LOW IQ 01が3年超の奮闘の果てに放った一撃『Adjusted』はいかにして生まれたのか
──一番新しい曲はどれですか。
「Out in Bloom」です。あの曲ができていなかったら、たぶんまだリリースにも至っていないと思います。あれができて、よし行こう!って思ったんですよ。あれがあると無いとでは、大違いでした。
──ですよね。なんか決定的な、反撃の狼煙みたいだなって思いました。
ははははは! 先陣切ってくれますよね。あれが生まれたことによって、納期が決まった(笑)。決意表明ってわけじゃないんですけど、それが音に出たかなって気がします。
──で、こちらも先行配信された「Starting Over feat. the LOW-ATUS」は盟友のお二方を招いた楽曲になりましたが。
コロナ禍でライブが出来なくなって、ミュージシャンはみんな同じスタートラインに立たされたんですよね。そんな中でみんなはどんな動きをしていくか、というところが気になったんですけど、周りのミュージシャンは誰一人として文句を言わなかったんですよ。みんな損害もあったと思うし、痛い思いをしたのに、ネガティブな発言をひとつもしなくて、カッコいいなあって思ったんですよね。で、the LOW-ATUSがまさかのアルバム(2021年の『旅鳥小唄 -SONGBIRDS OF PASSAGE-』)を出すと。しかも、世の中がこうなっている中で、あんなふうに明るい、コミカルなことをやるっていうのがおもしろいなと思って、フィーチャリングをお願いしたんですけど。そうしたら、(細美武士の所属する)ELLEGARDENがレコーディングで忙しくなるなんて俺は知らなくて、そうだったらそうだって言ってよ!って思ったんですけど(笑)。みんな忙しい中によくやってくれたなあ、って。
──そんなお二方と綺麗にハモるっていう、猛獣使い感もおもしろい曲なんですけど、ボーカル録音の現場はどんなムードでしたか。
(笑)。いやあ、ふたりとも流石ですよ。あっという間にレコーディングが済んで、あんまり早く終わっちゃったから酒飲みはじめちゃったし。そこからの方が猛獣だった。
──アルバム全体としては、イチさんらしいミクスチャー感覚も発揮されてバラエティ性豊かな作品になっていますけど、とりわけ冒頭4曲はロックなアタック感が凝縮されていると思いました。そこには何か意図があったんですか。
3年8ヶ月ぶりのアルバムで、今までとはちょっと違う事情があるので、驚いてくれたらいいな、と思いました。何なら、あれ、CD間違えちゃったかな、くらいの。でも期待は裏切らないみたいな。たぶん、曲順を変えただけでアルバムのイメージは変わると思いますよ。これが、僕の中ではベストの曲順です。
──絶妙な並びになってますよね。あと、人懐っこい曲が並んではいるんだけど、実はお気楽な曲がひとつもないな、と思って。
はいはい。コロナ前だったら、LOW IQ 01はそういうイメージがあっても良かったんですよ。なんか陽気なおじさんだね、パーティ野郎だねって思ってくれれば良かったんだけど、なんかこうなってしまった以上、呑気にイェイとは言ってられないなあって。かといって、怒りをどこにぶつけていいのか分からないし、誰かがどうにかしてくれるわけでもない。日本のお偉いさんに言っても、ああ、何もしてくれないんだな、というのが分かったし。ただ待っているだけでは、何も良い方には向かっていかないんだな、って。
──ただ怒りや悲しみを投げかける作品にもなっていないし。やっぱり、イチさんがじっくり自分と向き合って対話している感じがします。
テレビを見ながら、いつも「やめちまえ!」って言ってるんですけどね(笑)。やっぱり、音楽には音楽の力があるし、怒りとかももしかしたら一瞬だけなのかな、と思っちゃう……怒りというか、もう呆れちゃってるんですよね。世の中のいろんなことに。怒ることにも疲れちゃうっていうかさ。そうなっちゃうともう、楽しいことを探す前に生き抜く方法を探さなきゃ、ってなるんですよね。だから、少しでも可能性がある方に進みたいし、この時間は無駄じゃないんだって、ポジティブに考えるようになるんですよね。
──「Ring of Love」という曲にしても、いろいろ諍いが絶えない時代に投げかけるメッセージとして、なんかすごい悩み抜いて出した形跡があります。
なるほど(笑)。言ったらピースだし、そこに辿り着きたい気持ちはあるよね。シンプルに楽しい、ライブでは大盛り上がりしそうな曲なんだけど。いいですね、悩んだ形跡っていうのは。悩んで当たり前だし、弱って当たり前。なかなか会えない時期もありましたけど、みんなと気持ちでスクラムを組めたらいいな、という曲ですね。「Let There Be Music」という曲は政治に対する皮肉でもあって、ここはパンクとして捉えてほしいんですけど、コロナ禍の中でエンターテインメントが雑に扱われる感じがあったんです。あなたたち、音楽に救われたことはないんですか? 俺は音楽に救われてるんだよ、っていう歌なのよ。
──さっき仰っていたように、軽やかでキャッチーだけど深みがある、時間をかけて響くアルバムになったと思います。このしんどい時期を潜り抜けてきた人にこそ刺さるというか。
うん。「コク」っていう言葉をよく使うじゃないですか。コクって、説明が難しいんだけど、意外とその中には苦味が含まれているんじゃないかな。実は苦味があるからコクって生まれるのかな、と思ったりもして。これまで、僕の音楽に苦味はなかったんですよ。苦味って悪いもののように思えるかもしれないけど、ちょっとしたバランスで他が引き立つんだよ、って。この苦味が、コロナ禍の時代を表しているのかな。避けては通れない道なんですよね。綺麗事だけは言ってられないっていう。
──なるほど、まさに。自分で作ったアルバムを、バンドで、ライブで育てていく感覚があると思うんですけど、『Adjusted』は現時点でどんな手応えですか。年明け2月からは全国ツアーも始まります。
7月のワンマンで何曲かはやったんだけど、手応えが凄すぎて。メンバーのグルーヴ感がね。これはもう、今までにない厚みと、パワーと、笑いがあるかなと思いますね。やっぱりTHE RHYTHM MAKERS+のメンバーは凄いんですよ。ツワモノの集まりですね。ぜひ皆さん、一緒に楽しみましょう。
取材・文=小池宏和 撮影=森好弘
ツアー情報
2023年
2/04(土)千葉LOOK
2/12(日)水戸ライトハウス
2/18(土)福島OUTLINE
2/19(日)仙台MACANA
3/31(金)名古屋ボトムライン
4/01(土)大阪シャングリラ
4/20(木)東京O-WEST
ticket 4,500円(税込)
リリース情報
発売中
規格番号:MOM11
価格:税抜価格 3,000 円+税
1 Out in Bloom
2 Starting Over feat. the LOW-ATUS
3 When the Ship Rolls In
4 Set Me Free
5 WHO U R
6 After the Rain
7 ランデヴー
8 Big Little Lies
9 Perfect World
10 Say to Me ※9/28先⾏配信
11 Let There Be Music
12 Ring of Love
13 Roll With It