柚希礼音のビジュアル撮影に潜入! 『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』待望の再演へ
柚希礼音
自由と平等を求めて戦った女性たちを正面から描いた日米合作ミュージカルの誕生が多くの感動を呼び、2019年度第27回読売演劇大賞優秀作品賞を受賞するなど高い評価を得た「ミュージカル『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』」が、2023年6月に東京・東京国際フォーラム ホールCで待望の再演の幕を開けることが決定した(のち、全国ツアー公演予定あり)。
「ミュージカル『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』」(以下『FACTORY GIRLS』)は、アメリカ・ブロードウェイで活動するクレイトン・アイロンズとショーン・マホニーが作詞・作曲。「社会派エンターテイメント」を掲げて、小劇場芝居から大劇場のグランドミュージカルまで幅広い活躍を続ける板垣恭一が脚本・演出を担当した作品。柚希礼音演じる19世紀半ばにアメリカで起った労働争議を率いた実在の女性サラ・バグリーと、ソニン演じるサラと固い友情を結びながらも、編集長として活躍しているが故に雇い主との板挟みで苦しむハリエット・ファーリーを中心に、女性が文章を書けるとは思われてもいなかった時代に、自由と平等を求め、剣ではなくペンで闘った女性達の物語を描いたロックミュージカルだ。
A new musical『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』主演を務める柚希礼音
『FACTORY GIRLS〜私が描く物語〜』初演舞台写真
初演では、クレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニーが、ミュージカル創作のプロセスとして立ち上げ、実際に上演されてはいなかったトライアウト的な台本と楽曲を元に、板垣恭一がこのプロジェクト用の台本を執筆。サラ役の柚希やハリエット役のソニンをはじめとする登場人物の個性にあてがきをした。その過程で物語に必要になった新たな楽曲をクレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニーに書き下ろしてもらうという、日米クリエーターの緻密な共同作業で作品を完成させた。文字通りの日米合作によって生まれ出た舞台は、「自由の国の娘たち」「剣と盾」「ペーパードール」など、美しく、キャッチ―で覚えやすいミュージカルナンバーの数々と、ダンスナンバーの迫力。何よりもそれぞれの思いを個々に抱えていた登場人物たちが厚い友情と、自由を求める心によって連帯していく姿がまっすぐに心を打つ、出色のオリジナルミュージカルとしての輝きを放ったものだった。
そんな作品の待ちに待った再演には、オリジナルキャストのサラ役・柚希礼音、ハリエット役のソニンのほか、初演からのメンバーである実咲凜音、清水くるみ、谷口ゆうな、能條愛未、原田優一、戸井勝海が集結。更に、新たなキャストとして平野綾、水田航生、寺西拓人、松原凜子、春風ひとみと、個性的で魅力的な人材が名を連ね、両者の化学反応によって、新しい2023年版ならではの『FACTORY GIRLS』が生まれ出ることが期待されている。
その一大プロジェクトの再演決定を受け、街並みがクリスマスの華やぎに包まれていた2022年12月25日、都内の某スタジオで柚希礼音のビジュアル撮影が行われた。
一歩スタジオに足を踏み入れると、スタジオ内は既にカメラクルーをはじめ、多くのスタッフが精力的な準備を進めていて、いよいよ作品がスタートする瞬間を前にした、高揚感と緊張感がないまぜになった独特の空気が流れている。いつも思うことだが、こうしたスタジオでカメラマンの意向をいち早く察知して動く、スタジオスタッフたちの俊敏さには感心させられる。きっとここから未来の名カメラマンが生まれるに違いないと頼もしい思いがするなか、カメラマンと彼らの阿吽の呼吸によって、いくつものライトが繊細にセッティングされ撮影準備は万端に。
その空気を計ったように、初演でも話題になった印象的なモノトーンの衣裳に身を包んだ柚希礼音がスタジオ入り。すると、まだ待機場所へ降りてきただけだというのに、スタジオ全体がパーッと明るくなったかに感じさせるオーラが辺りに広がる。宝塚歌劇団星組でトップスターとして活躍し、退団後も精力的に舞台活動を続けている柚希が持つ、陽性のスターの輝きは圧倒的で、それでいながら柚希本人はあくまでも和やかな明るい笑顔を向けてカメラマンやスタッフと挨拶を交わし、今日の撮影の手順の説明を、一つひとつ大きくうなづきながら聞いている。
そして鏡も用意され、柚希自身にも自分の姿が見えるように工夫されたスタジオでいよいよ撮影がはじまる。その瞬間、「サラ・バグリー」が、カメラの前に立ち現れたことに胸を打たれた。
女性が働くこと自体がまだ珍しかった時代に、サラが工場にやってきたことによって物事が動き、やがて彼女が全員のリーダーになっていく。誰よりもセンターが似合う、仲間を率いる大将の役割がピッタリの表現者「柚希礼音」の個性を最大限に生かした役どころとして、強い記憶を残すサラがいまここにいるという感覚は強烈で心躍る。
そんなサラが時代を前に進めるべく踏み出す、その力強い一歩を写し撮ろうとするカメラマンからの様々な要望を受けて、何度となく一歩を踏み出し続ける柚希も、何カットかの撮影ごとにモニターを見つめ、もっとこうできないか、この方が良いのではないかと真剣に意見を交わし合う。目線をどこに向けるか、顔の角度はどうするかより迫力を出し切るために、柚希とカメラマンとのイメージのすり合わせが続く。納得がいかないことはきちんと言うが、あくまでも朗らかで、相手の意見も柔軟に取り入れる柚希の懐深さが際立つ。途中、脚本・演出の板垣恭一がスタジオに現れたのを見つけると、「板さん~」と満面の笑みで手を振るのは明るく元気な柚希なのに、カメラに向かうと一瞬にしてサラになる。その変身の妙に目を引き付けられた。
やがて「風はいらないですか?前からふわっと風が来ているぐらいのイメージなのですが」という柚希の提案で、スタッフがこれもあっという間に風を送る機械を準備。前髪が乱れない程度の風をという、ヘアメイクとスタジオスタッフのこれもまたすり合わせが行われて、作品と役柄を伝える1枚のビジュアル写真から既に総合芸術なのだという思いが膨らんだ。風の当たり方を入念に調整し、半歩後ろからカメラ目線で、というカメラマンの要求と柚希の呼吸も次第にあってきて、「あ、綺麗!」「カッコいい!」とのカメラマンの称賛の声もどんどん出てくるようになり、幾多の細かい表情を撮影して、このカットはOKとなった。
その後も、こぶしを振り上げるポーズ。スカートをひるがえして立つ。両手を広げる。座ってショールを羽織り繊細な表情の変化を、と様々なバリエーションでの撮影が1時間に渡って続いた。この間スタジオには初演で歌われたミュージカルナンバーがずっと流れていたが、佳曲の多い作品のなかでもやはり最も印象深い「自由と平等」のメロディーが高く響いたところで、柚希の全ての撮影がOKになり、拍手が沸き起こったのが、まるで演劇の神様のはからいのようだ。作品が再びの航海に出ることが祝福されていると感じられる、濃い時間が過ぎていった。
長く、関わる人たちから「必ず再演したい」という言葉を聞き続けてきた。この作品をもう一度世に問いたいと願う各セクションの人々の思いは熱く、日米合作で作られた「ミュージカル『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』」を1人でも多くの人に観て欲しい、そんな気持ちの高まるビジュアル撮影現場だった。
取材・文=橘涼香 撮影=荒川潤
公演情報
【作詞・作曲】クレイトン・アイロンズ&ショーン・マホニー
【脚本・演出】板垣恭一
【出演】柚希礼音 ソニン / 実咲凜音 清水くるみ ・ 平野 綾 / 水田航生 寺西拓人
松原凜子 谷口ゆうな 能條愛未 / 原田優一 ・ 戸井勝海 / 春風ひとみ 他
【東京公演】2023年6月 東京国際フォーラム ホールC
※地方公演あり