『アニメソングの可能性』第五回 MOTSUの考えるアニメソングの根源的な楽しさと、アニメファンカルチャーの未来
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■MOTSUが考えるアニメソング元来の楽しさとは
――『クレヨンしんちゃん』の主題歌を担当したのとほぼ同時期には『頭文字D』の放映もスタート、m.o.v.eとして多くの主題歌を担当します。
あれはまた、どの曲もアニメ映像と合わさった時の感動がすごくて、泣くかと思いました。
――ユーロビートと、車で峠を攻める“走り屋”のレースがあんなにマッチするとは思っていなかった。あれは驚きました。
もともとユーロビートって車好きの中でも車高の低い、いわゆる”シャコタン”に乗る人たちが好む音楽でした。それを車で峠を高速で走る“走り屋”文化と融合させたのがアニメ『頭文字D』だったんです。まさかあんなにも素晴らしい化学反応が起こるなんて、罪作りな現象ですよ。
――同時にアニメとユーロビートといった本格ダンスミュージックを融合させたのも『頭文字D』だったように思います。
それは確かにあるかもしれないですね。そこから本格的なダンスミュージックがアニメの世界に一気に流入してきたような気はしています。I’veやfripSideもその系譜ですよね。
――そこから派生した楽曲の中にはMOTSUさんがラップをされている楽曲も多くあります。作詞を行うにあたってアニメソングならではの意識をしていることはありますか?
タイアップ作品に関する言葉をきちんと聴かせたい、そこは考えます。あわよくばタイトルを歌詞の中にいれて、それを強調したいと思ってます。『アクセル・ワールド』の主題歌「Burst The Gravity」なんかはそのつもりで書いたので、一番印象的な部分に「Accel world!」って入れているんです。
――確かにあの部分はすごく印象的ですね。
あの歌詞書いた時はスタッフに「本当にこれでいいの?」って言われましたけどね(笑)。それでも、アニメソングである以上は“いかにもアニメソング”と感じさせる言葉選びは心がけたい。それがアニメソングの持っている元来の楽しさだと思っていますから。
――元来の楽しさ、ですか。
そう、アニメのタイトルやキーとなるワードが歌詞の一番目立つところにきて、それを音として楽しむのが本来のアニメソングのあり方だと思っています。特に子供向けのアニメはできる限りタイトル入れてほしい、僕はそう思います。そうやって、アニメソングならでは言葉的な楽しみ方を小さい時に体験してもらいたいです。よく読んだらアニメの内容が歌い込まれている、そういうのは大人になってから楽しむものなんじゃないかと思っています。
■アニメソングが最も居心地のいい場所だった
――改めて、MOTSUさん自身アニメソングに関わることをどのように感じているのか伺いたいです。
アニメソングが僕にとってちょうどいい居場所、そう感じています。ずっとオタクである自分に目を向けないように生きていきましたけど、本来はオタクで、アニメや漫画が大好き。それを曝け出して音楽活動をしてもいいんだっていうことにアニメソングを通して気付かされました。
――目指して進んできた場所ではないけれど、最も居心地がいい場所がアニメソングの世界だったということですね。
そういう感じですね。パリピキャラでここまでやってきたけど、根はオタクですらから。お客さんにもシンパシーを感じるから、望んでいることも手に取るようにわかるんです。僕ならこうしてほしい、それを形にしたらお客さんも喜んでくれる。だからライブなんかに出ても本当に楽しいんです。
――そして今や、アニメファンの人たちが集まるクラブもできている。これもMOTSUさんにとっては居心地の良い場所なのではないでしょうか?
いや本当に、大好きなものと大好きなものの合体ですからね。アニメファンに向けたクラブがあると初めて知ったのは2000年代後半、秋葉原MOGRAとの出会いからでした。そこでm.o.v.eとしてイベントをやらせていただいたんです。
――その頃だとMOGRAも開店後すぐかと思います。MOTSUさんの通われていたディスコのとは雰囲気も違ったのではないでしょうか?
全然違いましたよ。まず治安が全然違う(笑)。ナンパも少ないし、ましてしつこく女の子に迫る人なんか見たことないです。僕としてはもうちょっと、ナンパまでいかなくても連絡先交換ぐらいあってもいいじゃん、とは思ってしまいますけどね(笑)。
■アニメファンが持つカルチャーはきっと世界に広がっていく
――治安は確かに大きく違うと思います(笑)。同時に、文化全体が大切にしているものも違ったのではないかと思うのですが。
そうですね、そこでいうと、アニメファンの人たちが画を大事にしているのは感じます。アニメソングが流れるクラブで、みんな音楽を聴きつつ画を思い浮かべながら踊っている。これって他のカルチャーでは起こり得ない、映像が必ず存在しているアニメソングDJの場だから起こる独特の現象だと思うんですよね。
――確かに、他の音楽ジャンルでは映像の存在はマストではありませんからね。
そうなんですよ。その自分達が独自に持っている文化をすごく大切にしながら楽しんでいる姿にはカルチャーとしての成熟を感じます。このカルチャーは今後、世界に進出していくんじゃないかな?
――アニメ自体の世界的ブームに留まらず、アニメファンが持っている価値観が世界的に広まっていくということでしょうか?
そう、その通り! アニメを見ることを楽しみ、アニメソングを聴き、アニメソングライブを楽しみにライブハウスに行ったり、アニメソングDJを聴きにクラブに集まったりする。そのライフスタイル自体が世界に進出すると思っています。アメリカのヒップホップから生まれたB-BOYカルチャーが世界に広がったのと同じようにね!
――なるほど。そのライフスタイルの広がりに合わせて、アニメソングアーティストやアニメソングDJも世界的に進出していければいいと。
そうですね。アーティストもDJも同じ文化を広げる人間として、ともに世界で活躍できるといいんじゃないか。僕はそう思っています。
――素敵な話ですね! MOTSUさんから見て、まだアニメファンのカルチャーが世界的ブームに至っていない理由、今後の課題として感じるものはありますか?
やっぱり言語ですね。日本人は通訳を通して外国人と会話することに慣れすぎていると思います。でも、通訳を通すと密なコミュニケーションが取れないんですよ。それではどんなに素晴らしいカルチャーであっても、その素晴らしさを伝えるところでつまずいてしまう。一人一人が外国語を学び、各々の力でアニメファンの持つカルチャーを発信する力を身につけていくことが世界進出の第一歩だと思います。
アニメソングDJを楽しむということ、それはアニメファンの一つのライフスタイルのあり方だ。そこにこれまで筆者は気づかずにいた。今回のインタビューで最も驚いたことはそれだった。
近年、世界的にアニメブームが訪れていることを考えれば、次なるブームとして我々アニメファンが過ごすライフスタイルのあり方もブームとなって世界に発信されていく、これは確かに自然な道理かもしれない。そして、その先にアニメソングアーティスト、アニメソングDJの世界進出があることも十分に考えられるだろう。
今の社会情勢では、この世界進出は果たされないかもしれない。しかし、社会情勢が落ち着いたその瞬間にアニメファンのカルチャーは世界に一気に進出するかもしれない。その瞬間はもう目の前に来ているようにも思う。
インタビュー・文=一野大悟 撮影=敷地沙織
また、連載『アニメソングの可能性』が記事を飛び出し、この度リアルイベントを開催することも決定した。
本連載に登場いただいた水島精二、MOTSU、つんこ、葉月ひまりのDJプレイに加え、春奈るなSpecial Live Set、そして出演者によるトークショーもお届け予定だ。
連載をイベントとして落とし込む今回の試み、是非とも会場を訪れてほしい。
イベント情報
アニメソングDJ & トークショーイベント
『アニメソングの可能性!~ということで現地で検証してみた~powerted by SPICE』
https://www.ortokyo.com/
水島精二
つんこ
春奈るなSpecial Live Set
ろーるすこー kaxtupe いっちょ
アーティスト情報
MOTSU
22 才で渡米、ラップとダンスを独学で学び、DANCE MUSIC ユニット“MORE DEEP” のリーダーとしてデビュー。以来、m.o.v.e 、ALTIMA、motsu×DJ KAYAなど、水面下のものも含め複数のプロジェクトを立ち上げ・参画し、日本の音楽シーンの第一線で活躍してきた。さらには他のアーティストに先駆けて積極的に海外展開を行い、10ヵ国以上で数多くの海外公演で成功を収めているキーパーソンである。
日本の RAP/DANCE MUSIC 創生期から培ってきた、ジャンルや、国境の枠までをも超えてオーディエンスを盛り上げるパフォーマンススキルと独特のサウンド/リリックメイキング、センスは間違いなく日本において唯一無二であり、その勢いはまだまだ拡大中である。
リリース情報
アニメソングDJ連続インタビュー企画『アニメソングの可能性』