのための無伴奏作品集」とも大きなつながりのある作品ですね。

はい、この作品集の中から第2番を選んだ最大の理由は、まさにイザイがこの作品においてバッハの作品を引用しているというところにあります。

——バッハの「無伴奏パルティータ 第3番」の引用でしょうか。

そうです。あとはグレゴリオ聖歌の「Dies Irae(怒りの日)」も引用されています。このイザイの6曲の「ヴァイオリンのための無伴奏ソナタ」は、基本的にその全曲がバッハの無伴奏作品6曲を念頭において生み出されたものですが、第2番は第1番と共に特にバッハに近い作品です。

そういう意味では、バッハとイザイが生きた二つの時代の間にある約200年の時の流れとともに、ヴァイオリンという楽器の扱われ方の変化などを感じ取っていただくのも非常に面白いと思いますし、ヴァイオリニストとしてこの楽器を知り尽くした彼(イザイ)ならではの独自の世界観を感じることができる稀有な作品だと感じています。

——そもそもヴァイオリニストにとって、無伴奏作品を演奏する醍醐味とは一体どのようなものなのでしょうか。

無伴奏作品を生みだした二人の作曲家、バッハとイザイの作品は、ヴァイオリンを志す上で紛れもなく二つの大きな山だと思います。僕自身も、あの小さな楽器のために、そして、その楽器によってここまで高みへと引き上げた二人の作曲家の作品を深く知るにつれ、演奏する時は毎回、身が引き締まる思いです。

なので、この二人の無伴奏作品に触れる際は、「音や色彩を楽しむ」という要素に加えて、さらに奥深いところにある 「求道的な部分」も感じていただければと思います。それは、自分自身とのシビアな対話であったり、楽器との対話であったり、空間との対話であったり。これらの要素すべてが無伴奏作品の魅力です。

――プログラム最後は、同じくイザイによる「2つのヴァイオリンのためのソナタ イ短調 遺作」が置かれています。ほぼ知られざる作品と言っても過言ではありませんが、大変に美しい曲ですね。

この作品には当時の聴衆にはなかなか理解されなかったであろう前衛的な和声や表現が多々用いられている点や、かなりの演奏技術の高さも要求され、そこに室内楽的な観点での難しさも加わり、それらが現在に至るまで演奏機会が少ない理由だと思います。

さらっと聴いていただいただけでもイザイらしさが凝縮された大変美しい作品ですし、ヴァイオリンの格好良さや情熱的な面から、抒情的な美しさや、触ったら壊れそうな繊細さまで、その双方が感じられる作品です。また、最終楽章では踊りの要素もあって楽しい雰囲気の曲想になっており、紛れもなく、ヴァイオリンが表現でき得る最大限の多種多様な要素が凝縮された秀逸な作品です。

——具体的にはどのようなところが聴きどころでしょうか。

二つのヴァイオリンが一本の楽器のように聞こえる瞬間もありますし、理想としては二人ではなく10人くらいのアンサンブルで弾いているかのような豊かな響きをもたらせる瞬間もあります。そういう意味では、ヴァイオリン・デュオ作品の一つの金字塔、頂点であり、一つのゴールであると言い切ってしまっても過言ではないと感じています。

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