syrup16g、宮本浩次、YEN TOWN BAND、Chara、椎名林檎、コーネリアス、ピチカート・ファイヴ……約30年もの間、活躍を続けるベーシスト・キタダマキ。初めてキャリアを訊いた【インタビュー後編/連載・匠の人】
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■再始動後は前向きになれましたね
──じゃあその翌年、syrup16gとして再始動、という話になった時は──。
前向きになれましたね。メンバー間も解散前とは、距離感が変わった。小さな違いですが。例えば、以前は曲作りの時、五十嵐君がガーッと歌いだして、それに付いて行く、っていう作り方で、これはこれでマジックが起こることもあるんだけど。……『HELL-SEE』の「I’m 劣性」で「これコード感、微妙だな……。ちょっと引っかかるな」と思いながらリハしていて。でも、それがむしろいいとなって、そのままレコーディングが終わって。録ってる時は、もうこれでいいやと思ったんだけど、今聴くと、ちょっと微妙かなとも思う(笑)。いや、納得はしてるんだけど(笑)。その時、口頭でのコミュケーションが足りなかった。とりきれてなかった。……再始動後は、曲のことは細部まで訊いて確認するように。彼も「コードはこう押さえてて」っていう資料をくれるようになって。
── 以降、「Hurt」「Kranke」「darc」「delaidback」と音源をリリースして──。
去年、「11月に、本編10曲、全部新曲でライブをやる」って言い出して。「え?」と(笑)。でも、割と早くからちゃんと準備に取り掛かったので大丈夫でしたね。夏頃から曲のプロットを五十嵐君が用意して、自分でスタジオ予約して中畑君と2人でプリプロをやって。曲の体になってきた時点で、3人でスタジオ入って。さっき言った感じでコードの解析をして、暫定的に構成を決めて、「じゃあこの10曲で」っていうところまで決めて。それから、正式にバンドリハーサルを始めて。ライブ用のアレンジをして、本番に臨んで。
──で、そのライブでやった曲を、今年レコーディングして、ニューアルバム『Les Misé blue』ができた。
そう、その新曲達をレコーディングすることになって、6月から取り掛かりました。……コロナ禍で、想定外の事態で何度かスケジュール変更したり、MIXのチェックがオンラインになったりと色々あったけど、良いアルバムができたと思います。更に名曲が2曲増えて(笑)。……個人的には、アンサンブル。録り音にこだわったドラムのサウンド。あと、ベースでハーモニクスとプル(ともに奏法)を増量したので、その辺、聴いて欲しい。
■宮本さんはほんとスターですね。キラキラしてる
──2021年から2022年は、宮本浩次の全都道府県ツアーがありましたよね。人生初ですか、全都道府県ツアーというのは。
はい。あれは良かった。今日こうして、音楽遍歴とかをしゃべってきましたけど、結局、演奏がしたいんですよ。演奏をしていると、いちばん伝わった気がするというか。ライブもレコーディングもそうなんだけど、会心の演奏ができた時、いちばん何かが通じた気がするんです。だから、宮本さんのツアーで、あれだけ充実したステージを、あのメンバーで、日本中、全都道府県を回って……良かった。
──で、やっぱり宮本浩次はすごかった?
そうですね。もう圧倒されて。宮本さん、いろんな要素が強すぎて、後ろで見ていて、この人、歌がすごく上手いんだ、っていうことを忘れる程、パフォーマンスに圧倒される。本人的には「今日はちょっと違った」とかあるんでしょうけど、それでも、凄い精度なんですよ。ピッチとか、声の出し方、声の使い分けとか、そういうボーカリストならではの技術、表現力が。最初はあのエネルギーに圧倒されて「凄いな」で終わっちゃうんだけど、同じメニューを50本やっていくと、さすがに、ステージのパフォーマンス全部、核心、コアの部分がしっかりしているとか、そういうことがわかる。あれだけ走り回って息が切れてないのも、不思議じゃないですか。それでいて、ちょっとしたステージアクションとかも……お客さんに対するサービスだと思うんですけど。ほんとスターですね。キラキラしてる。……自分はYEN TOWN BANDもやって、Charaさんのツアーも1本やったんだけど。Charaさんのライブもハッピーだった。ステージ上で同じものを感じたな。
──そのおふたりが特別だというのは、わかる気がします。宮本さんの楽曲は?
グッときますよね。レコーディングで呼んでもらった「sha・la・la・la」と、レコーディングはしてないけど「ハレルヤ」、その2曲はもう、ライブで毎回楽しかった。好きな曲ばっかりだけど、ライブのハイライトのあの2曲は特に、何回弾いても。……あれだけのステージだから、演出もあるわけですよね。自分で言うと、大げさにベースを掲げる、みたいな。あれも演出と言えばそうなんだけど。最初は無意識にやっちゃってたけど、なんとなく毎回やらざるを得なくなった(笑)。
■自分の音のトーンは守りたいところがある
──最後に、心の師匠的な存在のベーシストって、います?
まずはブラック・ミュージック界。アレサ・フランクリンのバンドのThe Kingpins、そこのジェリー・ジェモットが、いちばん好きなベーシストの一人です。フレーズ、音の太さ、トーン、タイム感……。The Kingpinsのメンバーは、もともとジャズのプレーヤーだから、ソウル・ミュージックもやれば、自分のフィールドではジャズ〜フュージョンもやる。ジェリー・ジェモットも、ジャズっぽさとソウルっぽさのバランスが、絶妙な黒さというか、いいんですよ。……「自分の音」について話したいんですが、ベースの弾き方を変えてみたっていうのは、自分の中でわりと重要な話だったんだけど……子供の頃に隣のお兄さんがベースを練習しているのを聴いて、そういう楽器があるんだ、っていう耳になって。それで、いろんな音楽を聴いていると、いつの間にか、ベースの「いい音だな」みたいな基準が、自分の中でできてくる。で、バンドをやる時に、ベースアンプで音を作るじゃないですか。誰に言うことでもないけど、自分の出したい音は、わりといつでも出せてる。弾き方を変える前から。ちょっと丸いトーンで……音抜けのことを考えると、もうちょっと尖った音の方がいいんだけど、あんまりドンシャリな音にはしたくなくて。自分の音のトーンは守りたいところがあるんです。ベースの弦、張り替えてから徐々に高音域のシャリ感が減るから、1ステージで毎回換える人もいれば、ずっと換えない人もいる。自分もなかなか換えないんです。……初めての小西さんの仕事の時に、「最低1年以上換えてないフラットワウンドを張ったベースを持って来て」って言われてたんだけど、その話が下りて来てなくて。弦交換してそんなに経ってないベースを持って行ったら「これじゃちょっと……」って……。急遽手配してもらって届いたリッケンバッカーが、たまたま弦が張りっぱなしで。それを借りて来て弾いたら「いいですね!」ってなって、そこから小西さんがよく呼んでくれるようになった。……続いて、……いいですか?
──はい、お願いします。
ジョー・オズボーン。いわゆるThe Wrecking Crewの。スタジオミュージシャン。その人の有名なエピソードがあって、めったに4弦を弾かない。4弦の音は、響きがちょっと違うから、1〜3弦だけ使う。ブライトだけどウォームな音。カーペンターズの有名な曲を聴くと、だいたいその音だから、わかると思う。……そして、リーランド・スカラー。キャロル・キング、ジェームス・テイラー、ジャクソン・ブラウンから始まって、AORとか幅広く活躍している人で。オブリガードが秀逸な、歌うベースラインのイメージ。
──うん、その3人。
心の師匠って事で教科書レベルのレジェンドから3人だけ。聞かれて気がついたけど、好きなベーシストは、まだまだ何人も思い浮かんで、キリが無い。……だから、ベースという楽器が好きなんですよ。で、ここまで弾いてるから、合ってたんでしょうね。演奏のテンションもだけど、いい音が出したい。「いい音を出したいな」と思って、いつもやっている。
取材・文=兵庫慎司 撮影=河本悠貴
ツアー情報
OPEN 18:00 / START19:00
前売り:1Fスタンディング ¥5,500 / 2F指定 ¥5,800 (ドリンク代別)
INFO:キョードーインフォメーション(0570-200-888)
OPEN 18:00 / START19:00
前売り:1Fスタンディング ¥5,500 / 2F指定 ¥5,800 (ドリンク代別)
INFO:VINTAGE ROCK std.(03-3770-6900)
OPEN 18:00 / START19:00
前売り:1Fスタンディング ¥5,500 / 2F指定 ¥5,800 (ドリンク代別)
INFO:VINTAGE ROCK std.(03-3770-6900)
リリース情報
11月23日発売
syrup16g『Les Misé blue』
収録曲
01. I Will Come (before new dawn)
02. 明かりを灯せ
03. Everything With You
04. Don't Think Twice (It's not over)
05. Alone In Lonely
06. 診断書
07. Dinosaur
08. モンタージュ
09. うつして
10. In My Hurts Again
11. In The Air, In The Error
12. Maybe Understood
13. 深緑の Morning glow
14. Les Misé blue