『機動戦士ガンダム水星の魔女』岡本プロデューサーインタビュー「固定概念を外して見ていただけると嬉しい」
(C)創通・サンライズ・MBS
10月から放送が始まった、7年ぶりのガンダムシリーズ作品『機動戦士ガンダム水星の魔女』を手掛けるバンダイナムコフィルムワークスの岡本拓也プロデューサーにインタビューをしてきた。女性主人公、そして学園を舞台にした作品と話題が尽きないが、どのような想いを込めて作られているのかを訊いてきた。
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――まず今回の『機動戦士ガンダム水星の魔女』はいつぐらいから企画が動き始めたのでしょうか?
企画が動き始めたのは2018年頃だと聞いていて、私のところに話が来たのは2020年の初春頃でした。その前に『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』(最終話が2020年8月に配信)のプロデューサーを務めていたのですが、次の仕事に取り掛かる時に具体的に女性を主人公としたガンダムを作ってほしいという話が上がりました。
――『水星の魔女』の骨格はどのように出来上がっていったのでしょうか?
『水星の魔女』の企画がスタートする時に、色々な方からアイディアを出していただきました。そんな中、今作のキャラクターデザイン原案と、設定協力で入っていただいている「モリオン航空」さんというクリエイターチームから一案として出していただいた企画の中に、『水星の魔女』がありました。企画内容の原型はほとんど残っていないのですが、『水星の魔女』というタイトル、“魔女”というコンセプトは面白いということで小林(寛)監督と(シリーズ構成・脚本の)大河内(一楼)さんにも入ってもらい、企画がスタートしました。
――岡本さん、小林監督、大河内さんの3名で、具体的に動き始めたという感じなんですね。
そうですね。小林監督と大河内さん、そして今回、設定考証で入っていただいている白土晴一さんにはかなり初期段階から入っていただき、私を含めて4人で打ち合わせをしながら企画を進めていきました。さらにそこからHISADAKEさん(モリオン航空、文芸担当)にも合流いただいて内容を固めていった感じです。
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――今回は「PROLOGUE」という形で前日譚が描かれていますが、本来このような世界観の説明は作品のアバン(アニメや映画などの映像作品でオープニングよりも前に流されるストーリー)でざっくりと説明するというパターンが多いと思うのですが、今回はなぜ、あえて1エピソードを特別に作るという形になったのか。経緯をお聞かせいただければと。
約7年ぶりの新作で、宇宙世紀以外のガンダムシリーズ作品ということで、本編が始まる前にも何か視聴者の方々にお見せできるものはないか、という所からスタートしています。約20分という尺はあらかじめ決まっていたのですが、具体的にどういうことをやるかはかなり悩みました。いわゆる「エピソード0」のようなものとなると、1クール目と2クール目の間の話であったり、登場キャラクターの少し前のお話などが多いと思いますが、まだ視聴者の方が『水星の魔女』を何も知らない状態で展開するものなので、「PROLOGUE」から作品の世界観に入っていただけると良いなと。
――さらに「PROLOGUE」についてお話をお聞きしたいのですが、ガンダムに最初からオールレンジ兵器が付いてるというのは挑戦ですよね?
『水星の魔女』の中で描こうとしているテーマを考えた時に、ガンダムの立ち位置はどうあるべきだろうかと考えたんです。「PROLOGUE」では呪いのモビルスーツと言われたり、ガンダムの存在を否定されたりするわけですが、そこに対して説得力を持たせられるとしたらどんなものだろうと考えた末に、最初からオールレンジ兵器を採用することになりました。
――ある意味、初手からオールレンジ兵器を使ってしまうと今後の展開に新しいものを出してくるのが難しいのではないのでしょうか。
本当にそうですね(笑)。「PROLOGUE」でエルノラたちが使うガンビットと呼ばれる兵器は非常に強力で、今までのガンダム作品のように少しずつ強くなるのではなく、最初からとても強い兵器なので、そこに対してどう周りが動いていくのか、どういったアプローチで物語が展開していくかは、是非本編をご覧になっていただけると嬉しいです。
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――2022年は『機動戦士ガンダムククルス・ドアンの島』などの上映もありましたし、ガンダム作品が再燃している感じがあるのですが、そういったガンダム作品への人気や期待を感じたりしますでしょうか?
宇宙世紀作品でいうと、昨年は『機動戦士ガンダム閃光のハサウェイ』の上映もあり、ビジネス的な面を含めてもこの数年はガンダムシリーズの広がりを感じています。自分たちで作ったものが想像以上に広がりを見せていたり、「GUNDAM FACTORY YOKOHAMA」のような大きなプロジェクトが動いていたりと、周りから感じる期待も含め課せられているものは、本当にここ数年でより大きくなっていることを感じています。
――『機動戦士ガンダム』という名前が付いていると、やはりオールドファンが戻って来やすいというか(笑)、でも逆にやりにくかったところや、やりやすかったところがあると思うのですが。
ガンダムシリーズは、一番最初の富野さんの『機動戦士ガンダム』から続く宇宙世紀の歴史もありますし、宇宙世紀以外を舞台にした作品群でも『機動武闘伝Gガンダム』以降、とても長い歴史があります。ですが、それ故の難しさはありますね。
――意識して、いわゆるオールドファンも付いて来れるような作りを考えてらっしゃるのでしょうか?
もちろん、今までのガンダムファンの方々にも喜んでいただけるものは入れたいと思っていますが、個人的には若い世代の方々にも楽しんでいただけるよう作りたいと思っています。ガンダムは各世代にファンの方々がいて、やっぱり共通言語として話せるというのは素晴らしいなと。なので世代を超えて皆さんでワイワイ言いながら楽しめるものにしたいと思っています。
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――ターゲット層についてもう少しお話をお聞きしたいのですが、個人的に前作『機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ』は結構ターゲット層は高めだったのかなっていうイメージがあったんです。今回の『水星の魔女』も「PROLOGUE」を観させていただいて、年齢層は高めなのかなと感じたのですが。
中学生、高校生くらいの方が、共感できたり、少し背伸びして観れると良いなと思っています。元々『水星の魔女』の企画がスタートした時に、ガンダムシリーズがさらに50年、60年続いていくために、ティーン層に向けたガンダム作品を作って欲しい、という話がありました。『機動戦士ガンダムSEED』や『機動戦士ガンダム00』、『機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズ』も、基本的にはその時代のティーン層をターゲットにしていて、そこは変わらないと思っていますし、そこの軸はあまりブラさずにやっています。
――「PROLOGUE」のストーリーについて、内容はどのように作られていったのでしょうか?
今回は先に1話と2話のシナリオを進めた後に、「PROLOGUE」を作りました。オリジナル作品ですので、設定的な部分や、色々な事を決めていかないといけないのですが、改めて本編で出てくるキャラクターたちが、どういう経験してきたのかという事をじっくりと見返すいい機会となりました。
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――医療技術として開発されていた身体拡張技術をモビルスーツに転用する、となっていますが、これはどのような着想からなのでしょうか?
身体を拡張した先のモビルスーツ、という捉え方は、『機動戦士ガンダム』の時から、そのような着想に基づいていたと記憶しています。打ち合わせで、「今回のモビルスーツって何だろう」となった時に、身体を拡張している、意識や自分の感覚を拡張するものじゃないかという話が小林監督からあって。そこに設定考証の白土さんにもご意見を頂いて、色々固めていきました。
――モビルスーツとは何か? というところから考え始めたんですね。
そうですね。身体を拡張するということは、義手義足という医療があって、そこから発展した物なんじゃないか、という経緯だったかと思います。
――「GUND-ARM」という存在が、今までであればニュータイプとして語られてたものを、違うものとして『水星の魔女』では出そうとしてるんじゃないかっていうのは感じたのですが。
そうですね、この作品なりのものを考えようという所はあります。これまでの作品では、ニュータイプとの紐づきが強いオールレンジ兵器が、本作ではどのように扱われるのかは楽しみにしていただければと思います。
――今回は「PROLOGUE」であったり、プラモデルの先行販売であったり、『水星の魔女』の宣伝戦略は凄く練られていたと感じています。
それは本当に多くの人達が関わっていて、我々現場のチームだけではなく、関係者の皆さんが総力を上げて、『水星の魔女』を盛り上げるためにどんなことができるのか、ということを考え抜いた結果だと思っています。そして、やはり目に触れる機会を増やすということが大事なのかなと。見たこともない触ったこともない物を初めて見せられるというのは凄く難しい事だろうと思います。
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――ちなみにガンダム作品ではどのあたりの世代というか、観られていたのでしょうか?
私が物心付いたときに観たのは『SDガンダム』ですね。そこからしばらく離れていて、しっかり観だしたのは『SEED』からだと思います。そしてサンライズに入社してすぐに『コードギアス』に関わらせてもらい、ガンダムに関わったのはゲームの『機動戦士ガンダムギレンの野望』で、ゲーム中の映像などの制作を依頼された時に初めて『機動戦士ガンダム』の劇場版3部作を観たんです。なのでガンダム偏差値が全然高いわけでもなく(苦笑)。勉強はしましたけど、本当に詳しい方々が沢山いらっしゃるので、ちょっとだけ引いた目線で見てる部分もあるかなと思います。
――ある意味、過去の作品に囚らわれないようにしてると?
そのバランスは大変難しいと思うのですが、『ガンダム』というものが非常に巨大で魅力的なコンテンツなので、どうしても影響されてしまう部分があります。今まで様々な監督が、沢山のガンダムを作ってきましたが、やっぱり“ガンダム”と名が付く以上、10年、20年、30年経っても、「あの『水星の魔女』だよね」と言ってもらえる作品にしたいなと思っていますし、そこに対するプレッシャーは正直あります。歴代の制作者の皆さんに対するリスペクトがあって、その怖さと向き合いながら、独自のものを作っていきたいと思っています。
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――どのような作品になるのか楽しみにしています。では本当に最後に『水星の魔女』のどういったところに注目して欲しいでしょうか。
「ここが見どころです」というより、見どころは沢山あります。今まで全くガンダムに触れてこなかった人でも楽しめるものにしていますし、そこがこの作品の良い所だと思っています。なので、固定概念を外して見ていただけると嬉しいです。もちろん今までガンダム作品を応援して下さったファンの方々にとっても、確実に面白いものになっていると思います。単純にエンタメとしても非常に面白い作品になっていると思いますので、「ガンダム」だと気を張らずに、軽い気持ちで見ていただけると嬉しいです。
取材・文:林信行
放送情報
TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』
企画・制作:サンライズ
原作:矢立 肇/富野由悠季
監督:小林 寛
シリーズ構成・脚本:大河内一楼
キャラクターデザイン原案:モグモ
メインキャラクターデザイン:田頭真理恵
キャラクターデザイン:戸井田珠里/高谷浩利
メカニカルデザイン:JNTHED/海老川兼武/稲田 航/形部一平/寺岡賢司/柳瀬敬之
音楽:大間々 昂 ほか
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