森山未來ら出演、アート×脳科学の異色コラボ『FORMULA(フォーミュラ)』が開幕~劇場がアート空間となる世界へ
(C)Takeshi Hirabayashi
2022年10月15日(土)、東京芸術劇場プレイハウスで『FORMULA(フォーミュラ)』が幕を開けた。森山未來(俳優、ダンサー)、中野信子(脳科学者、医学博士、認知科学者)、エラ・ホチルド(振付家、ダンサー)による「ダンス×脳科学」という異色のコラボレーションにより展開されるダンスパフォーマンスだ。「言葉と身体の関係性」「人の行動や思考」「死生観」などを脳科学的見地から解釈し、「人と人のつながり」をテーマに全体程な構成を組み立て、振付したというもので、その軸となるのは、社会の最小のコミュニティである「家族」だという。今回は公演に先立つ10月14日(金)に行われた森山、中野、ホチルドの3名による会見と、引き続き行われたゲネプロの様子をレポートする。
■劇場全体がアート空間。どこかに共感できる部分のある「自分の話」
公演を翌日に控えた森山は「本作のプロジェクトを立ち上げてからこの1年、紆余曲折を経てようやくここまで辿りついた。(中野)信子さんとの出会いやエラ(・ホチルド)との再会、また様々なアーティストのアイデアや力などを通してできあがったクリエイションをぜひ見ていただきたい」と語る。
また本公演は、ホワイエに一歩足を踏み入れた瞬間から劇場全体がアート空間。森山は「(ホワイエには)信子さんの映像作品や立体の作品を展示している。劇場で見たり、聞いたり、触れたりしつつ作品を体感することで、パフォーマンスを見る際の深度を深めていく、そういうような設えになっている」と続け、「パフォーマンスを通して、観客の皆様にも生死感や社会、人が繋がり合うことについて共有して行ければ」と語った。
中野は本作について「生死感の、『死』をテーマとしようと思ったが『生』に振れた。それは(森山)未來君が生きようという『生』への力が強かったのだろう。時折『死にたい』と言う人がいるが、それは本当に死にたいのではなく『よりよく生きたい』ということ」と語り、「人が私の話を聞くのも、脳科学ではなく自分自身のことを知りたいからだ。そのため私はかつて自伝を執筆するとき、読者が『これは自分の話だ』と思うように心掛けて書いた。今回の舞台も観客が『これは自分の話だ』と思い、何か発見していただけると嬉しい」と続けた。振付に携わったホチルドもまた「ステージで起こることは自身の写し鏡。どこかに観客の皆さんそれぞれの想いが共感できる部分がある。古いアルバムの中に入っていくような、そのような体験をしていただきたい」と語った。
■森山をはじめ実力派ダンサーが醸す世界。「個々の写し鏡」を通して何を感じるか
©Takeshi Hirabayashi
「劇場全てが『FORMULA(フォーミュラ)』の世界」と会見で森山が語ったように、ホワイエから劇場内に入ると、不思議な効果音のような、音楽ともつかぬ「音」が鼓動のように響く。様々な映像や巨大な鏡を眺めながら客席に入ると、まるで沼地に突き出した枯れ木、あるいは灌木のような木材が設えられ、記憶の沼に沈むような想いで着席する。モノクロともセピア色ともつかない空間色が醸される中で、パフォーマンスは静かに始まる。
梯子や板塀、椅子かテーブルの一部のような、かつては「それ」としてあった古い木材を抱えて次々と舞台に現れるダンサーらは、それぞれに色彩をまとってはいるが、なぜかクリアではない。その時代を知る者には昭和のノスタルジックな世界を彷彿とさせるかもしれないし、古ぼけた謎の空間、あるいは人によっては古いとさえ、感じないかもしれない。中野が会見で口にした「解像度の粗い映像を通して見るような世界」という言葉に、なるほどと唸る。
鳥かごのような、あるいは4畳半裸電球の窮屈な一間を連想させるような空間で、6人のダンサーがぎゅうぎゅうにひしめき合い、押さえつけ、せめぎ合い、抑圧し、支配し、時には外に飛び出し、脱却を試み、すべてを背負わされ途方に暮れるといった様々な人間模様が、おそらく舞台上で展開される。「おそらく」というのは、観客一人ひとりによって感じるものが間違いなく、いかようにも異なって見えるに違いないからだ。ともあれ家族という「最小のコミュニティ」に、いかに膨大な感情があることか。なんという窮屈な世界で生きているのだと、改めて感じさせられる。
そうした色彩的にはあやふやな空間のなかで、しかし森山をはじめとする川合ロン、笹本龍史、東海林靖志、鳴海令那、湯浅永麻らのダンサーがそれぞれに存在感を主張する。個々がぶつかり合うことで生まれるエネルギー、人としての肉感、立体感が実に強烈で、さすが百戦錬磨の実力派ダンサーと言おうか。それぞれが肉体から放つ「ことば」が、たとえばふわっとした砂地に、確固たる足跡を刻むように、力強く生命を記す。洞窟いっぱいに手形が描かれた原始の史跡、クエバ・デ・ラス・マノスが頭をよぎる。
そして舞台上で一つの「死」が描かれた時、森山がマシンガントークの如き長台詞を語り上げる。
「ホモ・サピエンスが生き延びたのは集団として生きるための進化を遂げたからでした」…。
地球上で唯一生き延びているホモ・サピエンス……人間は、集団として生きる、つまり他者とのつながりを求めるという進化を遂げたからこそ、今こうして命脈を保っているのだという。
では「死」とはなんだろう。このパフォーマンスの論理に則り人とのつながりが「生」を保つと考えるとすれば、忘却、孤立は「死」を示すのか。それは抑圧されても耐えるべきものなのか、個を保ち闘い続けることなのか……。おそらくこの感じ方は人それぞれ、まさにホチルドが言うところの「個々の写し鏡」の部分であるに違いない。
終演後、改めてホワイエの展示物と対峙しながらゆっくり自身と対峙してみたい。巨大な金属板に写る自分の姿はどう見えるだろう。鑑賞前と鑑賞後、感じることは違っているはずだ。
公演情報
構成・演出・振付:森山未來/中野信子/エラ・ホチルド
出演 :森山未來/エラ・ホチルド
川合ロン/笹本龍史/東海林靖志/鳴海令那/湯浅永麻
中野信子 XR(Cross Reality)
セノグラフィー:川俣正
衣裳:廣川玉枝
音楽:原摩利彦
楽曲制作協力:千葉広樹(コントラバス)
展示作品提供:佐久間海土(サウンドアーティスト)/中野信子(脳科学者/アーティスト)/松澤聰(映像作家)
展示技術協力:佐々木遊太(ささき製作所)、吉岡直人(石割ファクトリー)
企画・制作・主催:サンライズプロモーション東京
協賛:イープラス
【公演日程】
●東京公演
日程:2022年10月15日(土)~23日(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
日時:
10月15日(土) 13:15 開場 14:00 開演
10月16日(日) 13:15 開場 14:00 開演
10月18日(火) 18:15 開場 19:00 開演
10月19日(水) 13:15 開場 14:00 開演 / 18:15 開場 19:00 開演
10月20日(木) 13:15 開場 14:00 開演
10月21日(金) 18:15 開場 19:00 開演
10月22日(土) 12:15 開場 13:00 開演 / 17:15 開場 18:00 開演
10月23日(日) 13:15 開場 14:00 開演
●仙台公演
日程:2022年10月25日(火)
会場:電力ホール
日時:10月25日(火) 18:15 開場 19:00 開演
●福岡公演
日程:2022年10月28日(金)~30日(日)
会場:キャナルシティ劇場
日時:
10月28日(金) 18:15 開場 19:00 開演
10月29日(土) 13:15 開場 14:00 開演
10月30日(日) 13:15 開場 14:00 開演
●大阪公演
日程:2022年11月3日(木・祝)~11月6日(日)
会場:サンケイホールブリーゼ
日時:11月3日(木・祝) 12:15 開場 13:00 開演 ☆/ 17:15 開場 18:00 開演
11 月 4 日(金) 18:15 開場 19:00 開演
11 月 5 日(土) 12:15 開場 13:00 開演 / 17:15 開場 18:00 開演
11 月 6 日(日) 13:15 開場 14:00 開演
料金:
●名古屋公演
日程:2022年11月9日(水)~10日(木)
会場:日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
日時:
11月9日(水) 18:15 開場 19:00 開演
11月10日(木) 13:15 開場 14:00 開演
●高知公演
日程:2022年11月13日(日)
会場:高知県立県民文化ホール オレンジホール
日時:11月13日(日) 14:15 開場 15:00 開演