モデル、ジャズピアニスト、女優、異色のキャリアのシンガーソングライター・甲田まひる、21歳の現在地

動画
インタビュー
音楽
2023.1.27

自分の好きなファッションの世界観がジャズピアノを弾いているだけでは表現できないと思ったんです。

――セロニアス・モンクとバド・パウエルからジャズを聴き始めたということですが、影響を受けてきたアーティストって、どんな人たちなのでしょう。

まずは、その2人以外にもオスカー・ピーターソンとかビル・エヴァンスなどの名盤を端から聴きまくりました。でも当時はピンとこなくて。音楽関係なく、あまり綺麗にまとまりすぎているものよりは奇抜な物が好きなので、セロニアス・モンクとバド・パウエルにすごい惹かれたのかなと思います。

――歌いながら演奏する感じとか?

というか、うなる感じ(笑)。特に晩年の録音は人間味に溢れていて、すごく心を打たれて。

――ビル・エヴァンスは、クラシックっぽいですものね。楽譜にするとキレイで。

そうなんです。ビル・エヴァンスの楽譜を買って勉強したのですが、教科書みたいですよね。

――さすが、フリージャズに惹かれる子(笑)。

あとは、アート・ブレイキー&ザ・ジャズメッセンジャーズも好きでした。すごく楽しい。小学5~6年のころの先生が、ジャズドラムを趣味でやってる方で。晩年のアート・ブレイキーの演奏を生で観た話や、教室でギターの弾き語りをしてくれたり。そういう出会いって、やっぱり大事ですね。

――そういう変遷を聞くと、ア・トライブ・コールド・クエストが好きというのも納得しますね。

ヒップホップの中でもジャズをサンプリングした人たちと言えば……、ですからね。でもヒップホップより前に好きになったのは、ブルーハーツなんです。

――それは、意外(笑)。

今でも1番好きなアーティストは、甲本ヒロトさん。言葉では表せないぐらい全部が好き。ジャズをやりながらブルーハーツに出会って、そこからボーカルへの憧れみたいなものが芽生えた気がします。

――ブルーハーツとの出会いがシンガーソングライターへの転身のきっかけに?

甲本さんには影響を受けましたが、ジャスをやりながらファッションの世界にもいて、自分の好きなファッションの世界観がジャズピアノを弾いているだけでは表現できないと思ったんです。ジャズボーカリストの方の伴奏をしていた時も、歌う側に憧れたし、もっと自分の表現できることが知りたかったっというのも大きい。

――表現をアップデートしたかった。

常に“何かできるんじゃないか”と考えているタイプなので、やってみたくて(笑)。自分の言葉があるとまた違った表現になるし。昔から『オシャレ魔女 ラブandベリー』のカードゲームのダンスバトルが好きだったり、運動会のダンスで一番張り切っていたり、人前で踊ることも好きで。ピアノだけじゃもの足りなくなっていたんです。

――好きになったらやりたくなっちゃう(笑)。

はい。ア・トライブ・コールド・クエストに出会ったのもデビューアルバム『PLANKTON』を作るころで、影響されてアルバムにヒップホップを入れました。とにかく、やりたい事をアウトプットしたいんです。同じ時期に、ローリン・ヒルも聴き始めて、“ヒップホップに女性ボーカルが乗ると、こんなかっこいいんだ! 私も歌いたい!”と思って。『PLANKTON』を作っているころから、“『PLANKTON』を出したら歌う!”と決めて、『PLANKTON』を出してすぐに歌の制作に取りかかりました。世に出すまでには、そこから3年くらいかかりましたけれど。

――自分の中に道筋はできていたんですね。

そうですね。

――『PLANKTON』制作後は、どんな曲作りを?

ピアノ弾き語りではなく、ガラッと変えたくて。

――歌って踊って、ピアノは弾かない。

そうですね。電子音楽じゃないとイヤだなと思っていたんです。弾き語りだと、やりたいことが伝わらない。そこからパソコンを買って、DTMを勉強しだして。デモを作って周囲を説得するのに時間がかかってしまいました。

“次こうなった方が期待が裏切れるから面白いな”という気持ちで作ってます。ギミックを施すのが楽しいんです。

――シンガーソングライターになると決めた時、どんなアーティストを目指していたのでしょう。

漠然とですが、海外のフェスに出たいなと思いました。日本でイメージしていたのは、安室奈美恵さんや浜崎あゆみさん。ビジュアルも派手で可愛くて、スキルが高いソロアーティスト。海外だと、アリアナ・グランデやリアーナに憧れていました。

――ジャズとJ-POPの世界って違うじゃないですか。シンガーソングライターとしてデビューして、戸惑いはなかったですか? むしろ嬉しい?

はい、“嬉しい”の方が大きかったですね。でも、楽器を1から始める感覚でした。歌もダンスも習ったことがなかったし、新しいことを始めるワクワク感が大きかったですね。 

――やっぱり、チャレンジャー体質なんですね(笑)。シンガーソングライターとしてデビューしてから、刺激になった出会いってありますか?

前作の「Snowdome」でご一緒させていただいたプロデューサーのSUNNY BOYさんですね。自分としてはずっと「Snowdome」のようなポップスが書きたかったのですが、自分がやってきた音楽をアウトプットして自己紹介的なデビュー曲にした。3作目で"このタイミングだな"と思って、安室奈美恵さんやBTSさんを手がけるSUNNY BOYさんにオファーさせていただきました。一緒にやらせていただいて、“自分のやりたかったことができてる!”という感覚になったんです。メジャーの第一線で活躍してるプロデューサーさんとの曲作りは、全部が刺激的でした。ボーカルとしての姿勢を学びました。

 

――SUNNY BOYさんとの作業は、どういう風に進めているのですか?

今までは、ドラムを打ち込んでその上に重ねていって、アレンジまで自分で……という方法でした。SUNNY BOYさんとは、“切ない恋愛ソングで”“2000年代のJ-POPっぽいトラックで”とかまず曲のイメージを伝えて、ピアノを触りながらその場で私がメロディを乗せていくやり方。すごく刺激的で、新しい経験でした。

――誰かと作るという作業が刺激的だった。

安心感がありましたね。1人でやっていると、迷っちゃうので。それにSUNNY BOYさんってジャッジが早い。そういうところも頼もしくて。お互いの感性がミックスした曲ができたなという感覚です。

――2作続けてSUNNY BOYさんとのコラボだったので、相性がよかったんだなと思いました。ではそのSUNNY BOYさんと作った新曲、「CHERRY PIE」のお話を聞いていきましょう。「CHERRY PIE」はテレビ東京系ドラマ24『今夜すきやきだよ』のオープニングテーマとして書き下ろしたそうですが、制作までの過程を教えてください。

まずドラマの原作マンガを読ませていただいて、デモを制作し、その後ドラマのプロデューサーさんと何度かやり取りがあり、レコーディングしました。

――それで“今いる場所で自分の幸せ、自分たちの形を貫く”というテーマに。

そうですね。美味しいご飯を介して、主人公の女性2人が日常で感じるジェンダーバイアスと向き合う姿が描かれているのですが、かなりストレートで、スッと入ってくる。そのバランス感がすごく面白くて。だから“前向きに”という曲だけれど、たくましさや、女性としての強みを入れたいなと思って。女子の共感度が高いドラマなんですよ!

――わかります。私もイッキ見しました。で、ドラマのオープニングに「CHERRY PIE」が使われているのですが、“あ、ここまでなんだ”というところまでしか流れてなくて。例えるなら“コートで見えないその下に、スゴイ服を着ているのに!”という感じ(笑)。

アハハ、そうなんですよ(笑)。

――「CHERRY PIE」をフルで聴いた第一印象は、“なんて変態な曲なんだ!”だったので(笑)。

あ、それ、嬉しいです。

 

――自分の曲がテレビで流れてくるって、どんな気分でしたか?

そわそわしました。恥ずかしいような。でも、ドラマ主題歌というのを意識して作ってるので、サビで開ける感じとかはすごくJ-POP感が強いんじゃないかな? 歌詞もキザな言葉を使っている部分があるけれど、作品のトーンとも合っているものが出来上がりました。

――でもその先が、スゴイの。

テレビで流れるその直後からビートがトラップに変わるんですけど、そこが一瞬聴こえて終わる感じ。

――甲田まひるの本当の姿が出てくる(笑)。すごい展開をしていって。

自分としては、展開というものはそんなに意識しないんですよ。基本的にはフォーマット通りの構成だし。2Aがラップにすり替わって、ちょっとビートがハーフになったり音を抜いたりしているから、面白く聴こえるのかな? でもそこは、自分が聴いていても飽きないし、“次こうなった方が期待が裏切れるから面白いな”という気持ちで作ってます。ギミックを施すのが楽しいんです。だから“1サビの頭だけコード変えちゃお”とか。完全に変態なところが出ちゃってますね(笑)。

――ラップもすごくうまいんですね。こそ練をしていたり?

こそ練しますよ! 演技の仕事って違う人格を下ろすじゃないけれど、ラップはそれに似ているから楽しいんですよ。その瞬間だけは"めっちゃ強いぞ"という気持ちになる(笑)。歌詞もラップ詞を書くのが一番早い。他と比べて本当に書きやすくて。何でも思ったことを言っていいと思っているので、自分の素の部分が一番出せる場所。好きですね。

人のことが好きだけれど、最近は1人の時間も大事にするようになったり。矛盾してますね(笑)。

――そうなんですね。甲田さんのことが、だいぶわかってきました。ご自分ではどのような人物だと自己分析をしていますか?

人と関わるのがすごく好き。自分が話すのも好きなんですけど、喋っている人の話を聞くのも大好きなんです。何を考えている人なのか、どんな生活をしている人なのか、どういう人なのか、単純に興味があるんです。こうやって外に出る仕事をしているから、余計に楽しくて。でも、家族ともずっとしゃべってます(笑)。親友みたいに仲がいい家族なんです。

――なんでも楽しめるタイプなのかもしれませんね。

そうですね。でも、昔と比べると、ちょっとずつ変わってきているかもしれません。人のことが好きだけれど、最近は1人の時間も大事にするようになったり。矛盾してますね(笑)。自己分析って難しいなぁ。でも、考えすぎるタイプですね、一つのことを。

――趣味はありますか。

うーん、ないかも。

――“推し”というような存在は?

ラッパーですね。バックショット。ブラック・ムーンとブート・キャンプ・クリックのフロントマンで、Duck Down Musicという90年代のヒップホップレーベルの創設者で。このレーベルのレコードを掘ったり、ブラック・ムーンも出演した、スミフン・ウェッスンのライブを見るためにN.Y.に行くくらい大好きです。バックショットは48歳で、インスタライブでずっとしゃべってて(笑)、そういうところも好きですね。90年代に一線で活躍していた人たちって、レジェンドだけれど今も現役で。Qティップ(ア・トライブ・コールド・クエスト)も、ローリン・ヒルもこの世代だし。

――日本もこの世代のアーティストたち、元気ですからね(笑)。

そうですね。私、KREVAさんやZeebraさんも大好きです。今も最強感がありますよね。推しは、レジェンドラッパー達かも。


取材・文=坂本ゆかり 撮影=高田梓

 

リリース情報

4th Digital Single「CHERRY PIE」
2023年1月20日(金)配信
<収録曲>
CHERRY PIE(読み方:ちぇりーぱい)
作詞作曲:甲田まひる
編曲:編曲:SUNNY BOY for TinyVoice,Production
https://mahirucoda.lnk.to/cherrypie

放送情報

ドラマ24 『今夜すきやきだよ』
放送日時:2023年1月6日(金)深夜0時12分スタート
配信:
・TVer テレ東系リアルタイム配信 (https://tver.jp/live/tx )
・広告付き無料配信サービス「ネットもテレ東」
放送局:テレビ東京、テレビ大阪、テレビ愛知、テレビせとうち、テレビ北海道、TVQ九州放送
主演:蓮佛美沙子、トリンドル玲奈
共演:鈴木仁 三河悠冴 紺野ぶるま / 河井青葉 宮崎美子
原作:『今夜すきやきだよ』 谷口菜津子(新潮社バンチコミックス刊)
制作:テレビ東京 ザ・ワークス
製作著作:「今夜すきやきだよ」製作委員会
公式Twitter:https://twitter.com/txkonyasukiyaki @txkonyasukiyaki
公式Instagram:https://www.instagram.com/txkonyasukiyaki/ @txkonyasukiyaki
Ⓒ谷口菜津子・新潮社/「今夜すきやきだよ」製作委員会
シェア / 保存先を選択