『邪神ちゃんドロップキックX』は本当に不適切なのか? ピンチをチャンスに変える即断行動の理由を聞く 独占インタビュー
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『邪神ちゃんドロップキックⅩ』富良野編キービジュアル (C)ユキヲ・COMICメテオ/邪神ちゃんドロップキックX製作委員会
2022年夏アニメとして放送された『邪神ちゃんドロップキックX』。本作の中で、富良野市がふるさと納税で制作費を募り、8月31日に放送された第九話「富良野に潤むラベンダー色の瞳」が、富良野市議会の決算審査特別委員会内容から内容が不適切だということで一般会計決算を不認定としたというニュースが飛び込んできた。これを受けて11月16日当日、午後12時半に一週間限定で第九話の本編全編が『邪神ちゃんドロップキック』公式YouTubeにアップされ、富良野のイメージが良くなったかどうかのアンケートも取られている。
ふるさと納税を絡めた地域とのコラボレーション、そして放送終了後数カ月後の不認定の知らせ、圧倒的に早い公式の対応などSNSは驚きと話題に溢れたが、今回『邪神ちゃんドロップキックX』宣伝プロデューサーの栁瀬一樹氏にお話を伺った。インタビューの発案、相談から実施までまさかの1時間。SPICE史上最速の企画実施となったインタビューをお伝えする。公式はどう思っているのか、そして『邪神ちゃんドロップキック』の魅力とは? 独占でお伝えする。
(このインタビューは2022年11月16日に実施しました)
――急なご相談でしたがインタビュー快諾ありがとうございます。
よろしくお願いします。
――今回、まず富良野市議会この決定を受け、どのように思われましたか?
当日の朝、北海道新聞のネット記事を見て知りました。この記事によると(邪神ちゃんが)「アニメの内容 富良野のイメージを落とす」と書かれていました。私はそうは思いませんでしたが、判断をするのは視聴者の皆さまなので実際に調べてみようと思いました。
――なるほど、とはいえスピード感が凄いですよね……。
そのためには「富良野編」を視聴して頂く必要があるのですが、もうテレビアニメの放送は終わってしまってるじゃないですか。
――そうですね、2022年夏アニメですから。
この問題を解決するために、1週間限定でYouTube(当日夜にはニコニコ動画も)で無料公開としました。本来なら配信サービスなどでお金を払って観て頂くものなのですが、今回は特別に1週間という制限を設けて無料で配信しています。
――改めて何度も言ってしまいますが、尋常じゃない速度感ですよね……朝の北海道新聞のニュースを受けて、12時半には公開している。いろいろな人に確認を取ったり、普通は時間がかかるものだと思うんですが。
よく言われます。ですが委員会や関係者への相談は事前に行なっています。今回の場合であれば配信窓口(インターネットで作品を配信する権利を持っているメンバー)や、ふるさと納税案件窓口の了解が必要となるのですが、「危機管理広報は初動が大事、絶対に昼までには決着させたい。きっと不安がっているファンの皆さまのためにもすぐ動きたい」と熱意を持って相談をしました。
――このインタビューをさせていただいている現段階(16日16時半)で3万7000回再生。高評価も4000以上ついています。僕もさっき改めて拝見しましたが、僕は非常に好意的に富良野のことを描いていると思いました。ただ北海道新聞によると、討論で佐藤秀靖議員は「邪神ちゃんに借金があるため、臓器売買を提案するなど社会通念上許されない行為が多くあり、富良野のイメージを落としかねない」と主張されているとのことです。
『邪神ちゃんドロップキック』はギャグアニメです。ギャグアニメの源流はスラップスティックという体を張ったドタバタ劇にあると思うのですが、映像の目的は視聴者に笑ってもらうことで、そのためには様々な面白表現をしていきます。今回の場合であれば、借金に追い詰められた邪神ちゃんが、普段は天使のように優しいメデューサに「邪神ちゃん、内臓売ろ?」と真顔で提案され、鼻水を垂らしながら「え?!」と衝撃を受ける様子が面白さのもととなっているのですが、これは臓器売買を推奨しているわけではありません。
――それはもちろんそうですね。コメディの範疇として僕は全然面白く見れたし、富良野の魅力や特産品も丁寧に書いていると感じました。地域にしっかり寄り添って制作しているというか。
我々制作チームはロケハンで富良野を訪れ、富良野の魅力を存分に味わうことができました。そしてその魅力を発信するため、現地の方とは異なる「旅行者の目線」で街の魅力を描きました。あとは本編をご覧頂いて、視聴者の皆さまに判断を委ねたいです。
――作り手はもう届けていますからね、作品を。
はい。その上で、視聴者の皆さまが作品を観た上で本当にがっかりするような内容であれば作り手は作り方を再考する必要があるでしょう。果たして本当にそうなのか?をまずは知りたいと思いました。
(C)ユキヲ・COMICメテオ/邪神ちゃんドロップキックX製作委員会
――その方法としての今回のYouTube公開とアンケートってことですね。以前も第三者切り抜き動画の無断アップロードを防ぐために、最新話放送前に公式が切り抜きを配信したり、『邪神ちゃん』の制作チームには「何が何でも『邪神ちゃんドロップキック』という作品をアニメ化して届けていく」という執念のようなものを感じます。この執念は何なんですか?
愛ですね。3期12話邪神ちゃん最後のセリフを思い出して下さい。「この世で最も尊いもの、それは愛だーーー!」って言ってます。
――邪神ちゃんが叫んでましたね。
作り手側だけではなく、この作品をもっと続けてほしいと言ってくれる皆さまの思いも愛です。背負っているものがとても大きいので、ちょっとやそっとの逆境に負ける訳にはいきません。
――そうですよね、想いを背負うってそういうことですよね。
はい。そのために、ピンチをチャンスに変えるためにはどうしたらいいかを考え、すぐに行動します。
――それはすごく感じます。特に今アニメーションって作品に高いクオリティを求められるようになっていると思っていて、それに対して予算や人員を捻出するのはどんどん難しくなってきてると思うんです。実際Blu-rayなどの盤もレンタルビデオ店の減少などから以前のように売れる状況ではないと思いますし。
そうですね。
――いいものを作らないと認められないけど、作るのがどんどん難しくなっているというこの状況の中で、どうにかして何か自分たちの面白いと思うものを作ろうっていうのを、なりふり構わずやってる姿を見て、僕はちょっと感動しています。さて、ここで改めて、『邪神ちゃんドロップキック』という作品の面白さ、魅力っていうのはどういう部分だと思われているのかをお聞きしたいと思うんですが。
私は邪神ちゃんの魅力は「作品そのもの」と「作品のあり方」、これら2つの要素で成り立っていると思います。
1つ目の「作品そのもの」については、昨今我々はあるべき論によって抑圧されることがものすごく多いですけど、邪神ちゃんはあまりそういうものに捉われず好きなように、ダメなまま生きています。ゆりねもお仕置きをすると決めたら容赦がなくそこには「こうあるべき」みたいな押し付けがましい考え方は存在しません。そんな彼女たちのドタバタ劇を「頭空っぽにして見ていられる」のは、とても楽しいことではないでしょうか。
――確かに邪神ちゃんを筆頭にメデューサやミノス、ゆりねを中心としたみんなのやり取りは見ていて楽しそうだな…いいな…って思いますね。
2つ目の「作品のあり方」については、邪神ちゃんは映像の外側も含めて1つのエンタメとして成立している作品だと思います。オーディション企画やVTuber企画、違法アップとの戦いや二次創作推奨など、映像そのものとは関係ないところでいつも何か変わったことをしている作品で、これは他の映像作品とは「作品のあり方」が違っていると思います。これが数値となって表れているのが『東京アニメアワードフェスティバル2023』の「TAAF2023 アニメ オブ ザ イヤー」投票で、現在ファンが選ぶ420作品の中で邪神ちゃんが1位になっていますが……これって 映像作品だけの評価ではないと思うんですね。
――制作している側がそれを言うのは結構凄いことだと思いますが……!
これもまた、「映像作品とはこうあるべき」という考え方にハマらない、「場外乱闘」込みで面白い作品として評価して頂いている結果なのではないかと思います。
(C)ユキヲ・COMICメテオ/邪神ちゃんドロップキックX製作委員会
――今『邪神ちゃん』の3期のアニメが終わって、4期に向けて何か次の一手みたいなものは考えてらっしゃるんですか?
3期以降の活動を「邪神ちゃんドロップキックNEXT」と名付けて、様々な展開が始まっています。その中でも大きなものが「クラウドファンディング4期分割払いプロジェクト」で、クラウドファンディングで3000万円集まるごとに1話ずつ新作アニメを作ることをお約束していきます。ここで作られた映像はOVA(オリジナルビデオアニメ)として、参加者へのリターンとして使っていきます。こうした活動を繰り返すことで、いつか12話たまったらそれらを4期としてTV放映するつもりです。もちろん、クラウドファンディング以外にもスポンサー集めをしていきますので、3.6億円集まらないと4期が作れないというわけではありません。続編を作るためにあらゆる手を尽くしていこうと思います。
――では最後に、このインタビューを読んでくださっている方にメッセージを頂ければ。
今回のニュースを機に作品を知ってくれた方もぜひ、『邪神ちゃんドロップキック』を見ていただきたいです。これからも新しい企画、新しいビジネスモデルを作るため様々なことに挑戦していきますので、今からでも一緒に映像の外側も含めて楽しんで頂ければ幸いです。
インタビュー・文=加東岳史