<2015年末回顧>SPICE編集子の「珍タメ」ベスト5

SPICER
庭劇団ペニノ『地獄谷温泉 無明ノ宿』より 撮影:杉能信介

庭劇団ペニノ『地獄谷温泉 無明ノ宿』より 撮影:杉能信介


2015年は格別のご愛顧を賜り、誠に有難うございました。今回、2015年エンタテインメント&カルチャーの年末回顧として、SPICER(SPICE記事執筆者)の方々から、個人的ベスト5の寄稿を多数頂戴し、掲載してまいりました。

実のところSPICE[舞台]編集子は、世論とか多数意見とか共同幻想とか或いはマス的なるものに先導された空気感といったものに流されるのが大変苦手な(協調性を欠いた)人間であり、それがゆえに、有名無名を問わず色々な書き手諸氏の、色々な考えや価値観の存在を世に知らしめたいと常々思っているのです。今回の企画もその一環でしたが、果たしてお楽しみいただけましたでしょうか。

それでは、編集子自身は、特定のジャンルに拘束されることなく、2015年に見た「珍しいエンタテインメント&カルチャー」、略して「珍タメ」のベスト5をお届けしたいと思います。



■第5位 庭劇団ペニノ『地獄谷温泉 無明ノ宿』(2015年8月 森下スタジオ)

日本のアート系劇団の最先端として屹立し、ヤワな日常世界に不可解な闇の力を容赦なく突き入れる。そんな庭劇団ペニノが、2015年も何だか凄い舞台を繰り広げた。その中でも特に印象深かった“一本”が、この作品だった。江東区森下の住宅街にひっそりと佇むセゾン文化財団所有の稽古場に、北陸の秘湯の宿をリアルに出現させた。正確に言えば、それは精緻に出来た回転舞台であり、回転する世界の中を奇妙な人々による奇妙な行動が刻一刻と通り抜けてゆく様を我々は目撃させられるのだった。

庭劇団ペニノの主宰にして作・演出をつとめる鬼才タニノクロウは、精神科医でもある。そして、ペニノという劇団名は、子供の頃、黒光りする彼の風貌がペニスに似ているとして、タニノならぬペニノという綽名をつけられていたことに由来する。編集子は、そこに精神分析的な興味を覚え、舞台を見る時も、常にそのことが脳裏から離れない。そんな偏執狂的観点から、明らかに誤読としか言いようのない感想が迸り出まくったので、観劇レポートとして書きなぐり、SPICEに掲載したこともあった。
 

■第4位 増田ぴろよ個展『新宿回転ベッド 「男犬」-「MOTHER」』+関連演劇(2015年7月 新宿眼科画廊)

ペニノの回転舞台の話題に続いては、回転ベッドが出現したアート展の記憶を引き出したい。あの「ろくでなし子」の一件により、気骨あるギャラリーとしてその名を轟かせた新宿眼科画廊  が、実は同ギャラリーにおける「真に危険なアーティスト」として誇っているのが、増田ぴろよだった。

具体的でリアルな男性器を絵素材として扱いながら、それらを図象の中に機能的なデザイン要素として取り込み、美しいアート作品に仕立てる皮肉の利いた手法は、かつて辛酸なめ子をして「上級者の性表現」と絶賛せしめた。そんな増田の個展は、一見エログロを超越するものだったが、その作品をじっと凝視していると別次元の悪意のようなものが垣間見える。その瞬間のスリリングさに堪らなく痺れた。そこが彼女の真の危険さなのだ。しかし、同展の関連イベントとして行われた家族劇『愛の若草物語』は、危険さとは真逆に、非常に素朴な増田の私的内面が浮かび上がるもので、美術とは異なる表現媒体としての演劇の効能について、改めて興味深く考察することができた。SPICEでは戸村祐介さんが紹介記事を書いてくださった。

個展のチラシより

個展のチラシより


■第3位 フロム・ニューヨーク『ごめんなさい、ニューヨークから来ました』2015年6月 @下北沢OFF・OFFシアター)


かつて伝説の劇団猫ニャーを主宰、いまなお日本不条理ナンセンス演劇界最大のカリスマとして君臨する、ブルー&スカイ(←1人の名前)のユニット。それがフロム・ニューヨークだ。2015年6月に市川訓睦、中村たかしと共に久々に下北沢で単独活動を再開、その後、さらに2回ほど他芸人とのライブにも参加した。彼らの最近のネタとして、テニススクールの「キトウ問題」を扱ったものが抜群に面白い。スクールの女性生徒の背後から男性コーチが指導すると、どうしても女性の背中に「キトウ」があたってしまうという問題…。それから、別のライブでは、清純な女子大生が清純すぎるあまり、タコ焼きが二個並んでいるのを「恥ずかしいです!」と直視できないというネタも。

■第2位 ゴキブリコンビナート『ゴキブリ・ハートカクテル』 (2015年2月 @新宿タイニイアリス)

公演チラシより

公演チラシより


キツイ、キタナイ、キケンの「3K」の炸裂するミュージカル劇団として名高いゴキブリコンビナート(以下ゴキコン)は、色々な劇場で無茶をやっては出禁をくらい続けて来たが、新宿タイニイアリスだけは寛容の精神でゴキコンを受け入れ続けてきた。しかし2015年、ついにタイニイアリスが閉館となった。私個人としてはゴキコンがタイニイアリスの見納め公演となった。

劇場公演といっても、いわゆる舞台があって客席があって、というものではない。会場は迷路になっており、その随所に危険な仕掛けが待っている。極度に狭く暗い隘路が延々と続く中を這ってゆかざるをえないかと思えば、滝の流れる下水道の坂道を舟を漕いで登って行ったり、あるいは糞だらけの汚便所のおまるの穴を通り抜けてゆかないと次のステップに進めないとか。また、行く先々で、過激派武装集団に監禁されたり、性欲旺盛な男に(男女問わず)後ろから犯されそうになったり、「箱の中身はなんじゃろな」ゲームで生きているヤスデを掴まされたり、押し寄せる敵に対して巨大ペニス棒を武器に戦わされたり…。とまあ、「3K」度はMAXといえるものだった。こんな酷い演劇は世界にそうそうあるものではなかろう。しかし、こんな演劇以上に悲惨で残酷な現実は世界には数多あるのだとも思う(先日、「禁じられた歌声」という映画を見た時も、改めてそう思った)。すえたニオイの充満する密閉空間の中、巨大ペニス棒で必死に敵を突き、全身汗だくになりながら、ふと己の平和ボケを顧みつつ、色々なことを考えさせられた作品だった。

■第1位 映画『最後の一本』 (劇場公開日 2015年8月8日 @シネマカリテ)


「アイスランドに実在する世界唯一のペニス博物館を題材にしたドキュメンタリー。アイスランドのペニス博物館には、男性器の魅力にとり憑かれた館長が長年にわたって収集してきた様々な動物のペニスの標本が展示されている。しかし、ただひとつ、ヒトの標本だけが欠けていた。コレクションの完成を目指す館長の前に、自分のペニスを提供したいという2人の男性が現われ、同博物館に展示されるヒトの最初の1本を目指して熾烈な争いを繰り広げる」(公式解説より)

シネマカリテの「カリコレクション」として上映された珍作品。といっても、非常にマジメな映画なのだが…これほど面白いドキュメンタリーがかつてあったろうか!2015年、あまり映画を見れなかったけれど、この“一本”を見逃さなかったことだけは幸運であった。
 



2015年は「珍しいエンタテインメント」、略して「珍タメ」が豊作な年でした。えっ? 「珍タメ」の意味が違うのではないかって? はて? なにはともあれ、2016年も「珍タメ」道を究めるべく、邁進してまいります!

シェア / 保存先を選択