MOROHAアフロ『逢いたい、相対。』平成ノブシコブシ・徳井健太と考える「芸の道」ーー己の芸を生業にする男たちの劣等感、覚悟、生き様
-
ポスト -
シェア - 送る
「当たって砕けろ」は、すごい失礼なことだと思うんですよ
『MOROHAアフロの逢いたい、相対』
アフロ:徳井さんは『M-1』に対して「忘れがたみ」と言ってますよね? 俺はフリースタイルバトルに対して、そう思っていて。俺がバトルに出なかった理由として、目の前の自分達のライブで精一杯なんだっていう本音ともう一つ、ワンマンをやればお客が数百人と来てくれる状況で、自分より10歳も若いラッパーとMCバトルで戦ったら勝って当たり前だし、負けたら自分のステータスに傷がつくだけじゃないかと、カッコ悪い打算もありました。だからこそCreepy Nutsには、自分が選ばなかった道で大きな山に到達した人達だという想いがあるから、複雑な気持ちを持っているんです。こういう想いは、徳井さんにとっての『M-1』に対するものと近いのかな、と思ってるんですけど、どうですか?
徳井:『M-1』もそうですし、単独ライブもそうですね。本当は単独をやるべきなんだろうなと思いつつも、昔からテレビに出たかった気持ちが大きくて。今は実際に出られているし、そっちにエネルギーとかカロリーを向けていると、100%の単独ライブはできない。それだったらやらない方がいいのかなと。今の若手はネタ至上主義で、その芸人がネタをやってるかどうかで、カッコいいか悪いかを決める風潮があるんです。その点、平成ノブシコブシは超邪道側にいて。ネタもやっていないし、賞レースのタイトルも獲っていない。でも「周りにダサいと思われたくないから、単独をやる」のが1番ダセエから、余計にやりづらいし。
アフロ:「エントリーはしたぞ」とはいっても、そういうことじゃないもんな。
徳井:そういう時期もあったんですよ。『M-1』も『キングオブコント』もとりあえず出る、みたいな。でも、それはめっちゃ失礼な感じになるんですよ。2回戦敗退でへらへらして帰るなら、「じゃあ出るのは辞めよう」となったんです。大会に懸けている人たちに失礼だから。
アフロ:そうなんですよね。「当たって砕けろ」は、すごい失礼なことだと思うんですよ。砕けない準備をして当たりに行くことができないと。
徳井:当たって砕ける方が簡単ですからね。若かったら選んでいたのかもしれないですけどね。
アフロ:ちなみに、若い頃はどうだったんですか?
徳井:人のことなんて考えてなかったですね。とにかく自分が面白ければいい。ランジャタイとかモグライダーとか、今のイキがいい若い子たちを見ると、当然ながら「自分が1番。先輩を投げ倒してくんだ」という感じがプンプンして、すごく威勢がいいじゃないですか。そういうふうに、俺らのことも先輩は思っていたんだろうなと。だから若い時とはかなり変わりましたね。
Creepy Nutsに対して「悔しい」なんて、
1、2年前は絶対に言えなかった
MOROHA アフロ
アフロ:そもそも自分が1番面白いと思っていたら、徳井さんの芸人を語るスタイルも生まれなかったじゃないですか。何かキッカケがあったんですか?
徳井:小籔さんが社会のシステムを教えてくれたんです。今思えば、俺が間違ってると分かっていたのに、誰も教えてくれなかった。イタい後輩は面白いじゃないですか? そういうことだったと思うんです。でも小籔さんは「礼儀礼節を忘れない」とか「感謝が大事だよ」とか当たり前のことを淡々と教えてくれました。芸歴15、6年目で35歳ぐらいだったから、気付くのは遅かったんですけどね。そこで自分や人に対しての見方が変わりました。
アフロ:「自分が1番面白い」「とにかく全員投げ倒していく」というところから、離れていく感覚は怖くなかったですか? それがアイデンティティだったわけじゃないですか? みんなに泳がされていたってことは、人一倍自我が強かったから「こいつを見ておきたい」と思ってみんなが泳がせていたわけで。
徳井:よく覚えているんですけど、ちょびっと売れ出して、ひな壇に入れられた時にサバンナの高橋(茂雄)さんも同列にいたんです。明るいバラエティーショーみたいな番組があって、VTRを観てリアクションをする時に、俺らはモデルさんとか役者さんとかがコメントした後に、オモシロを添える感覚でやっていたんです。だけどVTRを観て「皆さんどうですか?」と聞かれた瞬間に、一発目に高橋さんがめちゃくちゃ面白いこと言った後、めちゃくちゃいいことも言ったんですよ。100点の答えをいきなり1投目で。「こんなことがアリなんだ」とビックリしたんです。俺らからしたらみんなの意見を待って、最後に「いや、もう言うことないっすよ~」とかヘラヘラしていたのに、もう有無を言わさず、いいことも面白いことも言う。「こんな人が後々俺の敵になるのか」と思ったら、ひな壇はやれないかもとポッキリ心が折れたんです。それでも吉村は「ひな壇を頑張りたい」と言ったんですけど、俺はちょっと職業を変えたいなと。それが分岐点でしたね。
アフロ:そうなると、高橋さんはある種の恩人ですね。
徳井:そうですね。大阪は芸人しかいない番組が多いらしいんですよ。『マルコポロリ』という東野さんがMCの番組なんですけど、芸人が10人くらいひな壇にいて、ゲストは1人。でも東京の方はMCに加えて芸人が2人、非芸人が8人とかじゃないですか? だから遠くでフォローしたり、いざとなったらボケたりみたいな仕事が多い。
アフロ:バランサーみたいな役割で呼ばれるんですね。
徳井:だけど向こうは20年間ずっと真剣勝負をやってるから、全然違うわけですよ。本気の戦いをされたら「いや、そんなの俺らやってないから。勝てない勝てない」と言っても「逃げないでくださいよ」とずっと来る。それで職業を変えようと思いました。怖いのが小籔さんとかみんなそうですけど、麒麟の川島(明)さん、華大(博多華丸・大吉)さん、バカリ(ズム)さんとかは未だに真剣勝負をしてるんですよね。こそっと刀を隠してMCをやってるだけで、本当はみんな刀を抜こうと思えば「いいよ、いつでも来いよ!」という感じなんです。
アフロ:音楽もそうかもしれないですね。圧倒的なものを見た時に、それに憧れて真似する人と、可能性を1つ潰されたと思って別の道を探す人がいる。俺は後者だったので、すげえなと思った人から、どうやったら離れられるんだろうと考えてきました。だから俺には高橋さんみたいな存在が、多分100組ぐらいいる。その100組が選ばなかったもので自分ができている感じがします。
徳井:それは誰ですか?
アフロ:THA BLUE HERB、eastern youth、とかはまさにそうですね。そういうすごい人と共演した帰り道は、99%負けた気で帰るんです。でも1%は何かしら見つけるんです。自分が無理くりでも勝ってるところを。なぜなら100%負けて帰っちゃったら、辞めるしかないから。確かにすごかったし、お客の心を持っていったのも向こうだったけど、ここの部分では俺が勝ってたなと。いや、勝っていたというか、この要素を向こうは持ってないなというのを、敗北を繰り返して、その1%を100回積み上げて。そこで出来上がった100%が今の俺らだと思うんです。
徳井:自分のことを「めっちゃカッコいい」という感覚で終わるわけじゃないんですね。MOROHAさんのライブは圧倒的に見えますけど。
アフロ:いや、圧倒的敗北をずっと感じていますね。こんなことを口に出るようになったのは1年前くらいからなんですけど。
徳井:じゃあ今、裸の一言を言ってる?
アフロ:ドキドキしながら喋ってます。Creepy Nutsに対して「悔しい」なんて、前は絶対に言えなかった。さっき『Love music』で言えなかった一言を今だったら言えるかも、と思ったのはちゃんとみんなが楽しんでもらえるような言い方ができるという……できるようになりたいという希望があるから。それには多分リスペクトが欠かせないんです。あの当時に口にしていたら「俺は言ってやったぞ」の自己満足だけが観てる人に伝わって、痛々しく映っていたんじゃないかなとか。
徳井:今日のアフロさんの言い方だったら、Creepy Nutsファンも喜びますからね。
アフロ:どうなんでしょうね。勝手に名前を出して申し訳ないですけど、彼らは俺がやりたい仕事を全部やってるんですよ。『オールナイトニッポン』に『浅草キッド』も出てるじゃないですか。そこに対して真っ向から「悔しい」と言うことができなかった。なぜなら、俺は答えを知ってる人間だと思われなきゃいけないから。答えを知ってる人間が、何かに劣等感を感じて、しかも具体名まで出すのはめちゃくちゃダサい、やっちゃいけない、やるもんかと思っていたんです。でもさっき言った「99%負けても1%は持って帰ってる」という言葉。これが俺達の本当の姿、コレめっちゃカッコ悪いんですよ。でもそのカッコ悪さの積み重ねでみんなに必要としてもらった。それなのに、自分たちがデッカいキャパでワンマンをやれるようになったからって、「それ相応の顔しよう」みたいなのって、それこそ「めっちゃダサくない?」と。ちゃんと「カッコ悪いんだ」というのを自分にも見せなきゃいけない。
「価値の下がらない負け方」があると思うんです
『MOROHAアフロの逢いたい、相対』
徳井:そしたら本に書いた、極楽とんぼの加藤(浩次)さんの章は響きませんでした? 『めちゃイケ』(『めちゃ×2イケてるッ!』)で「ナイナイ以外いなくていいから」と言われてから頑張り方を考えたとか、『スッキリ』を始めて「芸人がワイドショーのMCなんかやってどうすんだ」とめちゃくちゃ言われたのに、今はみんなが手のひらを返して「加藤さんすごい」と言うじゃないですか。口にはしないですけど、きっと「お前ら、あの時は違うことを言ったよな」と思いつつ、それを言わないカッコよさもある。やっぱり加藤さんはすごいですよね。
アフロ:その章、めっちゃ好きでした。負け方の話もありましたよね。
徳井:「収録後6:4ぐらいで負けるのがいい」という話ですよね。
アフロ:俺、「価値の下がらない負け方」があると思うんです。90年代から00年代に活躍したシリル・アビディというK-1選手がいて。ゴングが鳴った瞬間に拳を振り回してノックアウトを目掛けて相手選手に向かっていくんですけど、大体カウンターを食らって、仰向けになってすぐ負けちゃう。だけど、俺が1番好きなK-1選手はその人なんです。勝つところを見たいんじゃなくて、ゴングが鳴った瞬間に突進していく様を見たいんですよね。基本的にはライブも勝つところを見たいんじゃなくて、どう戦っているのかが見たい。
徳井:確かに、それはそうかもしれないですね。
アフロ:俺は加藤さんの章を読んで、価値の下がらない負け方の話をしてくれているんだと思ったんです。対バンで相手がちょっとオシャレなバンドだったりすると、そのお客さんに好かれたいと思って少し合わせに行くんですよね。でも合わせに行ってる時点で負けていて。オシャレなアーティストが対バン相手だとしても、自分の真骨頂でもある「とにかく大きな声を出して、拳を振り回してるところ」をやりに行こうって。そっちに振り切ると綺麗に負けるんですよ。
徳井:ああ、後悔なく負けると。
アフロ:そうです。その日は負けなんだけど、自分達の中で価値の下がらない負け方をしたなという感覚が残る。お客も「やっぱりあいつらのこと全然好きじゃないわ」と帰って行く。それは「なんとなく良かった」よりはマシな気がするんですよ。例えばフェスのステージでの演奏中、客席に俺らのライブを見限って他のステージにいく人がいたとして。3曲目でいなくなるのと、1曲目を歌い出した瞬間にいなくなるのでは、全然意味が違うと思うんですね。1曲目でいなくなった方がやっぱりいいんです。どうせいなくなるお客さんに3曲目まで聴いてもらっちゃいけないんですよ。
徳井:最初か最後までいるかの二択がいいんだ。
アフロ:そうじゃないと、この世界は残れないんじゃないかなと。
徳井:なるほど。3、4曲目まで聴かれて帰るようなやつは、何年後かに消えてるという。アレルギー反応を出してくれるぐらいの方がいいってことですか。それはすごく良い言葉ですね。やっぱりMOROHAさんの歌を聴いてると、ここまで自分の追い詰めた歌詞は辛いだろうなと思うんですよ。
アフロ:23、4歳ぐらいの時、人生をシリアスに思い詰めて生きていたんです。「気を抜いたら負けるんだ」とか「背中を丸めて実家に帰って職も選べずに、仕事をするしかないんだ」ということを、とにかくずっと考えていて。しかも、その時に作った曲が評価された。だから「この自分がみんなに求められてる自分なんだ」と思いながら20代をずっと過ごしていたので、心を開いたら捨てられると思っていたんです。そこから34歳で武道館(『“単独”』)まで行けた時に「あ、良かった」と思ったんだけど、「このままずっとやり続けんの?」という疑問も生まれて。
徳井:「この先、俺は持つのか?」っていうね。
アフロ:あと「生き方として貧しくない?」と思ったんです。友達もそんなにいないし、お酒も飲まない。人の話もろくに聞かずに、俺が俺がでやってきた。とにかく自分が1番だと言い続けなきゃいけないから、相手の粗探しもする。それを的確に言い当てることを強さだと思っていた。「俺が目指すべき人間の姿はそうじゃなくない?」というのが、ここ1年で思ったことですね。