MOROHAアフロ『逢いたい、相対。』平成ノブシコブシ・徳井健太と考える「芸の道」ーー己の芸を生業にする男たちの劣等感、覚悟、生き様
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60歳までしがみついてんじゃねえよと、若い頃は思いますけど
「いや、60までやれるってすごいぜ」
平成ノブシコブシ 徳井健太
アフロ:本の後書きに「60代でテレビに出れてるのなんて奇跡」と書いてましたよね。
徳井:そうなんですよね。若い頃はシド・ヴィシャスに憧れるじゃないですか。1曲バーンと売れて、若いまま亡くなるなんて生き様としてはカッコいいと思うんですよ。だから60歳までしがみついてんじゃねえよと、若い頃は思いますけど「いや、60までやれるってすごいぜ」と。そこまで第一線にいられるのは、全部をネタにしてるということじゃないですか。(明石家)さんまさんなんて、娘さんもそうだし、娘さんの彼氏までネタにしてる。そこまで晒して自分を表現できる人は、1/1億だと思うんですよ。まあ……それも年を取らないと分からないですよね。20代の子らは家族のこととか言いたくないだろうし、そこを言うのが早いとダサいし。
アフロ:わかります。それを本能的にやれたらいいのにな、と思います。何も考えなくてもいい人が時々いて。
徳井:そういう天才肌もいますよね。
アフロ:尾崎豊がいた時代は、本当の天才しか勝てなかったと思うんですよ。でも今、ぶっ飛んだ人はコンプライアンスとかで、世に出るのが難しいじゃないですか。だから「天才が生まれない時代になった、今は小綺麗なやつばっかりが売れてる」みたいに言う人がよくいるんです。というか業界ではそれが多数派の声なんです。でも、俺は天才が勝てない時代、才能のある人間が埋もれていく時代はありがたいとも思うんです。だって頑張って汗をかけば、俺みたいな凡人でも世に出れるわけだから。みんなにチャンスがある時代が来たと思う。才能のある人間が埋もれていくことに嘆く人がすごい多いし、俺もそういう気持ちはあるんですけど、言い方を変えれば「才能がなくてもどうにか居場所を見つけられる時代」だと思ってます。それがカルチャーにとって良いのかはさておき、人間としては報われる人が多い気がします。
徳井:まあ、努力と愛ですよね。そこが1番大事な気がしますよね。辞めていく天才芸人もいっぱいいましたけど「そこまでだったか……」という感覚ですもん。それぐらいの窒息感で辞めるんだったら、この先も無理だろうし、しょうがないかなと。現役のみんなは喉カラカラで走ってきてましたから。
アフロ:引き留めたことはありますか?
徳井:ないですね。悲しいなと思いますけど「金がなくても、未来が見えなくても、面白いと思われるならやります」と言う人がいっぱい自分の前を走っていたから。「金がないから辞めるしかない」と言われると「そうだよな」と。
アフロ:それだけ見送ってきたんですね。
徳井:見送ってきましたね。とにかく明るい安村が組んでいたアームストロングが解散した時、社内では結構な話題になっていて。今で言ったら、オズワルドとかそんな感じだったんですよ。黙っていれば売れる状態。いろんな賞レースで決勝へ行くとか、優勝してるみたいな最中の解散だったから、もったいないなとは思いました。でも、そういう屍の上に我々は立ってるんで。
アフロ:逆に、引き留められた経験はありますか?
徳井:本気に解散しようとした時、マネージャーに「CMがあるから解散できません」みたいなよくわからない理由で止められたことがあって。今思えばCMは嘘だと思うんですよね。でも本当にウチらは解散しようと思っていたんで「それギャラいくら?」と聞いたんですよ。「いくらか言えば、払うから」と。それでも「駄目です」と頑なで。その子は「解散しないでください」とは言わなかったけど、今思えばそういう意味だったんだろうなと。
アフロ:ネルソンズに「バンドをやれば」と勧めたのも、そういうことですよね。
徳井:あ、そうかもしれないですね!
アフロ:辞める人に対して「辞めんなよ」じゃないでしょうね。その場をしのげたら、実は続くっていう。
徳井:「賞レースに出たら?」とかもそうでしょうしね。それこそ15年目から、みんな鬱状態になるらしいんです。今まで『M-1』だけを考えてやってきたのに「もう出られないです」となると、「そっからどうしよう」となっちゃう人が多いらしくて。そうなると、ライブも呼ばれづらくなるんですね。『M-1』のライブも出れないし、おじさんの芸人が集まっても客が入らない。「どうしよう?」からの解散っていうケースも結構あるんですよ。そういう人には、やっぱりバンドをやってもらうのが良いですね。
『M-1』は、自分らのお客さんじゃない人から
笑いを取れるネタじゃなきゃダメ
『MOROHAアフロの逢いたい、相対』
アフロ:さて我々、来月から芸人さんとステージを分け合うツアー(『無敵のダブルスツアー』)がありまして。今回の対談は、徳井さんを参謀として招きたい気持ちもあったんです。このツアーを勝ち抜くために、徳井さんの見解をお聞きしようと思って。
徳井:めっちゃ良いラインナップですね! ランジャタイと金属バットは、THE対バンでしょうね。お互いの最高を見せ合うしかない。こいつらも相手に合わせるつもりないと思うんで、最後に立ってるやつが勝者みたいな感じになるんじゃないですかね。ラランドはすごい器用だから「あ、MOROHAさんはそっちなのね」と思ったら、場の空気を読んで調整してくれる気がしますね。この日はMOROHAさん側が、わがままになっても良いかなと思います。蛙亭も感覚はミュージシャンですもんね。イワクラはMOROHAさんの温度を浴びて、どんどん熱くなるんじゃないですか。それで言うと、ザ・マミィが1番難敵ですね。
アフロ:へー! 意外! そうなんですか!
徳井:飄々としてそうなんで、俺はMOROHAさんがザ・マミィを追いかけて行くところを見たいですね。ニューヨークは、今やお笑い界でもMCラインに近いですからね。この中で言うと、1番柔軟で万能ですよね。お互いにリスペクトしつつ、お互いの様子も見ながら高め合っていけるんじゃないですか? あいつらも相手を見ながらもできるし、かといってアウトボクシングをやるわけでもなく、ちゃんとやればちゃんと噛み合ってくれると思います。オズワルドは絶対に煽った方がいいと思います。そしたら乗っかってきてくれるんで。逆に、引いちゃうとあいつらも引いちゃうら「かかってこい、オズワルド」というスタンスがいいと思います。
アフロ:金属バットとかオズワルドに関しては、12月なので『M-1』決勝の直前なんですよね。
徳井:1番いい時期じゃないですか! しかも金属とかランジャタイはラストイヤーですよね。もしかしたら『M-1』用のネタをかけるんじゃないですか。もし配信がないならですけど。
アフロ:このツアーは配信しないんです!
徳井:じゃあ、そうじゃないですか。『M-1』は自分らのお客さんじゃない人から笑い取れるネタじゃなきゃダメらしいんです。NONSTYLEの石田(明)くんから聞いた『M-1』理論があって。準決勝はお笑いオタクが会場に入ってるから、お笑い玄人がウケるネタじゃないと決勝に行けない。でも決勝は超ポップなファンの前だから、超お笑い好きのファンにウケるネタはウケなくて、トップのネタしかウケないです。だからお笑いファンとかNGKでウケるネタで『M-1』の決勝には行けても、そのままでは優勝できないらしいんです。それで笑い飯さんは、学祭とかで『M-1』のネタを試すんですって。結局、自分らが面白いのは分かってるから。この面白さが、おじいちゃん、おばあちゃんとかライト層にまで伝わるかどうかを試すらしいです。
アフロ:それで言うと、岡崎体育さんは曲が出来たらお母さんに聴かせるらしいです。お母さんが「面白いね」と言った曲はやっぱりヒットするみたいで。
徳井:ヒットというのは、そういうことですもんね。音楽好きじゃなくても、好きだと思わせなきゃいけないから。
アフロ:……今気づいたんですけど、こんなに他人の話ばかりしてる対談は初めてですね。
アフロ・徳井:アハハハハ!
徳井:あの人がああだこうだ言ってね。それは弱点でもあるんですよ。
アフロ:え、すごく素敵なことだと思いますよ。
徳井:「僕はーー」というのがないんですよね。例えば4択クイズの時に、みんながAで俺がCだとしても「いや、僕は!」といけないんですよ。
アフロ:その分、人の話を聞いてるということですもんね。
徳井:そうなんでしょうね。だから今に繋がっているんだと思います。
『MOROHAアフロの逢いたい、相対』
文=真貝聡 撮影=suuu
ツアー情報
11月6日(日)北海道・ペニーレーン24 w/ ラランド
11月16日(水)愛知・名古屋ReNY Limited w/ 蛙亭
11月18日(金)千葉・柏PALOOZA w/ ザ・マミィ
11月26日(土)長野・上田映劇 w/ ニューヨーク
12月10日(土)東京・新宿BLAZE w/ オズワルド
12月12日(月)大阪・梅田クアトロ w/ 金属バット