連続企画『アニメソングの可能性』第四回 アニメソングDJシーンの歴史を見守ってきたMuraの目に映るもの
“アニメソング”とは果たして何なのだろうか?
一つの音楽ジャンルを指し示しているように感じさせるが、しかしそこに音楽的な規則性はない。それでも多くの人の頭の中には“アニメソング”と言われて思い浮かべる楽曲の形がぼんやりとあるだろう。この“アニメソング”という音楽ジャンルの形を探るための連載インタビューがこの『アニメソングの可能性』だ。
話を伺うのは、アニメソングを日々チェックし、時にそれをDJとしてプレイするアニメソングDJの面々。多くのアニメソングを日々観測し続ける彼らが感じる“アニメソング”の形とはどんなものなのかを訊き、アニメソングというものを紐解いていこうと思う。
そんな連載企画の第四回に登場していただいたのは、アニメソングDJにとって”聖地”と言っても過言ではないクラブ・月あかり夢てらすを運営する株式会社みぃまぐるーぷ社長・Mura。好きなアニメソングの話に始まった今回のインタビューは、これまでに運営に携わってきた『ヲタリズム』、『宴』シリーズ(※)開催の経緯の話や、Muraが考えるいいDJの条件についてまで話が至る。アニメソングDJを行う人にとってはもちろん、そうでない人にとっても、一つのカルチャーの起こりと推移を知ることができる貴重なインタビューとなっている。是非とも最後まで読んでもらいたい。
(※)『宴』シリーズ……首都圏で開催されているアニメソングDJイベントから選出されたイベントの代表者が集いDJを披露する大型DJイベント。スタート時は『夏の宴』『冬の宴』を年間二回、ディファ有明ににて開催していたが、現在は『春の宴』『冬の宴』をはじめとした関連イベントが多数開催されている。
■タイアップ作品を抜きにしてはアニメソングは語れない
――まずはMuraさんのアニメに対しての原風景から探っていければと思っています。子供時代に見ていたアニメのお話をお聞きしたいのですが、記憶している作品はありますか?
僕はとにかくスタジオジブリが大好きな子供で、ずっとスタジオジブリの作品ばっかり見て育ったんですよ。親の方針でテレビ放映しているアニメは見せてもらえなかったのですが、レンタルビデオで借りてきたアニメは見せてもらえた。おかげでスタジオジブリの作品ばかり借りては見ていましたね。
――1981年生まれということで、幼少期はテレビでアニメが多く放映されていたかとは思います。そういった作品はあまり触れてこなかったということですね。
そうですね、ちょうど当時だと『うる星やつら』なんかがテレビで放映していましたけど、内容がちょっとエッチじゃないですか? そういう作品は見せてもらえませんでしたね。
――なるほど、一方でスタジオジブリ作品であれば親も安心して見せられたということですね。
そうだと思います。結果、見ているうちにどんどんのめり込んでいって、今でも新作が公開されたら絶対に映画館に見に行ってますよ。あのファンタジー色の強い世界で、かわいい女の子が戦う姿にすごく惹かれる。なので僕の初恋は『風の谷のナウシカ』のナウシカなんです(笑)。
――ナウシカ、可愛いですからね。すると子供時代の記憶にあるアニメソングはジブリ映画の主題歌が多くなるかと思います。
やっぱりそうなりますね。「ナウシカレクイエム」や『天空の城ラピュタ』の「君をのせて」。少し最近のものだと『もののけ姫』の主題歌「もののけ姫」なんかも大好きです。
――スタジオジブリ作品主題歌の中でも、あまりドラム音の入っていない、クラブミュージックからは距離のある楽曲が多いですね。
確かにそうですね、アニメソングDJとしても僕以外でかける人をあまり見かけない。僕自身、もともとクラシック音楽が好きなんですよ。親が音楽教育熱心で家でよく聴いたり、自分自身もピアノを習っていたりしまいたから。やっぱりその流れを汲む音楽に惹かれるところはあるのかもしれません。その流れでいくと『BLACK LAGOON』#15エンディング「The World of midnight」なんかも好きな曲として頭にパッと浮かびますね。
――「The World of midnight」、アニメの中でも非常に印象深いタイミングでかかる楽曲でした。
そうなんですよ、あの話は本当に胸がギュッとなる。そこにすごくマッチした楽曲なんですよね。やはり好きなアニメソングって作品を抜きには語れないじゃないですか? 作品の面白さがあって、それにぴったりの曲が作中で流れたら曲自体も好きにならずにはいられないですからね。
――それは僕自身も感じています。結果的に好きなアニメソングの音楽ジャンルがバラバラになってくる。
そうなんですよ。今回のインタビューに向けて好きなアニメソングを書き出してみたんですけど、本当に曲調も音楽ジャンルもバラバラ。そんな多様な楽曲を好きにさせるアニメの力って改めてすごいと思います。
■アニメソングということも知らずクラブで聴いていた曲がたくさんあった
――子供時代はクラシック音楽がお好きだったというお話でしたが、その後でクラブカルチャーに触れ、DJも始めたということですね。
そうですね。もともとは内輪で、遊びで音楽をかけてながらパーティをやりだしたのがきっかけ。そこで少しDJもやるようになって、だんだんDJに本腰を入れるようになっていった。最初はアニメソングとは程遠い、サイケデリックトランスのDJをしていましたね。
――月あかり夢てらすさんが開店当時、サイケデリックトランスのクラブだったというお話も聞きました。それは当時やっていたDJのジャンルの流れだったということですね。
そうなんですよ。なので開店当初はサイケデリックトランスを主軸に、クラブミュージックがかかるいわゆる一般的なクラブでした。あの頃は僕自身そこまで熱心にアニメを見ていなかった。なので当時月あかり夢てらすで聴いていた曲で、後からアニメの主題歌だと知った曲すらあります。
――そうなんですね! 具体的にどういった曲ですか?
『神無月の巫女』の「Re-sublimity」や「Suppuration -core-」、あとは『BLACK LAGOON』の「Red fraction」。あのあたりはサイケデリックトランスのRe-mixがあるんですよ。それを使っているDJがいて、アニメソングということも知らずに「かっこいいな~」と思いながら聴いていました。
――アニメソングだと知った時は驚かれたのではないでしょうか?
驚きましたよ。今のアニメソングってこんなにかっこいい、ノレる曲なの!?と思いました。何せ当時の僕のアニメソング知識はほぼスタジオジブリ楽曲でしたからね(笑)。強いて言えばアダルトゲームはやっていたのと、トランス楽曲も作っていたということでI’veさんだけは知っていたかな、ぐらい。アニメを本格的に見るようになったのは、2000年代中盤ぐらいかなぁ。
――なるほど、何かきっかけがあったんですか?
きっかけと言えるようなことはないんです。ただ、当時なんとなく見始めたアニメがどれも面白くて、気付いたらアニメばっかり見るようになっていた感じです。『コードギアス 反逆のルルーシュ』や『とらドラ!』、『天元突破グレンラガン』あたりは中でも面白かったのをよく記憶していますね。
■最初はお客さんが三人だったアニソンDJイベント、それでも続けようと思った理由
――アニメを熱心に見るようになった後、2008年には月あかり夢てらすさんにてアニメソングDJイベント『ヲタリズム』がスタートします。
きっかけは知り合いのトランスDJからの提案なんですよ。クラブでアニメソングがかかったら面白いんじゃない? みたいな軽いノリの提案。それで試してみたら思った以上に楽しくて、これはアニメソングしか流れないイベントを作ってもいいかもしれないと思ったんです。それで『川崎アニソンナイト』というイベントを突発でやってみた。それが『ヲタリズム』の原型になっています。
――最初は思いつきからのスタートだったということですね。出演者はどのように集めたのでしょうか?
当時ってmixi全盛期だったんですよ。なので掲示板にアニメソングDJができる人を募集した。そうしたら何人か名乗り出てくれたDJさんがいたので願いした感じでしたね。その中には今でこそ馴染みの深いDJシーザーさん(※1)やWANさん(※2)もいたんです。その時が初対面だったように記憶していますね。
――それ以前から面識があったわけではないんですね! 開催した際のお客さんの反応はいかがでしたか?
当たり前ですけど、全然お客さん来なかったですね。たしか初回のお客さん三人とかだったように記憶してます。サイケの会場でいきなりアニメソング流すわけですからね、人が来なくて当たり前。でもね、その三人のお客さんがとにかく楽しそうだった。あれは本当に素晴らしい光景だったと思います。
――人数は少ないけれど、手応えを感じるイベントではあったということですね。
そうですね。あの時、これは絶対に流行ると確信したんですよ。それで継続的にアニメソングDJイベントを開催したら3人のお客さんが10人、30人と増えていって最終的には200人も来るイベントになった。あの時の直感は見事に当たりましたね!
――大きなムーブメントにまで発展したんですね! 当時、アニメソングDJイベントは他にもあったのでしょうか?
僕の観測している範囲だと、クラブでアニメソングDJをするというイベントは見受けられませんでしたね。コスプレダンスパーティでアニメソングがかかっていたり、『DENPA!!!』というサブカル系クラブイベントはありましたけど、”アニメソングDJイベント”と銘打ったクラブイベントは見当たらなかった。当時「差別化するためにもアニメソングオンリーのDJイベントにしよう!」って話をしたのを覚えています。
(※1)DJシーザー……アニメソングDJ。現在『週刊少年ジャンプ50th Anniversity BEST ANIME MIX』シリーズや『機動戦士ガンダム 40th Anniversary BEST ANIME MIX』など、数々のアニメソングDJ MIX CDをリリースしている。
(※2)WAN……アニメソングDJ。アニメソングDJイベント『ヲタリズム』の立ち上げに関わり、その後も数々の大型イベントやフェスにDJとして出演している。
この後、『宴』シリーズ開催の経緯や、Muraが考えるいいDJの条件も!