アニエラ代表・コバヤシリョウによるアニメソングイベント開催哲学 アニメソングの可能性第六回
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■都心までいかなくても楽しめるアニメイベントがある、そんな環境を作りたい
――そして、この『超新星』から次なるプロジェクトとして『ナガノアニエラフェスタ(※1)』もスタートすることとなります。開催しようと思ったきっかけを教えてください。
2013年の『あきねっと -秋葉原インターネット音楽祭-(※2)』に参加したことが大きなきっかけになっています。あの日のことはいまだによく覚えているんですよ。僕、あの日の夜は途中で帰らなければいけなかった。なのに楽しすぎて最後までいちゃったんですよね(笑)。
――楽しすぎてついつい、ということですね。気持ちはよく分かります。
特にkzさんのDJが本当に感動的だった。もう聴いていたら一歩も動けなくなってしまって……。全体を通しても、DJあり、アニメソングアーティストのライブあり、もう夢のような一夜。僕もこんなイベントをやりたいと思わさせられたんです。
――そのときに感じた「やりたい」を形にしたのが『ナガノアニエラフェスタ』だったと。会場に長野県を選んだのはどういった理由だったのでしょうか?
僕が住んでいる長野県は自然豊かで、空気も美味しい。広大な面積を使ったフェスが開催できる土地もある。そこを考えたら『あきねっと』に別の付加価値をつけたイベントが作れるように感じたんです。
――なるほど。
加えて、インターネットを介してアニメが見れるサービスも増えてきたタイミングだったこともあり、テレビの放送チャンネルが限られている地方でもアニメを見ることが、よりカジュアルになった。地方に住むアニメファンが増えているのも感じていたんです。それに地元・長野で開催されるイベントを心待ちにしている人がいる、ということを感じていたのも一つ大きな要因ですね。
――アニメ関連のイベントの開催地は都市部に集中していますからね。
そうなんですよ。長野に住んでいるとなかなかイベントに遊びにいけない。それは打開したかったんです。せめて僕の地元では、東京まで行かなくても楽しめるアニメイベントがある、そういう状況を作りたかった。
(※1)ナガノアニエラフェスタ……株式会社アニエラが開催している野外アニメソングフェス。アニメソングアーティストのライブに加え、アニメソングDJによるDJプレイも聴くことができる。
(※2)あきねっと -秋葉原インターネット音楽祭-……2013年に新木場ageHaで開催された、秋葉原MOGRA主催の大型クラブイベント。アニメソングやボカロソングによるDJ、アニメソングアーティストによるライブが披露された。
■自身が長らく親しんできたクラブカルチャーにも触れてほしい
――『ナガノアニエラフェスタ』開催にあたって、公園の使用許可や補助金の申請など、市や県などの行政側の理解を得るのはやはり大変だったのでは?
正直最初は本当に大変でした。知り合いの、長野県で長いこと事業をやられている方の紹介で、なんとか役所の方に話を聞いてもらえる。それでもすごく渋々であまり前向きにはなってくれない、みたいなことは数々あって……。
――やはり、一筋縄ではいかなかったんですね。
エンタメ関連の方でそういった企画を持ち込んでくる方はよくいるらしいんです。そういう中には高圧的な態度を取る方や、運営体制があまり良くない方もいるみたいで……。職員の方も警戒して対応されるんですよね。
――そんな実態があるんですね……。これまで数回にわたって『ナガノアニエラフェスタ』は開催されてきていますが、現在の状況はどうなのでしょうか?
今日にいたるまで何度も何度も説明をするために足を運び、一つ一つやるべきことをきちんと積み重ねてきたことで、やっと信頼していただけるようになったとは感じています。今では県の方もすごく協力的で、すごく助けられています。
――行政との信頼関係を地味に積み上げて構築されてきたと。そして『ナガノアニエラフェスタ』でもこれまでの流れがあり、アニメソングによるDJプレイも一つの注目ポイントとなっていますね。
僕自身が15歳からクラブカルチャーに触れてきて、今でもクラブカルチャーとの関わりを持って生きている。そこで感じてきた楽しさを皆さんに届けていきたいが故のこだわりはありますね。切れ間なく音楽が流れ続けて、それを身体で浴び続ける楽しさは他の体験とは変え難い。そんなクラブカルチャーとアニメソングによるアニメソングDJのプレイを来場したお客さんに新しい体験として味わってもらいたいですから。
■僕らが考えも付かないような新しい発想と体験を持ったイベントが増えてほしい
――そんな長野を中心として活動されているコバヤシさんですが、今後アニメソングDJの世界こうなってほしいといった想いはありますか?
そうですね……若い子の柔軟な発想で僕らの想像もつかない方向に進化してほしい。それが一番の望みですかね。
――自分たちを超えてほしい、と。
そもそもアニメソングって音楽ジャンルとしての形式が定まっているわけじゃない。だからこそ楽しみ方も多様であってほしいし、そこにコミットするイベントも多様であるべきだと思うんですよね。そのために、シーン全体のことを思うと、一言で言うならば“混沌”としていてほしいんですよ。
――なるほど。ではシーンが“混沌”としていくために、コバヤシさんが心がけていることはあるのでしょうか?
若い子に口出ししないことですね(笑)。僕ももう30代後半になり、色々とイベント運営もやってきているので、ノウハウがある分考え方が凝り固まってきている。なかなか新しいものが思いつけなくなっている感じはするんですよ。なので、ここから先は若い人の発想力に期待して、僕はそれを優しく見守っていたい。
――確かに10代、20代の発想力って面白いですからね。
そうなんですよ。それに、やはり新しいカルチャーは若い人が作っていくものですから。ただ、正直自分が過去にした失敗と同じことをしそうな人がいると止めたくはなる……。
――そういう時はやはり口出しされちゃったりするのでしょうか?
もうグッと堪えて黙っています。失敗が思いもよらぬ方向に進んで、その結果新しいカルチャーが生まれることもありますからね。それを考えると、失敗する機会を先輩だからといって奪っちゃいけないとも思うんです。
――屋内、野外に限らず現在はイベントが多様化していますが、『ナガノアニエラフェスタ』さんのように、野外で開催されるアニソンフェスが各地で行われる可能性はありそうですね。
いいですね! 自分で開催しながら思おうのですが、野外アニソンフェスって本当に楽しいんですよ! なのでもっとあちこちであったらいいとは思っています。今でこそ『このすわ』さんや『アニソンWOODSTOCK』さんのような野外開催のアニメソングDJイベントも増えていますからね。そういうところにアーティストさんがが出演するのも面白そうだと思います。とにかく、僕の想像を超える化学反応を起こすイベントが増えてくれたら嬉しいですね!
■大きなイベントを開催したいなら100万貯めろ!
――大規模アニソンフェスを現在開催しているコバヤシさんですが、これからイベントを開催したいと思っているオーガナイザーにアドバイスはありますか?
100万くらいパーンと使ってイベントやってみてほしいですね(笑)。3桁使ってイベントやると見える世界が変わると思いますから。
――やはり使う金額で見える景色はかわってくる面もある。
大いにありますよ。例えば100万円貯めて、それを全部使ってイベントを開催したとするじゃないですか。そうしたら、例え利益が出なくても100万円使ったイベントを開催したという経験を得られる。100万円規模のイベント製作だったら、何にいくら使えるかといった感覚も身につくんです。その経験は一度しておいた方がいいと思います。
――確かにそういったイベントで何にお金がかかるのか、という金銭感覚って経験しないと身につかないですね。
僕の尊敬するオーガナイザーのMuraさん(※3)やD-YAMAさん(※4)をはじめとした方々も、一念発起して大きな金額を払ってイベントをやる、という経験はしてきていると思うんです。もしも大きなイベントをやりたいのなら、その経験はしておいた方が良いと思います。おそらくそこで、予算100万って実はそんなに大きいイベントができないってことも気付かされるんじゃないかな? 手始めにそこから知っていくといいと思いますね。
――オーガナイザーならでは、実際に経験したことある人にしかできないアドバイスですね。
とは言っても、これは大きなイベントをやりたい人がやればいいことなので皆さん無理はしないように(笑)。大きなイベントをやることだけが正解じゃない、自分にあった規模でイベントを続けていくことも大切で尊いなことですから!
(※3)Mura……月あかり夢てらすを運営する株式会社みぃまぐるーぷ社長。本連載第四回にも登場している。
(※4)D-YAMA……秋葉原MOGRAを運営する株式会社モグラ 代表取締役。『あきねっと -秋葉原インターネット音楽祭-』の主催も行った。
アニメソングは音楽的な形式やルールがない、実に多様な楽曲の集合体である。ろいうことはここに至るまでのインタビューで、改めて確認できたことだ。そして今回のインタビューではそれに加えて、楽しみ方も多様であるべきだということも確認できた。さらに若者たちへの視点は、これまで多くのイベントを開催してきたコバヤシ氏ならでは。筆者もコバヤシ氏と同世代の35歳、イベントへの楽しみ方が凝り固まってきているのを感じる。そこに新しい風を吹かせてくれるのはやはり若い人たちの柔軟な発想だろう。改めて今後のシーンの変遷が楽しみになるインタビューだった。
本連載『アニメソングの可能性』がリアルイベントを開催することも決定している。
本連載にこれまで登場いただいた水島精二、MOTSU、つんこ、葉月ひまりのDJプレイに加え、春奈るなSpecial Live Set、そして出演者によるトークショーもお届け予定だ。
連載をイベントとして落とし込む今回の試み、是非とも会場を訪れてほしい
インタビュー・文=一野大悟
リリース情報
『株式会社アニエラ』
イベント情報
アニメソングDJ & トークショーイベント
『アニメソングの可能性!~ということで現地で検証してみた』
https://www.ortokyo.com/
水島精二
つんこ
春奈るなSpecial Live Set
ろーるすこー kaxtupe いっちょ
リリース情報
アニメソングDJ連続インタビュー企画『アニメソングの可能性』